二重人格
一方、学校から北西に位置するこのデュアルカンパニーでは……。
「どうしよう、やられちゃったよ……」
「いいさ。また襲いに行けばいいんだ! 何度だってトウヤたちを殺しに行ってやるよ!」
「でも……また刺されちゃうよ!」
「だからお前は弱虫って呼ばれるんだ! 俺はお前と違って死なねえんだ。反撃されたって何の問題もねえんだよ!」
「だって……怖いんだもん、僕」
暗い地下でタイチが独り言を呟いていた。一人二役になり、自分で自分と会話をしている。
「いい加減にしろよ。お前は黙って見ていればいいんだ。俺が全員殺すところを指咥えて眺めてろ」
「そんな……。君と違って僕には戦う力がないから、目の前でそんな恐ろしいことが起きているだけで怖いんだよ!」
「だったら一人で逃げろよ。あのトウヤっていう臆病者みたいにな! おっと、お前にはそっちの方がピッタリだったか」
「酷いよ。僕にそんな勇気がないってこと、誰よりも知っているくせに……」
「そうだ。俺はお前のことを一番よく知っている。だからこそ、俺に任せとけばいいんだ。このゲームが無事終わるその時まで、お前には指一本触れさせねえ。それに、お前を苦しませたオサムや両親には制裁を加えてやるよ」
タイチは狂気の笑い声を響かせた。
「そんな! 僕はただ、無事に自分の世界へ帰ることができたらそれだけで……」
「いいや、お前は憎んでいる。自分をいじめたオサムを、そして虐待した両親を。何なら、手始めにこの会社から木っ端微塵にしてやろうか?」
デュアルカンパニー。それはタイチの親が社長を務める会社。社員に明るい職場を、顧客に豊かな暮らしをという二つの経営理念を掲げている。それが会社の名前の由来だった。
だが、実際はブラック企業であり、タイチの家庭自身もその歪んだ思想を持つ父親の悪影響を受けていた。そうして皮肉にも、デュアルというその名は二重人格になってしまったタイチの象徴となってしまった。
「何もそこまでしなくても……」
「甘ったれたことぬかしてんじゃねえよ! こんなもの壊した方が世のため人のためになる。元の世界に帰ったら、このゲームの主催者から理想の暮らしをもらえるんだろ?」
ルール説明をした抑揚のない声。このゲームの主催者というのは、その声の主のことを指している。彼女はトウヤにそうしたように、他のプレイヤーにも生き残った暁にはそれ相応の願いを叶えるという旨を伝えていた。
「だからって、そこまでしなくてもいいじゃないか!」
「だったらどうする? 俺を力づくで止めてみるか?」
その言葉の後、数秒の沈黙が流れる。
「できねえよなあ? 俺はお前よりも強い。お前だけでは生きていけなくなった結果、お前が必要とした結果生まれたのが俺だ。お前の望んだ強い自分が俺なんだから、弱いお前に俺を止めることなんかできねえよ」
「……君まで僕の敵に回るつもり?」
タイチは泣きそうな声を漏らした。
「そうじゃねえよ。俺はお前に最高の未来をくれてやろうって言ってるんだ。それまでは黙って見てろ。それがお前にとっても一番いいはずだ」
「僕にとって……?」
「そうだ。お前はただ俺が勝ち残るところを見守っていればいい。それが戦う力のないお前にとって、一番いい戦術だ。違うか?」
「……ううん。君の言う通り、僕には自分から戦場に出向くなんて無理だよ。だから、結局は君に頼るしかない。けど……」
タイチは数秒間俯き、再び顔を上げた。
「けど、できればもう少し穏便な解決法を探してほしい。君は親も殺そうと言っていたけど、そんなこと……」
「あーはいはい。わかったよ。そのことについては全員殺してからもう一回考えてやるから、今は俺に任せろ。オサムたちは殺さなきゃ殺されるんだし、ルールなんだからいいな?」
「……わかった」
「よし、それじゃ俺はもう一度飛び回ってくるから、お前はここから一歩も外に出るんじゃねえぞ?」
「もちろんだよ。外になんか出ようものなら、僕なんてすぐに殺されてしまう」
「弱虫のお前にはいらない心配だったな。それじゃ、行ってくる」
タイチはデュアルカンパニー地下を飛び出した。タイチをその場に残して……。
「……本当に、僕にはピッタリの能力だ」
残された方のタイチは今までのそれとは本質的に違う独り言を漏らした。
「ドッペルゲンガー……もう一人の僕を生み出し、操作できる能力。もう一人の僕は、何度殺されても僕の目の前で復活する。だから、僕は常に安全圏にいながら行動することができるんだ」
タイチは自分の手を見つめた。
「いつからだろう。僕が二人になったのは……。弱くて何もできない僕のそばに、ある日突然君は現れた。そして、強い君は必要な時だけ僕の代わりになってくれて、僕は生きるのが少しだけ楽になった。今もこうして、僕の代わりにデスゲームを戦ってくれている。君がいるということが、すごく心強い」
タイチは独り言を漏らしながら、能力で生み出したもう一人のタイチを動かし続けた。
もう一人の自分、ドッペルゲンガーを通じて外の様子を見聞きし、他のプレイヤーの位置などの情報を収集する。
その顔には、もう一つの狂暴な人格に似合うとても恐ろしい笑みを浮かべていた。




