ダンジョン探検①
ダンジョン探検と言いつつやってることはスキル上げという。
ありきたりにしてたまるかと思いつつありきたりになる事実。
それはともかく、どうぞ!
<Side Zoe>
神様のカッコから人間のカッコにへーんしん。
アレスにやり方を教わって人間の姿になり、初期装備のままの勝己と一緒に装備品を買いに行くことにした。最初のお金は勝己から借りました。はい。
「勝己、お前のチート、バレねーように隠蔽しながら使え」
「はーい。ちなみに理由を聞いていいか」
「ヘルメスのファミリアには相手のスキルやチートを盗める加護持ちがいる」
「了解」
ヘルメスこわー、何それと勝己は言いつつも楽しそうだった。
だよね。
勝己はあんまり俺TSUEEEEしたいとは思ってないっぽいし。
俺もどうでもいいけどな。
だいたい、そんなチート能力、普通あるわけないのだ。神様転生だからってそれはあんまりじゃん。
いえ別にいいんですよ?
魔王になるとか勇者になるとかいうんだったらね。
それ以外にとっちゃただの宝の持ち腐れ――もとい、世界を崩壊させかねない危険分子だ。神様は世界の抑止力ですってか。上等だコラ。
俺と勝己と鉄郎がしっかり装備を整えたところで、エレンに会った。
「エレン」
「やあ、テツロー、ゾエ、カツキ」
「エレンも買い物?」
「ああ、流石にダンジョン内で神器を使うわけにもいかんからな。剣を新調しようと思って」
エレンはそう言って俺たちが出てきた武具屋を見た。
本当はヘファイストスファミリアのものがいいのだが、致し方ない、高いのだ。3人分、と考えると入れなかった。チートの性能確認もしていきたいだろうし、ほっとくことにするけど。
「お前たちはダンジョンに?」
「ああ」
「あまり無茶はするな。ゴブリン相手でも死人は出るからな」
「「「はーい」」」
勝己、鉄郎、レイナさんが返事をした。ゴブリンて普通に出るのだろうか。
よく考えてみれば、この帝国のこと何も知らん。
「ガッテラにもダンジョンってあったのか?」
「ああ、7階層あった」
「ダンジョンってどういう構造してるんだ?」
まったくわからないので尋ねてみると、ここでは何だからといって近くのベンチに座って簡単に説明してもらった。
「ダンジョンは10階で1階層、という。7階層というと70階あることになる」
「フロアボスとかいたりする?」
「ああ、10階につき強大なボスが存在する」
下に降りていく形をしている分、ダンジョンの階層は往復が大変なようだ。
行って降りて戻ってくるというのをしなくてはならないからな。
「転移魔法が使えたらそんなに苦労はないんだがな」
「転移の時に範囲指定したら相手の腕ズッパとか一瞬考えたけどこれスタンするだけだよな、俺」
「それな」
勝己と鉄郎は俺が言いたいことの意味を的確に汲み取ってくれた。
「あー、相手の発動が先になるもんなー」
「こっちから使えんのではどうしようもねー……旅、って言うならヘルメスの加護で抜けれるのか……」
「俺ヘルメスのファミリアじゃねーからな」
「分かってる。逆に、お前だけはアテナの加護で絶対帰ってくるのが確定してるわ」
帰ってこねーのはレイナさんと鉄郎だっつーの。むしろお前と俺が盾になるのが一番よくねえか。
「とりあえず、気を付けるべきなのは、タゲの擦り付けに遭わないことだな」
エレンが遠い目をした。されたことあるような目だなオイ。
「通常は食料も沢山持っていくことになる。そこは普通はアイテムボックスを使用するのだが」
「ここにきていきなりゲーム感覚が戻ってきたわー……」
鉄郎がそう呟いた。俺たちだってそんなこと思っとるわ。
ふいに俺はアテナに問い合わせをした。
『アテナさーん』
『ん? どうした、ゾーエー?』
『俺ってば特に何かを気にして活動する必要ってないよな?』
『ああ、神々同士の戦闘にのみ気を付ければいい。そんなことしようとしたらステュクスの効果で縛られてしまうがね』
はい、理解しました。
おそらく俺が冒険者の真似をしてアイテムボックスとかを使ったとしても何も言われないのだろう。というか、それはおそらくアレスがカンストしてるだろうよ。アイツにステータスがあるならの話だけれども。
だって殺戮とかだろ。
『神々のステータスなんて見てどうするのだ?』
『いや、なんとなく。つか、これ鑑定とかできねーの?』
一気にありがちなラノベ系の路線を歩み始めた気がするが気にしたら負けだろう、きっと。
