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三つ巴

「今よ、トウヤ君。屋上からカイの向かった方角を見ましょう!」

「そうか! それで心臓を隠した位置がわかるはず。きっとオサムもそこだ!」


 トウヤはサヨとミクの手を取り、学校の屋上へと移動した。

 そして、カイが向かった方を見渡すと……。


「いた! あの家の前よ!」


 ミクの指さした先で、脱落者を引き連れたオサムがカイと戦っている。トウヤたちの前に現れたのとは別の、先に心臓の護衛として向かわせていたパーツだ。


「オサムたちの能力は強いわ。なるべく不意打ちや足止めだけにして、まともな接近戦は避けましょう」

「そうだね。ミクさんの見た未来によれば、それできっと上手く行くはず……!」


 トウヤたちはオサムたちの死角へとテレポートで移動した。

 そして、少しだけ顔を出し様子を窺う。視線の先では、オサムが操る脱落者がカイの攻撃を防いでいる。


「おい! 次はどうすればいい!?」


 オサムがそう問いかけた。

 トウヤにはその相手がわからない。だが、それが単なる独り言ではないことはわかっていた。

 これまでにカオルやカイから聞いていた思考伝達の能力者の存在、そのことからも容易に想像できる。

 そして実際、それは当たっていた。


「カイが来るまでにはまだ時間があるよ。今、トウヤたちと戦っているから、しばらくはここに来られないはず。焦らずに対処しよう」


 伝達能力者はそう告げた。他のプレイヤーへ語りかける際の口調ではなく、オサムを騙すための演技をしながら。

 と、その時……。


「やあ、オサム。会いたかったよ」


 目の前にカイの残りのパーツが現れ、オサムは目を見開いた。


「話が違うじゃねえか! お前、裏切ったのか!?」


 オサムは怒りを伝達能力者へとぶつける。その顔はまるで火を噴き出しそうな程に赤くなってゆく。


「違うよ! カイが偽の情報を放ったんだ! それよりも、僕との会話内容を漏らさないように気をつけて!」

「うぐう……!」


 悔しそうなうめき声と共に、オサムは歯ぎしりした。

 その様子を見ながら、カイは乾いた笑い声を漏らす。


「その様子だと、君もあいつにもてあそばれているようだね。まったく、どこまで戦況を混乱させれば気が済むのか」

「何!? 俺は騙されてるとでも言うのか!?」


 一度抑え込もうとしたオサムの感情が溢れ出しそうになる。

 再び伝達能力者への不信を抱いたのを察知し……。


「騙そうとしているのはあいつの方だよ!」


 誤魔化そうと、不信感の矛先を相手へと向けるようそそのかす。


「これ以上カイの話をまともに聞いちゃダメだ!」

「ああもう! 考えるのも面倒だ!」


 オサムは脱落者の死体を駆使し、カイを襲わせた。

 だが、その時生じた隙を縫ってトウヤが攻撃を仕掛ける。


「ぐああ!」


 ナイフで足を刺され、痛々しい悲鳴が上がった。


「おのれ……トウヤ!」


 すぐさま反撃しようとつかみかかるオサムだが、テレポートで逃げられてしまう。

 その様子を見ていたカイは嘲笑う。


「愚かなことだ。裏切られるとも知らずに、伝達能力者を未だ仲間だと思っているだなんで。これ以上の醜態を晒させるのもかわいそうだから、すぐに楽にしてやるよ……」


 そう言うのと同時に、カイは不敵な笑みを浮かべながらナイフを腕ごと飛ばした。

 その攻撃は死体を盾にすることでかわされてしまうが、その隙を再びトウヤが突く。


「ぐああっ……!」


 背中を突き刺され、オサムはその場へ崩れ落ちた。


「抵抗するだけ無駄だ。お前は今トウヤたちにも狙われている」

「お前だって、トウヤたちから狙われているはずだろうが! 伝達能力者だって、お前のこともターゲットに含めているはずだ!」

