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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

天才である妹に拘束されているのだがどうしたらいいだろうか?

作者: 涙命

女の子同士の絡み合いの描写が出てくるので苦手な人はブラウザバック推奨。

作者の妄想と願望と勢いで構成されています。途中突っ込みどころがあるかとは思いますが、温かい目で見てください。

 突然だが、『前世』というものをあなたは信じているだろうか?『前世』というものはその文字の示す通り、『前の世界で過ごした記憶』のことである。この世の中には信じる人、信じない人がいるだろう。

 その中で私はその『前世』というものがあることを信じている。いや、信じているというよりも信じざるを得ないというか…。まあそこら辺の違いは置いておいて、私はその『前世』というものがあると確信しているというわけだ。

 なぜかと聞かれると少々答え難いのだが、簡単に言うと私がその『前世』というものの記憶を持っているからだ。もちろん気が狂っているだとか、ただの妄言だなどといわれることは理解している。これはただの自己確認、いや、現実逃避というか…


「お姉ちゃん?」


 い、いや、それでだ。もしもこのような妄言を信じた人がいたとしてその人が気になるのは、「なぜ記憶を持っているのか」や「どのような記憶を持っているのか?」であろう。最初のなぜ記憶を持っているのか?という問いに関しての答えは一言で済む。

 「わからない」とこの一言で終わってしまう。

 ふざけるな等と言う人もいるかもしれないが、ほんとによくわかっていないのだ。自分が死んだと思った次の瞬間にはいつの間にか赤ん坊となっていたため、その間に何があったというわけでもない。自力で赤ん坊にとりついたということもなければ、神様に会ったというわけでもない。むしろこちらのほうが何が起こったのかを聞きたいくらいである。いきなり視点が変わったと思ったら急に到底耐え難いほどの頭痛を引き起こしたため、何が起こったのかもわからずに、泣き叫んでしまったので今の両親にはとても心配をかけてしまった。それから様々なことが起こったが、唯一の救いだった点は性別が変わらずに女だったということか。

 そして二つ目のどのような記憶を持っているのか?という問いに対しての答えとして、一言で表すとしたならば、

 「自分の持っている力を過信した馬鹿な女」というところだろう。

 もう少し詳しくするのならばその記憶の女は冒険者、という職業についていた。これはこの世界に生息している魔物と呼ばれる生物を倒したり、薬草などの生活において欠かせないものを依頼を受けて採取をしている。まあ簡単に言うと何でも屋、といったところだ。

 基本は依頼によって仕事を受け、その働きによってランクという冒険者の中の身分が上がっていくといった形だ。

 その女、いや、私はその冒険者の中の一人だった。その中でCランクというそこそこの実力を持っていた。いや、そこまでしかいけなかった、というのが正しいのかもしれない。Cランクというものになると冒険者としての生活も安定してできるようになるため、そこで満足をしておけばよかったのだ。しかし、私は満足が出かなかった。自分よりも後に入ってきた者や、自分よりも年下の者、そのような人たちに自分のランクを超えていかれる。と、そのようなことが到底我慢できるようなものではなかったのだ。幸いにして、その者たちに対して攻撃を仕掛けるといった馬鹿なことはしなかったが、私は何とも愚かしい思考になっていった。

 それは、「あいつらにできるのだったら私にできないはずがない」といったものだった。そして私は基本一人で活動していたため、それを諫めるような人もおらず、自分の実力に合っていない魔物の依頼を無理やりに受け、その依頼によって命を落としたというわけだ。


(今考えなおしても馬鹿な話だよなぁ)


 改めて自分の前世を見つめなおしても馬鹿な話だと分かる。しかし、その時の自分は焦っていた。自分よりも下だった者が自分の同格に、そして自分を超えていくということに対してどうしても焦りを覚えずにはいられなかったのだ。そのために自分の実力を見誤り、命を落としてしまった。


(その記憶があったからこそ今度は失敗しないようにって考えてたんだけどな…)


「んっ……」


 私ことミリナはであるサナの唇と舌の感触を感じながら再び現実逃避を図った。




















「お姉ちゃん!!」


「ん?なにか用かい?」


 今日も子供にとっては少々寒い風が吹いているこのごろ。私は10歳になった。

 私が前世の記憶を思い出してからおよそ8年がたった。私はその時のことを『痛い』という思い出しか残っていなかったのでよく思い出せないが、いつもは静かで全くと言っていいほど泣いたりをしなかった私がその日だけほとんど一日中泣き続けたため、両親の思い出によく残っていたらしい。

 よほど印象に残っていたのか、いつもこの時期になるとその話題を両親は出してくる。特に恥ずかしくもないのでほとんど聞き流しているのだが。

 そのあともあまり泣かなくなったため(前世の記憶を思い出したから)、いろいろと思うところがあるのだろう。

 ちなみに妹であるサナはこの大泣き事件の5か月後に生まれたため、私とは二歳差である。


「ううん。お姉ちゃんが見えたから来ただけだよ?」


「そうかそうか。うーん、じゃあお姉ちゃんと一緒に遊ぶ?」


「わーい!お姉ちゃん大好き!」


「かわいいこと言ってくれるじゃないの!この、このっ!」


「きゃーー」


 前で私は孤児だったため、『家族』というものに飢えていた私はどうしてもサナを甘やかしてしまう。私の住んでいる村はもの凄く豊かというわけでもなく、かといって口減らしが必要なほど貧しいわけでもない。そのため、子供がしなくてはいけない仕事なんぞは少なく、どうしても暇になってしまう。

