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デスロイア・イデアム


 おまけ②【デスロイア・イデアム】














 革命家のリーダー、デスロイア・イデアムという男は、武器を持っていない。

 それでいて一人で出歩くこともしばしばある為、彼を革命家とも知らない男たちに狙われることがある。

 「おい兄ちゃん、金目のもの置いていきな」

 「金目のものがあるなら、俺が欲しいくらいだね」

 「おい、ふざけてんじゃねえぞ!!ボコボコにされたくなかったら、大人しく身ぐるみ剥いでいきな!」

 「ボコボコにもされたくないし、身ぐるみも剥ぎたくない場合はどうしたらよい?」

 「ああ?おいおい、まじで言ってんのか?なら殺してやるから、そこで大人しくしてな!なよっちい兄ちゃんよ!!」

 案の定、一人プラプラと散歩をしていたイデアムの前には、ざっと十人ほどの男たちが立ちはだかっていた。

 しかも、その誰もが屈強な体つきをしており、背もイデアムより少し高いくらいだろうか。

 普通ならば、一歩後ずさって、適当な物を置いて逃げてしまいそうな場面だ。

 しかしイデアムは、一人の男が近づいてくると、ひらりと避けて、男の腕を掴んで折りながら男の身体を投げ飛ばした。

 男は悲鳴を上げながら地面でバタバタ騒いでおり、周りの男たちは何が起こったんのか分からずに唖然としていた。

 「俺は平和主義者でね。出来ればこのままどっかに消えてほしいとこだけど、どうかな?」

 「なっ・・・!何言ってやがる!おい!やっちまえ!!!」

 「・・・残念だ」

 男たちは一斉にイデアムに飛びかかっていった。

 しかし、あっという間に全員叩きのめされてしまい、気付けばイデアムは一人、バサッとマントを靡かせていた。

 「て、てめぇ・・・!何者だ!」

 「そうだなー・・・。まあ、ちょっと強い通行人Dってとこかな?」

 いや、Aじゃないのかとか、そんなことを思う余裕さえなく、男たちは意識を手放した。

 イデアムは男たちを置き去りにしたまま、別の路地を歩いていた。

 もっと人通りの多い道を歩けば良いのだが、イデアムは出来るだけ人を会わないような道を好んで歩く。

 だから、またこうやって出くわしてしまうのだ。

 「止めてください!放して!」

 「いいじゃんかよー。ちょっとだけ俺達に付き合ってくれればいいんだぜー?」

 「そうそう。店なんかじゃなくて、個人的に注いで欲しいだけなんだからさー」

 このまま通り過ぎても良かったのだが、女性と目があってしまい、仕方なく助けることにした。

 女性は黒髪の綺麗なストレートで、くりくりの二重をし、ほっそりとした手足をしている。

 「放してやりなよ」

 「ああ!?なんだてめぇは!?関係ねぇだろうが!!あっち行ってろ!」

 「関係ないのは認めるけど、嫌がってるからさ、彼女」

 「嫌がってねえよ!さっきまで俺達に胸ぐいぐい近づけてきて、俺達を誘ってたんだからよ!なあ?」

 「ち、違います!放してください!」

 まるで下手なドラマでも見ているかのようなやり取りに、イデアムは面白そうだから見ていようかなとも思った。

 だが、イデアムがそこから立ち去らないことに男たちはいらつき、男の一人がイデアムに向かって行って胸倉を掴みあげた。

 とはいっても、イデアムの方が背が高く、見下すことは出来なかったのだが。

 「生意気そうな顔しやがって・・!!」

 「・・・そんな顔してるか?」

 生意気そうな顔をしているなんて、きっと小さい頃にしか言われたことがないように思うが、小さい頃だってそんな生意気な顔をしていたかどうかは、イデアムには分からない。

 そんなことを考えていたからか、男はイデアムの顔面に、躊躇なく拳を入れてきた。

 「きゃッ!!!」

 「へへ」

 男は、自分が入れた拳によって、イデアムの顔面からは鼻血が出ているか、痣をつくっていると思い、笑っていた。

 女性は思わず両手で自分の顔を覆っていた。

 「坊ちゃんが、こんなところで一人で歩いてちゃあ危ないぜ?へへ」

 そう言いながら、男は拳を顔面から離した。

 「・・・!?」

 しかし男にとって誤算だったのは、相手がイデアムだったということだ。

 鼻血どころか、殴ったような痣も残っておらず、痛いと言いながら顔に手を当てる仕草さえなかった。

 ただ目を細めて、男を見下ろしていたのだ。

 思わず後ずさってしまった男に、今度はイデアムが胸倉を掴みあげる。

 身長差のせいだけではなく、イデアムは腕の力で男を持ちあげたため、男はイデアムを見下ろせる位置まできていた。

 だが男に押し寄せているのは、優越感ではなく、恐怖である。

 「出来れば、ここは争いをせずに済ませたいんだ。だからあの女を解放してもらえるか?」

 「あっ・・・!!がっ・・・!!」

 特に何をしたということはないのだが、男は恐怖のあまり、失禁してしまった。

 「あーあ」

 どさっと男から手を放すと、女性を捕まえている男は、それを見てポケットに隠していた短いナイフを取り出した。

 きらりと光るそれに、イデアムは屈することなく近づいて行く。

 「くっ、来るな!!来たら、この女を刺すぞ!刺すからな!」

 「止めて・・・!お願い!!」

 一歩一歩、確実に近づいて行くイデアムに、男は女性にナイフを向けると、震えるその手を徐々に女性に寄せて行く。

