弱点
「あなたたちを全員殺せば、私は無事に帰れるの……。だから、殺さないといけないの……」
カオルは相も変わらず譫言のように呟き続ける。誰に言うでもなく、ただ壊れた機械のように……。
対するトウヤも何も言い返さず、ただただ強く頷くばかり。
「私は何も悪くない。悪いのは私をいじめたオサムたち。私にミクを裏切らせたのも、トウヤをいじめるよう命令したのもオサムたち……」
なおもカオルは抑揚のない声を漏らす。
そして、不意に銃口をトウヤへ向けた。
「私は悪くない!」
叫び声と共に銃声が鳴り響いた。
それに合わせトウヤも再びテレポートで避け、反撃を試みる。だが、やはりカオルにはナイフの斬撃が通用しない。
「いくらやっても無駄よ。体を金属に変えれば、あなたの不意打ちは怖くない。あの人が言っていた通りだわ」
「あの人……?」
トウヤはその言葉に引っかかりを感じた。
「それは一体誰のこと?」
「そんなの知らない……。知っていたら真っ先に殺しているわよ」
「どういうことだ……? その人とカオルさんは仲間じゃないの?」
「仲間なわけないでしょう!? 向こうが一方的に脅してくるだけよ! レイジを殺せ、トウヤを殺せって!」
その時、カオルの脳内へ能力者が語りかけた。
「それ以上言うな。私の存在を口走るのであれば、お前から先に……」
「うるさい!」
その言葉を遮り、カオルは耳を塞ぎながら叫んだ。それはもはや金切り声と化している。
「殺したければ殺せばいいでしょ!? これ以上私に話しかけないでよ!」
トウヤは目を見開いた。彼にとっては突然の出来事に映ったからだ。
「カオルさん……?」
「もう嫌……! 耐えられない!」
襲撃前、意を決した際に押し殺した感情は、一気に溢れ出し行き場を失った。結果、それはカオルの精神を完全に崩壊させる。
「そうよ……殺せるものなら殺してみなさいよ! あなたにだってトウヤにだって、この鉄壁の守りを突き崩す手段はないわ! テレポートなんて所詮は不意打ちにしか使えないし、あなたなんかもっと無力よ! こうして私に話しかけることと、思考を覗き見ることしかできないくせに!」
その言動からトウヤは理解した。今まさにカオルは能力者と話しているという事実に気づいたのだ。
「そっか……。カオルさんも苦しかったんだね。僕は、そんなことも知らずにただ自分が逃げることしか考えてなかった。ごめん」
「だから何だって言うのよ……? 殺される覚悟ができたとでも言いたいの!?」
「いや、それはやっぱり無理だ。けど、僕はこの場から逃げずに向き合うよ」
トウヤがまっすぐに視線を向けると、カオルは手を震わせた。
「知らない……。そんなの……私に関係ない!」
再びカオルは発砲し、トウヤは避けつつ背後へ回る。ここまでは同じだった。
だが……。
「え……? 何!?」
一瞬の後、カオルは空中にいた。
トウヤは先程カオルの背後へ回った際、ナイフによる攻撃を行わなかった。代わりにテレポートを使用し、カオルを上空へと転移させたのだ。
いくら体を金属にしていて守りに特化していると言っても、落下の衝撃は避けられない。
「キャアア!」
悲鳴を上げながら落ちてゆくカオル。だが、寸前で冷静さを取り戻し、鳥へと変形し羽ばたいた。
と、そこへ……。
「……うぐっ!」
トウヤの放ったナイフが突き刺さった。投げる直前にテレポートさせたことにより、的確に射止める。
カオルは元の姿に戻り、地へと落ちた。その左胸にはナイフが刺さっている。
「……カオルさんは言ったよね、自分は悪くないと」
トウヤは死体へ歩み寄り、ナイフを回収した。
「僕もカオルさんと同じように、嫌なことからずっと逃げ続けてきた。けどね……」
トウヤは一筋の涙を流した。
「それでは道は拓けないし、全ては自分の責任でしかないんだ。怒っていないと言ったのは本当だよ? けれど、カオルさんはもっと早く戦わなければいけなかったんだ。オサムたちの言うことなんて聞かずに、抵抗しなければならなかったんだ。そしてそれは僕も同じ。逃げずに自分の意思を示していれば、こんなことにはならなかったはずなんだ……」
トウヤはその場へ跪いた。そして、そっとカオルの頬に触れる。
「ごめんね……。これは僕のせいでもある。僕がいじめへとしっかり対抗できていたなら、カオルさんを死なせずに済んだのかもしれない。こんな酷いゲーム、しなくてよかったのかもしれない……」
トウヤは黙祷を捧げ、室内へと戻った。
「トウヤ君!」
サヨが駆けつける。
「大丈夫!? 怪我はない!?」
「ああ、何ともないよ」
「よかった……。それに、これで変身能力者のカオルも倒せたわね!」
「うん……」
トウヤは俯いたまま暗い返事をした。
「トウヤ君……?」
「僕は、オサムたちにはっきり言わなければならなかったんだ。いじめないでって。そして、どうしていじめるのか聞くべきだった。中には、本当はいじめたくなかった人もいたかもしれないのに……」
トウヤは拳を握りしめた。
「レイジやテツヤ、タイチだって……望んでいじめていたわけじゃないかもしれない。元は3人ともいじめられていた側なんでしょ?」
「そうね……。前にも言った通り、彼らはオサムにいじめられていたわ」
「だったら、話せばわかったのかもしれない。僕がしっかりしていれば、誰も死なずに済んだんだよ、きっと……」
「そんなことない! トウヤ君が悪いんじゃなくて、いじめる側が悪いのよ!」
「いや、いいんだ。それに、これは僕が今まで踏み出せなかった一歩のために必要なことだと思うから……」
トウヤは目を閉じ、大きく一度息をした。そして、再び目を見開く。
「大丈夫。もう逃げないよ」
その表情からは、一切の迷いが消えていた。




