異世界のじゃがいもは人を襲う
じゃがいもが襲ってきたぞ、逃げろ!!!
ある静かな農村である日突然じゃがいもが人を襲いはじめた。
何を馬鹿なことをと笑う人がいるかもしれない。
しかし覚えておいたほうがいい。
得てしてそういう人ほど最初の犠牲者となるのだ――
俺こと菜野郁人(37歳、独身)がこの異世界にやってきてから一ヶ月ほどもたった頃だったであろうか、それは突然俺の畑に生えてきた。さもそこに生えているのが当然といった顔で他の普通のじゃがいも達に混じって生えていたのだ。
「うおっ!?」
俺の方に向かって宙を舞い、弾丸のように突撃してくるじゃがいも。
紙一重のところで横っ飛びに避ける。
ずぼぉっ!っと俺の先ほどまでいた場所に着弾し、もうもうと土煙が上がる。
それはいくらじゃがいもとはもはや凶器だ。当たったら痛いどころではすまない。
トマト投げ祭りと言うのがあるがアレは柔らかいトマトだからでこそ成立するものだ。
じゃがいも投げ祭りなどという狂祭があれば確実に怪我人続出だろう。
最悪死者が出てもおかしくはない。
そう、それの見た目はじゃがいもとしか表現しようもないものだ。
人々にアンケートをとってこれはなんだと思いますかと聞いたら、恐らく全員がじゃがいもだと答えるだろう。
しかしこのじゃがいもは人々の知っている普通のじゃがいもではない。
異世界のじゃがいもなのだ。
この異世界じゃがいもは当たり前のようにひとりでに宙を舞い、まるで人に怨みがあるかのように高速で体当たりをかましてくる。
……俺はとんでもない異世界に来てしまったのかも知れない。