 また、この村の特徴として、子供が生まれる周期がある程度決まってしまっている、というのがある。どうやら私とサナの両親はもとは冒険者だったらしく、冒険者がつらくなったということでこの村に移り住んできたらしい。そのため、その子供を産む周期と重ならず、同年代の子供となると私しかいなくなってしまったため、自然とサナの相手をするのは私となっていた。

 だからかはわからないが、私はサナのことを良く面倒を見ていたし、サナは私によくなついてくれていた。
















 それから2年後、私は12歳に、サナは10歳となったころ、私たち一家は村を追い出されてしまった。

 別に両親が何をしてしまったわけでもなく、村が一方的に悪いというわけではない。

 不作だったのだ。天候が安定せず、思っていたよりも作物が取れなかったため、どうしても口減らしをせざるを得なかったのだ。そしてもとはよそ者であった私たちの一家に白羽の矢が立ったというわけだ。もとは冒険者であった私たちの両親は仕方のないことだと割り切れていたし、私も前世で冒険者だったため、ある程度は違うにせよこのようなこと理不尽なことにはには慣れていた。しかし、サナは違う。両親や私のように割り切ることができず、内心は傷ついてしまっているのではないかと思い、それとなくサナに問いかけてみたが、


「え?私はお姉ちゃんさえいればどこでも大丈夫だよ?」


という何ともうれしい返事をしてくれた。

 しかし、いかに割り切れるといったからと言って何も考えないで行動することはただの馬鹿である。そして家族会議をした結果、もう一度冒険者に戻る、ということになった。私たちは冒険者になるために少し大きな町に移住することになった。





 冒険者、という職業は体が資本である。そのため、冒険者となるためにはある程度年齢が要っている必要があり、その最低限必要な年齢というのが12歳だった。そのため、必然的に冒険者として登録ができるのは私だけだった。このことに関しては一切不満はない。サナには早いと考えていたし、どうやら両親もその私の考えと同じだったようだ。サナは不満そうにしていたが、冒険者がどれだけ危ないことかということを教えてあげたら、その不満は恐怖へと変わってしまったらしい。しかし、そこで想定外だったのは、サナに冒険者になるのを引き留められてしまったことだ。

 

 正直な話、これには相当参った。サナの言うことも聞いてあげたいけれど、生活のためには絶対にやらならなくてはいけないため、それも難しい。どうにかこうにかサナを説得しようと話していると、どうやらサナは『お姉ちゃんがいなくなっちゃう』ということに対して、強烈な拒否感を示していたらしく、『お姉ちゃんは最強だから絶対にいなくならない』という明らかに嘘とわかる言葉を吐いて説得した。

妹であるサナに嘘をつくというのは心苦しかったけれど、生活が懸かってしまっているから仕方がないと自分に言い聞かせた。だが、それと同時に前世のような無茶をしてサナを一人にしてしまうわけにはいけないと自分に言い聞かせ、自らを戒めることにした。


 絶対に死んでしまってはいけない。


 私はその言葉を心に刻み込んだ。


 両親と一緒にギルドにいき、Fランク冒険者として登録をしたあと、冒険者として必要なものをある程度買ってもらい、両親と一緒に一番簡単な依頼をいくつか見繕ってもらい、それをこなす日々。

 両親やほかのギルドの人たちからは覚えるのが早いとほめられたが、正直な話、一度ギルドに登録をしたことがある身としてはもう一度最初からやってるだけであり、たとえCランクになってからでもかのような依頼は時々やらなければいけない規則になっていたので、そこまでブランクというものもなかった。


 いや、この今世での生きている時間でのブランクはあるにせよ、一度覚えたものをもう一度覚え直すだけなので、そこまで時間がかかることなく思い出せたといったところだ。

 簡単な依頼をおよそ30ほどこなしていると、ギルドの職員からある程度依頼にも慣れてきただろうし、適性を調べてみないかと勧められた。私の前世での適正は剣だったが、今世でもそうである保証はないということに気が付いたため、ありがたく適性を調べさせてもらった。

 冒険者としてやっていくとなると、どうしてもある程度の戦闘力が必要となってくる。薬草採取などの一見魔物と何も関係がなさそうな依頼だったとしても、数をやっていけば魔物と意図せずに戦闘になってしまうことも少なからずあり得る。その時に戦う力を持っていなければ、何もできずにただ殺されてしまう。そのようなことにならないために、Fランク冒険者からEランク冒険者に昇格するために、最低でもゴブリンは倒せるようになっておかなければならない。

 そのため、ギルドにはその人がどのような適正を持っているかというのを調べることができる魔道具がギルドには設置されている。どうやらその魔道具によると、私は短剣に適性があるらしかった。前世とは適性が違かったため、正直なところ驚いたが結果は変わらないので、適性を調べたらどうかと言ってくれた職員に感謝した。



 今世でも私に魔法の才能はなかったらしい。



 私にとってこの短剣という武器は初めて使うものではない。しかし、それは初めてではないというだけである。私は前世では剣を使っていた。短剣も使わなくはなかったが、あくまで剣の補助としてだ。剣が使えないような狭い場所や剣を落としてしまってどうしようもなくなった時などの緊急事態に少しだけ使える程度でしかなかった。

