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開戦の鐘

「委員長……!? これは、ええと、その……」


 トウヤは包丁を下し、俯いた。彼は気まずさのあまり逃げ出したい衝動に駆られるが、数秒の沈黙の後に勇気を出して口を開く。


「驚かせてごめん。委員長を襲う気はないから、安心して」


 そう言ってトウヤは包丁を地面へと置いた。

 サヨもそれを見て落ち着きを取り戻し、トウヤは説明を続ける。


「信じてくれるかわからないけど、僕は殺し合いのゲームに参加しているんだ。元いた僕らの世界にそっくりだけど、ここはそのために用意された別世界らしい。委員長はどうしてここに?」

「わからないわ。いつも通りに朝起きたら、なぜか両親ともいなくて……。携帯はずっと圏外だし、何かの事件かと思ってニュースを見ようとしてもテレビは映らないし……」

「委員長はルール説明は受けていないの?」

「ルール説明……?」


 サヨはキョトンとした表情を見せた。


「やっぱり委員長はプレイヤーじゃないんだね……。僕はプレイヤーとして選ばれたから、最初にテレビ画面を通してこのゲームについての説明があったんだ。その内容は……」


 トウヤは今自分が知っていることを全てサヨへと説明した。


「そういうことだったのね……。トウヤ君、大丈夫よ。能力は何もないけれど、私はトウヤ君の味方だから」

「本当!? ありがとう! そうか……これもあの声の主が用意してくれたアドバンテージだったんだ……」

「そういえば、トウヤ君にだけ情報をくれたって言ってたわね。まだ一人しかプレイヤーが活動を開始していないって」

「きっと委員長がこっちの世界に連れてこられたのも、全員を相手としなきゃいけない僕へ用意してくれたアドバンテージなんだよ! あ……」


 言いかけてトウヤはハッとし、申し訳なさそうに俯いた。


「ごめん……。僕のせいで、こんな恐ろしい殺し合いなんかに巻き込んじゃって……」

「いいのよ。トウヤ君は悪くないわ。それよりも、これから先のことを考えましょう」

「そうだね。ひとまず場所を変えよう。こんな道端みちばただと敵に情報を与えかねないから。委員長、えっと、手を……」


 トウヤが言葉を詰まらせてるのを見て、サヨはクスっと笑いトウヤの手を取った。途端にトウヤの顔が赤くなる。


「これでいいの?」

「あ、うん……」


 トウヤは視線を落とし、握った手をじっと見つめる。そして、数秒の後に我に返りテレポートを発動した。


「……ここは?」


 サヨは部屋内を見回した。


「学校から200メートルくらい北に行った辺りの家だよ。こっち方面にも逃げ道を作っておこうと思って」


 トウヤの家は学校の南に位置している。つまり、今いる場所は学校から見て自宅と真逆だ。


「早速だけど、委員長には何か考えがあるの?」

「そうね……。できるだけ不用意な戦闘は避けた方がいいと思うわ。敵がどんな能力を持っているか、まずはそれをあばくことから始めましょう」


 サヨの発言に、トウヤはハッと息をんだ。


「そうか……。委員長の言う通り、正体のわからない敵へ闇雲に立ち向かうのは危険だ。テレポートで不意打ちをすれば上手く行くと思っていたけれど、甘く見ていたかもしれない……」

「敵に襲われた時は、無理に反撃せずに一度逃げて態勢を立て直すのがいいと思うわ。もしその不意打ち作戦が相手の能力によって筒抜けだったとしたら、それか相手の能力が守りに特化したものだったら目も当てられないことになるでしょうから」

「わかった。それじゃあ、なるべく敵に見つからないようにしばらく隠れていよう。敵が能力を使ってきたら、その効果を推測して対抗策を練る。これでいいかな?」

「ええ。そうしましょう」


 トウヤとサヨは二階のカーテン越しに外を見張り、敵が通らないか確認し続けた。途中、昼食を挟む間も監視はおこたらない。

 そして、夜の訪れにより辺りを見回しにくくなった頃。


「誰も来ないね……」

「きっと、みんな慎重に行動してるのよ。今日は戦闘禁止とはいえ、うっかりボロを出せば不利になるわ。だから、行動開始は日付が変わったタイミングからとなるはずよ」

「夜中も順番に見張った方がよさそうだね。とりあえず、もう7時だし夕ご飯にしよう」


 トウヤの提案にサヨは頷き、二人でリビングへと向かった。明かりは点けずに、なるべく目立たないように朝と昼同様サンドイッチで手早く食事を済ませる。


 そして、時間は経過してゆき、日付が変わった。

 その瞬間、バリン! という大きな音が階下で鳴り響いた。トウヤは心臓が激しく脈打ち出し、目を大きく見開いている。


「どうして……!? これじゃまるで僕たちの位置が……!」

「トウヤ君、この家から出るわよ! 考えるのはその後!」


 サヨに促されるまま、トウヤは手を繋ぎテレポートを使用した。


「……委員長、これは一体!?」


 無事に移動が済み、トウヤはサヨへと疑問を投げかける。


「まず間違いなく、私たちの居場所が割れていたわね。当てずっぽうなんかでできることじゃないわ」


 ガラスを割る音は、この静寂が広がる町内には遠くまで響く。そのリスクがある以上、敵がそこにいるという確実性がなければ起こしにくい行動である。


「私たちはあの家へテレポートで直接入ったわ。だから、玄関を通るところなんて見られていない。にもかかわらず場所を特定されたということは、きっと索敵さくてきに便利な能力を持ったプレイヤーが仕掛しかけてきたってことよ」

「それじゃあこの場所も……」

「ええ。時間の問題だと思うわ。いつまでも逃げ続けられないから、捕まるより先に能力を見抜いて対策を講じる必要があるわね」


 トウヤは必死に頭を回転させた。

 今あるヒントは、相手が自分たちの居場所を特定できたということだけである。

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