ヒーリング
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2025/07/07 編集しました。
<Side of Katsuki>
ゴブリンというのはどうにも知能が低いものと知能が高いものが存在するらしい。街の付近は神々の守護結界によって強力な、上位種への成長を阻害しており、小さな村にもそれは当てはまるらしい。小さな村や町などの、神殿をいくつもは建てられない集落にはパンテオンという全部の神への祈りのための神殿が必ずあるそうだ。大きくなくても、12本の柱を模したモノが立っていればそこがパンテオンらしい。普通は12本手前にあるが、もうほんとにお金無いです状態だったりするとその12本でそもそも建物を支える造りだったりもするとのこと。
とにかく、パンテオンがあれば小さな村や町は結界に包むことが出来るのだとか。俺らがいる町は町と言っているが結構大きなところだった。名前は“ヴァミ”。メインはヘルメス、商業都市なのだとすぐに理解した。
「嫌われてるわりに大きな街にはアレスの神殿あるんだよな」
「アテナは決まったやつしか守護できないからね。豪傑ならいいけど、脳筋はダメ、逆に作戦ばっかの陰険もダメ。エリート好みの高潔な御方ってとこだろ」
「隣村の爺たちなんか、アレスにしか祈ってないって話もあるくらいだ」
傭兵だから隣村まで行くのは当たり前らしいゲリタスは、そうやって俺たちにこちらのことを教えてくれた。
「戦争があったのか?」
「ああ、もう50年も前の話だがよ、俺の親父と御袋もそん時死んでんだよな。妹たちは知らねえ、死体はなかったからアルテミスんとこに行ってたらいいなあなんて思ってたわけだがな」
妹がいたのか。ゲリタスは隣村の爺さんの話をしてくれた。というか待て、ゲリタスって50歳超えてんのかよ!?
「まあ、今も生きてるかは怪しいが、10年位前に会った爺は、アレスしか自分たち一般兵を守ってくれる神はいないってずっと言ってたな。狂乱と混乱、恐怖に敗走、そんなものを率いる神だから、冷静に判断を下してから戦うやつよりも生存率や勝率は低くなるけれど、でもがむしゃらにやったら、もしかしたら逃げ切れるかもしれない。相手も狂気に巻き込んで、殺した方が勝ち、生き残った方が勝ちだ。戦争になんざ負けてもいい、生き残ったやつの勝ちだ。俺たちみたいないわゆる底辺層にいるやつらのことを肯定する神、それがアレスだ。そう、ずっと言い聞かせるように言ってたな。あの爺さんもガチムチだったから、たぶんアレスの加護を受けてたんだな」
……なあアレス。どこが嫌われてるんだ?
いや、素直に思うよね。
「アレース!! 城壁の破壊者よっ!! お前の中の人類は貴族とブルジョワだけですかいっ!?」
『んなわけあるかっ!』
あ、お風呂終わったのね。
『あのね、今ね、アレス顔真っ赤なんだぁ!』
ん、今反応したのはどちらさん? ゾエを見ると、お酒、と帰ってきた。ディオニュソスか。
『てめぇっ!』
『ほんとだもん! アレス可愛い!』
『かっ、かわ……っ!?』
明らかに狼狽えた声に、混乱中のアレスが瞼に浮かぶ。
『アレス様って自信をすぐ失くされてしまう方なんですよ。最初なんて、ゾーエー様はお分かりになると思うのですが、あの髪と目の色ですから』
「あーね。親と繋がりが見当たらないよね」
ゾエはそう言って、スケッチブックを取り出してさらさらと絵を描いた。そこには超イケメンと超美人。今の流れから行くとこれがゼウスとヘラなんだろう。
「こんな色」
どこから取り出すのかさっぱりわからないが、色合わせのカードも出して、色を合わせて見せてきた。イケメンの方は金髪、ワインレッドの目。美人はちょっとイケメンより薄い金髪に碧眼、つまりブルーグリーン。アレスの赤毛もサファイアもない。
