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転生したらチートになった親友と俺  作者: 日風翔夏
第1章 こうして俺らはチートになる
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解呪Ⅱ

<Side of Katsuki>

ゾエのやつ、今日は来ない気なのかな?アレスも来ないし、でもまあ昨日のあれがあったんだから何かやってるんだろうと勝手に想像して、俺はギルドへ向かった。

「ああ、おはよう、勝己」

「おはよ、隆志」

「今日は1人?」

「ああ」

「じゃあ一緒に行くか?」

「え、ほんと? ありがとう」

隆志のパーティにいれてもらうことになった。俺の武器を見て珍しいわねとヘルガが言う。

「そんなに珍しいの?」

「ああ、こっちじゃ見たことなかったよ。やっぱりヘファイストスファミリアの?」

隆志が言う。レイナさんもうなずいた。

「いや、これはファミリアのじゃない」

「え?」

まさか、とルイがつぶやく。

「ヘファイストス神がてづから作った品を!?」

「ああ、まあそうなるかな」

ヘファイストスの品にお目にかかることはほとんどないのだそうだ。ゾエは刀の手入れの仕方知ってるんだろうけれどなあ。

城壁の外に出ると、今日は少し遠くへ行ってみようか、と隆志が言った。

「西に1時間くらい行ったところに神殿跡があってね。かなり古い時代のものらしいんだけれど、そこにちょうどいい、群れない魔物が居る」

そういうことなので俺たちは弁当の準備もしてきていたのでそのまま目的の神殿跡へと歩き出した。

「そういや、ファミリアってどれくらいいるんだ?」

「うーん。僕のところは男が圧倒的に多いなあ。全部で150人ぐらいだよ。たった1柱、この程度の街なら多い方だよ」

隆志はそう言った。150人か。そこまで多くない……。この町の人口は10万くらいらしいからな。

「アポロンファミリアは40はいるかな。まあ、狩人、吟遊詩人、ヒーラーで別れてると思えばそんなに多くないけれど」

ルイはそう言って苦笑した。

「ディオニュソスファミリアは女性ばかりね。12人よ」

「ゼウスファミリアは67人だよ~かわいい男の子もいるよ~」

「ゼウス人気だな」

加護を受けやすい武器やもともと持っている属性というのがあるらしく、それによってほとんどは加護を求める先を決めるようだ。

「アルテミスファミリアは15人。永遠に少女でいられるっていう加護付き」

「うお、流石アルテミス」

「で、アレスファミリアは?」

「……あー」

俺は頭を掻く羽目になった。

はっきり言うと、すごく少ない。

「……俺含めて7だ。去年までは10人いたらしいけど」

「去年のフレイムエレメントが襲ってきたあれでじゃないか?」

「ああ、確かアレスファミリアだったよな、あの4人」

御存知なようで。

去年夏のこと、フレイムエレメント、要は炎を操るアストラルボディの魔物のことだ。このシリーズはエレメントが一番厄介で、物理攻撃がほとんど効かないらしい。こいつらよりも物理攻撃が通る代わりにこちらも物理攻撃を受けやすくなるのがスピリッツと呼ばれるタイプらしい。

この、フレイムエレメントが城壁を破壊しようと一気に炎を放ってきたのだそうだ。その際にアレスファミリアの者が盾になると言って飛び出していったそうである。まだ入って間もなかった2人のファミリアと、そのサポートに向かった2人のベテランのファミリアが死んだ。彼らの時間稼ぎのおかげであとはゼウスファミリアとポセイドンファミリアのメンツが魔法で叩き伏せた。戦死者はその4名のみ、アレスはしばらく神殿に籠ってお怒りになっていた―――。

「アレスの怒りに触れたらこっちも何されるかわからないって皆ビビってたけどさ、昨日の様子見てる限りさ、ねえカツキ」

「ああ。それ、間違いなく」


「「ファミリアが死んで泣き暮らしてただけだ」」


「アレス神いい人なのになんで嫌われてるのかな……」

「死ぬからだろ。ファミリアもほとんど独り身だよ」

話していたら、スピリッツに出会った。え、ネフライトどうしたのかって?わからない、昨日あの光と一緒にいなくなってたんだから。

「こいつらアクティブなんだよね」

「マジか」

「うわ」

「ねえタカシ、なんで私たちが分からない言葉がカツキとレイナに通じてるの?」

「共通の知識を持っているのさ」

英語とゲームという、な!

