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強襲

 ――二日目、トウヤ周辺の出来事。


 長い夜が明け、トウヤは目を覚ました。

 カーテンの向こうから日の光が差し込んでいる。音は何もない。

 頭の中に悪夢の名残なごりをちらつかせつつ、トウヤはふらふらとドアへと向かった。

 そうして1階へと降り、サヨの姿が目に入った。


「おはよう、委員長」

「おはよう。朝ごはん、もうすぐできるから待っててね」


 エプロン姿のサヨが振り向き、微笑んでみせた。

 ルールでは説明されていなかったが、衣服も凶器同様に各家のタンスへとランダムに配られている。さらに、過剰なまでに膨大な量を用意されているため、これまた食品と同様に独占される恐れはほぼない。

 と、ここでトウヤは気づく。ハルカを殺した後、風呂に入らずすぐさま寝てしまったことに。


「委員長。ちょっとシャワーを浴びてくるよ」

「わかったわ」


 トウヤはタンスから着替えを引っ張り出し、浴室へ向かった。

 そうして、胸を覆うもやと刺した時の感触を汗と共に洗い流してゆく。


「僕はもう、今までの僕を捨てるよ……。殺したくないと何度叫んだところで、状況は何一つ変わらないことは理解した。逃げ場なんてもうないんだ。他のプレイヤーが僕に殺意を向ける以上、僕はそれに応じなければいけない。これはきっと、今まで逃げ続けてきた僕の罪なんだ……」


 トウヤは自分の手を見つめた。水を指に伝わせては、それをしたたらせている。しかし、おぞましい感触と罪は残ったままだった。

 トウヤは悲しげに苦笑した。


「これも全部、言い訳か……。どんなに理由を探しても、僕が殺人鬼であることに変わりはない」


 トウヤは目を閉じ、深く息を吐いた。

 そして、これ以上悔やんでいてはサヨを心配させるだけだと、気持ちを切り替えつつ浴室を出た。


 着替えてリビングに戻ると、テーブルには既に朝食が並べられていた。

 目玉焼きとベーコン、サラダとトーストがおいしそうな匂いを漂わせている。


「ごめん。お待たせ」

「ううん。今できたところだから。それじゃ、食べましょう。いただきます」

「いただきます」


 トウヤは束の間の安らぎに浸りつつ、食事をした。

 女子の手料理を二人きりで食べる。

 それだけを考えればこれ以上の幸せはない程だが、彼らは殺し合いの真っただ中にいる。それは、否応にも常に意識の中にあり続け、本当の意味での安らぎなどどこにも存在しないことを意味していた。


「おいしい?」

「うん……」


 トウヤは暗い顔で返事をした。サヨの作った朝食はとてもおいしいが、それを味わう余裕などあるはずがない。


「ねえ、委員長。他のプレイヤーはどんな能力を持ってるのかな……。あ、ごめん。食事中にこんなこと話さなくてもよかったね……」

「いいのよ。こんな危険なゲームに参加しているんだから、それくらい不安になって当然だわ」


 サヨは優しく微笑んでみせた。


「ありがとう。委員長がそう言ってくれるとすごく楽になる」

「気にしないで。それで、能力のことだけれど、私たちが超能力と聞いてすぐに浮かぶようなものが多いと思うの」

「どうして?」

「ルール説明の声が言ってたんでしょう? 能力はプレイヤーの望んだものを与えているって。それって、言い換えれば私たちの常識の範囲内のものに限られているってことにもならないかしら?」

「確かに……。僕がテレポートを、ハルカさんが……ええと、たぶん透視かな? その二つの能力をそれぞれ与えられた。どっちもすぐに頭に浮かぶ能力だ」

「それと、いじめっ子の性格や考え方がわかれば能力を推理するヒントにできるわ。それも合わせて考えていきましょう」


 こうしてゲーム攻略へと思案を巡らせつつ、朝食を終えた。

 そして、窓からの見張りを再開する。


 しばらくの後、正午を迎えようとしている頃。


「そろそろ戦闘開始になるね」

「ええ。きっとすぐに仕掛けてくる敵がいるはずよ」

「警戒しておいた方がよさそうだね」


 トウヤはサヨへと手を差し伸べた。


「戦闘開始と同時にここを離れよう」

「そうね。それがいいわ」


 トウヤは時計を見つめ、心の中でカウントダウンする。

 そして、正午になる瞬間、1秒の遅れもなくテレポートを発動した。


「すぐ近くだから、何か異変があれば……」


 トウヤの言葉を遮り、ドシーン! という大きな音と揺れが響いた。


「な、何だ!?」

「見て!」


 サヨが窓の外を指さす。その先では、大きな土の塊が家をペシャンコに押し潰していた。


「委員長の言った通り、開戦と同時に攻めてきた」

「ってことは……ここも危ないわ!」


 トウヤはハッと目を見開き、急いでサヨの手を取った。

 再びテレポートしたその瞬間、また大きな地響きが起きる。


「家の中にいては一方的に攻められるわ! 外に逃げましょう!」

「わかった!」


 トウヤはもう一度テレポートを使用し、外へと出た。

 そして、地面に映った不可思議な影に気づき、上空を見た。


「あれは……!?」


 トウヤの視線の先には、浮遊するレイジとテツヤの姿があった。


「どっちかの能力で飛んでるのか!?」

「トウヤ君、気をつけて! 来るわよ!」


 サヨの警告と同時に、テツヤは氷柱つららを無数に生成する。そして、レイジがそれを勢いよく飛ばした。


「うわっ!」


 トウヤは慌ててテレポートで避けた。


「く……! 氷を操る能力か?」

「トウヤ君危ない!」

「なっ!?」


 間一髪、トウヤは後方から飛んでくるガラスの破片を避けた。


「どういうことだ……? 氷を操る能力と、物を操る能力? それじゃあ、どうやって飛んで……」


 言いかけて、再び氷柱が襲ってきていることに気づき、委員長と共にテレポートで避けた。


「く……! どうすれば!」


 トウヤが苦戦に顔を歪めていたその時。


「学校に来い! そこで決着をつけてやるよ!」


 レイジが大声を響かせ、そのままテツヤと共に後退していった。


「……あいつら、何でここで仕留めようとしなかったんだ?」

「罠かもしれないわ。学校に来たところを二人で狙い撃ちにする気かもしれない」

「委員長、どうすれば……」


 トウヤは不安げな顔をサヨへと向けた。


「行きましょう。このまま放っておいても厄介だから、ここで倒しておくしかないわ」

「わかった。委員長がそう言うなら、戦おう。でも、作戦は念入りに練っておかないといけなさそうだから、一旦適当な家に入ろう」

「そうね。慎重に対策を講じる必要があるわ」


 トウヤはサヨの手を握り、テレポートを発動した。

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