自分嫌いの神様
書いてて自分が切なくなりました……自己嫌悪に陥ってる子がいます、ご注意ください。
テリテス帝国、通称グレイシア帝国と呼ばれるこの巨大な国家は、もともとは魔人の国だったと言われている。またそのため、テリテス帝国の名を知る者は魔人以外には神代の者たちのみとなっている。首都は完全に氷に覆われた自然の要塞である。しかし、周りへと侵略をすることはほとんどなく、穏やかに周辺国家は暮らしていた。その平和を崩すのはいつだって周りの小国たちに過ぎない。テリテス帝国は人間が治めている国ではないためだ。人間の作る小国に興味などないのである。人間よりも不器用な種族の集まりで構成される種族である魔人族は、全体的に手先の器用さに劣るものの、知能、筋力、体力、魔力のおいて人間をはるかに凌駕する。ただし一部、ドワーフのように体力、知能、体力、手先の器用さにおいて人間を凌駕する種族もあるなど、一辺倒に見てはいけない種族でもある。
荘厳な宮殿の庭に大量の白い花が植えられている。水晶宮と呼ばれるこの宮殿に住んでいるのは魔人である。庭の一角で優雅にお茶をしている3人組がいる。この氷に閉ざされた場所で咲く花など、この白い花以外にありはしない。
「―――え、何か来た?」
「話聞いてた、ハク?」
「聞いてなかった!」
小さく息を吐いた赤い髪の青年が、ハクと呼んだ銀髪の少年の頭を撫でる。
「それで、ハク、僕の話聞かずに何考えてたの」
「えーっと、うん、何か来たよ。南の方。たぶんガッテラから」
ハクの金色の瞳は楽しげに細められた。赤毛の青年は何となく察した。よく知った者たちの反応と似ているからだ。いや、そもそも彼の一家がこの国の守護神だったはずなのだが。
「ねえアンテロス、行こう、一番南の町」
「おや、行くのかい、ロクなことないよ」
青い髪の青年が言う。大きな角、竜の翼と尾を持っている。
「父のファミリアがいる。両方にだ。ハクが行けば戦争になる、確実に」
「俺が戦争好きなの知ってるでしょ?」
「アンテロス様を誘うなと言っているんだ。お前はよくてもアンテロス様は生粋の神なのだから」
「もー、ドラクラは真面目すぎてつまらないよ、なんで軍神の子供なのにそうなってるの」
「我らの父は誠実で素直な方だ。人間の語る神話に流されてはならない」
ドラクラは目を閉じている。そもそも、見えていないのである。
「まあまあ、ドラクラ、久しぶりに父上もオリンポスに帰ってたらしいんだけれど、入れ違いになったんだ。会いに行ってくるよ」
「……そうですか。無茶は禁物ですよ、アンテロス様。ハクはちゃんと鎧を着ること。リュートも心配するから」
「皇太子を心配させたりなんかしないよ! ちゃんとお手紙書くから」
分かった、とうなずいて、ドラクラは姿を消す。
「支度は皆がしてくれるだろうから、武器を取りに行こうか。そろそろ仕上がっているころだろう」
「うん」
ハクは立ち上がる。白と金色の尾が揺れる。猫のような尾だが、縞模様だ。
「だがしかし、何故いきなりやって来たのだろうか」
「そんなの簡単だよ! 人間は基本的に3つの理由でしか動かない!」
アンテロスの問いにハクが笑って答えた。
「感情、お金、神託だ」
<Side of Zoe>
「ふざけんな馬鹿野郎なんでこんなもん設定してるんだ!!」
ポセイドンのすさまじいがなり声が会議の間に響いた。
「解きにくいのをって言ったのは父様です」
「アレス、いくらなんでもこれじゃあ……!」
「解く気も失せるわね」
ヘルメスは復活してきている。
今俺たちが話しているのは、アレスの封印を完全に解くためにやること、なのだが。
「なあアレス、」
「ん」
「お前、他の神々とファミリアどっちが大事なの?」
「……」
迷ったよこいつ。
アテナは意識を取り戻したからここにいるけれど随分とフラフラで、ニケが支えているけれどなぜアレスを睨んでいるんだ。
「……アレス、解放される気がなかったのか」
「……基本的には。……かけた時にはこんなことになるなんて思ってなかったんだ」
「いつも通り、アレスの思慮が足りてないってことですね!」
ニケの言葉にどうしても俺は斬撃を飛ばしてしまって、早速ニケの服が掠った。
「あ……もう、いきなり切らないでよ!」
