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第一村人はけもみみ少女


 異世界生活を始めて一週間も立っただろうか、誰も住んでいないと思っていたこの廃村での第一村人発見である。

 いや、村人かはともかく異世界人との初コンタクトだ。


 どこかの民族衣装のような模様が入った服を着ていおり、その耳の髪飾りにも同じような複雑な模様が刻まれている。

 腰には不釣合いに大きな山鉈をベルトで止めていた。側の背嚢も彼女のものだろうか。


 右手に握られた岩猪の血に濡れたナイフ、その血の赤に生えるような綺麗な白髪の少女だ。

 綺麗な少女の白髪と岩猪の血の赤というコントラストも中々驚愕の絵面であったがそれ以上の衝撃が少女にはあった。

 耳と尻尾が生えている!

 けもみみ少女である!

 髪と同じ白色のもふもふとした獣耳はぴんと立っているが先端が少し丸くなっている。

 その尻尾は太いがやわらかそうで先端の長さは膝裏まで届くほどだった。

 さ、さわってみたい…!

 けもの成分は岩猪先輩がいたが先輩の方はもふもふ感が全然足りなかった。

 というかほぼ岩だあれは。

 敵だったし。


 しばらくお互い無言で顔を合わせる。


 はじめは向こうも突然の遭遇に驚いたようだが

 次に警戒したようにこちらを睨むような表情になり

 そして次の瞬間はっと何かに気づいたような表情になり

 最後にしゅんと気まずそうにに目を伏せてしまった。


 よく表情がころころと変わる少女である。

 表情にあわせて動く耳と尻尾がとても愛らしい。


 そんなことを思いながら呆然としていると


「ご、ごめんなさい!」


「え!?」


 唐突に誤られてしまった。


「ど、どうしたんだ急に?」


 俺は何も言っていないし怒ったような表情もしていないと思う。

 どちらかというと急な展開に間の抜けた表情でで突っ立っているだけのおっさんである。


「えっ、と…このロックボア、おじ…おにいさんが仕留めた獲物ですよね?」


 どうやらこの岩猪を仕留めたのは俺でそれを横取りしてしまったと勘違いしているようだ。

 ロックボアとはこの岩猪先輩のことであろうか。

 今では少女に解体されたのか毛皮をはがされ内蔵を引きずり出されてなんとも無残な状態だ。


 …っておい、いまおじさんって言いそうになっただろ。

 いや、わかっている。アラフォーというのは世間では立派な中年だ。

 自分でもわかっているのだが。

 いざ人からおじさんと言われると密かに心の中で傷ついているのだ。

 そんなことを思っていると


 ぎゅるるるるる、とお互いの腹の虫がユニゾンする。


「あ。ご、ごめんなさい!旅の途中森を迷ってしまって、もう一週間も水と木の実しか食べてなくて…」


 と涙ながらに訴えてくるラフィッカ。


 そういえば今日は水しか飲んでいない、というかこのお腹のすき方を見るにおそらく丸一日は昏睡していたようだ。

 それ以前はこっちも一週間小じゃがと水生活だ、

 食糧事情はお互い切迫しているらしい。


「その肉…食べるつもりなんだよな?」


「あ…はい。まだ死んでからそれほど経っていなかったのでお肉もおいしく食べれると思います」


「やっぱりそうか。いるんだったら持っていって構わないが?」


「え…!?」


 こちらとしても岩猪を穴に落としたはいいが正直どうしていいかわからなかったのでそう提案する。解体していたのだからお肉として食料にするつもりだったのだろう。獲物とか言ってたし。

 食える肉なのだとしたら正直少し分けてほしい気もする。

 なに、こちらにはいざとなればじゃがいもがある。


「え、と・・・それは・・・」


 と何故か急に赤くなり視線をそらしもじもじし出すけもみみ娘。


「その・・・まだお互いの名前も知らないし・・・」


 そういえばそうだ。

 けもみみ少女が実在しているという驚きと喜びと血塗られた岩猪の解体現場という

 ショッキングな映像でつい忘れていた。


「俺の名前は菜野・・・サイノ・イクトだ。」


 折角異世界に来ていたのだから何かもっとカッコイイ名前を勝手に名乗ってもよかったのかもしれないが思わす本名を口にしてしまう。

 そういえばこっちにきて独り言以外言ってなかったから名乗ることも無かったな。


「私はラフィッカといいます。ウォルグム村出身です。

 両親は村で狩人をやっていて、上におねぇちゃんと下に妹がいる15歳です・・・」


 ちらちら肉と俺のほうを交互に見ながらえらく丁寧な自己紹介される。


「俺の出身は・・・」


 言葉に詰まる、まさか異世界とは言えない。


「まぁ、ここから遠いところだ。」


 嘘は言っていないと思う。


「おじ・・・イクトはこの村の人じゃないの?」


「ああ、この村、というかはここには最近来たばかりでな。ここはやっぱり村なのか?家も壊れていてもう長いこと誰も住んでないみたいだし。人にあったのもラフィッカがはじめてなんだが…」


「んー、自分もこの辺りには初めてきたから…村があるなんて話も聞いたことも無かったよ」


「そ、そうなのか…」


 どうやらここはこの世界の住人たちからも忘れ去られた廃村のようだった。


「それでおじ…イクトはここに住んでるの?」


 …このけもみみ娘はおじさんの心に引っかき傷をつけたがるようだな。


「ああ、まぁ勝手に居ついてるといった方が正しいが…」


「そっかぁ、じゃあここはもうイクトの縄張りなんだね…いい場所そうだったのに残念…」


 辺りを見渡しながら、それでもちらちらと肉のほうを見ながらラフィッカと名乗るけもみみ少女。

 どうやらおじさんからは卒業できたらしい。


 ぎゅるるるるる、とまたお互いの腹の虫がユニゾンする。


 お互い空腹も限界なようなのでなんなら一緒に食べないかと聞いてみる。

 食べられるのなら俺もそろそろたんぱく質がほしい。


 ラフィッカはそれでもまだしばらく逡巡していたが肉の魔力には敵わなかったらしい。


「うん♪」


 と元気に答えてくる。


 尻尾がぱたぱたうれしそうに揺れていた。




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