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悪の華

 一方、ガラスを割った敵はトウヤたちの逃げた先へと向かっていた。


「どこへ逃げようと無駄ですことよ? あなたの居場所は、このワタクシの能力にかかれば一目瞭然ですわ」


 暗い夜闇の中、建物の死角であるにもかかわらず、彼女の目にはしっかりとその姿が映し出されている……。


「開始早々弱みを握られるだなんて不本意ですが、まあいいでしょう。トウヤ一人を殺すことなんて造作もないことですわ」


 彼女は真っ直ぐにターゲットへと向かう。その表情は慢心に満ちていた。



 ――初日、ハルカ周辺の出来事。


「以上でルール説明は終わりです」


 例の声がプレイヤーの一人へルール説明を終えた直後のこと。

 時刻は7時半。広々とした豪邸の中、青いドレスに身を包んだ一人の女子がテレビの白い画面をにらんでいた。


「お待ちなさい! 何の冗談か計りかねますが、悪趣味にも程がありますことよ! おふざけは今すぐおやめになり、ワタクシを元の世界へ戻しなさい!」


 部屋中に響き渡るその激昂げきこうに、テレビ画面はこたえる気配がなかった。


「トウヤをいじめていた人を集めて殺し合いのゲームですって? ばかばかしいことを思いつく暇人もいたものですわね」


 彼女の名はハルカ。クラスでは才色兼備のお嬢様として一目いちもく置かれているが、その実態はいじめっ子たちを影で操る外道だった。


「白状なさい! どのようにしてワタクシがいじめに加担していると突き止めたのですこと? あなたは何者ですの!?」


 なおも問い詰めるハルカ。しかし、声はもう説明を放棄している。


「大体、能力だなどと非現実的な話、誰が信用するとお思いになられて? クレイボイエンス……全てを見通す千里眼の能力とおおせになりましたわね? それがはったりであること、今ここで証明してみせますわ!」


 ハルカはそう言い放ち、念じてみた。

 その途端。


「何ということですの!? 壁が……透けて見えるなんて!」


 その目には、全プレイヤーの姿がそれぞれはっきりと映っていた。遠くにいる者の姿も……。


「ワタクシが望んだ能力……。確かにあなたの仰せの通りですわ」


 ハルカはテレビ画面を悔しそうに見つめた。


 彼女は普段、影でいじめっ子たちに悪知恵を授け、財力を武器に大人たちをコントロールしていた。しかし、いじめの表舞台まで出ることは彼女の立場が不可能としており、その様子をいつでも見られるとは限らなかった。

 ゆえに、彼女は望んだ。どこへいようとも常にその様子を眺める能力を。そして、自分が情報的優位に立てることを……。


「ですが、ワタクシは彼らを意のままに従わせることを主なスタイルとしていましたことよ? この能力があっても、殺し合いに投じられた彼らを支配することはできませんわ。その辺り、わかっていますの?」


 ハルカは主張をテレビへと投げかけるが、当然その返事はない。


「もういいですわ! そうやっていつまでも黙ってなさい! ワタクシは……ワタクシは誰の力も借りずに生き延びてみせますわ!」


 そう言ってハルカは各プレイヤーの監視を始めた。

 最初、ハルカは積極的に行動しようとは考えておらず、時が来るのを待とうとしていた。故に、各プレイヤーの能力をあぶり出すことを主眼に、日付の変わる頃まで静観していたのだが……。