「じゃあ俺の前でアレスのことあからさまに貶すのやめてくれる!? アテナ様大事なのわかるけどね、言わせてもらうよ、俺アテナのこと大っ嫌い!」
「何よ所詮物理的なものしか支配下にないくせに! あたしだってアレスなんて大っ嫌い!!」
「デイモスもフォボスもあんたのこといいやつだって言ってるのにね! 見損なったぜ駄女神!!」
「あんたなんて一生勝たせてあげないんだから!!」
「別にいいぜお前が俺を勝たせねーってんなら俺はアテナの傍にいりゃあ打ち消せるんだからな!」
「口ばっかのひょろ男のクセに!」
「戦争知らない平和な世代に言われても知ったこっちゃねえなっ!」
俺とニケが応酬を繰り広げている間にアレスとアテナは何か話しているようだった。アレスがデイモスとフォボスをここに連れてこないのはたぶんアテナのとこのニケと喧嘩するからなんだろうな、となんとなく思った。アイツらマジアレスのガード堅めてる双璧だもんな。カドモスとハルモニアとディオメデスがさらに固めてる感あるけど。
「……ところでニケ、」
「なによ」
「あんたティタンだったよな」
「そうよ」
「アレスと生まれたのはどっちが先」
「あたしよ! って何言わせんのよ!」
「年齢は聞いてねえよ!」
単純にアレスのことずっと見てたんとちゃうんですか、という話であって。
「見てたわよ。当たり前じゃない。こんなクソガキのやることいちいち覚えちゃいないけどね!」
ニケはそう答えた。俺はアレスの方を見る。アレスは顔をそらした。
オリンポス12神とその従者たちが来ているこの場において、いったい何でこうもポセイドンが怒鳴ったりしているかと言えば、アレスの封印を完全に解くためにはちょっとばかり血を流してもらわねばならないという―――はた迷惑な。戦争しなくちゃいけないらしい。
「で、こんなクソ真面目な話も記憶の彼方かよ、ニケ?」
「……そう、ね。嘘、何でありえない、そうよ、こんな重大なこと、しかも戦争関連! なんであたしが覚えてないの!?」
「アテナ絡みでニケが覚えてないのはおかしいと思う神ー」
皆無言で手を上げる。そしてアレスは手を上げない。
「アレス、何をした」
「……」
「アレス、黙秘権はないぞ」
ゼウスが近付いてきてアレスの傍に立った。つか、ヘファイストスとアレスって飛び抜けてでかいなあ。
「なぜあえてアテナに負担がかかるような封印を組んだ」
「……」
「答えろ、アレス」
ゼウスはお気に入りのアテナを傷つけるような封印を組まれてご立腹のようだ。でもアテナの方は何かわかっているようで。俺を手招くのでアテナの方へ行くと、いきなり。
チュ、
「……ッ!!!???」
顔が火を噴くぜ!!
「なんだ、初心な反応をするのだな」
「あんたにされたら誰だってこうなる!」
えーと要約します。
アテナに手招きされたので近付いたら、デコにキスされました。
うん、顔が真っ赤なのがよーく分かります。
「……で、何、要件」
「ふふ。ひとつとっても残酷なことを教えてやる、反動でお前が傷付かぬようにしただけだよ」
「あ、守護の加護? ……何その地雷踏みたくない」
「まあ聞け、」
ゼウスとアレスの睨み合いは続いている。俺に小さな声でアテナが告げたその事実に、俺は、すぐに飛び出してアレスを殴り飛ばしていた。
「!?」
ゼウスが驚いて俺を見る。
「……アテナ、教えたのか」
「無論だ。むしろここまで彼が感情的になってくれることに感謝したらどうだ。私が思い出した記憶の一部を伝えたにすぎん、あとはお前が全てを吐けば済む話だ」
「……」
アレスはうつむいた。ゼウスとポセイドンがアレスに詰め寄った。
「どういうことだ」
「すべて話せ」
アレスは俺を見た。困ったように笑っていた。
「―――俺は、このオリンポスに封印をかけた」
規模が違い過ぎた。
「!?」
「このオリンポスに、だと!?」
「レトとヒュプノスに無理強いしてですよ。俺ひとりでんなことできるわけない」
アレスはカラカラと乾いた笑い声を上げた。壊れた人形のように、ひとりでに喋り出した。
父様とポセ伯父上は覚えてるかな、アテナが生まれた時のことを。アテナはとても美しい軍神として生まれた、すべての神々に祝福されたのだ!
