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相反するミッション

「そんな! どうしよう……まだ対策も立てていないのに!」


 ミクの警告にトウヤは慌て出した。

 だが……。


「大丈夫よ」


 それに対し落ち着いた様子でミクは応じる。


「私たちの勝つ未来はあるわ。ただし、そのためには二つの条件がある。一つはオサムの援護をすること。そして、もう一つはオサムをできるだけ消耗しょうもうさせること」

「ちょっと待ってよ!」


 間髪入れずにトウヤが反論した。


「オサムを助けつつ妨害するだなんて、そんなの矛盾した内容じゃないか!」

「けれど、オサムに心臓を探させる以外にカイを倒すまともな手段はないし、オサムに楽をさせてもダメなのよ。もしそんなことになったら、オサムはすぐさま町ごと破壊し尽くすわ。今そうしてこないのは、カイが歯止めになっているからよ」


 ミクの言う通りだった。

 仮にオサムが全面戦争を仕掛けたのなら、それは自分の居場所を悟らせることにもなる。

 脱落者を操れるとはいえオサム自身は生身の人間であり、その策に打って出るには自らは避難しておく必要がある。つまりは、襲撃を行わない箇所に自分がいると言っているようなものだ。

 その際にカイの存在が牽制けんせいとなる。彼ならば心臓を破壊されるその前にオサムとの決着を狙うことが充分に可能であり、なおかつ、心臓をあえてオサムのいる本拠地へ持ち込み、隠してしまうことも可能だ。

 いずれにせよ、オサムにとってはリスクの高い戦法なので、今現状はその心配はほぼない。


 だが、カイを楽に倒せた途端、その均衡きんこうは崩れてしまう。

 トウヤたちが勝ち残るには、一見相反するように見えるそのミッションを両立させる必要がある。


「カイが来たら、テレポートを使ってできるだけ近くへ移動し続けて。勘ぐられないように、下手に攻めずに一定の距離を保つの。その間にオサムが優位に立てるはずよ」

「でも、それじゃあオサムが……」

「大丈夫。カイは自分の心臓を監視しているから、オサムとの戦闘が始まったら反応でわかるわ。そこでオサムを攻撃しに向かうのよ」

「ええ!? 僕たちが!?」

「カイだけでは大人数を相手にまともに戦えないわ。私たちも行かないと……」


 当初の予定と違い二人の戦いに割って入ることとなり、不安を顔に浮かべるトウヤ。

 だが……。


「心配ないわ。この作戦は成功率が高いから」

「成功率……?」

「そう。私は予知夢で未来を何パターンも確認した。分岐点があまりに多すぎて、明日までしかまだ見ていないけれど……。でも大丈夫! 今回の作戦では、トウヤ君さえしっかり戦うことができれば、後は流れるように上手く行くから」

「それってつまり……」

「そうよ。トウヤ君には、今まで通りに切り抜けてもらう必要がある」


 成功率というのは、飽くまでカイの攻撃をしのいだ先の話であった。


「正直に言うと、トウヤ君がここで殺されてしまう未来も存在するわ。それも、僅かな可能性ではなく普通にあり得る未来として……。でも、ここさえ何とかなれば後は心配ないの。私の確認した限りでは、オサムへの妨害は失敗の未来が存在しなかった。なぜだかわからないけれど……」


 トウヤは俯き、ナイフを持つ手を震わせた。

 今まで何とかして意識の外に追いやっていた現実。これまでにも同様に、自分が殺されるケースが存在し得たという事実。それを突き付けられたからだ。

 だが、トウヤは左手で震えを抑えつつ、顔を上げた。


「難しいことは考えずに、ミクさんの作戦通りに動けばいいんだよね? オサムたちへ仕掛けるタイミングはわかるし、その後はほぼ確実に成功するってことだよね?」


 声を震わせながらのその問いに、ミクは力強く頷いた。


「ならば……今まで通りじゃないか。何も怖いことはない」


 その言葉とは裏腹に、声は掠れ、頬には涙が伝わった。

 と、その時。


「来たわよ!」


 ミクが顔を向けた先、ドアの隙間から散り散りになったカイが侵入してきた。


「おやおや、卑怯者はどこまで卑怯なのか。カモフラージュのつもりかね?」


 姿はまだ形成されてないにもかかわらず、声が部屋へと響く。

 そのカモフラージュという言葉に、作戦がバレてしまったのかとトウヤは冷や汗を流した。心臓が早鐘を打つ中、必死に平静を装うとする。

 だが、次にカイが発した言葉はトウヤの予想にないものだった。


「まあいい。もし仮に正体を見誤っていたとしても、全員まとめて殺してしまえば問題なかろう」

「何!? それはどういう……」


 トウヤがそう言いかけたのを遮り、カイは分離させた爪を三人の喉元のどもとへと向かって放った。

 一瞬だけ反応が遅れたトウヤだったが、二人の手を取り外へと移動する。

 そして……。


「出てこい、カイ!」


 トウヤは部屋の中まで届く大声で呼びかけた。

 その数秒後、ゆっくりと窓の隙間からカイが現れ、不敵な笑みを浮かべる。

 しかし、トウヤはおくせずに睨みつけ……。


「今の言葉はどういう意味だ!?」


 みつく程の勢いでそう問いかけた。


「はて? 何のことかな?」

「とぼけるな! 本当は誰か1人を狙いに来たんだろう?」

「だとしたら何だと言うつもりだい? これから殺される人には関係のないことだよ」

随分ずいぶんな自信だな。それなら教えてくれてもいいじゃないか! お前は何を知っている? 誰を狙いに来た!?」


 トウヤは怒っているかのように無理して振舞ふるまってはいるが、実際のところは単なる時間稼ぎでしかなかった。

 だが、それはたった今この瞬間までの話であり、直後にその事情は急変する。


「へえ……。そんなに知りたい? なら、教えてあげるのも悪くないかな」


 そう言った後、カイは悪意のこもった笑みと共に……。


「委員長のサヨだよ。そいつはおそらく裏でプレイヤーを操っている。テレパシー能力で思考を伝えたり読み取ることによってね。それが僕にとってこれ以上なく迷惑でねえ……。今すぐにでも殺しておかないと、後々面倒なことになりかねないんだ」


 その凍りつくような言葉を放った。


「委員長が……? そんなわけあるか! いくらなんでもこんなうそに騙されないからな!」


 その声は震えていた。

 先程までの怒りの演技とは違い、むしろそんなことすらも忘れ、感情をき出しにしながら否定している。


「まあ、君の言う通り僕の憶測が間違っている可能性もある。だからこそ、そこにいるミクも殺しておこうと思ったわけさ」


 トウヤは咄嗟にミクへと振り向いた。

 彼女は各プレイヤーの思考を読み取り、それを予言と称して自分たちを騙しているのではないかと。

 実際、それなら予言が当たったことの辻褄つじつまも合う。


「さて、それじゃあさくっと殺して……」


 そう言いかけたカイの表情が変わり、溜息を吐いた。


「やってくれたね。こうなることがわかってたから、さっさと始末しておきたかったんだ。まあ、こうなった以上仕方ない」


 そう言い残し、ばらばらになってその場から去っていった。

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