スピリッツ、薄い緑、ああ、なんかもこもこしたい。近付いてくる。

「こいつはウィンドスピリッツだな」

風魔法をガンガン使ってくるタイプらしい。ヘルガが詠唱を始めた。ルイがヘイトとりに行った。

俺はそっと刀を抜いた。その時、上空で雷鳴が鳴った。その瞬間、急に体の力が抜けた感じがした。

「えっ?」

刀を取り落としそうになって慌ててしっかりつかんだ。それで気付いた。これ、すげえ重い。アレスの加護で筋力が上がってたのか!

いや、でもこれはこれでいけないこともない。ちょっと気に入らねえけど。

「どうした?」

「わかんない、けど今なんか、アレスの加護が切れてるみたいだ」

「えっ!? なぜだ!? そんなっ、」

「いい、気にするな、出てきちゃったもんは仕方ないっ!」

俺はそう言ってとりあえずヘファイストスに祈った。この刀だけが頼りになる、あと守護方陣。思い切り踏み込んで下から切り上げる。

『まったく世話の焼ける父だ―――いくぞ勝己。【紅蓮】』

ヘファイストスの声がした。

『ゾーエーに祈れ』

ゾエに、祈れ?おう、祈るぞマジで。ゾエ、つーか勝!このスピリッツ倒すのに力貸してくれ!

袋に入れていたはずの赤い石、神晶石がふっと軌道上に現れた。ばきん、と石が砕けて、次の瞬間、炎の斬撃がスピリッツに当たった。

『ピィイイイイイッ!!』

けたたましい声を上げたウィンドスピリッツ、周りのウィンドスピリッツが気付いて近付いてくるのを俺は見まわした。

その時、今度は体の内側が熱くなる感覚があった。刀が、普通に持てる。

アレスの加護が戻った。

「ひぃっ!?」

「な、んだ、これっ……!?」

急に声を上げたのはヘルガと隆志だった。

「え?」

その時、今度はアテナの声がした。

『お前たち、すまないが隆志を安全なところへ! すまない、こちらの事情で私とアレスの力のバランスが崩れたのだ。アレスの加護の傍ならば魔物も近づいては来ない。頼んだぞ!』

「あ、ちょっ、アテナ!」

俺は慌てて呼び止めようとしたがアテナもかなり焦っているようだったし、それにヘルガの方はいいけれど隆志がさっきの俺と同じ状態になってしまっていた。

「え、剣が持ち上がらないっ……!?」

「アテナの加護が消えてる、くっそ、何なんだ!?」

さっきの雷鳴の後からおかしいぞ!

―――え、雷鳴?

ゼウスが何かアレスとアテナにしたってことか?