たった一つだけの欠落があったが、それこそが彼女の彼女たる所以だった。俺は初めてできた妹だったこともあって、アテナがすごくかわいかった。同じ、戦を司るっていうこともすごく嬉しかった。一緒に仕事するんだなって思っていた。でも、アテナは侵略戦争には向かなかった。領土の拡大のために望まれた軍神じゃなかった!
侵略という、大義名分のない戦争は、勢いに乗って戦火を広げていく、人間は高慢になっていく、調子づいてく。アテナはそれに耐えられなかった!!
アテナを守りたかったんだ、でも俺はやっぱり馬鹿で、うまいことが思いつかなくて、人間が調子づいて狂気に呑まれていくのならば、その狂気を俺が引き受ければいいと思った!
アテナの戦い方は直感なんかで切り抜けられるものではないから、考えることをやめたら負けるのは分かっているから、それぐらいは俺にも分かったから、アテナの思考のフリーズを少しでも取り除きたかった、突っ込んでいくしか能の無い俺にできるのはそれぐらいだった。
俺はまずアテナに作戦を話した。一部を話さずに。俺が嘘をつかないって、嘘を吐くのが下手だってアテナは知っていた、だから言わなかった部分は勝手に想像して信じてくれた。ヒュプノスから、痛みを感じなくて済むように少し眠り薬を借りてくる、狂気が全て俺の方へ来るように、俺の権能に狂気を含めるように神格の書き換えをする、父様に許可をもらう、アテナは眠って、目が覚めたら終わっているよ。完璧だった、完璧だったんだ、俺がドラ息子演じてりゃあ自然と父様たちは俺を厭うようになって、俺に封印をかける!そうすればもう二度とアテナに掛けた封印だって解けないはずだった!
アテナを柱にしたのは、父様だったらアテナが傷付くことは避ける、俺なんかよりアテナを取るってわかっていたから!代わりにアテナの封印を解くのは俺を柱にしたんだ、案の定父様はあっさりとアテナの封印を簡単に解いた。でも、ヘスティア伯母上が気付いちゃったんだよ、俺の封印に気付いちゃったんだよ、だから、だから俺はヘスティア伯母上にも封印をかけた!もうその後は最悪だった、父様とハデ伯父上とポセ伯父上にはもう封印かけてたからよかったけど、母様とかヘベとかエイレイテュイアとか、皆に知られた、後戻りなんかできなかった、だから皆まとめて封印をかけた!
あとは皆の記憶通りだ、俺は馬鹿でアテナに負けっぱなし、不誠実で汚らわしい、血にまみれた凶暴な軍神。アテナは理性的で戦略による勝利を好む絶対勝利の軍神、いや、守護女神。
ああもう記憶が戻って来たでしょう、父様、ポセ伯父上、本当にごめんなさい。お願いだから時間をください、封印の柱を自分に戻すから、もうこれを解かなきゃアテナに無茶させるだけなんです、お願いだから待って。
アレスがひたすらひとりで言葉を紡ぎ続ける姿の痛々しさったらない!
相当壊れてると思っていた、でもそれどころじゃなかったみたいだな。お願いだアレス。俺たちが呆然と止まっているのを、時間をくれるんですね、ありがとうございますなんてそんな嬉しそうに言うなよ。
俺は権能を押さえる方に集中した。俺の権能が発動していたら皆がズタボロになる!
アレスは封印の柱を自分にすり替えているらしい。
「ゾーエー……」
ゼウスが俺の名を呼ぶ。ゼウスを見ると、泣きそうな顔をしていた。俺を抱きしめてきた。なあオイ馬鹿ふざけんなお門違いだろ、今はアレスを支える時だろ、なんで俺なの、ねえゼウス!!
