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転生したらチートになった親友と俺  作者: 日風翔夏
第1章 こうして俺らはチートになる
18/33

男は拳で語ると言うが

<Side of Katsuki>

「結局3日間何の音沙汰もなかったな」

「そうね」

パンテオンに集まっていたファミリアたちは皆自分たちの神殿で神々からのコンタクトを待つことにして解散した。

俺とレイナはパンテオンにやって来ただけだ。何か今日はあるような気がして。

レイナとぼけっとしりとりをしていたら、祭壇が光った。

「!」

「神々が来た」

俺とレイナは一旦目元を手で覆う。ギリシア神話の神々の特徴は、その姿を見ることが出来ないこと。そして何より、見たらそのエネルギーに人間が潰されてしまうということだ。まあ眩しいから大体は目を瞑るのだが。

閃光が止んで俺とレイナが手を下ろすと、そこにはゾエとアレス以外の神々もいた。

「おや、皆帰ってくれていたんだな」

金髪の男。

「彼らは?」

茶髪の男が言う。

「エルフの女の子は俺のファミリアさ。レイナっていうんだ」

紫の髪、ブドウの冠の男が言う。ホントに男かこいつ……?

「もうひとりはアレスのファミリア、勝己だ」

ゾエが言う。

「ゾエ、アレス!」

「勝己ただいま」

苦笑するゾエ、何だろう、どうしたんだろう、怒っているのが分かる。駆け寄って、ぐったりしているアレスを受け取る。

「何があったんだよ」

「ゼウスとヘラに屑っぷり見せつけられただけだ。あとアレスの馬鹿さ加減も見せられたよ、どっちも悪いから両成敗ってことでゼウスとヘラには土下座と制約を要求してきた」

「一方的だな」

「それさえあればアレスはゼウスとヘラがなってほしかった姿になるしかないのだよ」

「タチ悪っ」

レイナはディオニュソスに礼をして、ゾエが神々を紹介してくれた。金髪男はアポロン、茶髪はヘルメス、水色の髪はアテナ、青いポニテはアルテミス、紫の髪ブドウの冠はディオニュソス、金髪女はアフロディテ、そしてヘファイストスとアレス。

「災難だったな、アレス」

「……いやもうマジで勘弁してくれ……あんなことになるなんて思ってなくて」

「アレス、ちょっと青春してみる?」

ゾエが笑って言う、何をさせる気だこいつはと思っていたけれど、オリンポスで話していたことの概要を聞いていたらそうだな、青春しようかなんて思ってしまった。

「乗ったぜゾエ」

「よっしゃ」

「ちょっと待て、俺完全体じゃないとはいえ武神なんですけど!?」

「男友達の特権ってことで、拳で語り合おうじゃねーの、アレス?」

俺が笑顔で言ってやると、アレスは困ったように笑った。

「なんだよ」

「そんな風に言ってくれるやつ、本当に久しぶりだ」

「?」

「ザグレウスがなぁ、似たようなことを俺に言ったんだよ」

ザグレウスという名らしき言葉と同時に、視界の端にいたディオニュソスが赤面したので俺は首を傾げた。

「ザグレウスって?」

「ディオニュソスだ。正しくは、ディオニュソスの中に一緒に存在するもうひとりのディオニュソスを指している。アレスとヘファイストス以外はザグレウスの姿すら知らないんだ」

ヘルメスはそう言ってディオニュソスと肩を組む。

「……アレス兄さん、いきなり呼ぶなんて反則だよ……」

「ザグレウス出てきてたの?」

「呼ばれたらいつでも!」

「わかりづれーからなんか変えてよー」

「えー」

ゾエが言ったら、どうしようと真剣に悩むザグレウス。じゃあこうすりゃいいさ。

「ディオニュソスは右手、ザグレウスは左手を上げてから喋るってのはどうだ」

「!」

「名案」

特に物も必要ないしな。

「とりあえず誰かの神殿に」

「俺の神殿がいい、人数も一番少ねえ」

そういえば、パンテオンに来てから知ったのだけれど、アレスの神殿は一番でかい造りにしてあるらしい。帝国はもともと魔人の国だったらしいから、その名残かもなとゲリタスとは話していた。

