ゾーエーとカツキ
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2025/06/29 編集しました。
<Side of Katsuki>
「俺の加護を受けるといろんな制限が付く、これだけは覚えておけよ」
そう言ってアレスが俺に言ったのが、まずは馬のことだった。暴れ馬しか懐いてこなくなるとのこと。突撃しろってか。いい度胸だこの野郎。
次に、武器。弓矢は相当俺のセンスが良くないとあまり当たらなくなるそうだ。剣、槍は上達が早くなるとかそういう加護もつくらしい。
「金を稼ぐなら魔物を倒して奪ったアイテムを売る、一番簡単なのは魔物が必ず落とす“魔晶石”をギルドに収めることだな。これは依頼を受けなくていいから初心者向け」
アレスは親身になって俺に構ってくれて、武器合わせまでしてくれた。神殿に捧げられたものは人間に使わせることはできないそうなので、お店に行って似たような武器を探すことになるようだ。
なあギリシア神話よ、この神のどこが粗暴なのか教えてくれたまえ。俺がそんな顔をしていたのか、アレスは苦笑してこう言った。
「俺は、戦場では随分と変わるからな。とんでもない戦闘狂なのは認めるぜ」
「自分で言っちゃうのかよ」
「事実だからな」
でもアレスの膝の上でネフライトは羽を休めている。
今気付いたが、神殿の中はとても綺麗にしてあって、アレスの加護を受けたあの傭兵たちが綺麗に片しているのだと漠然と思ったのだ。
「……俺はな、皆の帰還を待っていても意味がないんだ。俺の加護で死んでしまうから」
アレスはそう言って、お前が守護方陣持ってるって知ってほっとした、と幸せそうに笑った。絶対帰ってくるという安心感からくるものみたいで、連絡は絶対入れるぞと胸に誓った。
「そういやアレスって巫女さん居ないのな」
「ああ……いいんだ。傍に置いておくと愛着が湧くから……死なせたくないのに、防衛の時は矢面に立とうとするからな。だからいらない」
しまったと思った。
それと同時に、その言葉を正したい気持ちにかられた。
アレス、それはいらないって思ってるんじゃないんだ。
言い回しが幼稚に感じたのは俺だけじゃないはずだ。何かある。
そう思った時だった。
『アレス!! お前んとこに新人入るっつっただろ、なんで会議に来ねーんだよ!』
でかい声が神殿に響いた。声は横の噴水からしていて、そこに虹がかかっていた。
「イリス……ポセ伯父上、行かねーって言ったでしょう、新人とかもういりません、もう手一杯なんですってば」
『うるせー、もうお前んとこに入るの決定だからなこいつ。刃の神なんぞアテナんとこにゃいらんらしいからな』
「はぁ……」
声の主がなんか楽しそうなのはなぜだ。ポセってポセイドンか?
祭壇に海色の光。アレスが俺の目を覆った。強烈に光って、アレスの手が離れた時にはもう目の前に、青紫の髪とオリーブ色の目の、綺麗な白のキトンと緋色のヒマティオンを着た、俺のよく見知った顔のやつがいた。
「……え」
「……あ」
「……ようこそ新人」
アレスはそう一言そっけなく言ってどっか行ってしまった。でも俺とそいつは互いを見つめたままだ。
「勝……?」
「勝己……!」
俺たちはお互いに抱き着いてその感触を確かめ合った。
マジかよ、どこ行ったか分からなかったのに、こんな早く会えるだなんて。
ハデス、ありがとう。約束してくれたことは守るってことなんだろう。ところで新人っつってたよね? 何、お前何に転生したわけ?
