第4話 邂逅Ⅱ
何分経っただろう。
時計を見た。
ほんの数十秒しか経っていない。
私は飲み込まれたんだ、黒田玲という女性に。
玲「私の部署へようこそ。この施設、相当荒れているだろ?もともと廃墟だったんだよ。」
舞「いえ、そんなことは。」
そう思っていても素直に答えられないのは悪い癖だ。
玲「大丈夫だよ、気を遣わなくても。君は気になっているだろうから、先に言わせてもらおう。ここの連中は時間に対してルーズなんだよ。真琴も本当に優秀な事務員なんだけどね。少し、事情もあってね。」
事情とはなんだろうか。通りで私の配属日の管理もずさんなわけだ。
真琴「えへへ…」
舞「大丈夫なんですか?それ…」
私は素直な感想を言う。
玲「まあね、なんとかやっていけてるよ。ここで取り扱う事件は深夜帯が多くてね。」
舞「はあ。」
玲「君みたいな真面目な子が来てくれて本当によかったよ。ここも変わるかもしれないね。」
なんというか、とても達観している女性だ。
玲「うちの連中が来るまで、最近扱った事件の資料なんかに目を通しておくといい。ある程度上にも報告しているが、それらは氷山の一角、ここにしかない資料が山ほどある。」
舞「なっ!!報告義務を遂行していなのですかっ!!!」
私は声を荒げる。
玲「ああ、上の連中は信用ならない。一枚岩ではないということだよ。」
舞「しかし…」
玲「上はね、とんでもない秘密を全国民に対して隠している。私はね、君にも知ってほしいんだ。真実を。」
九条副警視総監はこの部署を疑っていた。敵対関係にある…?それとも敵は同じ…?いや、敵なんていないと信じたい、この警察組織に。
玲「…君は真面目だからね。よく考えるんだ。結論は焦らなくてもおのずと見えてくるものだ。…特に君はそういうことに巻き込まれやすい体質と聞いているよ。」
知りたい。
知らなければ。
やっぱりこの人は何かを知っている。
まずは信用されくては。
舞「…今後ともよろしくお願い致します。」
玲「ああ、よろしくね。」
この微笑みは信用できるのだろうか…?
…
真琴「舞さんっ!部長きれいですよねっ!」
1階のオフィスに戻り、私は荷物の整理を、真琴は資料を準備してくれている。
舞「あ…ああ、そうだな。」
下の名前で呼ばれたことに少し驚いた。真琴との距離感の図り方に戸惑う。
年下…だよな?
しかし、玲の姿、神秘的な美しさというのだろうか。
確かにあの姿を見たものが人外の感想を抱くのも頷ける。
真琴「舞さんにはみんなと仲良くしてほしいですっ!これから一緒に住むんですからっ!」
舞「…!?どこで??」
驚いて、心臓が止まるかと思った。
真琴「もちろんここですすよー!」
こんな廃墟に!?
舞「ここに住むのか!?」
真琴「そうですよー?上の階がホテルみたいになってるんです!ご飯は当番制でこのキッチンで作ってみんなで食べます!最近は忙しくてみんなでご飯できてないんですけど…」
真琴は泣きそうになる。
感情が豊かで見ていて飽きない娘だ。
舞「ちょ、ちょっと待って、聞いてない。そんなこと。」
真琴「?」
真琴は知っていて当たり前のような顔で首をかしげている。
かわいい。
私は持ってきた段ボール箱の中からおもむろに配属変更に関する資料を取り出して、端から端まで目を通した。
書いている。
24時間身体の拘束の同意、情報を漏洩させたときの処罰。私は確かにすべての資料に目を通したはずだった。
舞「なぜ…だ…」
真琴「とにかくよろしくお願いしますっ!」
顔が引きつっている私とは裏腹に真琴の笑顔はなんとも素敵だった。
慌ただしい日々が始まる予感がする。