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異世界転生は事務的に

「では次の方、どうぞ」


「ぇ?」


 気がつくとそこは真っ白な部屋だった。

 目の前にはいかにもこれまた真っ白な服のお役所的な事務員らしき眼鏡をかけた女性が机に向かい書類に目を落としている。

 机の上には書類のほかにノートパソコンのようなものが開かれていた。


 白い部屋の中央にぽつんと事務机と女性、そして自分以外何も無い部屋だ。


「次の方?」


「はい?」


 周りを見渡すが他には誰も見当たらない。この部屋には自分とこの女性の二人だけ。

 つまり次の方とは俺のことだろうか?


「えー、菜野郁人様?ですよね?」


「え、ぁ、…はい」


「37歳、独身、未婚、お亡くなりになる前の住所は―――」


 ちょっと待った、今かなり重要なことをさらっと言わなかったか?

 お亡くなり?死亡?


 そう思った途端ここにいる前の記憶がフラッシュバックしてきた。


 それはいつもと変わらぬ社畜の朝、いつものように朝の満員電車に押し込まれるために駅に

向かう途中にトラックに轢かれたのだ。


 あ、と思ったときにはもう遅かった。

 そのときの運転手の悟ったような妙に落ち着いた表情だけが印象に残っていた。


つまりここは……


「思い出されたようですね。そしてご理解がはやくて助かります。ここは前の世界でなくなった方々を異世界へご案内する異世界転生所になります。」


 机に置かれているプレートには何か読めない字らしきものが書かれている。

それを翻訳しているのであろう下にずらりと並んだ世界各国のさまざまな言語の中に「異世界転生所」という日本語を発見した。

 …なんかイメージと違った。もっと神様的なおじいさんや綺麗な女神様がそういう説明をしてくれるものと思っていたのだが。

 目の前の女性は綺麗ではあるが態度はかなり事務的な感じだ。


「それでは菜野さん、次の転生先のご希望についてこちらの端末にご記入ください。終わりましたらこちらで出来るだけ近い案件をご案内させていただきます。」


 自分が死んだというショッキングな状況ではかえってこういう事務的な言い回しの方がありがたかった。ああ、死んだのか俺、とは思いつつも渡される端末をついつい手に取る。


 それにしても最近の異世界転生は随分システム化されてるようだ。


 何かわからないことがあればお聞きくださいと手渡された端末を見ると希望する異世界での職業や能力、使いたい魔法などを選択できるようだ。年齢や性別まで選べるのか・・・!



 異世界でやりたいこと………

 一般的には中世ヨーロッパのようなで魔王とかモンスターとかがいたりする剣と魔法の世界なのだろうか?

 魔法が使えるようになるというのは魅力的だが戦って傷つくのは勘弁だな。痛いだろうし。

 雑魚モンスターとして序盤に登場するゴブリンなど人型をしている分例え勝てたとしても

傷つけたり殺してしまう精神的ショックがでかそうだ。


 冒険に出たりパーティーを組んだりするのも対人関係がめんどくさそうだしなぁ・・・

 つい先日も取引先から上に確認したら変更があったとかで終わったと思っていた仕事を一からまたやり直さなくてはならなくなった。

 仕様変更するのはいいのだが二度手間は勘弁してもらいたい。


 あまり人とかかわらないように、かといって折角の第2の人生(?)だ。今までやれなかったことをやってみたい。





「―――書き終わりましたか?…異世界でのご希望は「スローライフ」?でよろしいですか?」


「はい、前から田舎で土地でも買って畑を作って自給自足に近いことが出来たらいいなと憧れてたので」


 そう、憧れていたスローライフ。

 男の子なら誰でも一度は思い描いたことがあるであろう無人島でのサバイバル。

 でもあれは物語の中であるからいいのであって実際自分がやれといわれたら御免被る。2泊3日ぐらいで確実な救助の当てがあるならいいのだが。


 そこで俺が提案したのがゆるサバイバル生活なスローライフだった。



 それから何度か内容についての確認をされた後ようやく俺の転生の許可が下りたらしい。


「―――それでは異世界転生への手続きはこれですべて終了となります」


 そういうと彼女は机の中から取り出した印鑑をタブレット上の書面へ押し付けた。


 するとその捺印が発光しながら大きく広がり、ぶわっと俺の方へ迫ってくる。

 どうやら印鑑がそのまま転生のための召喚陣になっているようだった。


「なお、当局はこれからの異世界の生活に一切関与いたしませんのであしからず。それではよい異世界ライフを」


 最後まで実に事務的に。


こうして俺の異世界にて第2の人生をはじめることになった。

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