 私にとってはさらに運の悪いことに、私はまだ体が出来上がっていないかった。そのため、記憶にある短剣の使い方をしようと思うと、どうしても体の使い方に無理が生じてしままった。そのため、記憶にあった短剣の使い方を辞めなくてはならなかった。体が出来上がっていない弊害はほかにも生まれてきた。第一に、武器の威力が出ないため、敵を倒しにくくなっていること。二つ目に自分の記憶と今の体との違いが端緒であったため、自分のイメージと実際の体の動きとがずれてしまっていること。

 二つ目は完全に記憶の中の武器の使い方と今の武器の使い方を変えることで対処をした。補助として短剣を使う戦い方と短剣を主体とした戦い方とでは、武器の使い方が全然違ってくるからだ。短剣を補助として使うときは、自分の身を守ることを第一とするため、なるべく小さく構えて小回りが利くようにする。これは自分の獲物が違うものだとしっかりと理解しているため、無用なケガをしないようにという考えからだ。

 しかし、短剣を主体として戦う場合は違う。補助として使うときのように防御ばかりを考えているのではなく、敵を倒すことも考えていかなければならないため、構え方からして変わってくるからだ。

 しかし一つ目の問題、この問題は短剣という武器の性質的にも私の年齢をいう問題的にもどうしようもないことだった。

 いや、実をいうと一つだけないこともないのだが、どうしても二の足を踏んでしまう理由があった。ただ単純に危険なのだ。どうしても、ということがない限り前世では使わなかった手であったし、個人的にも好きな手段ではなかった。しかし、自分の攻撃力を補うためには…


 そのようなことを考えながら、短剣を使う訓練をしている間に私は一つの覚悟を決めた。


 私は毒を使うことにした。毒を使うためには『資格書』というものが必要である。これは一応誰でも取れる資格となっている。しかし、私が取ろうと思っている資格書を持っている人はほとんどいない。かろうじて薬師が持っているかどうかといったところだ。

 誰でも取ることができるのにもかかわらず、薬師にも持っている人が少ないこの資格書。それは薬にすらならない完全な毒の使用許可が下りる危険な資格書だからだ。

 この資格所を持っている人は国の管理する書物に記され、他人に使うことを完全に禁止されている。もし人に使った場合は極刑に処されることとなる。私は自分の将来高位の魔物を狩れるようにするためにこの資格を取ることに決めた。

 















 私が冒険者として登録をした日からおよそ一年と半年が過ぎた。私がようやくDランク冒険者となり、安定した稼ぎが出せるようになり、ようやく一人前になったというところだ。冒険者として活動し、短剣の訓練もしつつ、資格書を取得するための勉強もするといった忙しい日々を送っている中私のもとにある凶報が届いた。



 両親が依頼の最中に亡くなった、という凶報が。



 この知らせを聞いたとき私の頭は真っ白になった。その知らせをどのようにしてサナに知らせたのかすら覚えていない。





 ただ頭に強く残っているのは両親の死を知ったサナの泣き顔とサナを守らなくては、という使命感に似た感情だけだった。


 その日私は「サナを守る」ということを誓った。









 両親が死んだと聞かされた日から半年が過ぎた。私はすでに14歳となり、サナは12歳となった。

 その半年はそれまで以上に忙しい日々だった。サナと私の生活費を稼ぐために私は前以上に冒険者として活動するようになった。そのため、サナにかまっている時間が余りとれなくなってしまっていたが、必要なことだと言い聞かせていた。

 そしてサナが12歳となった日に冒険者登録をしたいと言い出した。私としてはかわいい妹であるサナに冒険者などはしてほしくなかったが、


「お姉ちゃんが働いているのに私が一人宿で待っているのは嫌だよ」


と言われてしまったため、私は何も言えなくなってしまい、渋々ながらサナの冒険者登録を認めることとなった。




















 サナが冒険者登録をした日から2年がたち、私は16歳に、サナは14歳となった。

 どうやらサナはいわゆる『天才』と呼ばれる存在だったらしい。12歳のときに冒険者登録をしようとしたときにちょうどランクの高い魔法使いの冒険者がいたらしく、サナがギルドに入った瞬間に


「魔法に興味はない?」


と問い詰められたサナは急に距離を詰められたことに驚いていたが、『魔法』という言葉に惹かれたらしく二つ返事でうなずいていた。

 その冒険者(女性だった)に連れられたサナはまだ登録もしていなかったのにも関わらず、適性を見るための魔道具を使わせてもらった。するとその魔道具によるとサナは魔法使いに適性があるらしかった。


 魔法には火、風、土、風の基本四属性と呼ばれるものと光、闇といった特異二属性というものがある。一般的に魔法というと前者の基本四属性のことである。これは後者である特異二属性を使える人がとても少なく、世界換算で見ても片手の指で足りるくらいといえばその少なさがわかるだろうか。

 そしてサナはその特異属性である光と闇の両方に適性を持ち、基本属性である水にも適性を持っていた。

 これは史上二人目のことらしく、前にこの二つの特異属性を持っていた人は『賢者』という二つ名をもらったほどの強さを誇ったらしい。

そのような存在と私の妹であるサナが同じ。そう知ったとき私は素直にうれしかった。自分の身を守れる力がなくてはこの冒険者という世界で生きるのは難しい。そのため、サナに魔法の才能があると分かったときは純粋にうれしかったのだ。



