じゃがいもからはじめる異世界生活
猛烈な喉の渇きに目を覚ます。
異世界2日目の朝、寝床の藁をぱらぱらと落としながら身体を起こす。
「【落土】」
目の前の地面に意識を集中しつぶやくように唱える。
目の前の地面が5センチほど凹んだ。
どうやら昨日のことは夢でもなんでもなくここは異世界らしい。
…喉が渇いた。
人間生きていくには水が必要だ。
これなら穴を掘ったりする魔法なんかじゃなく、水を精製する魔法の方がよっぽど役にたったな…
軽く後悔しつつそうしていても仕方ないので周囲を探索することにする。
土魔法で穴を掘れば水が出るだろうがとも思ったがどれほど掘れば出るのかわからないし
何よりこの土魔法は実際に身体を使って掘ったほどの体力が持っていかれる。
アラフォーのおっさんには水が出るが先か、体力が尽きるのが先かのチキンレースの結果など火を見るより明らかだ。
そんなことを思いながら周囲を見渡す、昨日は夕方でよく見えなかったがどうやらあのボロ屋敷以外にも完全に倒壊して自然に帰りつつある家が何軒か見える。
どうやらここは廃屋というより廃村といったほうがしっくりくるようだ。
もともと村だったのなら井戸ぐらいありそうなものだが…
などと思いながら歩いていると井戸を見つけるよりも先に、さらさらと、水が流れる音が聞こえた。人間極限状態になってくると五感が鋭敏になってくるのであろうか。
その方向に歩いていくと小川を発見する。
見たところ綺麗な、まさに清流といった感じだ。
しかしいくら綺麗でも川に流れている水をそのまま飲むのは危険な気がする。
まだぎりぎりそこの辺りの冷静さは残っていたようだ。
「煮沸…するか」
幸いあのボロ屋敷にはかまども鍋もあった、棚をあさればコップぐらいは残っているだろう。
早速ボロ屋敷にもどり鍋を取ってきて水を汲む。
かまどに置いた所で。
「あ、火がない…」
かまどの奥に燃え残った炭は発見できたがやはりというか流石にというか種火となるようなものはどこにもない。
人を人たらしめるものは火の発見だ。
火を自在に操ることが出来たからこそ人は進化できたのだといっても過言ではない。
これなら穴をほったりする動物にもできるような魔法なんかじゃなく火の魔法の方がよっぽど役にたつ……!
自分の能力のチョイスを心底怨む。
…結果しばらく辺りを探し回ったら案外あっさりと火打石が見つかったので昨日の寝床がわりだった藁を種火になんとか火をつけることに成功した。
ぽこぽこと湯が沸いてきたのでしばらく冷ましてからいただく。
およそ一日半ぶりの水分だ。
多少熱かったがちびちび飲むのはかえってのどの渇きをまぎらわせてくれた。
なんとか生きるのに必要な水は確保することが出来た。
となれば次は
食料だな。
食料についてはちょっとした当てというか予感があった。
ここは廃村。
何があったのかは知らないがはるか昔に住人達が去ってしまった村なのだ。
はじめは気づかなかったが、このボロ屋敷の前の草原だけ生えている植物の種類が違う気がする。草が生い茂っていることには変わりないのだが妙に区画が整備されているような気がするのだ。
よく見ると草原の中に明らかに自然のものではない木の杭が何本か刺さっているのが見える。
そしてその中に丸っこいつやのある葉っぱがその他の草とは違い妙な異彩を放っているた。
あれはもしかして……!
「【隆土】――!」
ずもぉっと、その丸い葉っぱの根元の地面が盛り上がる。
丸いころころとしたものが地面の中からあらわれた!
やっぱり…!
「じゃがいもだ!」
ここは異世界なので厳密には違うのかもしれないが見た目は完全にじゃがいもだった。
直径は2センチぐらいで数も少ないがそれは他の雑草たちに栄養を取られているせいだろう。
そんなじゃがいも達がここらにはたくさん埋まっているのだ・・・!
家の倉庫の中に鍬などがあったことからなんとなく期待はしていたのだが・・・。
どうやらここは住む人がいなくなって耕されることも無く長年放置された畑だったらしい。
今は雑草のせいでこのような可愛い姿だがきちんと畑を耕していけばきっと立派に成長してくれるだろう。
異世界サバイバルからスローライフへ、なんとかステップアップできそうである。
その夜は味の無いゆでた小芋と白湯をいただいた。
贅沢は言わない。
きっと明日からの活力になってくれるだろう。
◆◇◆
翌日朝、白湯を飲んでから早速俺は畑へと繰り出す。
目の前に広がる今は野生に帰りつつある元畑は大体広さ300平米。25mプール1個分ぐらいの大きさだ。
流石にすべては無理なのと俺のパッシブスキル【土地潜在能力開放】の実験の意味もこめて少しずつ開墾していくことにする。
一先ず10平米、畳6枚分ぐらいの広さを開墾していこう。
まずは耕すべき範囲から一旦じゃがいも達を避難させなければならない。
「【隆土】!!!」
目標の地面を隆起させジャガイモを掘り返しやすくする。
何度か魔法を使ってわかったことだが割とイメージ荒っぽくすると耕運機のように掘り返せるようだ。
ただしその分疲労度も半端ないが。
「【隆土】【隆土】【隆土】!」
しかし畑をざくざく掘り返していけるのは楽しい。
あらかた掘り返し終えたところでじゃがいも達をピックアップしていく。
地味な作業だがこいつらが明日への糧となってくれるのだ。
小さいし一株についている数も少ないが流石にそこそこの面積を耕すと両手に抱えきれないぐらいの量になってくれた。
【隆土】の連続使用で疲れたのでピックアップしたジャガイモを少し持ち帰って昼飯にすることにする。
昼食も言わずもがなの小じゃがパーティーだ。
…せめて塩がほしい。
昼ごはんを食べ終わって畑に戻ってくると先ほど掘り返してまだ雑草交じりだった土地がよく見る畑のような土壌に変わっていた。
幾らなんでもこの変化は早すぎる。
もしかしてこれが農業適正S+、パッシブスキル【土地潜在能力開放】の力なのだろうか。
だとしたらかなりチートな能力な気がする。
流石に農業適正にポイントを全振りしただけのことはあるな。
正直芋を消費するスピードと生産するスピードの差は考えないようにしていたのだがこれならなんとかなりそうな気がする。
それから何日か同じ作業を繰り返し、暇を見つけては家の中を片付けたり、何か使えそうなものが無いか探して数日を過ごした。
家の中の探索で新たに棚の中から蝋燭と岩塩、さらに台所からナイフを発見できたのは大きかった。塩の発見により味気ない食事事情が前進したのだ。
ちなみに食事のレパートリーはゆでた塩味のジャガイモ、ふかした塩味のジャガイモ、焼いた塩味のじゃがいもである。
また、何日かあの家で生活していて2階の居間は倒壊する危険はなさそうだと判断し寝床も2回に移してあった。
屋根があるところで寝られるというのはいいものだ。
寝床は相変わらず藁を敷き詰めたものにシーツ代わりにテーブルにかかっていたクロスで覆っただけものであるが。
そうこうしている内に種芋にしようとしていたじゃがいも達に芽が生えてきたので早速植えつけてみた。
……翌日にはじゃがいもを植えつけたところから青々とした芽が生えていました。
自分のスキルがすごいのかこのジャガイモたちがすごいのかもうよくわからない。
それからは畑のじゃが達に水をあげたり新たに畑を耕したりして数日を過ごした。