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奏者が紡ぐは魔法の音色  作者: 翡翠
2/6

2話 謝罪

第2話 


(あれ?)

ふと、意識が浮上する

何だか身体が軽くてふわふわする

意識があるのを不思議に思いつつ、取り敢えず目を開けることにした。そして目を開けると

「「じーー」」

「…………ん?」

何故か顔を覗き込んで凝視してくる人物達とバッチリ目が合った。片や何故か光っている幼女、片や古めかしいローブを被った老人。そのまま無言で見つめ合っていると

「「も」」

も?

「「申し訳ございませんでしたぁぁぁ!!」」

「えぇ…(汗」

それはそれは見事な土下座を披露した



何とか宥めること約10分。どこからともなく現れた卓袱台を囲む奏斗、幼女、老人の三人。気まずい空気の中どうやら落ち着きを取り戻した幼女がコホンと咳払いをした。どうやら進行役を買って出たようだ

「まずは自己紹介からね。私は君達の世界を管理する神よ。で、こっちが」

「ドゥイリオじゃ。ワシはお主とは異なる世界の住人じゃよ」

「これはご親切に。僕は音成奏斗です」

(神と……魔術師?)

幼女神の説明によるとこうだ

どうやら自分が死んだことは間違いないらしく、此所は神の空間だということだ。ただ本来ならばこの空間に呼ばれることなく転生の列に並ぶところを態々呼んだのには理由がある

「君はあそこで死ぬべき運命じゃなかった」

幼女神によると奏斗の寿命はまだまだ残っているらしく、その間大きな事故や事件に巻き込まれることはない、筈であった。現に奏斗は鉄骨に押し潰されて死んでいる。それは間近いようのない事実である

そしてその原因は

「ワシのせいなんじゃ」

ドゥイリオは本当に異世界の住人らしい。(格好から予想は付いていたが)魔術師として大きな才を持っていたドゥイリオ。魔術師としては優れていたが人付き合いが苦手だった彼は一目を避けて長年1人で魔法の研究に没頭していた。しかし、どんなに優れていても彼も人間、寿命は残り少なくなかった

「魔法で何とかならなかったんですか?」

「病気や怪我なら兎も角、寿命だけはどうにもならん。抑もワシは魔力の循環を工夫することで通常の人間よりは長生きしとる。これ以上は本当に人間を止めることになってしまうからのぅ」

「因みにどれ位生きてるんです?」

「正確な年数は覚えとらんが……確か200年程か」

(既に人間止めてないのかなぁ?)

思っても口に出さない方が良いこともある、長生きのコツだ。もう死んでるけど

自らの寿命を悟ったドゥイリオはそれを受け入れた。死ぬことは怖くはない、しかし人生の全てを掛けて極めた魔法の数々。そして新に編み出した魔法。共に消えてしまうには惜しすぎる。かと言って長年引き籠もっていたドゥイリオには魔法を教えてもいいと思える程親しい人物など皆無。村人時代の家族や友人はとっくの昔にこの世を去っている。なら、今から弟子をとるか?これも駄目だ。魔法の才能があるかは一目では分からないし、そう都合良く見つかるとも思えない。何より

「今更人里に降りるとか怖い」

(コミュ障か)

「コミュ障か!?」

幼女神はツッコミ属性のようだ

「い、いや!それだけじゃないぞ!ワシの編み出した魔法はワシも使いこなすことが出来ん!じゃから、それを使いこなすことの出来る者に授けたかったんじゃ!!」

そこでドゥイリオは不得意ながらも占いで使いこなしてくれる人物を探すもこの世界には存在しないことを知る。もしここで諦めていたらこのシュールな状況はなかったはずだ。この世界では無理だと知ったドゥイリオはならばこの世界以外にも捜索の手を広めればいいと思い至ったのだ

「で、それが僕だったと」

「そうね。けど、それが問題だったの」

そう。見つかりはした。けれど、異世界にそう易々と干渉する力があっていいはずがない。よくある勇者召喚というのはかなり大規模の準備と人手が必要であり、それでも絶対に成功する確証は無い。他に干渉が許せるのはそれこそ幼女神などの本当の神にしか許可されていない。それもそれなりの理由が必要であり勝手にその世界の住人を異世界に送るのは神であってもルール違反、厳罰対象となる。本当なら勇者召喚自体も神からすれば巫山戯るなという話なのだ。なにはともわれ異世界に干渉するのには莫大なエネルギーが必要となる。なのでドゥイリオがたった1人では異世界を捜索するのは本来なら不可能である。