声は出なかった、喉に手を当てたら濡れていた、ああ、今日はここから切れたのかチクショウ。
アレスは笑って振り返って言った、「終わりました。いつでもどうぞ」。俺はついアレスの方を見てしまって、アレスが驚愕に目を見開いて、俺に手を伸ばして、でも触れることが出来ないってそんな悲しそうな顔をするんだ。ゼウスを突き飛ばしてアレスの前に膝を着いたら、アレスは一番俺がやられたくなかったことをした。
「……アレス、」
声が出た。かわりにアレスの喉が切れている。
「……ふっざけんな、こんなのされたって嬉しくねえっ!! ああアレスお前は大馬鹿野郎だぜ、傷を代わりに持っていくのでそんな顔するなみたいな顔するんじゃねえっ、このクソシリアスな少年漫画パターンなんだよボケっ、たとえ神が不死身でもこうやって傷付くんだぞ馬鹿ッ、ああわかったわかったよアレス、お前自分を大切にできないから皆にひどいことできるんだっ、ああくそどうすりゃいいんだよっ!!」
泣き叫んでたのは俺の方だった。
なんでこうなるんだよ。
アレスは慈しむような目で俺を見る。
アレスは自分を大切にする方法を知らない。だから平気で自分をすりつぶすようなマネができる。大切にされてこなかったからだ。それは親が悪いのか。いや、それがそうと言い切れないから俺は泣きたいんだ。
「アレス、お前が言ってる封印って、記憶だろ。皆の記憶をレトの川の水で消しちまったんだろ。ヒュプノスの眠り、レトの忘却!! 併せて使って、自分が今までやって来たこれから演じる役に似つかわしくないことはすべて記憶から抹消したんだな!! ハデスがやたらお前を心配するわけだっ、ハデスたちはちゃんと覚えてたんだろ、なんでこんなことしたんだよ!」
神々をも置いてきぼりにして俺はアレスにがなりたてた。アレスはつらいだろうその呼吸で答えた。
「……俺はまだ、そのころ、武神だった。俺に敵うものなんていなかった。伯父上たちだって、アテナだって、父様だって。俺が皆蹴散らした、ヒュプノスもタナトスもハデ伯父上もポセ伯父上も父様も、最初は俺が狂気を引き受ければアテナはちゃんと生きていけるってそう説得したのに駄目だっていうんだ、アテナは戦場に立ち続けた、任された仕事はやらなくちゃって、戦士が死んでいくのを見ては泣いていて、私に彼らを守る力がないなんて言って、ずっとずっと泣いてて、軍神にあるまじきって言われてて、俺は褒められてた、俺の方こそ蔑まれるべきもの! 城壁の破壊者、血生臭い戦いを好むのは昔っからだよっ!! 反対したやつは全部腱ぶった切ってやった、追っかけてこれないようにしてやったんだ、オリンポス中が敵だった、でもそれさえ乗り切ったら! アテナが! 皆に軍神として愛される華々しい日々を送れるようになるって! 疑わなかった……まさか俺が! 最初にアテナを裏切るなんて!!」
傷は塞がって流石神とかそんなこと思って、でもアレスの言っていることの意味を掴みそこないそうになって、理解を追いつかせながら聞いていて、ハッとした。
駄目、それを言っては。
アレス、それは言っちゃだめだ。
「アレス、だめ」
「ゾーエー……俺、どうすればいい? 自分でこうなるようにしたくせに……母様を失望させるようなことまでしたくせに……そのくせして、アテナと比べられたくないだなんて!! ああ、なんておぞましい!! 自分ではかりになると言っておきながら今更になって俺は過去に自分自身に定めた役割を投げ出そうとしたのだ! なんという自己中! 散々オリンポス中を傷つけてその報いだと受け入れてきたことで勝手に傷付いてこのありさまだ! ゾーエーお願いだ、お前の権能で俺をぶった切ってくれ、皆を傷つける俺なんて大嫌いだ、お前を傷つける俺なんて大嫌い。こんなところで挫折するなんて、アテナに約束したのに、守るって約束したのに、」
アレスの目から涙がボロボロと零れ落ちる。なんでこんなに自分が嫌いになれたの、アレス。小さな傷を掻きむしり続けてきたんじゃないの。こんなに傷口は広がって。