「なるほどな。この顔で自分の容姿に自信持てないとか、俺僻むぞ」
「お前もかなり顔整ってるからな?」
「それお前が言うの?」
「どっちも整ってるってことでよくねえか?」
「「あんたもそこそこ整ってると思う」」
ネフライトがゾエのイラストを覗き込んだ。まるでアポロン様の加護を受けていらっしゃるような絵ですね、と言う。顔はないから表情はわからないけれど、たぶん笑っているだろう。
「さて。そろそろ休憩は終わりだ、次に行くか」
日が高く昇っている。お昼は忘れてきたと思ってたらアレスが山盛りの弁当をくれた、曰く、『こんなに食えない』。ヘスティアの料理じゃんこれ、アレス頑張れとゾエは笑っていた。アンブロシアが混じっていたらしく、アンブロシアはすべてゾエに押し付けた。
休憩を終えて戦闘に戻ると、ゴブリン達がわらわらと出てくるのを迎撃することになった。ゾエの攻撃は一撃でゴブリンが6体ぐらいずつ消し飛ぶ。斬撃が飛んでいるのだとすぐ気付いたから権能に制限をかけてもらって本当に切るだけにとどめさせた。そうじゃないといくら盾を持っているといってもゲリタスに怪我を負わせる可能性がある。というか、それくらい攻撃範囲が広かったからだ。
ゲリタスが釣ってくる。3人で囲んで大体は一撃。魔晶石が大量にとれるとれる。だいぶ体を動かすのに慣れてきたところでゴブリンから別の魔物に獲物を変えることにした。
「そうだな。ジャイアントアントなんてどうだ」
指差された先には俺たちが乗れちゃいそうなアリがいた、でかすぎて恐ろしいわ。でも乗ってみたい気持ちも湧くというね。近くに俺たちと同じく新人らしき動きの人を連れたパーティがいて、そいつらもこのでかいアリを狩るつもりでいることが伺えた。
「獲物が被ったな」
「どうする? 交渉に行くか」
「そうだな」
俺とゾエは武器をしまって、休憩にするかと話し始めたパーティに近付く。結構慣れてそうな感じがするな。
「こんにちは」
「?」
がっつり銀色の鎧を着こんだ茶髪の男が振り返った。ロングソード、宝石が埋め込まれている。ヘファイストスのファミリアの作だとすぐにわかった。
「おや、どうかしたのかい?」
「はい、俺たち新しくギルドに登録したばっかりで今武器に慣れるために戦ってるんですけど、的が被りそうなんです」
「なので、場所を決められるならと思って」
「ああ、なるほど」
その茶髪の男、爽やか系イケメンだった。笑って言った。
「僕は山崎隆志。君たちは?」
なんと、この人転生者のようだ。
「無悪勝己です。こっちは、今は名前違うんですが、慄木勝っていいます」
「あれ、人間じゃないの」
「はい、ちょっと訳あって種族は言わない方がいいかなと思うので、伏せさせていただきます。ゾーエー・クスィフォスといいます」
俺とゾエの言葉を受けて、山崎隆志、彼は自分のパーティメンバーに向けて言った。
「彼らはどうやら俺と同じ事情を持っているようだ。狩場の境界を決めるから少し待っていてくれ」
ネトゲ世代だこの人。まあ若そうに見えるしなあ。向き直った山崎さんはジャイアントアントを指して言った。
「次の獲物はジャイアントアント、街の周辺ではかなり強い部類に入るんだが、大丈夫かい?」
「神様転生なんで」
「なら大丈夫だね。ちなみに何?」
「防御系っす」
「斬撃飛ばせます」
「うわ、敵に回したくないな。僕は大剣のスキルを初期状態からカンストだよ」
なかなかえぐいチートを。大剣憧れてたんだよねえと語る山崎さん、なんとこちらに来て19年生きているそう。どうも、彼は神様の手違いによる死とかいうテンプレじゃなく、単純に魂が綺麗だったから転生しただけの人らしかった。