『できはするが、どうするんだ』
『いや、トールとイシュタルが感知から外れるってゼウスに言われたなって思ってさ。それなら鑑定あった方がいいかねー、と』
アテナは少し考えていたけれど、苦笑した。
『私にはお前をどうこうはしようがない。スキル取得効果を付与されたアクセサリを探せ。私にできる助言はここまでだな』
『十分。ありがとう、アテナ』
俺はアテナとの念話を終えた。
アテナ、仕事中だったろうに応えてくれるとは。拒否ってもよかったのになあ。アテナって意外と女子高生みたいなとこあるんだよなあ。なんか今度勝己に作るの手伝ってもらおうかね。
「勝己、アクセサリ店に行こう」
「結局ヘファイストスの店かよ!」
「それな!」
結局アクセサリも作ってんのはヘファイストスのファミリア一派だったわ。結局行くんだね、俺たち。まあ、一番質がいいのが確定してるしなあ。
ただ、俺にその辺の目利きはできない。確実に目利きのアフロディテファミリアがいるわけだからヘファイストスファミリアの店に行った方がいいな。
「鉄郎はバーサク状態から変わってねーな」
「先にニャル挟んでるからじゃね」
「そっか、じゃあ早めにニャルのファミリアの拠点に行ってみるか」
ニャルラトテップ、アイツが挟んでいるのが確実である“狂気”は面倒だ。アレスの狂気補正で上書きされかかってて分かり辛いが、本来ならばニャルラトテップは相手を一目で発狂させるとかいうとんでも性能の邪神級のやつだ、いや、邪神だっけか。
意見をまとめつつ移動を開始し、雑談をすること10分。
結局、ヘファイストスの店の前に来ていた。
<Side Katsuki>
ヘファイストスファミリアのお店。
ここのはでかいな。すっげー。
どうやらここはアフロディテファミリアと合同経営になっているらしい。俺たちが中に入ると、カウンターには既にヘファイストスとアフロディテがいた。暇人か。
「やっと来たわね!」
「アテナから聞いたぞ」
てへ、と反応していたのはゾエだったのでこいつが何か知恵の女神であるアテナに尋ねたのだろう。知恵の女神であって知識の女神じゃないんだがな!
まあ、知っていたからいいのだろうが。
俺たちの扱いはまあ、特別なお客様。だからアフロディテとヘファイストスの案内で俺たちは一旦奥の部屋に上げられた。
「はい、お茶」
「アフロディテ様、言って下されば淹れましたのに」
「いいのよ、これくらい」
レイナが言えばアフロディテが笑った。
「ゾエ、お前アテナに何言ったんだ?」
「いや、ステータスわかんねーかなと思ってさ」
ステータスか。レイナをはじめ俺と鉄郎もふむ、と考え込んだ。
ステータスを見るなら鑑定か。
あ、ゾエのお仕事に何かいい感じで役に立ちそうなのかもしれない。
「アクセサリが出てくる原因は大方、そういう効果を持ったアクセサリをヘファイストスが作れる、ってとこか?」
「ああ。アテナはそういうアクセサリを探せ的なことを言ってただけだったがね」
アフロディテが口を開く。
「今のゾーエーは皆と一緒にいるってことで、いわゆる“軍神の記録帳”にアクセス権がないのよ」
「アレスとアテナが知っている知識等をすべてそこに集約してる、ってか?」
「ええ。アレスの系譜を継いでる戦神は多いわ。トールもそれだしね。人間の認識の仕方によってその世界で行使できる力っていうのが制限されてしまうけれど、アレスは問題外。人間、ひいては生物の本能的な闘争本能に根差してるところが大きいから、彼は何も大規模戦争ばっかりの担当ってわけじゃない」
人間が神、というものを認識しようとし出したころからそもそも戦神はいたんだろうな。アレスはかなり古い類の神の部類に入ると考えていいだろう。そしておそらく、この帝国をギリシャ神話の神々が守護しているのと同じで、他の国にはそれぞれの神話が付いてくると考えていい。
どこかに日本もあるかもしれない。中国もインドもあるだろうな。キリスト教みたいなのもあるだろう。
トールトール言ってるから北欧はあるだろうし、おそらくその基になったとされているケルトだってあるだろうよ。
ともかく、そんだけ古い神の知識なんぞ集約されたものにアクセスできたらそれこそチートだ。おそらくゾエはそれは望まなかった。だから無意識のうちにアクセス権を捨ててきたんだろう。
それで出来たのが、人脈を頼って得る知識、ということになったのだろう。アテナもそこまで詳しくは教えなかったのもこのためか。
