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はじめての魔法とボロ屋敷

「これは・・・ほんとに俺は異世界に来たのか?」


 目に見える限りでは異世界らしさはどこにもない。

 眼前には草原、そしてその奥には森林が鬱蒼と広がっていた。


 転生されていきなり王様が目の前にいて魔王問答無用で魔王と戦って来いと言われたり、急にダンジョンで危険なトラップやモンスターやがいたりすると否応なしに巻き込まれる可能性があるのではじめは出来るだけ人のいないところに転生してもらった。


 一応この異世界は魔法や魔物、ドラゴンなどが実在するオーソドックスなファンタジー異世界らしいのだが。



ちなみに俺のステータスは


 職業:農家

 能力:言語翻訳

    農業適正 S+

    パッシブスキル 【土地潜在能力開放(ランドデベロッパー)

    

    土魔法    【落土(グランドフォール)

           【隆土(グランドライズ)


 他の戦闘能力や回復能力などはオールEつまり一般人並らしい。

 農業適正に割り振りすぎた結果他のものにポイントを回す余裕が無かったのが現実だ。

 おかげで年齢や性別なども前の世界から引継ぎである。


 パッシブスキルというのはわざわざ能力を使おうとしなくても常に発動している能力らしく農業適正をS+まであげたら習得できた能力だ。

 曰く土壌を改良して野菜が良く育つ状態にしてくれるらしい。

 スローライフを送りたいという願望はあっても今まで土いじりなどしたこと無い身にとってはありがたいスキルだ。


 そして何より折角異世界へ転生できたのだ。

 魔法が使えるというのなら使ってみたい。

 だって男の子だもの!

 年齢はアラフォーに分類されているが男の心は変わらない。

 一旦中二病という病にかかってしまったらそれは不治の病なのだ。


 俺の使える魔法は2つ。


落土(グランドフォール)

地面に穴を掘る。


隆土(グランドライズ)

地面をもりあげる。


 ・・・地味だ。

 この二つは土魔法の基本的な魔法らしい。

 上級魔法にいくと隕石を降らせるや地震を起こすなどもあるらしいのだが

 別に俺はこの異世界に天変地異を起こしにきたわけではない。


 地味だが基本であるということは応用も利くということ、動物を罠にかけたりするときや咄嗟に身を守るときに使えたりするだろう。


 というわけで早速手に入れた魔法を使ってみたい!


 目の前の草原に意識を集中する。


「【落土(グランドフォール)】――!」


 と唱えると


 目の前の地面が5センチほど盛り下がった。


 ………地味だ。

いや、手を触れずに種も仕掛けも無く土が掘れたことはある意味すごい。と思う。


 今度はもっと気合をいれてやってみる。


「【落土(グランドフォール)】――!!」


 ぼごぉっと、今度は地面に深さ1mほどの穴が開いた。


おお!やった!相変わらず地味だがどうやら気合を入れると効果も増すようだ。


「【落土(グランドフォール)】――!!」

「【落土(グランドフォール)】――!!」


「【落土(グランドフォール)】――!!!」


 調子に乗って地面に穴を量産してしまう。これは地味だがなかなか使えそうだな!

しかし同時に身体がだるくなった気がする。


 とりあえずもう一つの魔法も使ってみよう。


「【隆土(グランドライズ)】――!!」


 ずもぉっと、地面が1mほど壁状に盛り上がる。

 …予想通りの効果だ。


 しかし使った途端身体がだるい、具体的には土を1mほど何回か掘って1mほど積み上げたときのような身体疲労だ。

 魔法の意味あるのかこれ・・・?

