生ビール
周りの席からは楽しそうな笑い声が聞こえる。決して楽しくないわけではないのだが……。
生ビール
他の席からワ~っと盛り上がる声が聞こえる度に、そわそわした気分になる。
その中に女性の声が混じっていたりすると、思わずビールをがぶ飲みしてしまう。他の二人は全然そんな素振りすらなく、おでんを突いたり、スマホをいじったり、俺をいじったりしている……。
「宮前は結婚しないわけ?」
「ああ。別に興味ないよ」
ニヤニヤしながら聞いてくるのがハラ立つ。
「じゃあ彼女は?」
聞かれたくないこところをズカズカ聞いてくる。
だから今まで同窓会になんか来たくなかったんだ――。
「いたけど別れた」
「おおー! それっていつの話だ?」
「忘れた――!」
またビールを一気に傾ける。
ああ、嘘さ! 嘘に決まっている! 察してくれっ!。
「お前、高校の時は結構モテてたのにな」
「なんだって!」
俺より先に七木が河崎に食い付く!
俺だって驚きだ! モテていたなんて実感はない――。
「宮前は主将していただろ。後輩から結構モテてたんだぜ」
「嘘を言うな嘘を! 俺なんかより、河崎がダントツでモテてたじゃないか。……彼女もいたし」
河崎は一年の終わり頃から、同い年の沢江由香と付き合っていた。全員が知っている、まさに公認ってやつだった。
ずっと片思いしかしてこなかった俺にしてみれば、羨ましいことこの上なしだ。
ただ……、高校を卒業してから河崎と沢江がどうなったのかは知らない。いずれは結婚するんじゃないかと噂もされていたのだが、河崎の結婚式の写真には、沢江由香とは似ても似つかない女性だったのをよく覚えている。
「実は宮前、三年の時、二年の女子に手紙渡されたことあったんだよな~。名前は確か……」
……あのことか……俺の事なのによく覚えていやがる……。感心する。
「面治だ! 面治織香だ。変わった名前だったから覚えてるだろ?」
「――ええ! 面治が宮前に手紙渡しただって? ちょお、聞いてねーぞ」
七木は知らなかったようで……ふてくされている。十五年も前の恋話なんてどうでもいいじゃないか、どうでも!
「で、どうしたんだ? もしかして、知らないところで付き合ってたわけ?」
「河崎じゃあるまいし、そんなことするもんか」
同じ部活内で堂々と付き合えるほど、俺は人間が成長していないさ。今もだけれど……。
「こいつ、手紙を受け取らず、泣かしたんだよな」
「うわ、ひっどお。っていうか、勿体ね~。お化け出るぞ!」
「もう昔の話はいいだろ!」
――俺だって、いきなりだったからどうしていいのか分からなかったんだよ。
それにあの時、近くにいたんだ――。
――俺がずっと好きだった、乃中美恵が見ていたんだ――。
俺が今日、同窓会に来た本当の目的は、その乃中美恵に会うこと。ただそれだけだったんだ……。