混戦
その頃、トウヤたちは……。
「委員長、あれを見て!」
トウヤが窓の外を指さした丁度その時、死んだはずのカオルが黒い鳥へと姿を変えたところだった。そしてそのまま、サヨが視線を向けると同時に飛び立った。
「カオルさんは確かに死んだはず。なのにどうして……?」
「能力者の仕業に違いないわ。どうする?」
サヨの問いかけにトウヤは思い悩む。
「どこかで激しい戦闘が繰り広げられているなら、もしくはこれから起こるなら不用意に近づかない方がいいかな?」
「でも、情報の上で不利となるかもしれないわ。それに、死体を操れる能力者が動いているとしたら、野放しにしてもいられないわよ」
「確かに……。プレイヤーが死ぬ度に強化されるような能力なら、これ以上後回しにすると手遅れになるかもしれない」
トウヤは大きく頷き、そして……。
「行こう、委員長。ただ待っていても始まらない。だけど、あまり深追いはせず、危なくなったらすぐ戻ろうと思う」
決心の表情をサヨへと向けた。
「そうね。きっと他のプレイヤーも倒しに向かうと思うから、なるべく同士討ちさせるよう狙った方がいいわ。チャンスがあったら、厄介なプレイヤーをまとめて仕留める。でも、基本は様子見としましょう」
「わかった。それじゃあ、とりあえず学校の屋上から偵察してみよう。誰かと既に戦っているかもしれない」
サヨは頷き、手を差し伸べる。トウヤはその手を取り、テレポートを発動した。
「……さて、どんな戦況かな?」
トウヤとサヨは辺りを見回した。プレイヤー以外に動くものがないため、すぐさまその位置に気づく。
「何だあれ!? 足と片腕がない人間がマンションを彷徨いている」
「あの長い髪は、きっとカイね。こっちにはタイチがいるわ!」
サヨの指さした先は公園。そこでタイチとドッペルゲンガーは木々などを調べ回っていた。
「何かを探しているみたいだね……」
「武器かしら? ランダムな位置に現れるって言っていたから」
「それならマンションや学校を探索すべきだと思う」
凶器が配置される場所は道端より室内が多いはずという前提に立ち、トウヤはより深く思考を巡らす。
「体の一部がなくなっているカイと、何かを探す死体……。もしかして!」
「何かわかったの?」
「憶測だけど、カイは体を分離させることが可能なんじゃないかな? 人体切断マジックみたいに。だとしたら、心臓や脳みたいな急所をどこかに隠そうと考えつく。きっと、誰かが死体を操ってそれを探し回っているんだよ!」
「その話がもし本当なら、カイと直接戦闘しても殺せないはず。どうするの?」
「死体を操る敵と、不死身の敵。どっちも厄介そうだし、できればここで二人まとめて倒したい。けど……」
「どちらも一筋縄じゃ行かなそうね」
「委員長がさっき言ったように、同士討ちさせて弱ったところを狙うべきか」
「……そうね」
サヨの返答には一瞬の間があった。そして、複雑な表情を浮かべている。
「ごめん、委員長。こんな卑怯な考え、聞いていて嫌だよね」
「えっ……? あ、違うの!」
サヨは慌てて作り笑いをした。
「手強そうな相手だったから、それで上手く行くのか不安に思っただけ。卑怯だなんて思ってないわよ。相手だってどんな手を使ってくるかわからないんだから、私たちも可能な限り策を練りましょう」
「そうか……。確かに甘かったかもしれない。カイは頭がいいから、そんな簡単に倒せるわけがない。きっと、他のプレイヤーが参戦してくることも予測済みだろうし……」
言いかけてトウヤはハッと目を見開いた。
「まずい、委員長……。バレた」
トウヤの視線の先で、カイが薄ら笑いを浮かべていた。
「おやおや、あんなに慌てちゃって」
マンションから屋上へと視線を向けながら、カイが呟いた。
「もし、私たちの戦いに横槍を入れる者がいるとしたなら、まずは学校の屋上からでも様子を探ると予想した。そして、どうやらそれは当たりらしい。これもお前の差し金かな?」
カイは、例の伝達能力者へと問いかけるが、返事はない。
「無視か、それとも今は私の心を読もうとしていないか。まあいい」
そう言ってカイは腕を切り離し、トウヤたちの方へと向かわせた。
トウヤもそれに気づき、テレポートでその場から消え去る。
「一度撤退したか。どうやらこの戦い、余計にややこしくなったみたいだね。なあ? 君もそう思うだろう? そこにいるであろうアキラ」
カイは横へと流し目を送った。
「黙っていても無駄だよ。もうそこにいるとわかっている。私がさっき腕を飛ばした際に、君はうっかり飛び退いてしまった。それにより生じた音を、私は聞き逃さない」
アキラは冷や汗を流しつつ、後退った。
「逃げるな」
その言葉にアキラは飛び上がりそうになり、体を震わせた。
「……などと言うと思ったか? 逃げたければ逃げればいい。ただし、次にこの戦いを邪魔した時は、このように首と胴体を切り離す」
言いながらカイは首から上をアキラの方へと飛ばした。
「うわあああああ!」
アキラは絶叫と共に一目散に逃げ帰った。
その様子を見てカイは声を上げて笑う。
「実に愉快な奴だ。ちょっとからかってやっただけなのだがね。それに、奴はまだ利用できるかもしれないから、殺そうとも思っていないというのに」
一頻り笑い終えたカイは、マンションの探索を再開した。
その頃、マンションから南西に1キロも離れた空き家で……。
「危ねえ危ねえ。お前が情報をリークしてくれてなきゃ、今頃俺は死んでいたかもしれねえな!」
部屋には一人、オサムのみが座っている。だが、それは独り言などではなかった。
「そ、それなら約束通り、僕を助けてくれる?」
「ああ、いいぜ。もう一度確認するけどよお、本当にお前は言葉の伝達しかできねえんだな?」
「そうだよ。それに、思考を読めたりするわけじゃない。声に出してもらうか、紙か何かに書いてもらったものしかわからないんだ」
「そうか、ならいい。じゃあ早速お前を助けに向かうから、位置を教えろ」
そう問いかけながら、オサムはその能力者を殺すつもりでいた。
だが、当然それは能力者へと筒抜けである。口調と態度を変え、なおかつ能力を偽ってはいるが、その正体は例の伝達能力者なのだから……。
「ごめん! 敵が来る! 場所を変えないといけないから、また連絡するよ」
「お、おう! 何とか生き延びろよ?」
「うん、ありがとう。それじゃ」
そう誤魔化して、能力者はほくそ笑んだ。