「ちなみに22で死んじゃったんだよね」
不遇な死だったようだ、まだ生きていたいよ、と願ったらアテナが転生させてあげましょうとかのたまったらしい。アテナの御眼鏡にかなう人だったってことなんだろう。
「ハデスいい人だよね」
「うん、ヒュプノスに抱き枕にされるのはどうすればよかったのかいまだに謎だけど」
境界線を決めて、一緒に食事でも、と誘われたのでゾエを見ると、頷いた。そっか、今話しかけてくると向こうにも聞こえてしまうからアレスは口を出そうとしていないようだ。
「じゃ、また後でな、勝己、ゾエ」
「じゃあな、隆志」
「またな」
俺たち18の齢、とりあえず彼は同じ年代の俺らと、精神年齢が同じくらいである(?)ゲリタスを気に入ったらしく、ゲリタスまで誘って一緒に食事にということになった。だからとりあえず友達として、呼び捨てで呼び合うことが決まった。恐縮しちゃう。
ジャイアントアントを釣るのは今度は俺の役目になった。小石の投擲でやることになった。とりあえずジャイアントアントの腹を狙う。ボール投げとまではいかないが、そんな気持ちで小石をぶん投げる。
そしたらなんと。
ジャイアントアントの腹に穴が開いちゃった。
ジャイアントアントは撃沈。マジか。
「……えー!?」
「なんだその馬鹿力は」
「そういや勝己は強肩だったな」
ソフトの時にいつもキャッチャーやってたとかね。強肩ってよく言われてたよ、俺。ゾエが笑った。まだ死んでなかったのでさっさと頭をぶった切って眠ってもらった。
クロオオアリをでっかくした感じだな。小指の長さぐらいの魔晶石と同じぐらいの大きさの神晶石が出てきた。魔晶石だいぶたまって来たな。神晶石はやはりレアものらしく、あまり出てこない。魔晶石の10分の1ぐらいだ。これでも結構溜まってる方らしいことはゲリタスの言で分かったけれど。
数にして4個、あくまでもゴブリンは40ぐらいは倒している。ゲリタスの言葉も加味すると、いかにレアものかが分かるってものだ。
「……どの神殿に置きに行く?」
「ヘファイストス、アレス、あとは隆志の所属かな」
「じゃあラスト1個はお前ってことで」
「なんじゃそりゃ」
これ以上は出ない可能性もあるのでさっさと決めておく。ゲリタスがまたジャイアントアントを釣ってくる。俺じゃ釣りにならねーんだってさ!
♢
遊びを交えてやったら怪我しました。はい。バカやったと自分でも思ってるよ。ジャイアントアントの顎に腕を挟まれて、血が出た。そこより内側に入るために腕を引いたから傷は広がって、赤い血液がだくだくと溢れた。腕に力を込めて、とアレスに囁かれた。そうしたらなんか血が止まった。深いところの血管を絞めたらしい。ゾエがジャイアントアントの頭を一突き、黒い靄になって消え去った。魔晶石と神晶石が落ちて、ネフライトとゾエとゲリタスが俺に駆け寄ってきた。
「ええっ、絶対防御だろ!?」
「いや、守護方陣はあくまでも武器を持っている奴の間合いに反応するのかもしれない。ジャイアントアントはたぶん、間合いを詰め過ぎたんだ」
それか、とゾエが口を開いた。
「今のジャイアントアント、形振り構ってなかったな」
「ああ……」
「アレスの狂気に作戦は皆無だ。もしかすると、相手が狂乱状態に陥ったりすると守護方陣が反応しきれないんじゃ」
「可能性はあるな」
ふむ、穴のあるチートか。なんかあんまり無法にしたくはなさそうな雰囲気を感じる。まあ、それはそれで面白いじゃねえか。ゾエをニヤリと笑ってみると、ゾエも笑い返してきた。何か含みのある笑みだが。
「この初期段階で分かってよかった」