「ごもっとも。ただし、優先度は君の方が高めだ。何しろ、僕を先に殺してしまっては、死体を操る君を強化してしまうからね」


 その会話を聞き、トウヤはハッとしてミクたちと顔を見合わせた。


「おかしい……。カイの言う通りだ。僕たちは先にオサムを殺すべきだったのに、どうしてカイを殺す予定でいたんだろう?」

「それは、この女が私たちを騙そうとしているからよ」


 今まで沈黙を貫いていたサヨが口を開いた。


「なっ!? 違うわ!」

「ならどうしてオサムに深手を負わせてカイを先に始末しようなどと提案したの? 普通なら逆でしょ?」

「それは……。その未来が見えたからよ! 私は何通りもの未来を確認したわ。けれど、どの未来でもオサムは生き残り、カイが殺されていた。だから……」


 ミクが弁明をしていたその時だった。


「聞こえるか、オサム。カイの心臓は三軒先のあの赤い屋根の家にある」


 オサムの脳へと言葉が届いた。

 それに対し、オサムは不敵な笑みを浮かべ……。


「ようやく教えてくれたか……」


 そう呟き、テツヤの死体を駆使し巨大な氷の塊を作り出し、レイジの能力によって目的の場所へと放った。

 その瞬間、カイは左胸を押さえながらその場へ倒れ込んだ。


「そんなはずが……! どうして、僕を先に……!」


 消え入りそうな声が空気と共に口元から流れ出る。

 そして、それは清々《すがすが》しい程のあきらめの嘲笑ちょうしょうへとかすれながら昇華していった。


「皮肉なものだ……。必死に胸を押さえても、あるはずの命がここにない。これが僕の末路か。僕は人として死ぬことすらできない……」


 それを最後の言葉とし、息を引き取った。


「チャンスよ、トウヤ君!」


 ミクがトウヤへと耳打ちし、瞬時にオサムの背後へと転移した。

 だが……。


「甘いんだよ!」


 オサムは死体でガードし、レイジの能力でナイフを飛ばして反撃した。

 対するトウヤもテレポートで無事に避ける。


「弱ってるところを狙うことしかできない卑怯者め……! 傷が治ってから万全の状態で叩き潰してやるから覚悟しとけ!」


 そう言いながらレイジとテツヤの能力でトウヤを足止めしつつ、残りの死体に自身を運ばせ始めた。


「待て!」


 トウヤはオサムの逃げた先へとテレポートを使って追いかけようとしたが……。


「きゃあっ!」

「委員長! ミクさん!」


 飛んできたガラスの破片と炎が背後の二人へと当たりそうになったのを見て、撤退を優先した。二人の手を取りテレポートで移動した先は、ミクと会った屋内だ。


「二人とも大丈夫!?」

「ええ、大丈夫」


 ミクが答え、サヨは窓の外を確認している。


「あ……。どうしよう、オサムを見失っちゃった」


 二人に怪我がなくて安心したトウヤは、危険な敵を野放しにしてしまったことに気づき、俯く。


「大丈夫よ、トウヤ君は私たちを助けようとしてくれたんでしょう? ありがとう。でも、サヨのことはともかく、私のことは見捨ててくれて構わないわ」

「そんな……!」

「いいの。私はあなたの敵としてこのゲームに参加しているんだもの……」


 重々しい空気が流れたその時。


「そうよ、トウヤ君。そいつは敵なのよ?」


 何の躊躇ちゅうちょもなく、サヨがそう言い放った。


「ミクさんは僕らを助けてくれたんだよ? そんな言い方は酷いよ!」

「助けるふりをして隙を狙っているかもしれないわ。そいつを信じちゃダメよ、トウヤ君」

「そんな……」


 トウヤが悲しげに見つめる先で、サヨは何の悪びれもない表情を向けていた。

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