ドゥイリオはそれを自らの命を削ることで成し遂げた

それに気付いた幼女神が防ごうとした事で、幼女神とドゥイリオの力が時空をねじれが生じた

その結果奏斗は事故死、ドゥイリオは力を使い果たして死亡という形となった



「それで?僕は何故ここに呼ばれたんですか?」

それを説明するだけなら態々このような場所を設ける必要は無い。なんなら奏斗を輪廻に放り込んでしまえばいい話なのだから

「それなんだけれど、2つあるの。1つ目。君が死んだのは私の責任でもある。もし、君が良かったらだけどこの魔術師居た世界に転移させることは可能よ?」

「その異世界ってよくあるファンタジーみたいな世界?」

「ふぁんだじー?」

「そうそう!」

幼女神、ドゥイリオは完全無視である

「モンスターとかの危険もあるからそのままでは送れないし私の後味も悪い。そこで魔術師の持つ魔法を君に移し換えることなら出来るわ!」

「ワシは元々この魔法を受け継いでくれる者を探しておった。出来れば貰ってやってはくれんか?」

この2人が嘘をついていないのは分かる。それに優れた魔術師であるドゥイリオの魔法を受け継げばすぐ死ぬことはないだろう。幼女神の言う転移ということは今までの記憶を持ったままと思って大丈夫だろう。よくある現代知識を活かして異世界革命というものに関心はないがあって損はないはず

「ドゥイリオさんが編み出した魔法も貰えるんですか?」

「勿論じゃ。抑もそれを使いこなせる才を持つからこそワシはお主を見つけられたのじゃから」

「そういえば、どういった魔法か聞いてなかったわね」

「研究の末に偶々出来たものでの……それは『音』。『音』を自在に操る魔法なんじゃが」

言い淀むドゥイリオ。どうやら問題があるようだ

「抑も『音』という実体のないものは上手く操ることができんのじゃ。ワシには精々音を少し大きくできる程度」

「あ~そういうことなら奏斗君の分野ね」

「……音」

奏斗は少し考え込み顔を上げる

「それで2つ目は?」


「2つ目……実はね、本来あそこで死ぬのは君の友人達のはずだったのよ」

「え?」

「駅前で立ち食いをしているところまでは同じ。けれど、本来の運命に添うなら君はそこで用事が出来て別れるんだ。そして、2人はいつもの帰り道を通っている途中で鉄骨に巻き込まれて死ぬ」

「でもそうはならなかった」

「私と魔術師によって時空が捻れが生じたせいね。何らかの理由でイレギュラーが起きた場合世界からはそれを正す力が働く。残念だけど捻れをどう直すかは私達神でも終わってみないと分からないの。理由も無しに神が手を加えること自体が既にイレギュラーだからね」

「……ひとつ聞いていいですか?」

「答えられることなら」

「本当なら博明と幹が事故に遭う筈だったんですよね?コレに関しては僕というイレギュラーで回避しましたけど………2人はこの先どうなるんですか?」

予想外の質問だったのか目を丸くする幼女神は次第に優しい笑みを浮かべる

「安心して。あの事故を回避したことで2人の運命は書き換えられたみたいだから。予定では2人とも結構な長生きみたいよ」

2人はちゃんと大人になれる。もしかしたら幼女神が嘘をついている可能性もある。けれどこの神を信じてみたくなった

「なら、僕で良かったです」

死んで良かったなんて、あの2人に聞かれたらきっと怒られてしまう。けれど奏斗の心にはネガティブな感情は無く寧ろ清々しさすら感じる

「運命通りに2人が死んでもその輪廻ってやつに並ぶだけでしょ?なら、僕で良かったですよ。異世界っていうのはよくは分からないけど、僕には選択肢があって、自分の意志で異世界に行こうって今決めた」

「死が怖くないって言ったら嘘ですけどね。でも、過ぎてしまったことは仕方ないですし、もし事故の前に戻れたとしても僕は絶対に同じ事をします。………あの2人には重いモノを背負わせてしまったけれど、友人を助けたなんて死に方としては最高じゃないですか?」

一点の穢れもない笑顔で言い切る彼に幼女神とドゥイリオは何も言えなかった。ただ、絶対に無事に魔法を渡し異世界に転移させる。そう決意して何も言わず頭を下げた。それが自分達のせいで運命を歪めてしまった少年への唯一の贖罪だから

「それに、輪廻というものがあるなら……来世ではまた2人と会えるかもしれないし」

「そうだね。その時は私が手配するから安心して」

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