「経験積んだらこのチートも成長したりして」
「可能性あるな」
最初からステータスカンストだけがチートじゃないんだぜ。いっそカンスト目指すか。それも楽しそうだな。
『守護方陣で怪我した馬鹿チート発見』
『なんだと!? あれは私が用意した最高のものだぞ!?』
この声はアテナだ、と苦笑したゾエ。状況報告はいるか。俺は空を見上げて言った。
「アテナごめん、怪我したわ」
『間合い詰め過ぎだ愚か者!』
ごめんなさい。
でも逆に、あんまり間合い詰めないようにとかじゃなくて、間合い詰めた時の守護方陣の使い方も知っといたがよくね? よし、ゾエに組み手の相手してもらおう。
「でも、丁度良くね、ネフライト、ゾエにヒーリング教えてやってよ」
『は、はい!』
ネフライトが俺の傷口近くに留まった。ゾエは無意識にだろうけれど水を生成して(水魔法も使えるの!?)俺の傷口を洗い流して、ネフライトの指示に従う。
『ヒーリングはまず、相手の完治している状態を思い浮かべるんです。そして、その傷の付近にある相手の血肉に対して魔力を捧げるんです』
「ん……」
目を閉じたゾエの手からぽう、と淡い緑色の光が出て俺の傷口に触れる。暖かい。心地いい。傷口が見る見るうちに消えていった。
「すげー」
「おお、傷は消えたか」
「ああ」
『普通は初めてでここまではできないんですよ?』
ネフライトが驚いたように声を上げる。つまりそういうことらしい。服の底上げのせいもあるんじゃないかとも思ったが、はて、それだけで魔法が使えたら職業にはならない気がする。
「傭兵はある意味マルチだからな」
『アレス様はあまりにも自分を蔑ろになさるものだから逆に御自分で何でもできるようになってしまわれるんですよ。まあ、ファミリアはそこまで辿り着くかどうかがまずわからないんですが』
俺の場合はたぶん加護をもっと注いでもらえるだろうとのこと。マジか、と言ったら、アレスから声をかけられた。
『ゲリタスならさっきのは避けれたな』
「ほうほう、アレス、ゲリタスを引き合いに出したっつーことは、俺はゲリタス並みかそれ以上いけるってことだな?」
『ったりめーだろ、お前自分のスペック分かってんのか』
「へ?」
剣道中体連個人の部3冠に高校総体個人の部2冠ですが何か。あと1年やりたかった。
『極東の武術はアレスの流す戦い方と似ているから合い易いんだろうな』
アテナの声がする。長い槍と盾を使って近接戦闘をするのがアレスのスタイルなのだそうだ。結果的に槍でも盾でも受け流すことが多くなるらしい。
「へえ。ところで思ってたけどさ、アレスってオリンポスでは嫌われてんの?」
『話の飛躍っぷりが恐ろしいな!』
『本人の前で言うかよ!!』
『はは、案外人間が勝手にアレスを嫌って言ってる話も多いぞ、特に地球はな、場所が悪かった』
今度は俺でも知ってる、ヘファイストスの声だった。いつの間にそこに行ったんだ。
『ヘファ兄』
『事実だろう、そうだな、例えば、デイモス、フォボス、ハルモニアについてはどういう話だと思っている?』
俺はゾエを見た。ゾエは苦笑した。これはゾエは実際の真実を知っている顔だ。とりあえず俺が答えなくちゃいけないようなので答える。
「……えと、アフロディテとヘファイストスが結婚した後、アレスとアフロディテが結んだ愛人関係でできた子供、っつー認識ですけど」
『そうだろうねえ。それが実は、デイモスとフォボスは俺とアフロディテが結婚する前からいて、ハルモニアは確かに結婚した後に生まれたけれど、時期的な問題で俺もアフロディテもアレスもちゃんとアレスの子だってわかっていたとしたらどうだい?』
「……アレスを貶めたいだけの神話に聞こえまーす」