「ま、本来ならその辺全部手探りで行く予定だったんだろうから、めっけもんだろ」
「そうだな」
俺が言えば鉄郎がうなずいた。
「そうね、私たちにできるのはアテナが言ってたアイテムの用意ぐらいだったし」
「それ以上の干渉は認められない。神は人間に干渉するものではない」
ヘファイストスの言葉に俺たちはうなずいた。ゾエは元々、他人の心配しまくって神になったようなもんだ。それが、やりたいことをするために神としてのスキルの大半を封じてここにいたいと願った。その結果がこれだ。
いいじゃねーの楽しくなってきたわ。
「これがアテナの言っていたものだ」
ヘファイストスに渡されたアクセサリは1つ。レイナが受け取ったので俺たちはレイナに着けるように促した。
これで用事は住んだ。俺たちは店を出て、近くの広場へと向き、ベンチに腰を下ろした。
「これ、スキル取得効果付与ってなってるけど」
「とりあえず鑑定だ鑑定」
「はーい」
ゲームの話が通じるやつばっかで助かったわ。レイナはしばらく俺たちを見回していたけれど、あ、と小さく声を上げた。
「きた、って、デュオニュソス様の声なんだけど」
「これは俺たちはアレスの声だったりして」
「可能性あるなー」
レイナが言うには、なんか、【鑑定Lv1】って感じで見えるような気がするらしい。
「……えっとねー、勝己と鉄郎は“人”でゾーエーは“鑑定拒絶”ってなってる」
「それは仕方ないわー」
「ゾエの神様レベル上げたがいいんじゃね」
「俺も思ったわ」
レベルの考え方存在してるしな。しかし、鑑定は重要だと思う。
「ダンジョンに入る前に鑑定のスキルとるに一票」
「賛成」
「だな」
ゾエにはアイテムの補正は掛からないらしいから、自主努力になるそうだ。というか、軍神にとっては必須スキルだぞとアレスから念話が入ったらしい。この野郎、とゾエは小さく呟いた。
アクセサリはブレスレットだったのだが、ちょっとずつひびが入ってきていた。ふむ、アイテムの効果回数ってのがあるのかもしれないな。
鉄郎を優先して、鉄郎が【鑑定Lv1】と習得したので俺も頑張ってみた。俺も【鑑定Lv1】になったところでブレスレットが崩壊した。おおう。
ちょっと鑑定してみた。
『崩壊中』
崩壊中ですって。うん、今まさにすべて砂というかもはや粘土質の乾燥したものになっとりますがな。
「ゾエ、どうだ」
「ん、鑑定とれた」
ゾエも無事に取れたらしい。周りのものを鑑定に掛けてみようかな、と思い、とりあえずゾエを見てみた。
『鑑定失敗』
「なにしたー」
「げっ、バレる系かよ」
ゾエが反応してきたのでバレる系だと判明。敵対する前提でモンスターに掛けることにしよう。おそらくゾエが神だから反応した、というわけではないだろうからな。
次に、自分に掛けてみる。
『人間』
はい。もっかい。
『人間』
『熟練度が一定に達しました。【鑑定Lv1】が【鑑定Lv2】になりました』
お、何か来たわ。とりあえず、ダンジョンに行ってから試そうということになり、俺たちはギルドへ向かい、ダンジョンに行くという旨を担当のギルド員に報告してからダンジョンへ潜った。
ダンジョンってのは、暗いものらしい。
「暗いなー」
「暗いね」
「暗いな」
「あ、暗視来た」
ちなみにゾエが一番近くにいる神だからということで、ゾエに全部このスキル読み上げ機能は押し付けられたようだ。便利っちゃ便利ですがな。ゾエのやつ勝手になんか俺たちのデータベース的なもん作り始めてたし。自分のを確認しようとしたら出てきたから俺らの分まで拡張してくれたらしい。何優秀に神様業してんだこいつは。
自分の鑑定をしたら見れるステータス表みたいなのをゾエが作ってくれているらしいが、俺たちのスキルレベルがそこまで高くないからまだ見れない。
『勝己【暗視Lv1】取得な』
……ずいぶんと個性の出る読み上げ機能だな。
ちなみにゾエも暗視は今来たそうである。
暗さに目が慣れてきたらゆっくり進み始める。暗いから周りの気配ってもんを探っていくかということで、周囲に警戒していたら【気配感知Lv1】と【隠密Lv1】が手に入った。
鑑定を掛けながらいくと、じきにレベルが上がった。
「ところでこれさ、俺たち自身にもレベルあんのかね」
「あー、どうなんだろうな」
神々から貰ってくる石でレベルを表すってのは何となくわかりゃするんだが。
でもそれなら、神殿無かったらレベル上がんねーじゃん?