 いや、純粋に、というのは少し違うかもしれない。私は少しだけ妹であるサナに嫉妬をした。



 サナに魔法の才能があると分かってから、私たちの生活は変わっていった。午前中はサナと一緒に依頼を受け、午後は私とサナでいったん別れ、私はほかの依頼を受けたり短剣の訓練をし、毒を扱うための勉強も同時に行った。サナは最初に詰め寄ってきた魔法使いの人に魔法を教えてもらっていた。サナは魔法を使えない私から見てもとても努力をしていた。

 魔法という自身の商売道具を教えてしまっていいのか気になり聞いてみたところ、特異属性持ちに出会えることのほうがよっぽど貴重だなんて笑って言ってくれた。もう少し深く聞いてみると、そろそろ弟子を取りたいと思っていたところだからちょうどよかったのよ、と少し恥ずかしそうに言っていた。

 そのような暮らしをしているうちに私とサナのランクはCランクとなっていた。


 そう、サナもCランクになっていた。


 私よりも二年も遅く冒険者となったサナと私のランクが同じ。その事実は私に重く、重くのしかかっていた。ただ、私にとって救いだったのは、サナがそれまでと変わらずに私を慕ってくれていることだろうか。















 サナが魔法を習い始めて三年が立った日。サナは師匠である魔法使いからもう教えることは無いとまで言わしめるほどにまで魔法が上達していた。これは魔法を使う者の習得する速度としては異常といってしまってもいいほどであり、普通は十年以上をかけて魔法を師匠から習い、その後自分の固有魔法を作ったりといった発展のほうに力を入れるらしい。しかし、サナは違った。私が前世でも見たことがないような強力な魔法を使いこなせるようになっていて、たとえ高位の魔物や冒険者でも、もはやサナにかなう者はいないとまでなった。ギルドが言うにはこのまま実績を積んでいけば、近い将来には最高ランクであるSランクになるだろうとまで言われたほどだ。


 やはりサナは私とは違い天才だったようだ。


 それに比べて私はおよそ五年をかけて勉強をし、ようやく資格書を手に入れた。この資格所を手に入れ、とても強力な毒を使えるようになったことでようやく私は高ランクの魔物が狩れるようになった。この資格所を手に入れたとき、私はとてもうれしかった。しかし、私は私の中にこう思っている自分がいるのに気が付いてしまった。


 最ももうサナがいる私たちにはあまり意味はないだろう。


 そう自分が思っていたということに気が付いた私は資格所を取れたという嬉しさや、興奮などが一気に吹き飛んだ。


「サナを守るという誓いを忘れたのか」


 私は自分に強く言い聞かせた。

 その日から私は今まで以上に訓練に入れ込んでいくこととなった。サナと話す時間を削り、自らの睡眠時間すら削り、果てには食事の時間すら惜しんで訓練に明け暮れた。店で売っているポーションを買い込み、普通の人ならば体を壊しかねないような、いや、すでに壊しているであろう状態の体だったとしてもポーションを飲みながら無理やり治して続行した。

 無理やり体を鍛えている弊害なのか、眠っても疲れが取れないようになっていた。体は常にだるく、目の下にはクマまでできるようになっていた。当然サナには心配されたが、私は笑ってごまかした。サナに言うとさらに心配されてしまうし、最悪訓練をすることを止められてしまいそうな気がしたからだ。

 

 しかし、この時私は気が付いていなかった。




 サナわたしを見る目が昔とは全く違っているということに。そして私たちの部屋に私の見覚えのない薬が多数置いてあることに。





















 そんな体を壊しては治すという生活を何日も続けていた私にもついにというべきか、限界が訪れた。普段では絶対にしないようなミス、魔物の前で足をもつれさせて転んでしまうという失態を犯してしまった。サナが咄嗟に放ってくれた光の守護魔法によって幸いにして私は無傷だったが、サナにはとても怒られてしまい、話し合いという名のお説教を受けてしまった。サナが怒るのをはじめてみた私は話し合いにおいてサナに終始押されっぱなしにされてしまい、いつの間にか明日は強制的に休みとされてしまった。訓練もしてはいけない、依頼も受けてはいけないと言われてしまい、愕然としていた私とは対照的に、サナはとてもご機嫌になっていた。


 サナが私に見えないようにひそかに笑っていたことに、明日何をするかを考えていた私は気が付かなかった。















「はぁ…明日何しよう……」


 私は宿屋のベットの上でうつ伏せになりながら明日の予定を考えていた。


「訓練もダメ、依頼を受けるのもダメってなにもできないじゃないの…」


 私は途方に暮れていた。今まで時間があればやっていたことを両方とも禁止とされてしまった私はやることがなかった。正直な話、今この時間にも訓練をしたり、依頼を受けに行きたいという気持ちが高まっている。しかし、サナと約束をしてしまった手前、約束を破ってしまうわけにはいけない。


「はぁ……」


 そうして何度目かわからないため息を吐いていると、サナが水浴びから変えってきていた。


「ああ、サナ。おかえり」


「うん、ただいま。えっとね、お姉ちゃん…」


 帰ってくるなりサナが急にもじもじとし始めた。何事かと思いながら、サナが続きを言うのを待った。


「今日一緒に寝てほしいんだけど…?」


 サナは少し顔を赤らめながらそう言った。

 私は一瞬なんだそんなことをと思ったが、最近は私が訓練によって寝るのが遅くなっていたため、一緒に寝るということをしなくなっていたなと思い至っていた。


「一緒に寝る?うん、いいよいいよ。こっちおいで」


 一緒に寝ることくらいは別に何ともないため、私は時に考えるまでもなく、毛布をめくりながらサナに向かって手招きをした。


「わーい!!」


「おっと」


 私が手招きをしたことによってサナは顔をパッと輝かせ、私に向かって飛びついてきた。少し衝撃はきたが、体を鍛えていたためかしっかりとサナのことを受け止めることができた。