「……勝、お前一体何に転生したんだよ?」
「あー、なんか神様になったっぽい?」
「は!?」
「刃の神様とか言われたわ」
お互いを見るために身体を離して、なんじゃそりゃと返したら、ゼウスとヘラがとんでもない神格を俺に寄越してきたんだと小さく言った。
「で、お前はアレスの加護を受けるんだな?」
「ああ」
「じゃあこれからも会えるな!」
「マジか」
アレスが3人分茶を持ってきて、まあ1人分はネクタルだったわけで、人数合わねえなあって思って、アレスの分がないことに気付いた。
「アレス、あんたの分は」
「え? ああ……俺はいい、いらない」
「ほうほう」
俺と勝は顔を見合わせて、茶とネクタルに口をつけずに話し込んだ。
「これからギルドに行くんだな」
「ああ。んで、登録して魔物を狩るところからだな」
どんな武器があるのかとか、勝はヘファイストスとアテナの話をよくしてきたけれど、どうやらアレスが仲のいい神らしい。アレスもちょっと会話に入ってきて、たまに俺と勝の頭を撫でる。
「新人、名前まだ聞いてなかったな」
「ゾーエー・クスィフォスだよ」
「……また奇妙な組み合わせだな」
「なんか意味あるの?」
「“命の刃”だな」
アレスの答えに俺は何となくピンときた。勝の言い回しに違和感を覚えた俺の頭に浮かんだ可能性は、所謂警鐘を鳴らしている状態と言えばいいのだろうか。アレス、お前今、とんでもなくヤバい状況にいるんじゃねーの?
「そういやこいつか、お前の言っていた親友って」
「ああ。元の名前は慄木勝っつったんだけど……ゾーエーって言いにくいや、ゾエでいいか?」
「ゾエかよ。いいけど」
アレスとネフライトと勝―――いや、今はゾエか。4人で話していて、ネフライトが非常にお茶を飲みたそうにしているが俺たちが飲まないのが非常に気になって飲めずにいた。
「飲んでいいぞ?」
気付いたアレスが声をかけるが、残念だったなアレス、お前の分がないから飲むに飲めないのは俺たちだって同じだ。
そのうちゾエの腹がきゅう、と可愛らしい音で鳴った。
「うあああ……!!」
「ドンマイ」
こっぱずかしくて死ねると俺に泣きついてきたゾエ、変わってねえな。アレスがアンブロシアと供物らしい焼き菓子を持ってきたのでついでに酒杯も持って来てよと言ってアレスの分まで無理矢理用意した。
「俺、いらないって……」
「普通は全員分用意するんだよ。でないと、俺らも飲むに飲めねーし食うに食えねーじゃん」
俺が言うとアレスはしぶしぶといった風に頷いた。ネフライトがアレスに擦り寄って、アレスはそれを撫でていた。無論、アレスが手を出すまで俺たちは食わない。談笑しているだけなのになんだこの攻防は。
「……お前ら、新手の虐めか?」
「いや、俺らんとこにもお前の彫像や絵画くらいあるんだよね」
「明らかに今のお前は細い。何も食ってねーだろ。死なないからってほっとくとろくなことにならねーぞ」
そういってやると、観念したのか、はたまたアレスもいい加減気付いてたのか。アレスがアンブロシアを口に含んだ。
「……」
「……食ったらなんかダメなん?」
「……あんま、食えない、から。食っても、もどすし」
「「!」」
俺とゾエは顔を見合わせた。神様も病気になるのか? これは過度なストレスによるものだった気がするが。でもちょっとでもいいから食べないと、俺たちもかなり心配する羽目になる。
「アレス、お前拒食症か?」
「……拒食症?」
「食っても吐くっての、そんなやつだったと思う」
あんま詳しくねえけど、と付け足すとアポロンのとこ行かなきゃ駄目かな、と返ってきた。無理していく必要はないけど、あんまほっときすぎだろ、とアレスの頭を撫でると、アレスはそれが気持ちいいらしくて頭を手に擦り寄せてきた。
「……お前ら、あったかいな」