『その通りなのよ! あいつらアレスの美しさとその権能以外はまともにアレスのこと書かなかったんだから!』
アフロディテと思しき女の荒上げた声が聞こえた。
『もうひとつ! ヘファイストスの顔のどこが醜悪だっていうのよ! オリンポスにいたらちょっと見劣りするなーってその程度じゃないの! こんなに優しそうな顔した男神は他にアレスくらいしかいないんだから!』
『アフロディテ落ち着け』
『落ち着けマジで』
アフロディテの言葉を聞いて、そういやそうだなと俺は工房で会ったヘファイストスの顔を思い出した。優しげな光の灯ったルビーとサファイアブルーのオッドアイ。そういえば、彼の目がサファイアブルーなのはアレスと同じだったな。瑠璃色ともいうのか。
「つかぬことを聞くけれど。アレスといいヘファイストスといい、ヘラには似ないのか?」
『母様か……俺はこの金髪ぐらいかな』
『前髪切ってて分かりづらいけど、分け目と髪の飛ぶ方向かな。顔はもう、俺たち独特だよな』
『俺なんかクロノス爺上に似てるよお前マジその面晒すんじゃねえタルタロスに落ちろって言われたことあったわ』
『クロノスは赤毛だったもんなあ。お前の方が圧倒的に鮮やかだけど』
髪以外に似る要素はなかったんですかね。ゾエは声を殺して笑い転げていた。
そろそろ日が傾いてきたな。もう帰らなくちゃいけないなあと呟くと、ゾエも空を見上げて、ヘリオス、お疲れさまと声をかけていた。どうやらアポロンは他のことで忙しいようだな。この時間帯は、エオスの管轄だったっけか、とつぶやくと、違うとゾエから返ってきた。ヘリオスの後は昼のヘメラ、月のセレネ、そして曙のエオス、また太陽のヘリオスと回るらしい。
「アレスー、悪いけど俺もヒーリング覚えるからー」
『はぁっ!? てめえそれじゃあ怪我しても隠すチート付きになるじゃねえか、許さねえぞそんなの! 怪我の治療ぐらいアポロンかアスクレピオスんとこに行け、つーか来い!!』
『ほう、怪我をしても散々隠し続けて過労で倒れる間抜けな軍神がそれを言うのか、アレス』
『こちとらいつお前がボロ出すかって目を光らせてるんだぞ?』
『アテナとヘファ兄はもっと他のことに労力使って!? 俺ばっか気にしてると皆に馬鹿にされるって!!』
『怪我したことを否定しないんだなアレス! よかった、ヘスティア伯母様とアスクレピオスに連絡入れていたんだ、あの子たちの食事までには戻るためにさっそく行こうではないか!!』
『ああああっ! ヘファ兄、アフロディテ放して! あとなんでちゃっかりお前がいるんだアルキッペ!?』
『お父様はきっと医務室へ行って他に来る神々に笑われるのがお嫌いでしょうから、人払いしておきましたので』
『いらない、その気遣いいらない!』
アレスは連行されていったようだ。アルテミスだろう女の声がした。
『じゃ、また後で会うことになるわね。ていうか、あんたらあのバカ兄のファミリアなのになんであんな細っこくしてるのよ! 使えないわね!』
う、辛辣。するとゾエが言った。
「アルテミス、ちょっと聞いて。アスクレピオスからアレスの病気は鬱ですって言われるかもしれない。その時は、もう、治すのは無理と思って。人間だと精神安定剤とか飲むレベルだからね、かなり進行してるからね。神だから死ねないから自殺してないだけだと思うから」
『……すごい医療知識ね』
「いや、この齢なら大体わかるよ俺らなら」
そうか、じゃあ、そろそろお暇するよとアルテミスは言って行った。ゾエを見ると、あっはっは、あの口調は今日のお食事会にアレスを引きずり出すつもりだな、と笑った。向こうも狩り終わったらしく、隆志が俺たちに声をかけてきた。一緒に換金場へ行くことにして、俺たちは城壁をくぐって街へと戻った。