「えへへ」


 サナを抱きかかえた私はサナが予想以上に重たかったことに衝撃を受けた。体つきも成長し、女らしくなっていたし、身長も昔と比べて随分と大きくなっていた。

 昔を思い出しながらサナの頭をなでるとサナは嬉しそうにはにかんだ。

 ポツリポツリと考え付いたことをサナと話しているうちにいつの間にか私の意識は闇へと沈んでいった。










「お姉ちゃんったら無防備に寝ちゃって……。んっ…くちゅ…んむ…。ふふっ。お休みなさいお姉ちゃん♪」

















「ふわぁ…。おはようサナ」


 私は眠い目をこすりながら隣で私を見つめていたサナに声をかけた。


「おはようお姉ちゃん。もうかなり遅い時間だからおはようではないかも?」


「えっ…?嘘!今何時!?」


 サナにそういわれた私は急いで体を起こして窓に近寄った。そうするとすでに昼になっているぞと告げるように太陽は真上に上っていた。

 寝坊である。どこからどう見ても寝坊である。


「や、やってしまった…」


 私は自己管理能力の低さに愕然とした。いくら前日に疲れていたとしても昼まで寝てしまうのはあまりにもひどい。

 そうして一人で自己嫌悪に陥っているといつの間にかサナがベッドから起き上がって私の隣にきて服の裾をちょんちょんと引っ張てきた。


「お姉ちゃん、ご飯食べに行かない?」


 サナにそういわれて私は自分がおなかがすいているということに気が付いた。正直なところ私一人だったら自己嫌悪に陥ったまま下手をすると夕方まで思考が意味もなく堂々巡りをしていた可能性が高かったのでサナがそう言ってくれたことで私としてはとても助かった。


「そ、そうだね…。じゃあ着替えてから外に出て何か一緒に食べようか」


「うん!」


 サナは嬉しそうに返事をすると急いで自分の着替えをバックの中から取り出し始めた。そうして何を着て行こうかを真剣に悩み始めたサナをほほえましく思いながら見ていると私はふとあることに気が付いた。


(そういえばサナと一緒に依頼以外で出かけるなんていつ以来だっけ?)


 なんとかして思い出そうと自分の記憶を漁り始めた私は当然のことながら手が動かなくなっていた。


「あれ?どうしたのお姉ちゃん」


 サナに心配をされて我に返った私はサナに何でもないとごまかしながら急いで外に出るための支度を始めた。
















その日から私は10日に1回はサナによって強制的に休みを取らされることになった。いくらなんでも私のはやりすぎだったらしい。

 私としては予想外なことに、サナだけではなく、冒険者ギルドからも注意というかストップをかけられた。私が自分の訓練のために買いあさっていたポーションは効果が低く量産が容易く安いものなのだが、それでも初心者には十分な効果だった。しかし、そのポーションを私は買いあさっていた。そのため初心者が買うためのポーションが高騰し、私がギルドに注意を受けることとなってしまったのだ。

 私はサナに置いて行かれてしまうと焦っていたが、サナは私と一緒にいられる時間が増えると喜んでいた。仕方がないとはいえ、これ以上にサナと実力の差が出るのは避けたいところだった。












 サナに怒られてしまった日から、およそ半年が過ぎた。

 私はCランクのままだったが、サナはAランクにまでなっていた。

 私とサナの実力の差はランクの差と比例するようにはどんどん広がっていった。サナが鼻歌交じりに倒せる魔物だったとしても私からしたら命がけとまではいかなくても、余裕などはなく、自分の持てる力をすべて出し切ってどうにかこうにかといったレベルにまで広がってきてしまっていた。

サナはそのようなことを気にしている様子などは無かったが、私はどうしても気にしてしまっていた。気にしないわけがなかった。


 サナが私の倒せない魔物を倒すたびに、


 サナが新しく強力な魔法を覚えるたびに、


 サナとともに高ランクの依頼に行くたびに、


 私はサナにとって――――なのではないのか。


 そう思ってしまうのだ。










そんなある日、私たちのいた街に未曾有の危機が迫った。

Sランクの魔物が私たちの街にやって来たのだ。その魔物は別名『街崩し』と呼ばれる程に強力な魔物だった。ギルドは冒険者に対して緊急依頼を出し、その魔物と戦った。その戦いでサナは獅子奮迅の活躍を見せた。

水の刃によって敵の強固な肌に傷を付け、光の鎖によって敵を拘束し、闇の壁によって敵の攻撃を無力化した。

街にいた他のAランクの冒険者パーティーと協力し、その魔物対等に渡り合っていた。もはや低ランクの冒険者などはその戦いに入り込める余地などは無く、ただ眺める事しかできなかった。