『レベルは、経験の濃さで上がるものだよ』
おや?
この声は、ヘルメス?
『そうそう。ダンジョンにも入れるようにネフライトを強化しておいたよ。知りたいことがあったら彼女に聞くといい』
おお。ネフライトに久しぶりに会えるようだ。どっかでいなくなってから見てなかったからな。
そこに淡い光とともにネフライトが現れた。いや、ネフライト、なのかなこの子。淡い緑色の髪の幼女。ああ、そっか、ネフライトはいつも光ってたからか。
「皆さんお久しぶりです」
「久しぶり、ネフライト」
「おかえりー」
「ど、どーも」
鉄郎は合うの初めてだったな。鉄郎とネフライトがお互い自己紹介をしたあたりで暗視のレベルが上がった。
「辞書機能を付けてもらいましたが、ご飯を食べる量が増えました」
「そこは稼ぐから気にするな」
ネフライトはまず、レベルについて詳しく教えてくれた。どうやら、俺たちの知るゲームとそう変わらないらしい。
「まず、レベルについてなのですが、これは3種類あります」
「石の数で数えるやつ以外に? スキルレベルのこと? あと一つは……?」
「それを含んで、あなた方の身体のレベルと、魂のレベルですね。ゾーエー神は魂のレベルしか存在しませんが、現在は疑似的に受肉状態なので、身体のレベルも存在します。本当にまずいと思った時、またはアレス様、アテナ様と一緒にお仕事をなさるときはその肉体を解いてください」
「了解」
石で数えるレベルと、身体のレベルと、魂のレベルか。なんかレベル多くね。
「石の数で数えるのは、加護のレベルなんです。神々にどれだけ貢献したかっていう」
「あね」
「納得したわ」
「へー」
「ふーん」
それぞれが反応を返したところで暗視のレベルがまた上がった。
「鑑定で確認できるようになるはずです。身体のレベルはゲームを思い描いてもらえれば」
「うん、そうなるよね」
「種族としての人間のレベル上限は70です。ドラゴンなんかだと100とかになります」
「レベルマにしたらどうなる」
「進化できます」
「「「「は?」」」」
俺たちはそれに固まった。進化?人間じゃなくなるのか?
まあそれは別に構わんさ。
「人間といっても、それは単純に人型の種族を指しているだけです。人族の中にもいろんな種族がいます」
「ドラゴンに種類がかなりあるのと同じか」
「はい」
ゾエの言葉に、やっぱそうなるのか、と俺がつぶやくと、ゾエが詳しく説明をくれた。
「俺もまだアレスの息子、カドモスの竜牙兵から辿って調べただけだからそんなに種類はないが、俺が知ってるドラゴンは翼のあるタイプと、翼の無いタイプ。翼がないタイプはドラコン。翼があるタイプは俺たちがよく思い描くタイプらしい。火竜、地竜、水竜、風竜は確実にいる」
その調子だとまだまだ属性でてきそうだわ。
俺たちは鑑定と暗視と気配感知のスキルレベルを上げながら奥へ進んだ。
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