「はは、笑っちゃうよね、人間てさ。アレスを嫌ってアレスの神殿を町の一番端っこにやっちゃった」

「一番守りが堅いのがアレスの神殿の周辺なのにな」

ヘルメスとアポロンはそう言ってアレスの神殿のある丘を見上げた。

そう。俺の高校生の知識で言うところの、アクロポリスなのだ、ここは。最も神聖で守護神を祀った神殿は小高い丘の上に作って、そこから見渡せるように都市国家を形成する。これがアクロポリスだ。

アテネのパルテノン神殿の図がよく教科書には載っているが、ここはそれがアレスの神殿というだけ。

「この町って規模的にはあんまり大きくないって聞いてんだけど」

「うん、ここはそんなに大きくないよ。大きくすると叩かれるだけだって人間もわかってはいるみたいでね、あはは、アレスの守護範囲からは遥かにはみ出てるけどね」

「だってここの測量したの俺とデイモスだもの」

「デイモスほんとにファザコンに育ったよな」

ヘルメス、アレス、アポロンが言葉を交わす。ゾエはくすくすと笑って、俺の方を見た。

「?」

「しばらく地上にいる予定だ、人間として生活する気なんだけれど、確実にアレスファミリーは来ることが分かってる。テーバイ王家の話は覚えてるか」

ゾエが俺に一気に話を振ってきた。テーバイ王家か。ああ、カドモス王の。

「カドモスだっけ」

「そうそう」

「アレスと関係が? ……アレスの奴隷になった話は覚えてるが」

「俺の義理の息子だ」

「娘居たの!?」

アレスの言葉に俺はええ、と声を上げてしまった。

「ハルモニアだぞ。アフロディテにそっくりな」

「アレスってホントに子煩悩だよね。でも言わせてほしいな、ハルモニアは明らかにアレスに似てるからね。アフロディテに似たのカラーリングだけだよ、ストレートの髪も竜みたいな目も―――あの怪力も」

ヘルメスの遠い目。何があった。

「ハルモニアがいればヘルメスも口を慎む」

「アテナ御姉様酷い! 口数は僕のアイデンティティなのに!」

「アレスはアポロンの音楽でも止めることが出来るが、ヘルメスのお喋りは止まらないからな」

アテナは少し、疲れているように見える。どうしようか。プライド高そうだし。ゾエがそんな俺に気付いてか、アテナを見て苦笑した。

「どうした、ゾーエー」

「いやぁ、アテナ疲れたっぽいなって」

「む……そんなにわかりやすいか?」

「いや、ほら、俺とか勝己とかってスポーツしてたから結構体調の変化には敏感というか」

「本音は?」

「……勝己はアテナの性格知らないから言っていいか悪いかすっごい迷ってた」

「はは、“お疲れのようですね”ならば普通に受け取るぞ」

つまりあれか、“手をお貸ししましょうか”的なボディタッチを含む言動は滅殺するわけですね分かりました。

「大丈夫か、アテナ」

「ああ、まだ歩けないほどではないよ、アレス」

「体を痛めていなければチャリオットで行けたんだが、すまないな」

「お互い様だ、アレスも今は自分の暴れ馬たちについて行けまい?」

軍神たちは恐ろしい話をしているようだ。

アレスはゾエの頭を撫でる。おや、ゾエも怪我をしているな。

「なんか皆ボロボロなんだな」

「ゾーエーの権能に散々やられてな、彼がとんでもないスペックの持ち主で、彼を抑える役を担うはずのアレスが封じられた状態ではまずいということが判明した」

「それでだ。このあとちょっとアポロンの予言をアレスファミリアに受け取ってもらおうと思って」

歩いて戻ってきた俺たちを迎えたのはゲリタスたちだった。

「ただいまー」

「お帰り。で、そっちのきんきらきんは予言の神かよ」

「そうらしい」

「牛みてーな高価なもん持ってねーぞ」

アレスのファミリアはどちらかというと狩りをしてしまうタイプのため牛肉なんて食わないのだ!

ちなみに俺はゲリタスから罠の作り方を習ってウサギを捕まえるのが今の精一杯だ。

「はは、狩りならアルテミスに任せてくれ、頼める?」

「わかったわ。何人いるっけ」

「ファミリアは6人」

「アレスイノシシよこしてよ」

「草原にイノシシどうやって出せってんだよ」

中に入った瞬間にあ、と小さく俺は声を上げた。

「?」

「どうした」

すっげえ威圧感のあるやつらがいるんだけど?