なら十中八九ゾエも絡んでるだろ。

「ゾエ、ゾエっ!」

空に向かって叫んでみた。

「……え? ゾーエー君って、何者?」

ヘルガが問う。俺はもったいぶらずに言った。

「もうお察しの通り、神だよ。刃の神ゾーエー・クスィフォス」

「え、えええっ!?」

俺は刀を構える。ヘルガは呪文を唱える、でもさっきみたいなエフェクトが出ない。

「嘘っ、なんでっ!? ゼウス様の加護がっ……!!」

混乱する俺たちの前にナイフが落ちてきた。

「!?」

「これは……ゾエのナイフだ」

俺はもう一度叫ぶ。

「オイテメー状況説明しやがれ、勝ーっ!!」

『ちょっと待ってくれよー!』

きいん、と小さな音、直後、そこに閃光が走り、俺は目を閉じた。

「わり、遅くなった」

「遅いうえにいろいろ面倒なんですけど?」

「ごめんてば」

目を開ければ目の前には、宝飾品と最低限の関節部分を守る程度の防具に身を包んだゾエがいた。

「きっちり説明してもらうぞ」

「おう。説明すんの俺じゃないけど」

「は?」






<Side of Zoe>

封印が解けたことを確認した瞬間、アレスの加護が消えたのが分かった。イリスが近くまで来ていたために悲鳴を上げた。

「ゼウス様、アレス様、ゾーエー!」

「イリス、これどうなってるの!?」

「あ、アレス様の封印を御解きになったんですよね!? 最初は加護が消えるんですが」

「下見て、勝己たちが城壁出ちゃってるんだけど!」

「えっ!」

俺ここで一番背が低いのにアレスとゼウスは気絶してて、イリスが地上を見て、きゃあと悲鳴を上げた。

「魔物に囲まれてます!」

「南無三! ヘファイストスに力貸してくれって言ってきて!」

「は、はい!」

イリスに行ってもらって、俺はひとまずベッドにゼウスとアレスを寝かせた。アレス脚長えよこの野郎。赤い髪と金色の髪がふわっと広がって、よく見たら顔立ちは意外と似てなくもなくて、ゼウスをより美形にしたらアレスになるのかと理解した。

「アレス、ゼウス」

この後どうすればいいのか何も知らないのに、ひとりで荒野に取り残された気分だった。と、アレスが目を開けた。

「アレス!」

「……ゾーエーか」

「おう」

「……ちゃんとモノ食っときゃよかったっ! くそ、神力のコントロールがうまくいかねえぞくそっ!!」

おお……口が悪い。

「付け焼刃になるが、背に腹はかえらんねえ。ゾーエー、ネクタルとアンブロシアストックあるか」

「ある、けどマジちょっとしかない!」

「いいから出せ、早く」

言われるままに俺はネクタルとアンブロシアをアレスの前に出した、この調子だともっといるとか言いそうだった、だから俺はひとまずアレスの本邸の方へ向かった。

「デイモス、フォボス!」

「おー、どしたのゾーエー」

「ネクタルとアンブロシアある!?」

「あるけど……どうしたの?」

その時、ヘラクレスが大量にネクタルを運んできた。酒宴用の一甕じゃねえか。

「アレスの封印をゼウス大神が解いたんだ。すぐ運ぶから、証人は近くにいた方がいい」

「ありがとうヘラクレス!」

俺はすぐに自分の館へと駆け戻り、ゼウスとアレスの傍にいることになった。アキレウスとディオメデスがネクタルとアンブロシアを運んで来て、アレスは小さく礼を言ってアンブロシアを口に入れた。