そして私もその中の1人だった。



見事にサナとAランクの冒険者パーティーの人たちはその魔物を倒すことに成功した。その事実に街はお祭り騒ぎとなり、サナとそのAランクの冒険者パーティーは街の人や他の冒険者などに讃えられ、もみくちゃにされた。サナは恥ずかしそうにしながらもとても嬉しそうに笑っていた。



私は遠くから見つめていることしかできなかった。



私はその時になって理解した。いや、もうとっくの昔に気が付いていて、それを認められなくて、認めたくなくてただ目を逸らしていただけなのかもしれない。



私はサナにとってお荷物であるという事実に。



もうサナは子供ではない。昔のように、サナが小さかったときのように私が守っていた頃のサナとは違うのだ。サナは強くなった。それこそ今の私よりもずっとずっと強くなった。むしろ私が守って貰うことの方が多くなってきた程に。




私は目を逸らしていたのだ。サナが私よりも強くなっていることに。



私は甘えていたのだ。サナが私のことを好いていてくれていることに。



私は繰り返してしまったのだ。前世と同じ過ちを。



私はその事実に気が付いたときに、いやその事実を認識したときにある決意をした。


サナとのパーティーを解散するということに。


おそらくサナは今回のことでSランクに昇進するだろう。Aランクのパーティーと比べても引けを取らない、いやそれ以上の活躍をした。

サナだったならどこのパーティーだとしても、それこそトップのパーティーだったとしても活躍することが出来るだろう。

少なくともわざわざ私のような何処にでもいるランクの者とパーティーを組むことは無い。サナという存在を私という存在で腐らせてしまうわけにはいかない。私という枷がなくなればサナはもっと上に行くことができるだろう。

 決意が鈍らないように今日中にでもサナと話し合おうと考えながら、私は自分の泊まっている宿に帰った。



 なぜかチクチクとする自分の胸はただの思い違いだと言い聞かせながら。













「サナ、ちょっと話があるんだけども今時間ある?」


 私はサナが街の人やほかの冒険者たちの輪から解放されて、体を拭いてサナがさっぱりとしたところを見計らって声をかけた。


「うん!大丈夫だよ。」


 サナはまだ先ほどの興奮が残っているのか、いつもよりも少しばかりテンションが高めの返事を返してきた。その少しだけ高いテンションにすら胸にチクチクとした痛みを感じるのだから世話がないと内心自嘲をしながらも急に黙り込んだ私を不思議そうに見ているサナの顔が目に飛び込んできて、少し掛け息を整えながらベッドに腰を掛け、サナを見つめ返した。


「えっと、これからのことなんだけどね。私たち…その…パーティーを解散しようと思うの」


「えっ…」


 サナは何を言っているのかわからないといった顔になってから、信じられないという顔になった。


「なっ、なんで!?なんで急にそんなこと言うの!?」


 サナが声を裏返しながら叫ぶようにして問いかけてきた。私はサナから視線を外しながらどこか言い訳をするように言葉を並べた。


「サナはAランクで私がCランクでしょ?たぶんサナは今回のことでランクがもう一個上がるでと思う。そしたらもうサナは最高ランクになる。そんなすごい冒険者になったサナにはもっといい依頼が来ると思うの。それに…」


 辛かった。

 

 この先の言葉を言いたくなかった。


 言ってしまえばそれを上辺だけでなく、心の底から認めてしまうような気がしたから。


「それに…、もう私じゃサナについていけないの」


 言った。


 言ってしまった。


「ずっと前から感じていたのよ。もう私じゃあサナの足手まといにしかなっていないって。それでもいままで私はそれを認めることができなかったの。けど今日のことで思ってしまった、いや、分かってしまったといったほうが正しいのかもしれないわね。私はサナの隣に立てる存在ではないっていうことを改めて分からされたわ」


 胸に痛みが走ったのを私は気が付かないふりをしながらも私は話すのをやめなかった。一度止めてしまうともう離せなくなってしまうように思えたからだ。自分の中からあふれ出してくる気持ちを必死になって整理していた私は気が付くことができなかった。


「だから私たちがこのまま一緒に組んでいてもいいことなんてっ……ひっ…」


 私は情けなくもその先を言うことができなかった。私は恐怖を感じてしまったのだ。私がその先を言うことに対して恐怖を感じたのではない。

 では何に恐怖をしたのか。私はがらりと変わっていたサナの雰囲気に恐怖を覚えたのだ。

 サナは私が今まで一緒に生活をしてきた中で見たことも感じたことのないような暗い雰囲気をしていた。

 いつも笑顔だった顔は無表情となり、きらきらと輝いていた瞳は光をなくし、魔法にはまったくもって疎い私にすら感じとれるほどの魔力を纏っていた。


「さ…サナ………?」


「お姉ちゃん…?」


「ひゃ、ひゃい!!」


 サナがあまりにも低く、無機質な声をしていたために私は声が詰まって変な返事をしてしまった。


「お姉ちゃんも私を置いていくの…?」


「そ、そんなことは……」


「私の前からいなくならないんだよね…?昔そういったもんね…?」


 そう言いながらサナはベッドに座る私に向かって近づいてきた。私はサナの異様な雰囲気に吞まれ、体が動かなくなってしまった。


「お姉ちゃんは私のそばにいるんだもんね…。私のものだもんね…」


「え……あ……う…」


 サナはベッドの上に乗っかると動かない私の頬をそっと撫でた後、私のことをそのまま押し倒してきた。サナの雰囲気に呑まれていた私はそのサナの行動を止めることもできず、そのまま素直に押し倒されてしまった。