「……宿はまだ泊まれないし、ここで寝泊まりしていいか?」
「! もちろん!」
俺の言葉にアレスはなんだか嬉しそうに承諾する。一方のゾエの方はどうやらオリンポスに召喚されてしまったらしい。ゾエの身体の周りに金色の光が舞う。
「うわ、帰んなきゃいけねー」
「マジか」
「わり、先に帰るわ。アレス、ちゃんと来てくれよ? 勝己、また来るからな!」
目を瞑ると閃光が溢れ、次の瞬間にはもうゾエの姿はなかった。
「時間潰させちまったな」
「いや、俺も楽しかったから」
「そう言ってくれるとありがたい。……もう出歩くとあぶねーから」
「ああ」
もう外には出ずに過ごせってことらしい。すぐにアレスもオリンポスに行くんだろう。俺が寝るまでここにいそうな感じだし、腹も膨れちゃったし、もう寝ようかな。あ、明日は風呂探そう。2日以上はさすがに耐えられそうにないし。ということで、おやすみ。
♢
<Side of Zoe>
オリンポスに戻ってきた俺は元気いっぱいだった。
マジですか。だって、まだなんか、ちょっと転生したっていう自覚はそんなになかったんだけれども、なんか元気そうな勝己見たらほっとした。なんだかんだ不安だったんだな、俺も。
いやでも本当によかった、でもまさか勝己がアレスの加護を受けるとはな。てっきりアテナあたりに行くかと思っていたんだけれど。
オリンポスとの行き来は基本的に呼吸をするようにできるようになれとポセイドンに言われた。言うだけ言って帰ろうとしやがったので俺と勝己が死んだ地震ってあんたの手違いのせいでしたよねー、と棒読みで言ってやったらそれは本当にすまなかったとえらく姿勢が低くなったのでそのままやり方を教わったのがこの3日間の話だ。
俺の権能についてはいろいろと試し撃ちをアテナがさせてくれて、俺が刃を飛ばすことが出来るということが分かった。いわゆる飛ばせる斬撃ってやつだ。あと恐ろしいことに言霊使いでもあるらしくて、アテナの横にいてやたらアレスを馬鹿にしてくる羽の生えた元気娘にイラッと来たので右腕切れろ、と呟いたら右腕がぶっ飛んだ。彼女の名はニケというそうだ。勝利の女神ニケ、某スポーツ用品メーカーの元の名前だな。
アレには俺もかなりビビった……神様の血って金色なんだな。小説で読んだだけだったけど、イコル、だっけか。アスクレピオスが近くにいたから何とかなりましたけどね。
怖い、マジ怖い。口に出した部位を斬撃で襲うというとんでもない血濡れた力だ、でもアレスの下なら仕方ないかな? というかむしろゲームやってたら憧れるくらいの力だと思いませんか。やり過ぎだとは思うけど。
「さて、戻って来たけど……」
お花畑スタート。実はこの花畑はデメテルが管理しているらしい。今はコレーがいる。コレーはペルセフォネのことだ。冬の間のみハデスのところにいる、その時はペルセフォネ。春から秋まではコレーという名で呼ばれている。ハーブ畑がちょっと離れたところにある。コレーとデメテルはそちらに見えた。
「あ、お帰り~!」
「ただいま、コレー、デメテル」
「お帰りなさいゾーエー。アレスどうだった?」
デメテルがこっちに寄ってくる。目が合ったので頷く。
「ネクタルとアンブロシアは何とか口に入れたけど、アポロンかアスクレピオスのとこ行かなきゃだめだ。拒食症みたいな状態っぽい。鬱とかかな」
「まあ、そんなに酷いの……?」
デメテルは困ったような表情をした。そりゃそうか、食事さえとっていればデメテルがいろいろいじれる部分があるから。デメテルだけじゃない、ヘスティアやヘラも家庭料理だの栄養価だのっていうのはいじれる権能を持っているらしい。でも、そもそも食べてなかったら元も子もないじゃないか。
「吐いちゃうから食べないって言ってた。まあ、今日は少し食べたけど」
「そんな……」
