転戦
「思った通りだ……」
カイは乾いた笑い声を上げる。
開かれた複数のドアの先、そのいずれにも人の姿はなかった。
「さて、答えてもらおうか? この有様は一体何かな?」
数秒待つも、返事はない。
「この期に及んで聞こえないふりか? お前が無関係だとは言わせないよ」
「……はて? 何のことやら」
ようやく伝達能力者は言葉を返した。
「とぼけるな。このマンションを離れる理由など、他に考えられるものか。これ程隠れるのに適した場所はないのだから。お前が何か仕組んだとしか思えない」
カイは飽くまで冷静に、静かな口調で問い詰める。
だが……。
「仮にそうだとしたら、一体何だと言うのだ? 私とお前は敵同士なのだから、当たり前のことだろう」
伝達能力者は悪びれもせずにそう答えた。
「横槍を入れないという約束はどこへ行ったのかな?」
「愚かしい。たった今、私とお前が敵同士と言ったばかりであろう。その意味を正確に汲み取る力さえないのか?」
「言ってくれるね。もっともらしく理由を語ってはいるが、お前は生まれながらにしてのうそつきだろう? 息を吐くのと同じように人を欺いているだけじゃないか。そこに、敵味方などという前提は必要ない。違うか?」
「ならばなおのこと、私の言葉を信用すべきではなかったな」
カイは溜息を吐き、やれやれと両の手を肩の位置まで上げた。
「確かにごもっともだ。それで、先程の轟音は何かな? まさかと思うが、アキラを倒してしまったのかね?」
「その問いに答える義務はないが、まあいい。アキラはトウヤによって殺された」
「それもお前がそうさせたのか?」
「いや? そのことに関しては私は一切関与していない」
「それすら本当かどうか怪しいものだ」
そう言った後、カイは鼻で笑った。
「聞くだけ無駄だったようだ。失礼させてもらうよ」
「自分から声をかけておいて、用が済んだら一方的にコンタクトを切るのか」
「お前がまともに取り合ってくれそうにないからだ。それと、もう既に思考を読み取っているかもしれないが……」
カイは一呼吸置き、不敵な笑みを漏らした。
「はっきりと宣言しておこう。オサムよりも先にお前を殺す。今から私のターゲットはお前だ」
「いいのか? 私を殺せばオサムの戦力がまた増えるぞ?」
「邪魔なのだよ」
伝達能力者の言葉に被せ、カイはそう言い切った。
「私がオサムを殺しに行く度に情報を漏らされては迷惑だ。いっそのこと、オサムの駒にしてしまった方がましなくらい、お前が生身の人間として存在していることの方が煩わしい」
「そうか……。できるものならやってみるがいい」
その言葉と同時に、二人はそれぞれの行動を開始した。
カイは何者にも邪魔されぬよう、その身をバラバラに崩した後にターゲットを探しに向かう。
そして、伝達能力者はオサムや他のプレイヤーへカイの弱みを晒してゆく。
一方のトウヤは……。
「カイが動いた! 一度逃げよう!」
突然の事態に、サヨの手を取り脱出を計った。
その移動先、空き家だと思っていた屋内で……。
「なっ!? 読まれた!?」
背の高い短髪の女子、ミクが待っていた。
咄嗟にトウヤはナイフを構える。
「落ち着いて。私はあなたたちと争う気はないわ」
「……本当?」
トウヤはその言葉に、ナイフを下しかける。
だが……。
「ダメよ! 私たちを騙そうとしているかもしれないわ! そもそも、このゲームの参加者は全員トウヤ君をいじめていた人たちなのよ!?」
サヨの言葉により、緊張が戻った。
「それに関しては謝るわ、ごめんなさい。けれど、私はずっと後悔してた。脅しになんて屈せずに、しっかりと自分の意志を保てばよかった」
表情に影を落としたミクを見て、トウヤの頭には疑問が沸いて出た。
「ミクさんは、どんな脅しを受けて僕にどんなことをしたの? 言いたくないかもしれないけど、よかったら教えてほしい」
「……全部話すわ。オサムから、言うことを聞かなければ今以上に孤立させると言われたの」
「今以上に?」
「そう。私はいじめられていたカオルを助けたことで、新たなターゲットとされた。そして、これ以上いじめられたくなかったらと言って、オサムは次々に条件を突き付けてきたのよ。初めは断っていたのだけれど、段々と彼らも痺れを切らしたようで私へのいじめはエスカレートしていった。だから、条件の引き下げが目の前でちらついた瞬間、思わず飛びついてしまった……」
そう言ってミクは土下座をした。
「本当にごめんなさい!」
「そんな! そこまでしなくていいから、何をしたのかだけ教えてよ。それだけでいいから」
「私のしたことは二つ。一つは、大人や外部への印象操作。いじめなんて起きてないかのように思わせるよう、そう言って回るように言われたから。もう一つは、いじめの傍観。今後、誰がいじめられていようと見て見ぬふりをするようにって……」
「たったそれだけ?」
「そう、私も思った。些細なことだから、いじめの内に入らないって言い聞かせてきた。でも、こういうのは程度の問題じゃないの。誰かが困ったり嫌がったりすることを助長させるなんて、許されることじゃない!」
ミクは涙を頬に伝わらせた。
「私は、今回のデスゲームに参加させられたのは自業自得だと思っているわ。だったらせめて、できる限り罪を償いたい。だから、アキラのことをトウヤ君に教えたのよ」
「……そっか。ありがとう」
「いいえ、こんなんじゃまだ全然足りてないわ」
「違うよ。僕は正直に話してもらえたことがうれしかった。ミクさんは正義感が強い人に見えたから、不思議に思ったんだ。思った通り、大したことはされてなかったしね」
そう言って微笑んだトウヤに対し、サヨは厳しい表情を向けた。
「許さなくていいわよ! 程度の問題じゃないって本人も言っているんだし、それに全然些細なことじゃないわ!」
「それでも構わないよ、委員長。僕は誰も恨んでなんかいない。復讐なんて望んでないんだから」
そう宥められ、サヨは頬を膨らませながらも妥協した。
「納得いかないなら、私のことは殺してくれればいいわ。でも、今だけは時間がないの。もうすぐカイが攻めてくるわ!」
そう言ってミクもナイフを構えた。




