白身フライ
宮前公裕は、七木剛と河崎翔と共に、高校の同窓会へ出席する。
白身フライ
男って生き物は……ただただタラタラ未練を引きずって生きているんだ。ちょうど今食べている白身フライも、中身はタラなのだろう。
ソースを皿の底に溜まるぐらいドボドボとフライにかけると、一気にかぶりつき、生ビールで喉の奥へと流し込む。
食べているのが白身フライであろうが、豚カツであろうが、酔ってしまえばどうでもいい。大差ない。
「宮前、あんまり塩分取り過ぎると健康診断に引っ掛かるぞ」
テーブルの前に座る七木剛は俺の健康を気にしてか知らないが、そんなことを言いながら煙草を吹かしている。
「俺の健康を考えてくれるのは有り難いが、だったら目の前で煙草を吸うのをやめてくれないか?」
「はは、わりいわりい」
もうフィルター近くまで灰と化した煙草を透明なガラスの灰皿でもみ消す。まったく、さっきから何本吸えば気が済むんだ?
「やっぱ宮前は今でも煙草吸わねえの?」
七木の横で肩を並べて河崎翔も煙草の煙を天井へ向けて、フワーっと吹出した。
テーブル上の小さな照明が、スモークで霞んで見える。煙が目に沁みそうで勘弁して欲しい。
「当たり前だろ。体に悪いし、お金もかかるし、口だって煙草臭くなるしだなあ……」
女にモテなくなるだろ……その言葉はビールで胃袋へと飲み込んだ。
――なんで人前で煙草をプカプカ吹かしているこいつらが俺より先に結婚しているのかっ!
七木と河崎の左薬指では、銀色の指輪が目障りな光を放っている。
外してこいと言ってやりたい――。
いや、言いたくない――。
高校の同窓会で、久しぶりに同じ部活の仲間とテーブルを共にしていた。
参加率は……イマイチで、幹事は居酒屋風の店を貸し切り予約したようだが、奥の座敷やテーブル席にはチラチラ空きが見える。俺の座るテーブルも、四人掛けに三人だ。
もっと知っているクラスの奴らが来ているのかと思ったが……殆ど知らない奴らばかりだ。恩師というか、先生が一人もいないのは、呼んでないのかも知れないな。
クラスも部活も違えば、年齢は同じとはいえ、全く話なんかできない。同窓会に来たというよりは、久しぶりに七木と河崎と飲みに来たって状態だ。
同窓会って、こんなものなのか……。
高校を卒業して十五年……。
これまで幾度となく同窓会の案内状が届いてはいたが、ぐっしゃぐしゃに丸めてゴミ箱へ毎回ダンクシュートしていた。
友人は次から次へと結婚し、独身の俺はどんどん疎遠になっていった。俺の田舎では、今だに二十代で結婚しているのが常識で、三十代になると周囲からの視線が哀れみの視線へと変わる。まったくもって腹立たしい――。
都会へ出たとはいえ、友達に自慢できるようなところが何一つない俺は、いつも同窓会の案内状を読まずに捨ててきた。捨て続けてきたのだが……。
今回は、どうしても出席したいと思い立ったんだ――。