赤い髪、額当て、目元は暗い、マフラー、槍、ガチムチ!

金髪、青い眼、デュアルアックス、細身。

「あ、いや、何だろ」

はは……足動かねえぞ嘘だろオイなんだよこいつら。

ゾエが俺の視線を追って声を上げた。

「デイモス、フォボス! 彼は死地に立ったことなんてほとんどないんだ、恐慌に恐怖なんてひっ被せるんじゃない」

「!」

アレスがそいつらを見た。

「デイモス、フォボス、まだ動くなって言っただろうが!! 俺の言うことが聞けねえってのかっ!!」

デイモスとフォボス、アレスの息子たちか。

「……親父、一番、不安定」

「戦争の臭いがするしディオメデスは帰ってこないし向こうにもファミリア居るし! 父さんもっと危機感持ってよ本当に!! しかもアポロンの横とかダメ、絶対!! 襲われるに決まってる!」

「デイモス、フォボス、アフロディテみたいなことを言うんじゃない!」

「「その息子だから仕方ない」」

アレスが怒鳴ったあたりから俺は足が動くようになった、そうかそうか、デイモスとフォボスもすごい力を持っているんだな。

「デイモス、フォボス、こいつが俺の親友の勝己ね」

「あ、お前がカツキか!」

「……よろしく」

「おー、よろしく。赤いのがデイモス、黄色いのがフォボスだな」

「うん!」

髪の色で呼んだのにうっれしそうに笑って返事するフォボス。デイモスはマフラーを少し口元から下げて小さく何か言った。


あ、俺デイモス好きかも。


「で、デイモスもフォボスもどうしたの、その恰好」

アフロディテが問う。

「あー、母さんそれがさあ、よくわからないの! 気絶しちゃってさ、気がついたらこのカッコ! 兄ちゃんは見ての通り顔半分隠しちゃってるし口数減ったし! ハルモニアとカドモスもなんか変だって言ってたし! 父さんと母さんに何かあったの?」

フォボスが答え、アフロディテはうなずいた。

「これからここにいる全員に説明することになるからお前たちもよく聞いておくのよ」

「はーい!」

「……分かった……」

デイモスが悲しそうな顔をした。ヘルメスが言った。

「アレスの変化が、お前たちが受け継いだアレスの性質を変容させているのかもしれない。大丈夫だよ」

祭壇にまで向かって、アレスの祭壇には赤い布が掛けられているのだけれど、その上に神々は腰かけた。アレスは大体ここに座っていたから、ここでは椅子代わりなんだろう。

アレスのファミリアは俺を含めて6人。え?

「ちょい待ちアレス、ファミリア7人じゃなかったっけか」

「7人揃ったことあったか? この町のラスト1人は猫の獣人なんだが」

アレスの言葉に俺とレイナは顔を見合わせた。

「まさかあの猫ちゃん」

「6ってカウントしたってことは」

もう町から出たってことじゃあ、と思って、ほっとしたけれど、逆に、そのまま安心なんて感情は湧いてこなくて、たぎるような。

「っ!?」

俺は胸を押さえた。するとゲリタスが急に水を持ってきて飲め、と俺に差し出す。俺は言われるがままに水を飲み干して、多少落ち着いた胸の炎がたぎるような熱に顔をしかめた。

「……予想以上にマズい方向に行ってるな」

アレスがつぶやいた。ファミリアたちがアレスを見上げた。

「じゃあこれは間違いねえんだな、アレス」

「ああ」

「戦争か」

「どうせ南のアフォディア伯爵だろうよ!」

ファミリアたちの話についていけないのでゲリタスを見ると、説明をくれた。

「……まあ、胸がたぎるってのは、アレスファミリアならまず戦争の前触れだと思え。新人はまだ加護がうまく体になじまなくて一気に暴走するから、慣れるまではこうやって思い切り冷たい水を飲んどけ。間違ってもデイモスには近付くな、フォボスはいいがデイモスの神格はアレスのファミリアでも理性がぶっ飛ぶからな」

