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トイレの触手様 後編


 さらさら、さらさらと俺の頬をやわらかいものが撫でる。


 気持ちいような、くすぐったいような不思議な感触。


 天気のいい日に布団をほして、そのふかふかの布団のなんとも言えないいい匂いに包まれながら昼寝をしている、そんな気分だ。


 異世界に来てから藁の簡素なベッドでしか寝ていなかったため

それは夢だとわかっていても覚めるのは抗いがたかった。



 そんな風に思っているとさらさらとした感触が頬を離れて鼻をくすぐる。

 


「――っくしょい!」



 くしゃみが出た。


 目を覚ますと目の前にラフィッカの顔がある。

その顔は心配しているような怒っているような恥ずかしがっているような

なんとも言えないブレンド具合だ。



 どうやら膝枕をされているらしい。

先ほど俺の頬を撫でていたのはラフィッカの尻尾だったのだろうか。


ぼんやりとそんなことを思っていると


 吹っ飛ばされたときに真空の刃で切られたのであろう切り傷の痛みが唐突にぶり返し、

かえって意識が覚醒した。


 ばっと身を起こす。


「ラ、ラフィッカ、無事か!?」


「え、な、何のこと?私は別になんとも…なくはないけど…」


 終わりのほうは顔を真っ赤にし視線を反らしながらごにょごにょと口を濁す。



なん…だと…!?


 くそっ、あんのぬめぬめ触手野郎めっ!!

大体あんなもしお茶の間の画面に出たらモザイク必須であろう生物のぬめぬめの

体液なんて媚薬効果があると相場が決まっている!

媚薬なんてファンタジー薬物なんて信じていないがここはそもそもファンタジー異世界。

そういうロマンあふれる世界なのだ!

ラフィッカもはじめは抵抗したのだろうがそのロマンあふれるぬめぬめファンタジー薬物

で心で嫌がっていても身体のほうは徐々に――


――ぺしっ


 っとラフィッカの尻尾で軽く頬をはたかれ俺の妄想の暴走列車は緊急停車する。


「今なんかとてもイケナイことを考えてたよねっ?」


 さすがけもみみ少女、するどい感性だ。


 それから俺はあの触手生物がいかに危険で

 俺の貞操も奪われそうになったことを涙ながらに訴える。


「だからラフィッカも…その…」


「もうっ、そんなわけ無いじゃない!」


 顔を真っ赤にしながらラフィッカ。

 尻尾がぶわっと逆立っている。



 もう、ちょっと待っててといい残し畑のほうにてくてく歩いていくラフィッカ。


 自然俺は正座の形で待機することとなる。




 なにやら畑の土をじっと見つめて集中していたラフィッカはおもむろにずぼっと土の中に手を突っ込んだ。


「こいつのことでしょ」


 とラフィッカのその手にちょこんと摘まれていたは

ぬめぬめと赤黒く輝く直径5cm、長さ30センチほどのあの触手生物であった。


「なっ……!!」


「これはミズガルズミミズといって畑の土を耕してくれてるんじゃない」


 畑をやっているのに知らないの?とちょっと呆れたような感じで言われる。

確かに聞いたことがある、ミミズがたくさんいる土はよい土だ、と。

ミミズは土の中の落ち葉や微生物を食べ、それらは団粒状のフンとなって排出される。それらは植物に栄養たっぷりのふかふかしたよい土壌になるらしい。


 このミズガルズミミズは更には動植物の排泄物や死骸なども平気でたべてそれらを完全に分解し、堆肥として排出してくれるのでこの世界の農業では非常に大切にされている存在なのだそうだ。生きている生物には見向きもしないらしい。


 今もラフィッカにつままれ逃げ出そうと必死にもがいている。


「うちの村の畑にもたくさんいたよ…その…おトイレにも…」


 後半もにょりながらラフィッカはミズガルズミミズと土の上に放してやる。

 ミズガルズミミズは俺らには見向きもせずそそくさと土の中へ帰っていった。

 とてもゲームの中などで少女たちに見境無く猛威を振るっている触手には見えなかった。


「…なるほど」



 理解した。


 あのトイレの小屋の周辺だけ妙に草木が生い茂っていたのもこのミドガルズミミズが

排泄物を綺麗に堆肥にしてくれていたおかげなようだ。

 あのとき穴を上まで登って俺の尻にまでアタックしてきたのは久々の新鮮な餌でつい

ハッスルしてしまったのだろう。


俺はとんでもない誤解をしていたのだ…!


「変な誤解をしてすまなかった!」


 俺は触手もといミズガルズミミズ様とラフィッカに深々と頭を下げる。

先ほどからずっと正座をしてミミズ講座を聞いていたので自然土下座のような形になった。


「も、もういいよ!それに私のことを心配して来てくれたんでしょ?…ってそんなことよりイクトの方こそ大丈夫!?わたし、びっくりして風魔法を暴発させちゃって…」


ごめんなさいと涙目になりながらこちらを心配そうに見つめてくるラフィッカ。


 改めて自分の身体を確認してみる。

 俺の服は無数の風の刃に切り刻まれてずたぼろだった。

 しかしその刃は俺の身体までは達していなく、肌を露出していた顔や手などの部分も赤くうっすら血がにじんでいる程度だ。


「何、これぐらい子犬にじゃれ付かれた程度の傷だ。肉とじゃがいもとDAIKONを食ってればすぐ治るよ」


 そう言ってラフィッカの頭をわしゃわしゃと撫でる。

 けもみみのもふもふが心地よい。

 しばらくこうしているだけで本当に治ってしまいそうだ。


「うん、じゃあ今夜は私が晩御飯作るね!」


 とラフィッカはくすぐったそうに微笑んだ。





 …というか俺もラフィッカのあられもない無防備な姿を見てしまったのだから紛れも無く正当防衛で受けた傷であるのだが。




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