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探索

 ――初日、トウヤ周辺の出来事。


 恐る恐る玄関のドアを開けたトウヤは、すぐさま周囲の様子を確認する。しかし、彼の目に映る人影はなかった。

 既にもう一人のプレイヤーがルールを把握し、このゲームへと乗り込んでいる。そのことがトウヤにとっては衝撃的であり、より慎重な行動を彼へと強要していたのだ。


 そもそも、普段この時間には彼以外登校していない。まだ7時にもなっていないこんな朝早くに彼が登校する理由はただ一つ。いじめっ子に迎えに来られるのを避けるためだ。

 頼みの綱であるサヨは朝忙しく、とてもじゃないが迎えになど来てもらえない。ならば、サヨの家まで行けばいいかというと、トウヤは彼女の家を知らないのでそれも無理。

 だからこそ、こうして毎朝必死に早起きして誰よりも早く広い校舎内へと逃げ込んでいたのだ。

 いじめっ子たちもそうと知ると、そのほとんどが元の遅刻魔へと戻っていった。彼らが登校するのは早くてホームルーム終了後だ。


 にもかかわらず、既に起きてゲームへと参加しているプレイヤーが1名いる。その得体の知れない敵を警戒しながら、トウヤは物陰に隠れながら移動していた。

 その手には支給された包丁が握られている。本当ならば、それは持たない方が望ましい。なぜなら、戦闘可能となるのはルール説明であった通り明日以降だからである。万が一にも違反しないように、ここは刃物を持たないのが正しい。奪われる心配から持ち歩いたとしても、き出しのまま、しかもそれを構えるなどもってのほかだ。

 しかし、トウヤは襲い来る恐怖心に打ち勝てず、冷静さを失っていた。だから、そのようなことを考える余裕など彼にはなかったのだ。

 今日はまだ襲われる心配がないことなどすっかり忘れきっており、頭の中は自分が殺されるイメージでいっぱいなのである。だからこそ、こうしてルール違反の恐れがあるとも気づかず、臨戦態勢を取っているのだ。


 トウヤはそのまま近所の家へと迅速じんそくに向かい、庭へと回った。そして、窓からこっそりと中をうかがう。がらんとしたリビングがそこには広がっており、人のいた痕跡こんせきはない。

 こうしている間も、トウヤは心臓が破裂する思いだった。先程の不安と相まって、新たな感情が沸き起こってきたからだ。それは、自分が強盗紛ごうとうまがいのことをしているという罪悪感。もし、これが全てうそで、新手のドッキリか何かであれば、自分はとんでもないことをしているという恐怖。


 トウヤは耐えかねて能力の検証をした。これがもしうそならば、テレポートなど使えるわけがない。それを確かめるために、トウヤは自宅を思い浮かべて念じた。

 結果、トウヤは瞬く間に自宅のリビングへと戻った。テレビは相変わらず白い画面に延々と青い文字が流れている。電源を押しても、それは変わらなかった。


 認めるしかなかった。

 これは全て現実だと。


 だが、トウヤも薄々わかっていた。これは、他の家へ侵入する前のほんの儀式に過ぎず、今こうして自分の置かれている立場を現実として受け入れ、なかばあきらめていた。


 トウヤは決心し、先程の庭へと再びテレポートで戻った。そして、侵入の方法を考える。

 窓から見える範囲だけを頼りに部屋へテレポートしようと試みたが、360度見渡せたわけでもないその狭い視界だけでは発動不可能だった。

 かと言って窓を割って入るのは、破片が飛び散り危険かもしれない。それに、音で他のプレイヤーに気づかれる心配だってある。まだ準備期間なので襲われる心配はないといえども、手の内を明かさないに越したことはない。

 いや、トウヤ自身は冷静さを失っているので、襲われる心配がないことすら忘れたままである。その抱えたままの不安は、ガラスを割っての侵入をより一層選択肢から遠のかせた。


 どうしたものかと考えている内に、ある考えが頭をよぎった。思い出したのだ、テレポートの能力説明の時、例の声は触れているものも移動可能と言っていたのを。

 トウヤはそれに気づくや否や窓ガラスへと触れた。そして、それは念じるとすぐそばに横たわった。


 その窓ガラスを見つめながら、自分の手にした能力の用途が広いことを知り、トウヤは少し自信を得た。

 しかし、それはすぐさま払拭され、新たな不安となって襲いかかる。他のプレイヤーも能力を自在に駆使してあの手この手を使ってくるはずであり、それは間違いなくこのゲームの鍵を握っている。


 トウヤは自分に与えられた能力の可能性を改めて考え直しつつ、リビングへと侵入した。

 テレポートでいつでもここへ来られるように、部屋の景色を頭に入れる。そして、何か残っていないか一つ一つ確かめてゆく。包丁やナイフなどは跡形あとかたもなく消え去っていたが、冷蔵庫の中には様々な食材が入っている。


 トウヤはここで、ルール説明で言っていた意味を理解した。

 例の声は、包丁やナイフを支給した家を各プレイヤーの家と述べていた。それに対し、食料の支給は全ての家へと行うと述べていた。

 それはつまり、全ての家というのは各プレイヤーの家だけではなく、無人の家も含むということを意味している。


 ルール説明には、こうした読み落としも存在し得る。そのことに気づけただけでもトウヤはまた一歩リードした。それを意識しつつ、トウヤは目の前のハムとレタス、それからチーズとパンを取り出した。

 それらでサンドイッチを作り、食しながら今後の作戦を練る。


 家へ閉じこもっていれば安全などという幻想はここで綺麗さっぱり捨て去らねばならない。他のプレイヤーも自身の能力を上手く使って侵入してくる恐れがあるからだ。


 それに加え、トウヤも敵に対抗するため、能力を使いこなせるようにしておく必要がある。

 食事を終えたトウヤは気を引きしめ直し行動を再開した。他の家や行ったことのない道も歩き回り、その景色を頭に入れてゆく。

 そして、再び別方面を探索すべく、通路の拠点となる学校へ向かおうとテレポートを試みた。

 その時。


「トウヤ君?」

「わっ!」


 咄嗟とっさに話しかけられ、トウヤは飛び上がった。そして、振り向くのと同時に包丁を両手で持ち、構える。

 だが、次の瞬間トウヤの目に映ったのは、驚くサヨの姿だった。

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