苦戦! タイチのゾンビ作戦
トウヤたちは足を踏み外さないよう、一段ずつ慎重に地下へと向かう。敵に気づかれないように、携帯のライトは手で覆うことにより調節する。
そして、二人は下りきった先にあるドアの前へと立った。
「いい? 合図と同時にドアごと外して、私が電気を点ける。トウヤ君はすぐにテレポートできるように集中して」
「わかった」
「それじゃ、行くわよ……? 3、2、1……突撃!」
サヨの声と同時にトウヤはドアを外へとテレポートさせた。その無音の奇襲開始に合わせ、サヨは手筈通り電気をつける。
その瞬間、目の前にいたドッペルゲンガーの姿が照らし出され、両者の顔に緊張が走った。
「っ……!?」
ドッペルゲンガーがナイフを突き出す。そのモーションがトウヤの脳内でゆっくりと流れ、瞬時の判断によりその腕へと敵より早く触れる。そして、そのままドッペルゲンガーを学校までテレポートさせた。
「やった! 上手く行った! これでじっくり地下の探索をしてタイチの能力を……」
言いかけて、サヨが驚愕の表情を浮かべているのに気づき、トウヤもその視線を追った。倉庫と化している地下室で、物陰から様子を窺う顔があった。
「なっ!? 確かに遠くへ飛ばしたはずなのに、もう戻ってきている!?」
「トウヤ君、もう一度タイチを!」
「わかった!」
トウヤは周りの景色を瞬時に頭へ入れながら、タイチへと駆け寄った。
「た、助けて!」
タイチは両の手で持ったナイフを震わせ、目を瞑った。
と、その時。
「おっと! こいつには指一本触れさせねえぜ!」
ドッペルゲンガーがタイチの前へと現れ、襲いかかってきた。
「タイチが二人!?」
驚きつつもトウヤはその攻撃をテレポートでかわし、サヨのいる入り口まで戻った。
「そういうことだったのか……! 保健室で倒したあれは、タイチの能力によって作り出された偽物だったわけか!」
「そのようね。ということはきっと、タイチ本人を殺せば済むはずよ!」
「よし! そうとわかればこっちのもんだ!」
トウヤはナイフを構え、突進した。
「わかったところでお前たちが死ぬことに変わりはない! 俺を倒せるもんならやってみやがれ!」
そう言うとドッペルゲンガーもナイフを構え、トウヤへ向かって飛びかかった。
だが、トウヤは冷静にテレポートで数歩下がり、相手の空振りに合わせて飛び込み返す。
ナイフはドッペルゲンガーを確かに捉えた。だが、それに対しドッペルゲンガーは苦痛の表情を一切見せず、不敵な笑みを浮かべると煙のように消えた。
そして、再度タイチの目の前で復活し、すぐさまトウヤへと襲いかかる。
「さあて、無限に戦い続けられる俺と、一度でも刺されれば致命傷となるお前……どちらが有利かな?」
トウヤは必死にナイフを避け、そして攻めに転じる。
しかし、いくら応戦しても、倒したそばから復活される。タイチ本体へと辿り着けないどころか、ずるずると後退させられてゆく。
「ほら! もう一人の俺の目の前まで瞬間移動してみろよ! その代わり、あの女の命は頂くけどな!」
「そんなこと……できるわけ……!」
「私はいいから、タイチを倒して!」
サヨの悲痛な叫びが響いた。
「そんな! 委員長を犠牲になんかできない!」
その様子を見てドッペルゲンガーは乱暴な笑い声を上げた。
「まあ、そういう手段もあるってだけだ。可能なら飛び込んできたお前自身を殺す。さっきの発言を勝手に解釈して、女を見殺しにすれば勝てるだなんて思わねえことだな」
トウヤは端からサヨを見捨てるつもりなどなかった。だが、だからといって何か策があるわけでもない。
ナイフをかわしながらもどうするべきかと頭を回転させるトウヤ。床に転がるダンボール箱に足を取られないよう気をつけるが、激しい攻防の末、ついにトウヤは躓いてしまった。
「これで終わりだ!」
思いっきり顔面を打ったせいでもがき苦しんでいるトウヤへと、ドッペルゲンガーは容赦なく襲いかかる。
「死ね!」
何とかうつ伏せの状態から態勢を立て直しかけたそこへ、ナイフの切っ先が迫る。
しかし、すんでのところでテレポートが間に合い事なきを得た。
「トウヤ君、大丈夫!?」
「うん、ギリギリだったけどね。でも、ダンボール箱が邪魔で上手く戦えない!」
そう言って、トウヤは自分の言葉に引っかかりを覚えた。
「ダンボール箱……。そうか!」
トウヤは瞬時にテレポートでダンボール箱の目の前へ移動した。散乱するそれらの内、一番ドッペルゲンガーから離れた位置、なおかつサヨのいる入り口に一番近い位置のものだ。つまり、敵に襲われにくく、サヨに矛先が向かった際に助けに向かうのにも最適の位置のもの。
「覚悟しろ、タイチ!」
トウヤはそう叫ぶとダンボール箱へ触れ、タイチの頭上へと転移させた。
「なっ!? うわあ!」
タイチもそれに気づき頭を手で庇う。
そこへ重たいダンボール箱が直撃しようとしたその時。
「オラァ!」
かけ声と共にドッペルゲンガーがそれを突き飛ばした。
「そんな……!」
まさかの失敗にトウヤは呆然と立ち尽くす。
「言ったはずだぜ? こいつには指一本触れさせねえってな!」
「ダメだ……。これじゃ勝ち目がない……!」
トウヤは頭を抱え込んで膝から崩れ落ちた。
「あきらめないで! まだ何か方法が!」
「ダメだよ委員長……。ここは一度逃げるしかない」
トウヤは絶望に染まりきった顔をサヨへ向けた。
「トウヤ君……」
サヨは悲しげな顔を見せた。
「一度逃げる、だと? 何を言ってやがるんだお前は! どこへ逃げようと俺はお前を殺しに向かう。何度でもな!」
ここで逃げることは一見冷静に見える。だが、それはただ問題を先送りにするだけで、展望などが存在しているわけではない。
それどころか、タイチ本体を追い詰めたというアドバンテージも、奇襲に成功したという優位性も失うこととなる。
つまりは、ただこの場から逃げたいというトウヤの悪い癖でしかなかった。
「トウヤ君、ダメよ! 確かに危険を感じたら一度撤退しようと言ったけど、今はタイチも追い込まれているわ! 相手の立場になって考えればわかるはず。何とかして私たちを退けたいだけよ!」
「だって……勝てそうに思えないんだから仕方ないだろう!? 他にどうしようもないじゃん!」
「ここで退いたら、また暗い地下へ突入するところからやり直しよ!? 手口がバレた今、同じことが二度通用するかはわからないわ。第一、別な場所に拠点を移される可能性だってあるのよ!」
「そんなこと言ったって!」
「地下に追い詰めている今がチャンスよ! 戦って、トウヤ君!」
「どうやって……」
絶望に染まりそうなトウヤの瞳の先で、ドッペルゲンガーが不敵な笑みを浮かべた。
「無理に決まってる! 臆病者のお前はそうやって逃げることしかできねえんだよ!」
勝機を見出せないトウヤと、その様子を見て嘲笑うドッペルゲンガー。
だがその時、またしてもある言葉がトウヤの頭に引っかかった。
「……あった。一つだけ、勝つ方法が!」
トウヤの目の前に一条の光が射した。




