ゴールデンバットなんて知らない
コンビニの店員になって、初めて分かったけれど簡単そうに見えて覚えることがたくさんある。通常の会計ももちろん難しいが、公共料金の支払い、ホットスナックの調理、客が居ないなら店内の掃除も商品の整理や品だしも行わなければいけない。2つ年上の兄がやっていたからと、軽い気持ちで始めたアルバイトだが、失敗することも、お客さんに怒鳴られてしまうこともまだまだある。
「網本くん、休憩行っておいで。」
夕方から夜間のバイトリーダーの布袋さんが声をかけてくれた。お先に休憩もらいます!と返事をしてバックヤードの事務所へ入り、スマホを片手に机に伏した。布袋さんはすごい。俺と同じ高校一年から初めて、大学1年のときにはもうバイトリーダーをやっていたらしい。まだ4年の春なのに就職も決まっているって、夜から深夜に入っている針屋さんが嘆いていた。針屋さんは布袋さんと同じ学年だ。まだ就活をしているからなかなか会えないけど、軽い感じのノリだけどやっぱり自分よりもずっと大人な人だ。
16時から21時か今日のシフトで休憩はだいたい19時くらいからいつも10分入っている。休憩中にクラスのグループトークを確認しようと思ったけれど、未読が100を越えていて見る気を無くした。今日はドラマがある日だから、きっと女子が騒いでいるんだろう。男だけのグループトークには未読のアイコンが一切なかった。未読のままLINEを閉じる。
残り5分、何をするわけでも無いけれど、流行りのゲームアプリを立ち上げる。体力がほしいと表示がある同級生たちをぽちぽちと押して返信して、一回遊んだらもう戻る時間だ。あと2時間。頑張ろうと気合いを入れて、バックヤードから店内へ戻った。この時間はあまりお客さんが来ないからか、布袋さんが商品の整理をしているだけであとは有線が響いている。
「お疲れ様です!休憩ありがとうございます!」
「お帰り~。網本くん5分くらい一人でも大丈夫?針屋そろそろ来ないとヤバいんだけどまだ来なくて、確認して来ようかと思って。」
今の時間は19時40分。針屋さんは20時からなので確かに珍しくまだ来ていない。
「わかりました。ヤバかったら呼びいきますね。」
「ごめんねー。とりあえずレジ居てくれればいいから、出来たら金額点検しといて。」
そう言い残すと、布袋さんは小走りでバックヤードへ入っていく。とりあえず誰もいない店内を見渡して、会社帰りの人たちがくるピークの前に、頼まれた金額点検をやってしまおう。そう思って、コインカウンターをレジ台の下から取り出した。
うわあ、100円と10円ぱんぱんじゃん。と、内心面倒に思いながらもコインケースに小銭を納めていく。100円玉を納めおわったあたりで、入店の電子音と同時にお客さんが入ってくる。
いらっしゃいませー!と挨拶をしながら、一時中断、と揃えた小銭をそっとしまう。お客さんは缶コーヒーを取り出してすぐにレジへ向かってきた。
「いらっしゃいませー、商品1点で120円です。ポイントカードはお持ちですか?」定型文の接客文句を唱える。
「あ、あとバットくれ」
そのうちちゃんと書きたかった