 道具をなにも使わずに穴が掘れたりするのは便利なのだが。


 身体的ステータスは一般人。

 体力的に下り坂一直線のおっさんである。

 中年太りという言葉が耳に痛い年頃だ。

 あまり魔法は多用できないのかもしれない。


 さて、とりあえず魔法が使えたということでかなり身体は疲れたが心は満足はした。



 ◆◇◆



 魔法が使えるということを確認した俺は周りを見て回ることにする。


 草原をしばらく行くと道らしきものがあったので道に沿って山とは反対のほうにいってみる。

 道幅的に獣道というよりは人が行き来していた道だろう。

 整備されていないのか気をつけないと草むらとわからないほど荒れ果てていたが。


 しばらく行くと道が唐突に消えていた。


 目の前には崖。


 恐る恐る崖下をのぞくとそこはえらく垂直に、何のとっかかりもなく切り立った崖であった。

はるか下には川が流れている様子も無くこれまたなにも無い、草一本木一本生えてない不毛の大地が広がっている。


 都合よく引っかかる木もなければ、途中で止まったり捕まるれるような出っ張りもない、下に川も流れていない。

 崖から落ちて生死不明は生存フラグとよく言うがそんなフラグなど一切感じさせない、落ちたら確実に助からないフォール・オブ・デスだ。


 そんな崖が左右に見渡す限り続いていた。


「陸の孤島なんじゃないかここ……」


 いや、人里離れた場所がいいとは言った覚えがあるが。



 仕方なく今度は道を山のほうに向かって歩く。

多少荒れてはいるが道は道なので村か町につながっていると思うのだが。


 …2時間ほども歩いただろうか、疲れた。

 こんなことなら調子に乗って魔法などほいほい使うんじゃなかった、あれで結構体力を持っていかれた気がする。

 段々日も落ちてきている。

このまま野宿は勘弁だなと後悔し始めた頃……ついに山の麓のあたりに人家らしきものが見えた。



 ◆◇◆



 周りに他に家らしきものはなく一軒だけぽつんと石造りの家が建っていた。


 正確には元、家だったものだろうか。

 壁の一部は崩れ、屋根もかなりの穴が開いている。

 元々2階建てだっただろうが2階部分はほぼ倒壊しているようだ。

 ザ・廃屋といった感じた。


「すいません、誰かいらっしゃいますか……?」


 というかこんなぼろぼろの状態の家に誰かいるとしてもかなり係わり合いになりたくない人種だろう。

 それでも日本人としての性なのかお邪魔しますと言いながら恐る恐る中に入る。


 中は表のぼろぼろ具合とは違い意外と綺麗な状態であった。


 一階部分は土の地面が続いていて元々馬か牛を飼っていたらしく奥には藁が詰まれたケージのような空間があった。

 右手には石造りの階段がありその下に扉がついている。

 扉を開けるとそこは倉庫らしきところで見知らぬ道具が数点と見知ったものでは鍬や鎌やバケツなどが、多少さびたり傷んだりしているようだがまだまだ使えそうだ。


 階段を上がって行く、この近辺の壁は比較的こわれていなく倒壊の危険もなさそうだ。

 二階へ上がってすぐの居間らしきところには木製の机と椅子があり、棚には食器らしきものまである。

 奥には石造りのかまどがあり鍋ややかんのような物もそのまま残ってた。



 …しかしそこに堆積していた埃はここが廃墟になってからの年月がそう短くないことを物語っていた。



 2階の他の部屋は屋根が崩れ落ちており風雨にさらされて床もかなり腐り落ちやばめな感じだったためそれ以上の探索をあきらめた。


 一通りボロ屋敷を探索した感じ少なくともここ数年は人がいた形跡はないようである。


 あわよくば寝床でもあればと思ったがそううまくは行かないらしい。

 間取り的に二階部分の倒壊していた部屋が寝室だったのだろう。



「…まぁここしかないか」


 一階の藁が詰まれたスペースを今夜の寝床と決める。

 ここは2階の床部分も腐り落ちておりつまりは屋根が無い。

 つまりは空まで吹き抜けだ。


 これなら逆に寝ている間に屋根が倒壊して生き埋めになる心配も無いというものだ。


 そうこうしていると日が完全に落ちきってしまった。

 ……あたりに人家の火は灯らない。

 完全な暗闇だった。


 ここまで歩き通しでしかも成れない魔法を使ったせいか猛烈に眠い。

 思えば今日一日水も飲んでなければ何も食べ物を口にしていない。


 これじゃあスローライフの前にサバイバルだなと自嘲気味な思いを馳せながら異世界一日目の夜はふけていく。


―――夜空には雲ひとつ無く、月がまるで土星のような輪を持って浮かんでいた。


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