本人の前で言いますか普通、とツッコミを入れると、これがアレスファミリアってもんだと返ってきた。

「お前たちに伝えておかねばならないことがある。まずはアポロンの神託を聞け」

アレスが言った。俺たちは祭壇の方へ向き直る。アポロンが静かに口を開いた。

「……アレスの愛し子の誰かは数日後、猫の死に会う。猫を殺す虎に刃を向けたのち、同胞と争うことになるだろう。それこそが戦の火蓋を落とす時。戦姫の刃に掛かり皆傷付く。全員の血が流れた時、封じられた神々は本来の姿を取り戻し、お前たちに、侵略者を打ち払う力を与えるだろう」

アポロンが笑った。

「今のが神託ね、頑張って詳しく言ってみたよ!」

「うわ今の解釈の仕方がいくつもあるんですけど!!」

俺が言うとゾエが苦笑した。

「よく話し合ってごらん。あまり詳しく言うと父上の勘当を受けることになる」

「アポロン、俺盾になれるぞ?」

「いらないから。そうやって傷付きに来るのやめてくれ」

「はは、冗談」

アルテミスはそこで外に出て行ってしまった。大切な要件は終わったってことなんだろう。ゾエがあ、と小さく声を上げた。

「?」

「ヘファイストスだ」

「……一緒に来てないと思ってたけど、自分の工房から降りて来たのか」

俺が口に出すと、そうだよと優しい声が上から降ってきた。

「おひさ」

「うん、久しぶり、勝己」

アレスとアフロディテが祭壇を降りて、ヘファイストスに肩を貸す。脚が萎えている分、ヘファイストスの移動は大変だ。俺はアフロディテよりもタッパあるし、アレスやヘファイストスに比べりゃあ小さいけれど、少しはましだろう。と、ゾーエーも降りた。

「アフロディテ、替わります」

「アレス、替わるよ」

身長は同じくらいの方がいい。俺の方が若干高いけれど、アレスとアフロディテの20センチ差よりは幾分かましだ。

「あら、」

「え、」

「どっちにも負担かかるだろ」

「身長は近い方がいいってね」

俺たちは顔を見合わせた。同じこと考えてやがったか。

「ははは、仲のいいことだ」

ヘファイストスが笑った。ヘファイストスに肩を貸して、ゆっくり祭壇に上げた。

「重いだろう」

「全然」

「アレスよりは」

「俺を引き合いに出すんじゃねえよ」

ヘルメスとアポロンが笑った。アテナもくすくすと笑った。

これでいいと思うんだ。

「さあ、神託も伝えたし、あとは君たち次第だ。さて……アルテミス、何を取ってくる気だろうね」

「草原にイノシシなんて出ませーん」

「ガゼルか、あるいは」

神々の言葉についてなのだが、俺たち転生者は自然とその言葉に訳されて聞こえているようだ。最初から転生者はチートらしい。普通は言語を学ぶところから―――なんてネタも少なくないからな!


十数分後、アルテミスがガゼルを獲って来たのでアレスに教わりつつ俺が解体をする羽目になった。

「アルテミスがもう血抜きしてくれてんだから楽勝だ」

「俺動物解体したことねーよ」

見てたけど。

イノシシの解体は見てたけど。

「ほら、ナイフの持ち方はこう、」

アレスが一からちゃんと教えてくれたので指示に沿って解体を進めた。

「お前らだったらウィンチで吊るすんだけどな」

「現代語使うなよ、ここいってて中世だろ」

「まーな」

血を浴びることを苦としないアレスはウィンチ代わりにガゼルを吊るしててくれた。背中から毛皮を剥いでブロックごとに切る、間接硬いんですけど。

「角度を調整してだな」

「もうちょい下!」

ヘルメスにしろアポロンにしろ我がとこの牛を解体してらっしゃるからな、慣れっこなんだろう。そしてゾエももうちょっと右、とか指示出してくる、なんなのお前ら!

「くっ……」

「挫折ー?」

「まだウサギの解体もしたことねーもんな、カツキ」

「それ先に言えよ」

替わるか、とゾエが言うので俺は首を左右に振った。ここで諦めてられるか!

「おお、どうした」

「絶対終わらすから!」

「手早くなさい」

「「「「「「「アルテミスそれ余計」」」」」」」

「皆して何!?」

皆に見守られつつなんとか切り分けを終えた俺でした……。

焼いて食べました、おいしかったです。


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