コレーにとっては父が同じで兄弟の範疇だろうからやっぱり気になるんだろう。でも、少しは飲み食いしたって分かったからちょっとほっとしたような顔をしていた。
「ヘベとエイレイテュイアがとても心配していたから」
「ほんとに兄貴思いね、あの2人」
デメテルとコレーはじゃあ、と言って仕事に戻っていった。
俺は大理石で覆われた神殿というか、家に帰る。俺に与えられているのはアレスの神殿の横の小さめの建物。アレスの下で働いている屈強なおっちゃんたち、皆すごく優しくて、今日アレスに直接会ったらなるほどと思えた。
アレスの子供のデイモス、フォボスは双子でデイモスが兄貴で赤い髪、アレスと同じ綺麗な髪だ。全部後ろに流してるけど。所謂オールバックというやつ。目は桃色で驚いたけれど、母親がアフロディテだったことを思い出すと納得した。フォボスは次男、金髪で青い目がアレスと同じ。2人の話によると妹のハルモニアは“アレスとアフロディテに似て超絶美人で綺麗な金髪桃色の目、でも目元がアレスに似ている”とのこと。アレス美丈夫だからさぞや美人でしょう。あと兄弟は2柱いるそうだ。
俺の家には俺以外はいないはずなのだけれど、今日はどうやらデイモスとフォボスが来ているようだ。ちょっと騒がしい。
「ただいまー」
「お帰りゾーエー」
「ゾーエーどんな魔法使ったんだよ、父さんが帰ってくるって!」
デイモスとフォボスが顔を出す。いつぶりかと聞いたら300年ぶりとか答えやがって、家出するにもほどがあると思うよアレス。いや、それだけゼウスたちに耐えかねたということなんだろうけれど。
「父さんお前のことめっちゃ褒めてた、かわいいやつが入って来たなあって!」
「お前父さんの側近決定ね!」
デイモスとフォボスは俺の肩を組んできて、相当機嫌がよかった。というか、家に子供が居て親が家出してるってどうなの。いや、ゼウスには俺もかなり辟易したところあるしアレスの反応はむしろ遅すぎるとさえ思うけど。
「まあ、家出勧めたのオレなんですけどね」
横っちょから顔を出したのはカドモスだった。黒髪赤メッシュ、程よく焼けた肌、金色の瞳、筋肉質な身体。彼とは同じ世界出身ということで、出自は違うがヘラクレスやテセウス、ペルセウス、オデュッセウス、アキレウス、アルゴス王ディオメデス、カストールとポリュデウケスが仲良くしてくれている。ヘラクレスマジイケメンだった、オリオンは置いてきたらしい、地球の空に。アルテミスの初恋の人が……。まあそれはいいとして。
「ナイスだカドモス、人間の神経ならそうなるよな」
「当たり前でしょう、アレに耐え抜いた結果まともな神経すり減らして、いつも笑ってるようになったし戦闘狂っぷりに磨きがかかって。……見てるこっちが辛かったんですよ」
「もうほんと1日じゃ語りつくせないんじゃねーの、アレスのこと」
「無理ですね、優しいところ、トロイア戦争のこと、恥ずかしい思い出全部ひっくるめて最低1年はかかる」
「ねえお前最初の奴隷時代抜いてない!?」
フォボスとカドモスが盛り上がっていっちゃってる。突っ込みたいことはいろいろあるがカドモスは親アレス派の人間だ。ヘラクレスたちもそうなんだよな。アキレウス曰く、現場に立たないと分からないとのことだった。
俺たちはいろいろと考えを巡らすのが好きな平和な世代である分、こういった相手の気持ちを考えるということには長けた世代なのだという。アキレウスたちからすると俺たちがネットなんかで読んでいた小説なんか、皆書いてるから皆アポロンの加護を受けているのかと思ったこともあるらしい。
かわりにこうやって転生するのは少ない、それだけ魂が濁る、とのこと。俺や、チート転生者たちはそれなりのボーナスをつけていいくらい綺麗な魂の持ち主だったのだと理解した。
「あ、父さん帰ってきた!」
