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愛されて育った。


大切にされたし、とても良い友人に恵まれてきた。家族に愛され、家族を愛した。友人に好かれて、友人を好いた。多少の意見の食い違いは気にならない程度に、私はみんなが大好きだった。



教育を受けた。

より選択肢が多くなるようにと、高い教育を受けた。知りたがりという私の本来の性質もあって、知識を蓄えるのは楽しかった。時に嫌になることがあったし、理解を超える内容に悔しい思いをした。それでも科学のような世界の法則を学ぶことも、数学の理論的で美しい概念を学ぶことも、過去から現在に至るまでの人の思索の過程を学ぶことも、どれも楽しかった。


そして、私の性質はあまり受け入れられないだろうと思った。


でも、それで良いだろうと思った。心の赴くままに生きることができる人など、そうそういない。

私は私の好きな人たちを悲しませないように、迷惑をかけないように生きたいと思ったのだ。




つまり、うん。つまらない生き方だ、と言われるかもしれないけど、私は周りの人たちによって自分の行動を決めようと思ったんだ。



思ったのに、な。



友人は、いま太ももをかじられている。ぶちり、と湿った音がして大きな肉の塊が引きちぎられた。むわっと血の匂いが広がる。

最初、悲鳴をあげていたのにもう声がしない。死んだのか、死にかけているのか。普段よりも赤く見える血が、緑の草にこぼれ落ちるのがわかる。


悔しい、悔しい、なんで私は座り込んでいるんだ、私の友達が損なわれているのに何もしていないんだ、なんで攻撃も助けを呼ぶこともせずにただ震えているんだ。

なんで私は、ただ見ているだけなんだ……! こんな、こんなことってない!こんな理不尽さがあってたまるか!

私の好きな人たちを、勝手に殺すんじゃない……!


落ちていた枝を握る。ただの枯れ枝だ、なんの役にも立たないだろう。でも、素手よりはマシなはずだ。恐怖と怒りに震える手足を叱咤して、悲鳴にすらなっていないような声をあげて。必死に殴りかかったのにさらりとかわされた。


躓いて、友人の内臓が減った腹に手を着く。少し、暖かいけど生きてる人間の熱さはない。傷に、腹の中に手を突っ込んでいるはずなのになんの反応も示さない。悲しい。悔しい。


私の友達は死んだのだ。


私がグズグズしていた間に死んでしまったのだ。


ようやく涙が出てきた。獣の尾が避けられない速さでこちらに向かってくる。同時に、視界の端に見えるのは武装した人間。慌てたようにこちらに駆けてきているが遅い。


がん、と衝撃が来て、一瞬だけ空が見える。二つうっすらと見える月にここはどこなんだと思った。……地球に衛星は一つしかないはずなのに。地面に叩きつけられて、身体中に広がる痛みに顔をしかめる。


追撃はこない。


あの人間が倒したのだろうか。あっさりと。


悔しい。


するつもりはなかった。実現するつもりはなかった。ずっとこの性質や好みは隠して生きて死ぬつもりだった。


それでも。ずっと悲鳴を聞きたい、痛みに耐えようとする表情、苦痛によじれる顔を見たい、最終的には殺したいと思った愛しい友人を先に殺したあの獣。


いたぶってひどい目に合わせたかったなぁと私は徐々に薄れ行く意識の中思っていた。



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