アテナの記憶も消したくせに自分はまだ相手が覚えていもしない約束のためにこんなに傷付いて。
「皆を傷つけたのは俺なんです、皆に嫌われるのは俺なんです、お願いだから愛して、」
アレスの言葉は懇願へと変わった。ゼウスはあっけにとられて、震えていて、アレスに手を伸ばして、
「アテナを愛して」
アレスをひっぱたいた。
「っ……?」
アレスが叩かれた頬を押さえてゼウスを見る。周りの神々の怒気がすさまじいことになっている。デメテル、ヘラ、ヘスティア、アフロディテ、ヘファイストス、アポロン、ヘルメス、アルテミス、ポセイドン、ディオニュソス、無論アテナも、そしてニケも。エイレイテュイアもへべもいる、皆が怒っている。
「なんでそこでアテナなんだっ、そこは“俺を愛して”でいいだろっ、なんでお前は愛されたがらない、愛されたいと泣き叫ぶ声をそうやっていつもいつも押し殺し続けてきたのかっ!!」
ゼウスの雷が落ちる。
「お前とアテナが生まれた時期の記憶が抜けている。本当はいくつ開いているんだ」
「……1000年は、少なくとも」
「は、はは。おかしいと思っていたらそういうことか。ああ、アテナが弱くなるわけだ、お前の神格には勝利が混じっているな!? それをニケに託して狂気に書き換えたのだなっ、愚か者めっ!!」
ゼウスの雷がアレスを焼いた。
「っ―――!!」
「無くなった記憶の中に何がある? 僕はお前に何をした?」
雷がアレスの体を焼き続ける。
ゼウス目が逝っちゃってるんだが、もし俺の予想が当たるとえらいことに、ヘラを見たらヘラの方も見下したような目をしていて、この状況に慣れているような目だったから確信に変わってしまった。アポロンとヘルメスは真っ青に青ざめてカドゥケウスと竪琴に手がかかっているもの。
「ゼウス止めろっ、今自分がアレスに何してるか言ってみろっ!」
ゼウスが動きを止めて、アレスを見た。アレスは雷に撃たれて疲れ果て、倒れ込んでしまった。髪が焼け焦げた部分とか、肌の火傷が痛々しい。
「……え?」
「そういうことね……くっそ、結局これかよ!!」
俺はアレスにヒーリングをかける。
「……どう、いう……?」
「ゼウス、ヘラ、あんたらクロノスとレアよりタチ悪いぜっ、クロノスはお前ら呑み込んだかもしれない、でもレアはゼウスを逃がしてるよな。確かに兄弟全員助かってんだからあんたらよりアレスたちはマシかもなあ! でもだったらなんだよ、アレスは輝かしい才能を持ちながら同じ場所に立っているはずの兄弟より疎まれていつでも半殺しにされてたってわけだっ、皆の記憶を消したのは故意にだ、アテナを守ろうとしたのはアテナにあんたのこの雷の矛先が向くと思ったからだっ、アレスは自分から盾になりに来たんだっ、クロノスとやってること変わらねえじゃねえかっ、アテナを妊娠したメティスは呑み込むわ、自分よりも高い神力を持つ自分よりも武に優れた子供は迫害して現実逃避を抱かせるほどっ!! ヘベ、エイレイテュイア、今のヘラの目見たか!? アレスなんて打たれて当然どうせ死なないんですからね私たちの立場を危うくする可能性のあるこの子はこうあって当然、そんな目だったぞ、やっぱヘラお前母親失格だろ、やっぱり俺はお前ら夫婦が大っ嫌いだっ!!」
ああ。
もうオリンポスにいたくない。
アレスをこのまま連れ去ってアヴリオスへ降りてしまおう。
せめて、アレスの傷が治るまで。こいつらのとこじゃなく、もっと暖かい場所で過ごさせてあげたい。
「ゼウス、俺はアレスを連れてアヴリオスに降りるよ。戦争になるかもしれない。アレスを責めるな。俺がやることだ」
「ゾーエー……!」
ゼウスが俺を呼ぶ。俺はゼウスを睨み返した。
「一緒に降りてくる神々がいるだろうな、少なくともアレスの配下は皆そうだろうよ!」
凄惨な戦場になるだろう。でも俺には関係ない。ゼウスの愛し子たちが死んだとしてなんだというのだ。
「ゼウス、ヘラ、あんたら俺にマジで土下座しろ。そしてアレスをこれ以上殺さねえってステュクスに誓え。それが出来たらかかって来い」
身体が光に包まれる。アレスの手を握りしめ、目を閉じた。