デイモスが言う。カドモスはハルモニアが着飾るのを手伝いに戻っていった。アレスはひっそりと帰ってくるらしい。まだオリンポスの皆の目が怖いのだという。デイモスとフォボスは家を出て行った。ここをいろいろ弄っていたということは、アレスの家ではなくここでやる気なのだろう。
「ゾーエー」
「!」
イリスが顔を出した。金髪碧眼、仕事終わりなのか髪を下ろしている。キトンは水色に縁取りが虹色で、金色に光を反射する翼が美しい。俺に駆け寄ってきて、ボロボロと泣き出した。俺に与えられた仕事は、神々のカウンセリング。あんまり長い時間を過ごすものだから、アレスみたいにぶっ壊れた神が他にいないか探してほしいとのことだった。その時俺はゼウスに返してやった、あんたら夫婦が一番ぶっ壊れてるよ、と。
「どうしたの、イリス」
「……今、アレス様が帰って来たって……なのに、皆さん教えてくださらなくて。ヘラ様がお待ちなんです、アレス様にヘラ様の許を訪れるように言っていただけませんか」
「……イリスはアレスが怖いの?」
「い、いえ……そんなことは、決して……」
イリスは俯いた。アレスはイリスに冷たい目を向けていたことがあって、それでヘラが叱ったことがあったそうだ。そのあとも何も変わらなかったのでヘラはアレスを無視した、と。それ以来アレスはイリスと目を合わせないそうだ。思いっきり後を引いてるじゃねーか。
「イリス、ひとつだけ言わせてくれ。たぶんアレスはあんたのことを気にかけているんだ」
「え……?」
「アレスって発想が極端みたいじゃないか。おおかた、『嫌われ者の俺と喋っていたらイリスは疑われるだろうな、それは避けなきゃだめだな、だってイリスは俺にすら笑顔で話しかけてくれるんだから』ってとこなんじゃないの。だからイリスが少しでも自分を嫌って、ヘルメスに自分宛の仕事が回るようにしたかった」
「……」
イリスは顔を上げた。泣きそうな顔だ。アレスが入ってくる前に追い返すべきかな、それとも、なんて考えていたらアレスが入ってきてしまった。
「……」
「あ……」
デイモスとフォボスと話して微笑んでいたアレスはイリスを見て笑みを消した。絶対零度の凍てつく視線がイリスを射抜く。イリスは震えながら、それでもアレスを見ていた。アレスは俺を見る。俺はアレスの方を向いた。
「……イリスに何を言った」
「お前が気付いてほしくなかったであろう感情を物語風に解釈してみた」
「……きっとお前が説明したほどきれいな感情じゃない」
「それがなんだっていうんだ。イリスがヘラの側近なのは俺だって知ってる、お前がヘラを苦手にしてるのも聞いてる。余計なお世話だっていうなら俺を無理に可愛がる必要はないよ。俺がやりたくてやることだから」
「……ほんと余計だ」
アレスの眉根を寄せた表情は苦しげで、俺がやってることがあんまり良くなさそうなのもわかっているんだけれども、ここまで来たらやりきらねば。
「……薄々気付いてたろ、アレス。明らかに人間だったやつがヘラクレスたちみたいに半分神の血が入ってるわけでもないのに神になるだなんて、よっぽどのことが無けりゃあり得ない」
「……父様の差し金だったか」
「好きに言っていい。でも、今日だけは楽しんで。皆、アレスが帰ってきたの、喜んでるから」
「……」
アレスは顔を背けて奥へと向かった、デイモスとフォボスは俺に一言、馬鹿、と言って行った。俺も自分馬鹿だと思ったよ。アレスの機嫌を損ねた。せっかく皆が楽しげにしていたのにな。
「……イリス、ごめんミスった、今の俺からはアレスには言えないや」
「……ごめんなさい、私のせいで……」
「気にしないで、大丈夫だから」
俺はアレスたちが行った方とは逆、寝室へ向かった。
なんかすげえ泣きたい。人間みたいな感情持ってる神様って、怖いなあ。