「ふふっ…。どうしたのお姉ちゃん?そんな顔しちゃって」


 サナは私を押し倒した状態のまま、暗い微笑を顔に浮かべながら私にそう問いかけてきた。

 体は恐怖によってうまく動かず、声すらまともに出ない状態。そしてその元凶サナにマウントポジションを取られている。

 とにかく何かを言わなくてはと混乱した頭で考え、口を開いた瞬間にサナに口をふさがれてしまった。


 サナの唇によって。


「!!?」


 今度こそ私の思考は完全に停止した。


「んっ…ちゅっ…あむっ…」


 しかし、そんなことは関係がないというばかりにサナは私の口の中に舌を入れてきた。


「ぷはっ……はあっ…はあっ…」


 たっぷり数十秒にも及ぶキスをした証のように私とサナとの間に唾液による糸ができた。息が苦しくなって朦朧としている意識の中で私が思っていたのは「なぜ」や「どうして」といった言葉だった。

 そんな私の心境を知ってか知らずか、サナは息が切れてぐったりしている私に再度近寄ると更なる言葉を言ってきた。


「私が魔法を覚えたのだってお姉ちゃんのためなんだよ?お姉ちゃんと一緒にいたいから頑張って覚えたんだよ?」


「!!」


 知らなかった。そんなことを考えてサナが魔法を覚えていたなんて。

 サナのそんな言葉に私は今の状況を忘れてうれしく思ってしまった。

 しかし、そのあとの言葉で私は冷や水を頭からかぶったように思えた。


「けどお姉ちゃんは私を捨てるんでしょ?」


「ちっ、ちがっ…」


 そんなことを思ったことは無かった。たとえどんなにサナが強かったとしても、私の中ではかわいい妹のつもりだった。サナを捨てたり見捨てたりすることだけは絶対にないと断言できるつもりだった。


「お姉ちゃんがいない生活なんて私にとって何の意味もないのに…。なんでお姉ちゃんは私から離れようとするの…?どうしたら一緒にいられるの…?」


サナは私ではなく独り言のようにそうつぶやいた。そして少しばかりの時間がたち、私が混乱から少しだけ回復した時、サナは名案を思い付いたとばかりに無邪気に笑いながらこうつぶやいた。


「そうだぁ!私がお姉ちゃんについていくんじゃなくて、お姉ちゃんが私から離れられなくすればいいんだ!」


「えっ……?」


 そう言った瞬間に私は体から力が抜けてしまっていた。サナが無邪気に笑った瞬間、抑えが利かなくなったとばかりにサナの魔力が私の体の中を通り抜けたのだ。

 魔力が体の中を通り抜けること自体は普通ならば問題ない。そのようなこと冒険者として活動している限りいくらでも体験するからだ。しかし、今回の場合はその魔力の量というものが桁違いに多かった。その多すぎる魔力は私の体を硬直させ、思考すらも奪っていた。例えるならば、何の力も持たない一般人が高ランクの魔物に遭遇した時のようなものだ。あまりにも強大な力の前に思考が停止し、それに伴って体も動かなくなる。これはその者が鍛えているか鍛えていようが鍛えていまいが関係のないことだ。1と2の差は倍だといったところで100という大きな数字の前には1も2も大して変わらないだろう。つまりはそういうことだ。


 思考が停止しているはずの私はそれでもだろうか、本能というものに従ってサナから遠ざかろうとしていた。しかしサナがそのようなことを許すはずもなく、私はあっさりとサナにつかまってしまった。


「あはっ。お姉ちゃんったらどこに行こうとしてるの?お姉ちゃんはもう逃がさないって決めたんだよ?それなのに逃げようとするなんてお姉ちゃんは悪い子だね。そんな子にはこうしてあげる。『ウォーターバインド』」


 サナの手から出てきた水の縄によって私の両手両足は拘束され、自由に身動きの取れない状態にされた。サナが作った水の縄は私の腕を優しく、それでいてしっかりと拘束していた。水という材質で作られているため、物理的に破壊することは不可能であり、サナが作ったという事実はこの拘束を自力で解くということを不可能としていた。魔法に対抗するには魔法しかない。しかし、その魔法を作ったのはほかでもないサナである。サナの魔法の腕に匹敵する魔法使いなんぞはそうそうおらず、世界的に見ても一桁であろう。つまり、私は絶対に逃げられない状態に追い詰められてしまったのである。


「ひっ……」


「ふふっ。これでもう逃げられないね♪じゃああとはこれを掛けてっと。『スリープミスト』『マインドプロテクト』」


 魔法をかけられた瞬間に私の意識が朦朧とし始めた。サナがまれに使っている睡眠の魔法だと気が付いた時にはもう遅く、私の意思とは関係なしに視界が闇に染まっていった。













気が付いた時にはベッドの上でサナと裸で抱き合っていた。両手両足の拘束は解かれ、自由に動けるようになっているはずだが、体中のあちこちが痛み、まともに動けそうな状態ではない。仕方がなく、隣で寝ているサナのことをぼんやりと眺めているとそのことに気が付いたのかサナが目を覚ました。


「ふわぁ…。おはようお姉ちゃん…」


「お、おはようサナ」


 なぜかサナに見つめられた瞬間からドキドキしだした胸を少し抑えながら挨拶を返した。


「ふふっ」


 そんな私の内心を見透かすようにサナが少しだけ笑った後、私のほうに手を伸ばしてきた。そしてその手を私の首筋に持ってきた後私の首についているものをいとおし気に撫でた。


