逆転の一手
トウヤにそれを気づかせた単語は地下室。その僅かな引っかかりを基に、タイチを確実に、なおかつ安全に倒す手段を思いついていた。
「委員長、この場を離れよう」
トウヤはサヨへと手を差し伸べた。
「逃げるつもり? トウヤ君、勇気を出して!」
「そうじゃない! お願いだから、僕を信じてくれ!」
「トウヤ君……」
トウヤはまっすぐにサヨを見つめた。
そして、しばらくの沈黙の後……。
「……わかったわ」
サヨはその手を取った。直後、テレポートにより二人は建物の外へと移動した。
「どうやら逃げたようだな。こっちにとっては好都合だぜ! 何しろ、こっちの王将から遠ざけることに成功したんだからな!」
「うん、少しはこれで安心できるよ。けれど、君はよかったの? 戦いたくてうずうずしてたんじゃないの?」
「まあ、それも楽しいが、こうして追い払うのに成功したのも悪くない気分だ。俺の言うことを聞かせたみたいでよお!」
「そっか……」
「それに、すぐ追撃に向かえばいくらでも戦える! 暴れ足りねえなんてことにはなりゃしねえさ」
地下にはドッペルゲンガーの高笑いが響いた。
一方、デュアルカンパニー前では……。
「それじゃ、委員長は離れてて」
「え? トウヤ君は?」
「僕はタイチを倒しに向かう」
「そんな! 私も一緒に……!」
「大丈夫」
サヨの心配の声をトウヤの断言が遮った。
「直接タイチたちと戦うわけじゃないから。あいつらには近づかずに倒す」
トウヤはそう言い残すと、先程いた地下へとテレポートした。ただし、その移動先は先程とは別な場所。タイチたちから死角になっている階段のそばだ。
そして、トウヤは壁へと手を触れ、テレポートでその場から消し飛ばした。同様に反対側の壁も他の場所へと移動させる。
地下はこれから始まる崩壊の、その最初の小さな悲鳴を上げた。
「……ん? 何だ? 今何か音がしなかったか?」
「上の方で何かが揺れたような……そんな音がしたね」
「……まさか!」
タイチたちが気づいた時には、もうトウヤはその場にいなかった。彼はテレポートで地下から1階へ向かい、先程と同様の破壊工作を行っていた。
そして、瞬く間に作業を終えたトウヤは、テレポートで外へと脱出する。同時に建物は壮大な音と共に崩れた。
地下に残されたタイチたちは慌てて脱出を試みるも……。
「うわあ!」
「大丈夫か!?」
降ってきた瓦礫が足に直撃し、下敷きになる。
「待ってろ! こんな軽いの今すぐどけてやるからな!」
ドッペルゲンガーは瓦礫を持ち上げようと力を込めるが、ビクともしない。
「……いいんだ、もう」
「何言ってんだ! しっかりしろ!」
「もうやめよう。君は僕自身なんだ。もう無理だって、本当はわかっている。それに、君の発言は全て僕がそう話させているだけ」
「……」
その瞬間、ドッペルゲンガーは表情も言葉も、一切の反応を失った。
「ごめんね、僕のわがままに付き合わせちゃって。今までだって、何か困ったことが起きるとすぐに君を頼っていた。僕の代わりに戦ってくれた」
崩れゆく建物の中で、タイチの声が微かに響く。
「本当は、僕自身が戦わなくちゃいけなかった。いじめになんか屈しないで、その大嫌いないじめなんかに参加しないで、自分を強く持っていたらよかったんだ……」
タイチはドッペルゲンガーへと手を伸ばし、その手を握った。
「ごめんね。それから……」
丁度そこで頭上から瓦礫が降ってきて、タイチの頭を直撃した。
ありがとうという最後に伝えたかったその言葉は、それでも確かにここへ刻まれた。
そして、その外では……。
「ただいま、委員長」
「トウヤ君……!」
サヨはその姿を見るなり涙を流し、抱きついた。
「心配したのよ!? 突然建物ごと崩れ落ちて……」
「ごめん、委員長。でも大丈夫だよ。ほら、怪我一つしていない」
トウヤは穏やかに微笑みかけた。
「本当に!? どこも怪我してない!?」
「うん、大丈夫だよ。とりあえず、これでタイチは倒せたはずだから、一旦どこかの家に入ろう」
トウヤは無言で頷くサヨの手を取り、テレポートで空き家へと移動した。
そして、ここまでの一部始終を観察していた者は……。
「やれやれだ。いいものを見せると言うから、わざわざ足を運んだというのに……」
思考を読み取る例の能力者と会話していた。
「何が不満だ? 言ってみろ、カイ」
「単刀直入に言おう。お前、私まで巻き込むつもりだっただろう」
「まさか。お前のその能力があれば、傍観者として安全に見届けることができる。それくらい私にもわかっている。実際、足を運んだと言っているが、それには語弊があるのではないか?」
「痛いところを突かれたな。まあ、お前が今すぐ私をどうこうするつもりじゃないのなら、深く考えないことにしておくよ」
「賢明な判断だ。まあ、いずれお前には動いてもらう」
「おいおい、冗談はそのくらいにしておけよな」
カイは渇いた笑い声を上げた。
「お前のその自慢の能力でわかっているだろう? お前も私に弱みを握られてるってことを。確かにお前の言う通り、私は詳細がバレては困る能力を所持している。だが、私はお前が誰だかおおよその見当がついている」
「それが間違いだとしたら?」
「またまた、冗談が上手いこと。私にどの程度の確信があるか、わかっているくせに」
「……どうしても逆らおうと言うのだな?」
「聞かなくてもわかっているでしょう? 対等の取り引きでなければ乗らないってこと、思考を覗き見ておきながらわかってないとは言わせない」
「……まあいい。いずれまた連絡しよう」
「強情だねえ……! まあ、妥協点をじっくり探してきなよ」
そこで会話は途絶えた。




