いつかの愛しの王子様!!
あとがきは部誌のほうに載せたものです。興味のない方は読み飛ばしてください。ちなみに今回の部誌のテーマはおとぎ話です。後日、連載版で投稿する予定です。
昔から決まって読んだお話の主人公はみんな可愛らしいお姫さまで。私にもいつか彼女たちのように王子さまが迎えに来てくれるんだと、そう信じてた……。
「だーかーらー! あんたはいつまでもそんなんだから十八にもなって彼氏の一人も出来ないのよ!!」
「それは聞きたくないー!」
何よいいじゃない! いつか王子さまが私のことを迎えに来てくれるんだっていう夢をもつくらい。これは全国の女の子の共通の夢よ!
……と心の中で親友に突っ込みを入れるも親友の言うことはごもっともなので心の中だけに留めておく。
「それにほら、あんたはそんなに夢見なくてもすぐ近くにいるでしょうよ」
親友の言葉が誰をさしているのかは言われなくても分かる。分かるんだが……。
「あいつはないわー……」
「だったらあたしに紹介しなさいよ! あんたのイケメン幼馴染!!」
「えー、嫌よ。あんな夢のかけらもない奴」
「だーれが夢のかけらもないって?」
噂をすればなんとやら。私たちの目の前にはあいつが立っていた。……おーい、親友さん。魂出てるぞー。
「お前もさ、もう十八なんだから少しくらいは色気っつうもんを出せないのか」
「仮に出せたとしてもあんたの前では出さないわ」
私が即答するとあいつはつまんねえ奴、とか言いながら離れていった。お前を喜ばせるつもりは毛頭ない。
「なぁによぉ。そんな素気ない返事なんかしちゃって。少しくらいいいじゃない」
「よくない。だいたい、あいつと何年の付き合いだと思ってるのよ。十八年よ、十八年! 今更あいつと付き合うとかまじないわー」
「案外そう思ってるのはあんただけかもよ」
最後に親友はそう残して自分の席へと戻っていった。
私だけってどういうこと?
しかし、そこで教室へと入ってきた先生のおかげで私の思考は中止を余儀なくされた。
***
「で、心変わりは?」
「何の話よ」
「何って、あんたの幼馴染の話に決まってんじゃない」
放課後、親友さんは私を捕まえて開口一番にこんなことをぬかした。でも結局私は一日もやもやとした気分で過ごしてしまったことも事実で。だいたい何よ、あいつに対してどんな心変わりをするというのよ。
「いーい? あんたはもう少し現実を見るべきなのよ。いつまでもおとぎの国の王子さまなんてものに夢見るよりも、目の前の親しいオトコノコ。折角あんたには良物件がいるんだから」
「仮にも人の幼馴染を物件って……」
「はい、まずはそこ!」
私の親友さんは呆れた顔を隠しもせずにピシッと指を突き付けてきた。
「相手が幼馴染っていう枠に入れるのを止めなさい」
「止めろって言われても……」
「ぐだぐだ言わない! そうと決まればさっさと行くわよ」
親友さん、なんか今日はぐいぐいきますね。
そんなこんなで私は親友に連れられてグラウンドへ来ていた。
「お、タイミングばっちり!」
「タイミングって?」
親友の視線の先を追うと、そこには一本のまっすぐなライン。そこを誰かが走っていた。
「さすがあんたの幼馴染。かっこいいわー」
親友の言葉にも反応できずに。ただ私はじっと何度も目の前を走り去る、よく見知ったそいつの姿に見入っていた。
気がつけば辺りはすっかり暗くなっていた。
陸上部が後片付けしているのを眺めていたら、隣に座り込んだ親友が口を開いた。
「王子さま、卒業できそう?」
「……さあね」
私の返事を聞くと、親友はまた呆れたような顔をしたが、そのまま何も言わずに立ち去った。
「お前さ、何やってんの」
「片付けしてたんじゃないの」
「とっくに終わっとるわ」
親友が立ち去った後もなんとなく帰る気分になれなくてじっと座っていると、いつの間にかあいつが隣に座ってた。
「お前さー、本当に分かってんの? 自分の性別」
「あんたに言われなくても分かってるわよ。どうせ私に色気はありませんよー、だ」
「なんでこんなに暗くなるまで一人でいるんだよ」
いつもの問いにいつもの答え。ただ帰ってくる反応だけがいつもと違って私は咄嗟に反応することが出来なかった。
「お前さ、いい加減気づけよな」
「……何をよ」
「……まあ、いいか」
そういうなりそいつは反動をつけて立ち上がると、私に向かって手を差し出した。
「ほら、帰るぞ」
「……ん」
手を預ければ力強く引き上げられる身体。その行為は十八年間、何百回と繰り返された動作で。私は自然と微笑んでいた。
「帰ろっか」
私の言葉にあいつは一言返して歩き出した。
「おう」
今日のイレギュラーは何か私たちを変えるのだろうか。
変わったその先には。きっとおとぎの国の王子さまは必要ないんだろうな。そんな予感を胸に閉まった。
おとぎ話と聞いて真っ先に浮かんだのは、おとぎ話大好きな脳内お花畑な女の子とその子に思いを寄せる不憫な男の子でした。彼らはこの先どうなっていくのでしょうねー。
さて、書いたはいいのですが今回のテーマはおとぎ話であって恋愛ではありません。はい。いつでも咲坂はフリーダム! 書きたいものを書くのです。キリッ。
それから、何気に咲坂は一つの実験をしております。というのも、この短編という性質上、いちいち名前つけてたら読者さまは混乱してしまうのではないだろうか、という考えのもとこの物語の登場人物には名前が付いておりません。すべて『あんた』『親友』『お前』といったような具合になっております。そのほうが混乱する? そんなの知るもんか。
ここで謝辞をば。
最近親からも疑いの目で見られるほど大好きな女神さま、第二のお母さん、わんころ。大丈夫、私にそっちの気はありません。純粋な感謝を捧げます。
そして、ここまでお付き合いいただきました皆様に最大級の感謝を。
願わくばこの物語が皆さまにとって楽しいものになりますように。