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同窓会で――君に会いたい  作者: 矮鶏ぽろ
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串に刺さった鳥皮煮込み

形勢の悪さに席を立った宮前の前に、一人の女性が現れる――。


 串に刺さった鳥皮煮込み


 乃中(のなか)美恵(みえ)は俺の彼女だったわけじゃない。自分の気持ちすら、はっきりと伝えていなかった。

 卒業して十五年も経つのに……今だに忘れられない。


 男は過去に囚われる生き物だと、痛感させられる。

 今でも夢に、あの頃の姿で乃中美恵が現れるのだ……。


 今日……乃中が来ているのかどうか分からない。全ての席を見て回れるわけもなく、ここから料理が置かれているところをチラチラ見ているだけだ。まだ知っている女子は誰一人見ていない。

 乃中が友達を誘わずに一人でくるはずがないから、今日は……やはり来てないのだろう……。


 河崎や七木にもそのことだけは聞けない。聞いてしまえば、俺が乃中に会いたいために同窓会に来た下心がバレてしまう。

 卒業してからもずっと好きだったなんて事がバレてしまう――。


 結婚しているのかどうかすら、俺は知らない。……こんなことなら、高校を卒業したらどこの大学へ行くのか、しっかり聞いておけばよかったんだ……。


 ――連絡先ぐらい、勇気を出して聞いておけば良かったんだ――。


 あの頃にスマホがあれば……俺は連絡先を聞いておくことができたのだろうか……。

 卒業式のあの日、桜の下で話すことなんて……できなかった……。



「でさあ、面治、泣きながら走って帰ってさあ……。次の日、よく部活に顔出せたと思うよ」

「俺だったら速攻で手紙を読んでオッケーしたぞ。面治ってめちゃくちゃ可愛かったじゃん」

「ああ、俺もフリーだったらオッケーだったな」

 二人は(めん)()(おり)()の話で盛り上がっている。

 モテていたとは言わないだろ。一度後輩に手紙をもらいかけただけじゃないか。それに……、

「……そんな内容の手紙じゃなかったかもしれないだろ――」


 形勢の悪さに、思わず皿を持って席を立った。



 厨房前のカウンターに並ぶ食べ物も、最初に比べるとだんだん美味しそうに見えなくなってきている。

 酔ってきたのと、腹の中が満たされてきたからだ。白身フライはもういいや……。


 年季の入ったおでんの鍋を見ると、わずかだが、真っ黒の味が染み込んだおでんが残っていた。

 真っ黒になるまで煮詰められた鶏皮の串をトングで皿に取ろうとすると、いきなり横から、

「私にも取って~!」

 ……酔った勢いでビールジョッキを手にしたままの女性が割り込んできた――。


 可愛らしい襟のついた白い半袖のシャツ。

 白い二の腕がすっと俺の腕に触れると、ほんのりと温かく、大人気もなくドキッとした――。


 トングで鳥皮の煮込みを掴んだまま振り向き、そっと顔を見ようとする。

「あ、串はいらない、いらない。抜いて皿に置いて!」

 ――などと、事細かい注文を付けてくる~――。


 ビールジョッキと皿を持ち、一体どうやって食べるというのだ? って、いきなりその場でビールを飲みを始めるではないか――。


 なんて図々しい女……。上唇に付いた泡をペロッと舐める。

 でも、その女性の声……、聞き覚えのある懐かしい声だ――。

「あれ? ……もしかして、橋本……さん?」

「あららあ、宮前くん?」


 俺と同じ、弓道部の女子だった――。


 今でも昔と変わらず美人なのに……。立ち飲みしているのがいささか残念だ……。

「久しぶり〜。見違えたわ~」

 ……かなり酔っている。でもこの軽い感じが橋本(はしもと)沙里(さり)のいいところで、俺が気にせずに話せる数少ない女子だった。そして、今、同窓会でもそれが変わらないのが嬉しくなってしまう。

「お、おう。久しぶり。……でも、ここで立ち飲みしたら駄目だ。他の人の邪魔になるだろ。せっかくのおでんが取れずに渋滞を巻き起こすじゃないか」

「へへ、いいのいいの。あ、そうだ~!」


 橋本は……おおよそ食べ残しばかりが乗っている自分の皿を手渡してきた。


「このお皿、あの奥を右に曲がった一番奥の私の席に置いてきてくんない?」

「はあ? なんで俺が?」

 この食い荒らされた大根と、一口だけ食べられてる竹輪をわざわざ……?

「一番遠くて食べ物取りに来るのが大変なのよ~」

「……で、その大変なことを俺に手伝えっていうのか……。仕方ないなあ~」

 酔っているとはいえ、話していてなんか可笑しい。

 大人っぽくなったかと思ったが、……橋本は昔と変わらないな。


「美恵ちゃん、来てるよ」


 その名に――心臓が止まりそうになった――。


 橋本は上目遣いで俺に皿を渡そうとしている。俺の顔を覗き込みながら笑顔で見続けている……。


「……サンキュー」

「いいって、いいって」

 俺は自分の皿と橋本に託された皿を両手に持ち、奥のそのまた奥の席へと足早に向かった――。



 奥の座敷の部屋に一人、紺色の清楚なワンピースをきた乃中(のなか)美恵(みえ)が静かに座り、ウーロン茶を飲んでいた。

 突然皿を持って現れた俺の姿を見て、目が合うと、ただただ時間だけが過ぎた――。


 十数年の時間、思い出、全てがフラッシュバックのように思い起こされ、声を発することさえもが苦しいと感じた――。


 昔と同じように、鼓動が早くなるのが分かった――。 



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