 だが、イデアムは止まらない。

 「来るなぁ!!!」

 男は叫びながら、ナイフを思い切り振りあげて、女性を刺そうとしたのだが、ナイフは女性に刺さらなかった。

 よくみると、自分の手にはナイフが握られておらず、ナイフはクルクルと宙を舞っているのが見えた。

 正面にはイデアムの足が見えたかと思うと、くるりと回し蹴りをされた。

 あっという間にノックアウトされた男から、女性を助け出したイデアム。

 女性はイデアムの両手を、自分の両手をぎゅっと強く包み込むと、目をキラキラさせてきた。

 「ありがとうございます!確か、イデアムさん、ですよね?」

 「え?どっかで会ったっけ?」

 「はい!先日、私のお店に来てくださいましたよね?私、イデアムさんにもお酒を注いだんですけど、覚えていませんか?」

 「・・・?そうだっけ?ごめん。全く覚えてないや」

 「いいんです。あ!良かったら、私のお店で少し飲んで行かれませんか?勿論、私の奢りです!!」

 何度断っても誘ってくる女性に、イデアムはじゃあ一杯だけと言って、店に着いて行った。

 その店は、確かに以前みんなで来たことがあるように思うが、誰に注いでもらったなんて、いちいち覚えていなかった。

 「わ!あの人じゃん!」

 「ああ!この前来てくれた人!」

 「いいなー。私もあのテーブル行きたい」

 女性達は何やらワイワイと話しているが、イデアムは早く帰って寝たいな、と思っていた。

 今回の宿は二段ベッドになっていたから、きっとオリバーとホズマンあたりが取り合いをしてるだろうと思いながら。

 「どーぞ!」

 「ああ、ありがと」

 女性が持ってきた酒やつまみを口に入れながら、イデアムは別のことを考えていた。

 しかし、それが女性にとっては良いらしく、隣でうっとりと眺めていた。

 隻眼ってミステリアスだわ、とか。寡黙で強いなんて、素敵だわ、とか。

 一方イデアムは、馬はどのくらい借りられるかとか、食料の調達は何処でしようとか、次の国には何があるのだろうとか、そんなことばかり考えていた。

 気付けば、一杯どころではなく、結構な量を飲んでしまったようだ。

 「あ、俺はそろそろ」

 「えー!もうちょっといいじゃないですか!御礼なんですから!!」

 「いや、そろそろ戻らないと。やることもあるし」

 「お仕事熱心な方なんですね!」

 「いや、仕事熱心なわけではなくて」

 否定しているのに、女性は両手を合わせて目を爛爛とさせている。

 なんとか店の外に出ると、女性は見送りまでしてきた。

 「あの、またいらしてくださいね!」

 「多分もう来ないと思うよ」

 「え!どうしてですか!そんなにお仕事、忙しいんですか!?」

 「なんてーか、旅してるからさ。一泊したら明日には出る予定だし」

 「そうなんですかー・・・。また会えますか?私、会いたいです!」

 「さあね。俺が生きてれば、またどっかで会うかもしんないけど」

 「・・・・・・」

 そっけない態度のイデアムに、女性は唇を尖らせて拗ねていた。

 それに気付くこともなく、イデアムは礼を言ってさっさと帰ろうとする。

 女性はイデアムの腕を引っ張ると、顔を赤くしてもじもじとしていた。

 「あ、あの・・・」

 「・・・・・・」

 「私、あなたのこと・・・!!」

 「俺はさぁ」

 いざ決心して言おうとした女性の言葉を遮り、イデアムが口を開いた。

 口をぽかんと開けたまま、女性はただイデアムの言葉を聞いていた。

 「自分を繕う必要って、ないと思うんだ。自然なままの、自分をありのまま受け入れてもらえないなら、受け入れてもらう必要はないと思ってる」

 「え?」

 「顔も髪色も身体も何もかも。自分じゃないなら、意味がない」

 「・・・・・・」

 何を言われているのか気付いたのか、女性は顔をうつむかせてしまった。

 女性の肩をぽん、と叩くと、イデアムは口元をニッと動かしてこう言った。

 「いつか君自身を受け入れてくれる人が現れるように、願ってるよ」

 「あの・・・!」

 そう言って、イデアムは颯爽と立ち去って行ってしまった。

 「あ?何してんだお前ら」

 「い、イデアムさん」

 「おかえりなさい」

 宿に戻ったイデアムが見たのは、相変わらず喧嘩をしているオリバーとホズマンだった。

 翌日、イデアムたちが宿を出て、手配して馬に乗って次の目的地に向かおうとしたとき、声が聞こえた。

 「あ」

 「あれ?あの子って」

 息を切らせながらやってきたのは、昨日の女性だった。

 髪は茶髪でパーマがかかっており、目も一重になっていた。

 「私、このままで頑張ります。いつか、あなたより良い男を捕まえますから!」

 「え?何?イデアムさん、あの子と何かあったんですか?」

 女性の言葉に、イデアムはフッと柔らかく微笑んだ。

 「ああ。頑張れよ」

 「はい!」

 こうして、イデアム達はその村から出て行った。




 「イデアムさんってば!あの子と何かあったんですか!?」

 「ったく。お前の頭にはそれしかないのか」

 「だって気になるんですもん!教えてくださいよ!」

 「なんもねえって言ってるだろ」

 「うっそだああ!!!あれは絶対何かありましたよ!」

 「めんどくせえなぁ・・・」

 イデアムのため息は、こうして生まれるのだ。


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