動き出す者たち
一方、その様子を見ていたカイは……。
「これがお前の言っていた私に見せたいものか」
溜息を吐いた後、能力者へと話しかけた。
「何か不満でも?」
「ああ、大ありだとも。こんな惨劇見せつけようだなんて、悪趣味にも程がある」
「だが、そんなお前もいじめっ子であることには違いない。お前には、人の趣味をとやかく言う資格がないのだ」
「随分な言われようだね。仕方がないじゃないか、オサムに脅されたんだから。それに対して私は賢い選択をしたまでで、それこそお前にとやかく言われる筋合いはない」
カイは両の手を肩の横まであげ、やれやれとせせら笑った。
「お前は微塵も反省をしていないようだな」
「当然じゃないか。私は極めて合理的な判断をしたに過ぎない。もし次に同じ選択肢を与えられても、私は誰かを犠牲にしてでも逃げ延びるよ」
「そうか……。まあ、私も否定する気はない」
「そりゃあそうだろうとも。だってあんたは、裏でいつも笑って見てた一番の屑だもの。あんたは俺と違って、トウヤをいじめなければならない理由なんかない。なのにいじめた。それはなぜか?」
能力者は黙り込んだ。
「察するに、お前はいじめを楽しんでいる。いや、それだけならまだ救いようがあるか……。お前はトウヤをいじめるという行為に依存している。いや、トウヤをいじめているという状況下の自分へ依存している」
「……さあて、どうだろうな」
「誤魔化しても無駄だ。あんたの行動には奇妙な点が多い。異常なんだよ、あんたの動きは」
能力者は閉口した。
「まあ、だからと言って私にはこれ以上追及するつもりはない。ただ、お前だって私を咎める身分じゃないってことだ」
「元よりそのつもりはない」
「ならいい。さて、それじゃあ私もそろそろ行動開始といきますかね」
「オサムは厄介な能力を持っているぞ? 本当に行くのか?」
「ああ。その厄介な敵をこれ以上野放しにできないのでね」
「そうか。なら健闘を祈る」
「邪魔さえしなければそれでいい。もし何か企むようなら……わかっているな?」
「心配せずとも、大人しく見守ってやるつもりだ。面白い試合を期待しているよ」
「私は生憎だが悪趣味ではないのでね、それに応えるのは無理そうだ」
カイはせせら笑いつつ立ち上がる。
そして、拠点としていた空き家を出たその時。
「っ!?」
その左胸へナイフが突き立てられた。しかも、そのナイフを含め敵の姿は一切見えない。
カイは驚愕のあまり目を見開くが、数秒の後に口元を歪ませた。
そして……。
「随分なご挨拶じゃないか」
その見えない腕を瞬時につかんだ。
「押し出されるような感覚があったから、ナイフだけでなくプレイヤーもここに存在していると思ったんだ。それに、物体を操る能力はレイジが使っていたのを見たからね。消去法でもすぐに答えに辿り着ける」
「……何でだ? 何で平気でいられる!?」
「その声はアキラか。どうやらお前は透明人間になったようだね」
「質問に答えろ!」
「おやおや、自分の立場がわかっていないようだ……」
カイはアキラの腕ごとナイフを引き抜く。
「血がついていない!?」
「ああ、そうだとも」
「確かに深く刺したはずなのに……。お前の能力によるものだな!?」
「ご名答。私は不死の能力者に選ばれてね。能力名はイモータルだ」
「そんなバカな!?」
アキラは思わず叫んだ。
「いくら何でもそこまで強すぎる能力、あるはずがない! そもそも、それじゃあゲームにならないだろうが!」
「ゲームにする必要がないのだよ。お前らは黙って私に殺されればいい」
「うそだ……。もし……本当にもしもだ、仮に百歩譲ってお前が不死の能力者だとしても、必ず制限があるはずだ!」
「なら逆に、もしも何らかの条件があったとしても、クリア済みだったとしたなら?」
「あり得ない……。そんなことっ!」
「だが、現実に今、私は心臓を刺されても平気でいる。それどころか血一滴流してすらいない。これがその証明だよ」
カイはアキラの握るナイフを彼の顔へと押しつけようとした。
だが……。
「う、うわああ!」
手を振り解かれ、そのまま逃げられてしまった。
カイはやれやれと両の手を肩まで上げる。
「殺し損ねたようだな」
能力者がカイの脳内へ話しかける。
「仕方ない。心理戦では勝てても、腕力は向こうが上だからね」
「それにしても、不死の能力イモータルとは……。質の悪い冗談だ」
「だが、全て見通せるお前と違い、あいつは他のプレイヤーの能力に怯えている。半信半疑だとしても、僅かでも可能性があれば途端に恐怖が心を埋め尽くす。目の前にいる相手が不死身だと考えたら、一目散に逃げるのも頷ける」
「実際には、そんなことあり得ないのだがな」
「まあ、そう言うな。バレにくいというのはこの能力の長所でもあるのだから。レイジやテツヤのように大胆に暴れ回ることができない分、どんな能力なのか判別するのは容易でない。使い勝手や用途も申し分なく、私は満足しているよ」
「それはよかったな。だが忘れるな。お前の弱点の在処は常に私が把握している」
「だが、お前は接近戦で私に勝ち目がない。つまるところ、お互いの目論見のどちらが上手くいくか、最初から勝負はその一点に委ねられている」
能力者とカイは、まるで火花が散るような視線を交わすごとく、前方を睨んだ。そこに実際に相手はいなくとも、実際に視線は交わしていなくとも……。
「まあいい。せいぜい今の内に楽しむがいい」
「ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えてオサムを殺させてもらうとするよ」
カイはナイフを構えつつ、ゆっくりと歩み出した。その様子は、まるで散歩でもするかのように爽やかだった。
カイの能力のヒントは既に出ています。
予想してみてください。