「えっと…サナ…」


「ん?どうしたのお姉ちゃん?」


「この首についてるものは何なのかなって思って…」


 私は首に装飾品なんてものはつけていなかった。首に異物があるということに耐えられなかったというのもあるが、何よりも必要性を感じなかったのだ。おしゃれなんてものは私には縁遠いものであり、未知の領域であったため、正直に言って興味もあまりなかったし、むしろお金の無駄とすら考えていたほどだ。サナにはもったいないとかもっと気を使うべきだとか言われていたが正直に言って私よりもサナのほうが似合うと考えていた。

 そんな私がこんなものを買ったりしているわけがないので必然的にサナがつけたことになる。そんなわけでサナに問いかけた私だったが少々予想外の答えが返ってきた。


「あっこれのこと?これは私が作ったチョーカーだよ。お姉ちゃんに似合うと思ってつけたんだ。一応これは魔道具だよ」


 その答えに私は驚いた。てっきり店売りのものを買ってきたと思ったからだ。しかしそんなことよりもちょっと聞き捨てならないことがあった。


「えっ、これ魔道具なの?」


「うん、そうだよ」


 魔道具というのはとても高価なものだ。生半可な魔法の腕では作ることもできないし、作るためにも特殊な手順が必要らしい。そんなものをサナが作ってしまったというのだろうか。

 ……いや、あり得るか?サナの師匠が言うにはすでに世界で五指に入ると太鼓判を押されていたし、魔法の腕が足りていないということは無いだろう。そうするとあとは特殊な手順ということになるのだが、一時期サナが魔道具屋に入り浸っていたことがあった。何か欲しいものがあるのかと思い、問いかけてみたことがあったが、特にほしいものはなく、気になることがあったという答えが返ってきたことがあった。その時に何かをつかんだのであれば天才であるこの子はきっと再現することができるだろう。


「ちなみにどんな効果が付いてるの?」


 私がそう問いかけた瞬間にサナの笑みがさらに深まったように感じた。その笑みに私は体の底から、もはや魂といってもいいかもしれないほど深くから出てきたような震えが体中を襲った。自分自身の体を抱きしめてその震えを止めようとするが、一向に止まる気配などは無く、むしろ増してきているような気すらする。


 その変化をサナが気が付かないはずがなく、私の震えを止めようとしてくれるのか私のことを優しく抱きしめてくれた。これじゃあ一体どっちが姉だかわからないなと内心苦笑しながらも、私は自らの震えを止めようとサナの体を強く抱きしめた。


「お姉ちゃん大丈夫?えっとね、効果としては硬度上昇と自動ヒーリングとかかな?ほかにもいくつかあるけどそこまで大事なものではないから大丈夫だよ」


 サナの説明を聞いてちょっと物申したいところがあったけれども私の精神状態が現在進行形で削られて行っている状態ではちょっとためらわれたため、そのまま流すことにした。


「お姉ちゃんは頑張りすぎなんだよ。きっといろいろと頑張りすぎたことが今になって響いてきちゃったんじゃないかな?とりあえず睡眠の魔法をかけるからもう一回ちゃんと休んどほうがいいよ」


 サナがそう私に諭してきたため、私はおとなしくもう一度寝るためにサナに睡眠の魔法をかけてもらうことにした。そうして私の意識は再び深い闇に落ちていった。














「よかった。ちゃんと成功して」


 お姉ちゃんが私の魔法によって眠ったのを確認した後、私はそうぽつりとつぶやいた。

 実は、私はお姉ちゃんに対して睡眠の魔法以外にもいくつか魔法をかけていた。いや、かけているというよりもかかっているといったほうが正しいかもしれないね。その魔法は『マインドショック』。単純に精神に衝撃を与える魔法。その魔法を私はお姉ちゃんのチョーカーの中にごくごく微弱に付与した。そうすることによってお姉ちゃんは少しのことで動揺するようになってしまう。


「ふふっ。お姉ちゃん、私にギュッとしがみついちゃって…かわいかったな……」


 私を見て震えだしたのにはちょっと失敗したと思ったけれど、結果オーライということでいいよね?


「もう離さないよお姉ちゃん」


 私と別れるって言ったときについカッとなって魔力暴走を起こしちゃったけど、今はもう大丈夫。お姉ちゃんにはマーキングもしておいたし、私か離れられないように魔法を何重にもかけておいたからもう大丈夫。それに……


「もしもう一回私から離れようとしたら、閉じ込めて私だけのものにしちゃえばいいしね…」



 





なんかコレジャナイ感が凄いけれど一応完結です。

読んでくれてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 素晴らしい、素晴らしいよ。何でこんなものが書けるんだ、最高だよ
[良い点] 凄い作品でした とても良かったと思います 小説というのは誰でも、それこそ3歳児でもぼくちゃんが考えた最強の主人公を作り、ぼくちゃんに優しくしてくれる世界、を書くことが出来るんですけどこの作…
2019/11/18 21:47 退会済み
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[一言] 百合好き。 私ことミリナは妹であるサナの唇と舌の感触を感じながら再び現実逃避を図った。 ここ好き たとえCランクになってからでもかのような依頼は時々やらなければいけない規則になっていた…
2018/04/19 01:20 退会済み
管理
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