俺にはわからないけれど、アキレウスは時々震えているから、きっと寒いか怖いかどちらかなのだろう。

「アキレウス、大丈夫?」

「あ、はは、う、ん、母様の、加護が、ある、からっ……」

「無理してはおらぬかアキレウス」

「なんでディオメデスちん平気なのっ!?」

「知らん、最後発狂したらアレスの加護がつくんじゃないのか」

「うわあああん怖いよ腰抜けてて動けないいいいっ!」

アキレウスの本音はこれでした。

「随分と雰囲気が変わるものだな、アレスよ」

「つーか、最初の状態だぞこれ。俺のこのカッコ知ってんのは、アテナより年上のみ!」

「つまりヘファイストス神、ゼウス大神、ポセイドン神、ヘラ女神、ヘスティア女神、デメテル女神、ハデス神、他ティタン神族と原初神と言っているように聞こえるが」

「おーおー、その通りだよ。くそ、マジ付け焼刃だ、ゾーエー、王を叩き起こせ」

「なあ、俺はゼウスの回想から見て今の状況ならお前はゼウスを親父と呼ぶべきだと思うんだけど」

「知るか! 王は王だ、大体王は俺との関係を嫌がってんだから最低限の接点しかないこの呼び方最高じゃねえか!」

「「卑屈ヘタレは変わってないんだな」」

「ヘタレっていうな!!」

「卑屈はいいのか!」

ギャイギャイ騒ぎつつ、俺はゼウスを起こしにかかった。ネクタル無理矢理流し込んでやったら起きた。

「うぐ、げほ、もう少し容赦というものを知ってくれ!」

「起きたのでよし」

「よくない、大雑把すぎるぞアレス! もっとネクタルください」

「身も蓋もねえな」

酒杯にネクタルを注いでゼウスに渡すと、アレスが言った。

「もう大丈夫だ、離れていい。デイモスとフォボスは?」

「「とーさんどうしたのこれすっごいよ!!」」

「お前らのシンクロっぷりに驚くわ。いいからアテナのとこにこれ放り込んで来い、効力はヘリオスが空にいる間。行け!」

「「はーい!」」

デイモスとフォボスって双子だって話だったけど、なるほどって感じだな。ここまで息が合うってのが。アレスは俺をグイッと引き寄せた。

「?」

「ありがとう、ゾーエー。いや、慄木勝。アレス個人として、礼を言う」

イケメンに面と向かって礼を言われると、なんか……恐縮です。

「お、おう」

「……下で勝己が叫んでるな。行ってやってくれるか」

「……ああ」

ふわりと優しく笑ったアレスに俺はうなずいた。アテナについてのことも気になるが、今は魔物に囲まれているであろう勝己の許へ行かねば。

その時、神晶石が割れて俺に祈りがダイレクトに届いた。ああ、わかるものなんだな。


『ゾエ、つーか勝!このスピリッツ倒すのに力貸してくれ!』


この野郎。権能の貸し方なんてわからない、と思っていた、でも、アレスの手が俺の右手を包んでくれて。

「筋道引いてやる、ついて来い」

「……ああ! ありがとう!」

目を閉じて、アレスが引いていく筋道を追う。つながった、と思った瞬間に、爆発的に力が解き放たれたのが分かった。

「上手にできました」

「肉焼けたみたいなノリだな」

ツッコミを入れて、俺は一旦深呼吸をする。さあ、降りるか。

下では今度は勝己が早くこの状況の説明をよこせと心の中で喚き散らしている。

「これ、どういう状況って説明すればいいんだ?」

「説明は……ディオメデスに任す」

「俺かよ! くっ、降りるしかない、俺はアレスたちのようにすぐに会話できるほどの神力は持ち合わせておらん。すぐに行くがゾーエーよりもずっと準備が必要だ、先に行っていてくれ」

「わかった」

ヘファイストスの作であるナイフをまっすぐに地上に向けて落とした。この軌道で俺は降りる。よし。


こうして俺は地上に再び現れたのだ。


「で、お前は説明くれないわけ」

「うん、だって俺もよくわからんもん!」

というか、俺の正体がばれた結果俺を拝んじゃってる剣士が2名。

「アレス、アテナのファミリアどーするの!?」

『お前の加護は剣士にしかつかねえ。そいつは剣士なのか?』

「ああ、両手剣士だ」

『なら加護掛けろ、さっきと同じ。王の加護は回復してるか?』

「まだっぽいけど」

『ディオメデスこれ持ってけ!』

アレスってさ、世話焼きだよね。小さく勝己に言ったら、御人好しなんだろ、と帰ってきた。いつでも感想は変わらないようだ。

そのうちディオメデスが降りてきて、トルマリンのネックレスをヘルガさんに渡した。

「ゼウス大神の加護を外付けする宝具だ、壊すな」

「は、はい……」

「アレスの加護は便利だな、魔物の威嚇がデフォルトで入っている分気付かれやすくはあるが」

彼がディオメデスであることを伝えると、勝己はアルゴス王!とか言って拝んでいた。

ディオメデスの足首にはアンクレットがついている。アレス曰く、首輪はディオメデスには似合わない、とのこと。つまり彼はアレスの支配下から逃れられないということだろう。アキレウスにはなかったからな。

「この先の神殿跡へ行くのなら早めにした方がいい、あそこはもともとパンテオンだ。神晶石はまだあるか、カツキよ」

「あります」

「祭壇はなくとも神晶石があれば加護のやり取りはできる。まずはお前のデフォルト威嚇をオンオフできるようにならんと」

ディオメデスは先頭を切って進み始めた。俺たちはヘルガさんと隆志を支えつつディオメデスに続いて道なき道を進んだ。

アレスたちの声が聞こえない。いつも聞こえていないはずだと言うのに、なんでか嫌な予感のする静かさだった。


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