「トウヤを襲え」


 不意にハルカの頭へ言葉が降りてきた。


「誰ですの!?」


 ハルカは辺りを見回したが、近くには誰の姿もない。

 すぐさま敵の能力によるものだと推測し、各プレイヤーを注視する。しかし、その素振そぶりを見せる者はいなかった。


「あなたはプレイヤーですの!? それとも、テレビから聞こえたあの声の仲間!?」

詮索せんさくは禁ずる。お前は命令に従っていればいい。日付が変わるのと同時にトウヤを襲撃しろ。お前のクレイボイエンスがあれば、夜は有利に戦うことができるだろう」


 ハルカは愕然がくぜんとした。まだ一歩も外に出ていないにもかかわらず、その声の主には自分の能力が筒抜けとなっている。


「従わなければ、お前を殺す。お前の居場所を全プレイヤーに伝え、お前の見ている視覚情報も公開する。お前の思考は全て私が見透かしている。逆らわないことだな」


 ハルカは拳を握りしめた。

 彼女の能力であるクレイボイエンスは、言ってしまえば視覚情報を得るだけのものに過ぎない。その唯一の武器である自分だけの情報を易々《やすやす》と公開されては、ハルカの優位性が何一つ残らない。

 加えて、攻撃的な能力でないと知れたら、倒しやすい敵として一斉放火を食らうこととなるだろう。

 気が進まなかろうと、その命令に従わざるを得なかった。


「悔しんでいる暇があったら早く準備しろ」

「ワタクシが言いなりになるだなんて……。この屈辱、必ず晴らしてみせますわよ!」


 そう言い放ち、ハルカは奇襲の準備を開始した。



 ――二日目深夜、トウヤ周辺の出来事。


 二階の窓際で、トウヤとサヨは戦略を練っている。


「やっぱり、何度考えても敵の能力は僕たちの位置を読み取るものとしか思えない」

「でも、もしかしたら私たちの思考を読む、なんていう能力かもしれないわ。ルール説明をした声は、プレイヤーに超能力者エスパーとなって戦ってもらうと言ってたんでしょう? 丁度、思考を盗み見る超能力の名称があるわ」

「それって……」

「そう、テレパシーよ。その能力を持つ人のことをテレパスと呼ぶらしいわ。超能力や手品では有名な能力ね。だからこそ、このゲームでも採用されててもおかしくないのよ」


 トウヤは委員長の言葉に説得力を感じていた。実際、彼は知るよしもないことではあるが、今襲ってきているハルカは誰かからの命令が脳へ直接届き、それに従って動いている。


「確かに……委員長の言う通り、そういうプレイヤーはいるかもしれない。けれど、さっきの敵はそうした能力ではないと思うんだ」

「……なぜ?」

「だって、おかしいじゃないか。もし、僕らの思考を読み取ることができるのならば、僕がテレポートを使えるってことも、戦わずに逃げるという委員長のくれた作戦もわかっていたはずじゃないか。なのに襲撃してきたとしたら、それって愚策にも程があると思う」


 トウヤの言葉を聞き届け、サヨはゆっくりと強く頷いた。


「わかったわ。ここで迎え撃ちましょう。敵が入ってきたら、すぐに明かりを点けて応戦よ」

「えっ!? 明かりを!?」


 トウヤは思わず声を大にしてしまい、慌てて口を押さえた。そして、改めて小声で話を続ける。


「どうして明かりを点けるの?」

「トウヤ君の考える通りなら、敵は暗くても戦える能力を持っているはずよ。明かりのない部屋へ堂々と入ってきたのがその証拠。だったら、明かりを点けないのは私たちが一方的に不利になるだけ」

「でもそれは他のプレイヤーにも……」

「わかってるわ」


 トウヤの言葉をさえぎり、サヨが割って入った。


「確かにこれは私たちの居場所を教えることにもなる。けれど、敵がまたガラスを割って入ってきたら、結局音で気づかれてしまう。それなら、一かばちかやってみましょう! 逃げ続けていたら偶然他のプレイヤーと出くわしてしまうかもしれないし、ここで戦うしかないのよ!」

「委員長……」

「戦って、トウヤ君!」


 トウヤはサヨの視線をまっすぐに受け止める。

 そして……。


「わかった。僕は逃げない」


 サヨの言葉に背中を押され、トウヤは戦う覚悟を決め、包丁を構えて階段の先に広がる闇を見つめた。

 その時、再びガラスの割れる音が鳴り響いた。

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