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尻尾とパンツと香辛料 


 翌日、燻製肉を作るというので小川に沈めていたロックボアの肉を回収しにいく。毛皮と内臓とある程度脂肪を除いた部分ではあったがそれでも元々の大きさが大きかったため運ぶのにはかなり苦労した。



 ラフィッカは自分の体重ほどもあろうかというロックボアの肉の塊を持ちながらひょいひょい歩いていく。


「よくそんなに持てるなぁ…」


 おっさんはロックボアの前足を一本持ち運ぶだけで精一杯だよ。

 あの見た目華奢な身体のどこにそんな力があるのだろうと思って聞いたら


「え、風魔法を使っているだけだよ?」


と言われた。


ちなみにラフィッカの使える魔法は


風魔法


突風(ウィンドブラスト)】任意の方向に風を起こす。

切風(ウィンドカッター)】真空波で風の刃を作り出す。



 【突風】は俺の土魔法の【隆土(グランドライズ)】【落土(グランドフォール)】と同じような初歩魔法らしい。

 この【突風(ウィンドブラスト)】で荷物を浮かしているような状態なのでたくさん運べるんだよとのことだった。

 おかしい・・・俺が今まで魔法を使ってきた感じ結果起こる現象はそれを引き起こす労力と等価交換だったような気がするのだが・・・。



 が、今はそんなことは些細な問題だ。

 ラフィッカの使える中級魔法【切風(ウィンドカッター)】だ。

 なんだそのかっこいいのは!

 真空の刃とか、ソニックブームですか!不可視の刃ですか!

 ヤバイ、使いたい!【切風(ウィンドカッター)】と唱えながら畑の雑草たちをバッサバッサと刈り取って行きたい!


 などと悶えていると。


「【切風(ウィンドカッター)】使うよりナイフで切ったほうが早いんだけどねー」


 と苦笑して言われる。

 どうやら手が届く範囲ぐらいでしか生成できず、しかも一瞬しか発生できないらしい。


 そんなリアルさよりもロマンの方が大事なのだ、男の子には。



 そんなことを思いながら家と小川とを何往復かして肉をすべて家の一階部分へ運び込んだ。



「さてと、あとはこれに塩とか香辛料とかを刷り込んで乾燥させればいいんだけど」


「香辛料か…畑にはじゃがいもしかないな…」


 岩塩の塊があったので塩味には困っていなかったのだが確かに香辛料があると一気に料理の幅がひろがる。


「え、畑まで行かなくてもそこにあると思うけど?」


 そう言ってラフィッカが指差すのはぼろぼろの農機具などが入っていた倉庫の中。

 俺も家の中は隅々まで探索した気がするのだがその中には農機具らしきもの以外なにも入っていなかった気がするが。


 倉庫の中を全部外に出すといきなりラフィッカが地面に鼻すんすんと近づける。

 もふもふのけも耳がぴんと前を向き、さらさらふかふかの尻尾がアンテナのようにサッと上を向く。

 パンツが丸見えになった。


 あわててサッと顔をそらす。

 尻尾があるけもみみ娘はやっぱりローライズのパンツなんだなと一瞬の記憶を脳内に鮮明に焼き付けていると


「見つけた!」


 ラフィッカが地下への入り口を発見していた。


 ◆◇◆


 蝋燭の明かりを頼りに地下へと降りていく。


 どうやらそこはこの家の地下倉庫だったらしい。


 放置されてからかなりの年月がたっているであろうそこには壁一面に木製の棚には陶器の壷や麻袋、木製の箱などが埃をかぶって置かれている。

 部屋の隅に置かれた大きな樽や木箱には元は何かの野菜が入れられていたのだろうか?

今となっては完全に朽ち果てて風化してしまった残骸が底の方に溜まっていた。


ラフィッカが鼻を頼りに棚の麻袋を漁っている。


 俺には埃くさい匂いしかしないがどうやら彼女はけもみみ娘の類に漏れず普通の人間よりも

嗅覚が優れているようだ。

この地下からするわずかな香りでこの地下倉庫の存在に気づいたのだろう。


「やっぱりあった!」


 ラフィッカがうれしそうに麻袋の一つを手に取っていた。


 こちらからは後ろを向いているので表情は見えないが

 その尻尾がぶんぶんと大きく振られているのでそうとうご満悦な様子である。


「ふっふーん!これがあればばっちりだよ!」


 そう言って差し出してくる手の平サイズの麻袋にはどこか俺にも見覚えのある黒い粒。


 一つ手にとって指でつぶしてみると


「胡椒か!」


 紛れも無くおなじみの胡椒の香りがふわっと漂う。


「うわぁ、勿体無い!とっても貴重なんだよ!?」


 と怒られてしまう。

 すまないと謝りながら動揺していると「早くこの中に戻して」と手についた胡椒をぺっぺっと麻袋の中に戻されてしまった。

 やはり例に漏れずこの異世界でも胡椒というのは貴重品のようだ。


 ただこの家の倉庫に保管されていたり、ラフィッカも知っていたとなると同じ重さの金と同様の価値というほど高価という訳でもないのかもしれない。

 その他にも数種類の香辛料の入ったであろう麻袋を持って地下から戻る。



「これだけたくさんの香辛料があったらとってもおいしい燻製肉がつくれるよ!」



 ラフィッカさん、よだれを垂らさんばかりのキラキラとした笑顔だ。


どうやら彼女はもう完成した燻製肉たちに思いを馳せているようだった。

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