第8話 対能力者犯罪取り締まり係Ⅱ
なおか「あっにしきん!やっと起きたー!」
にしきん…?
今起きたこの男のことだろうか。
よく鍛えられているのが、服の上から分かる。しかし、警察官ならみなこれくらいなものだ。
目の下にはくまができており、睡眠不足なのがうかがえる。
髪は短く清潔ではあるが、セットしました、という感じではない。
それぞれの反応を見るに、この人が巡査部長なのか…?
海斗「お疲れ様です!巡査部長!冷たいものでもどうぞ!!」
海斗はその男が起きるを待っていたかのような手際で、お茶を出した。
二色「おお。さすがは警部補の弟。」
男はニヤニヤしながら、冗談じみたことを言う。
海斗「ありがとうございます。」
ウェイトレスのような仕草で海斗は答える。
なおか「にしきん、お菓子いる~?みんな揃ったら食べようと思ってさ~。ポテチ。」
二色「子供じゃないんだからスナック菓子はやめとけって。それにまだ晩飯前のやつもいるだろ?」
なおか「いいじゃ~ん。じゃあ、にしきん以外で食べよ~。」
海斗「この前巡査部長”きのこの森”食べてませんでしたか?」
二色「あれはチョコレート菓子だからいいんだ。」
なおか「タケノコ派あたしの前でよくもそんなことを…にんきんもう知らな~い。」
ここで久遠が一言。
久遠「おいおい、”マル能劇場”してる場合じゃないよ。舞ちゃん、すごい顔してるよ?ほら。」
マル能、警察組織独特の言い回しである。
私は今どんな顔をしてるんだろう。自分では分からない。
こんな気持ち初めてだ。
みんな私に注目している。
舞「ぷっ…わ、私本日より対能力者犯罪取り締まり係に配属されました、栗栖舞巡査であります!」
なぜか笑ってしまった。
なんだろうこの感情、居心地は悪くない。
みんな笑っている。
久遠「笑ってたの?その顔!挨拶堅苦しいって!海斗かよ!」
二色「よかったな海斗。妹分ができて。まじめそうでほんとの妹みたいだぞ。」
太一「じゃあ、指導係はもちろん…」
太一の言葉を玲が制止した。
玲「残念ながら、来栖くんの指導係は海斗ではないよ。彼女は二色に任せようと思う。」
二色「俺!?部長!分かってるだろ、俺が今、何を扱っているか!」
場の空気が変わる。
玲「お前のそばが一番安全だろ?違うかい?それに危険はみな同じだ。誰がいつ死んでもおかしくない。」
私は息を飲む。
玲「心配ならお前が強くしてやるといい。我々はまだ、戦争をしているんだ。」
全員の顔が真剣そのものだ。
こんな空気は他の部署でも味わったことがない。
命がけ?戦争?
玲「すまないね来栖君。君はまじめだからね、こういう空気を出せる連中ということを見せたかったんだ。」
舞「しかし、部長…戦争って…」
玲「優秀な君だ、資料には目を通したのだろう?海外にはもう建国の動きがある。工作員は毎日のように地下の資源を奪いに来る。もう戦争は始まっているんだよ。」
舞「…」
玲「君はきっと私に認められる。その時、世界の真実を教えよう。我々は秘密を共有し、大いなる目的のために動いている。
君が今日ここで見たこと、聞いたことは他言無用で頼むとは言わない。君が思ったことをすればいい。
我々と会って話して、なにを思ったか。…君には期待しているよ。」
何を言っている…?分からない。
また、黒田玲という存在遠くなった気がした。