黒の絆
一方、テツヤたちは……。
「最高だぜ! やっぱり盛大に暴れるのは楽しいな!」
机に座りながらレイジが高笑いした。
「ああ。今のであいつらは鍵をかけられる職員室にでも逃げ込んだはずだ」
「はあ? さっきので仕留められる計算じゃなかったのかよ!?」
レイジは怒りのあまり立ち上がる。
「まさか。楽器が降ってきてもテレポートがあれば避けられる。それに、教室へ仕掛けた硫化水素の罠も水素爆発も、量が少なすぎて虚仮威し程度にしかならないよ」
「じゃあ何で……!?」
「トウヤたちを追い込むためさ」
「でも、どこか外に逃げる可能性だってあっただろう?」
「いや、ないね。委員長も一緒だったから、ある程度戦略的に動いてくることが予想される。その前提に立った上で、僕らにも余裕を与えないために学校からは出ず、常に反撃を狙っていることだろう。次の手を打たれないように牽制しつつ、隙あらば奇襲を試みるはずだ。もちろん、僕らにとってもこのまま放っておくのは煩わしいから、そこで……」
テツヤはレイジへと歩み寄り、肩を軽く叩いた。
「お前の出番だ、レイジ。予め職員室のドアについている手動の鍵を確認しただろう。ポルターガイストを使ってそれを開け、奇襲をかける」
「何でだよ? わざわざ危険を冒さなくても、窓から木でもぶち込めば攻撃できるだろう?」
「あまり一方的に攻めては、相手もあきらめがついて逃げるかもしれない。だから、トウヤたちの行動や心理もコントロールしながら攻める必要がある」
「はいはい。わかったよ行けばいいんだろう?」
レイジはテツヤへと背を向け、ドアへと歩いてゆく。
その背後でテツヤは口角を歪ませつつ氷柱を生成し、レイジへ向けて一斉に発射させた。
「……残念!」
瞬時にその全てが起こり、全てが決着を迎えた。
レイジはポルターガイストを発動させ机を盾にすることで氷柱の銃撃を防ぎ、そのまま氷柱のコントロールを奪いテツヤを串刺しにしたのだった。
「な……んで……?」
「全部あの能力者が教えてくれたんだよ。まあ、お前とはここまでってことだな」
それを聞き届け、テツヤは目を閉じた。
「どういうつもりかわからねえけど、今回は感謝しとくぜ」
レイジは窓の外を見ながら呟いた。
――数分前、テツヤとレイジの脳内やり取り。
「……仕掛けるなら今だぞ」
「っ!?」
テツヤは突如自分の頭に響いたその言葉に驚き、声が出そうになったのを押し殺した。
「ポルターガイストの能力、厄介だろう? できるだけ早く始末しておきたいはずだ」
「そんなの、こいつが寝た時でいい。起きている今襲うのは危険だ」
「わからないのか? お前がレイジを切ろうとしていることはもう悟られている。このままでは今夜どころか、トウヤを殺しに行くふりをしてお前からまず殺しにくるぞ」
「……お前が教えたのか?」
テツヤはレイジにばれないよう、静かに怒りの炎を揺らめかせた。
「さあて、それはどうかな? まあ、死にたくなかったら先に切ることだな」
その言葉にテツヤは疑心暗鬼になり、レイジを殺すタイミングを窺い始めた。
そして……。
「レイジ、お前はテツヤに殺されかけている」
「……!?」
今度はレイジへとささやきかけた。
「大丈夫だ。その瞬間をお前に教えてやろう。攻撃手段もわかっている。同じ部屋にいる自分へ被害の及ばないよう、氷柱を投げるつもりだ。それなら、お前の能力を使って防ぐことができるだろう?」
「……信用しろっていうのか?」
「疑うのなら、反撃にはテツヤの作った氷柱を使用すればいい。その方法ならば、お前を殺そうとしてこなければ、誤ってテツヤを殺してしまうことがないだろう」
「……わかったよ。とりあえず、お前を信用してやる。けど、それは今回だけの話だし、もし本当だったとしても今後お前の言うことに従うつもりはねえ。どうせお前の思惑通りなんだろうからな」
「それでいい。別に見返りなど求めていない。私としても、お前が死ぬ展開よりもお前が生き残る方へ賭けただけだ。お前がテツヤに勝ちトウヤを襲えば、それで私は満足だよ」
「そうか。それなら……」
レイジは悪魔のような表情を浮かべた。
「……礼は一切しないぞ!」
――現在。
「さて、それじゃあ次のターゲットへと向かうとするか。言っとくが、お前の命令に従うからじゃねえ。ゲームの進行を止めるような面倒な奴は真っ先に八つ裂きにしておかないといけねえからな!」
だが、その声に返事はこない。
「無視かよ。まあいいか、俺があいつを殺すところを、どこか遠くの場所からでも眺めてろ」
レイジはナイフを握りしめ、ドアを開けて2階へと階段を下りた。
一方、職員室では……。
「委員長、どうすれば……」
トウヤはナイフを持つ手を震わせていた。
「あいつらが仕掛けてきた瞬間に私たちも奇襲をかけましょう。ドアを開けずに能力でそのまま攻めてくるかもしれないから、気を引き締めて」
サヨもハルカから奪っていたナイフをドアへと向けて構えている。
と、その時。
「来たわよ!」
サヨの声と同時に、窓から無数のボールが飛び込んできた。
トウヤは咄嗟にサヨの手を取り、その場を脱出する。
「……ここは?」
着いた先でサヨは辺りを見回し、問いかけた。
「第2特別授業室。とりあえずここに来たけど……」
トウヤが言いかけたその時、窓からボールが一つ飛び込んできて部屋中を獰猛に跳ね回りだした。
レイジにはトウヤたちの居場所などわかっていないが、全ての教室をシラミ潰しに襲い続ける気だ。その攻撃範囲は異常に広く、じっとしていては被弾するのも時間の問題となる。
「トウヤ君、一度外へ!」
「わかった!」
二人が撤退を余儀なくされた後も、レイジはそのことに気づかず暴走を続ける。
「どこだー! 出てこいトウヤ!」
校舎中をボールが跳ね回るその光景を、トウヤたちは外から見ていた。
「どうしよう……。あれじゃ迂闊に近づけないよ」
「でも、放っておいたら危険な能力でもあるわ。今ここで何としてでも倒さなきゃならないのよ」
「やるしかないのか……!」
トウヤは地獄絵図と化したその校舎を見つめ、戦慄と冷や汗を顔へ滲ませた。




