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祝福されぬ者たち ―Ungifted Heretics―  作者: 七鏡
追い求めるは理想と未来、捨て去るは過去と宿命
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この身を焦がすほどの夢

魔族国の者たちが逃げ込んだ空中要塞。

内部において、血気盛んな若者たちが人間相手に好戦を唱えていた。イヴリス大陸へ行くべきである、という意見。それは日増しに強くなっていた。

穏健的なクィルやハズメットへの風当たりは強くなっていた。

そんな中、魔族国の面々のもとに人間の使者が現れたのだ。


クィル、エノラ、セラーナ、セウス、リクター、ハズメットは要塞の入り口の一つに立ち、上を仰ぎ見る。その後ろで、人垣ができてなんだなんだ、とざわめき、空を仰ぐ。

白い巨鳥が要塞の周りを飛んでいたかと思うと、それはハズメットたちのいる入り口に向けて下降してくる。羽が舞い、ふわりと温かな風がハズメットたちの間を通り抜ける。

舞い降りた鳥の背から二つの影が降り立つ。

クィルは、なぜかその二人の人物に言いえぬ何かを感じた。

違和感。俺は、彼女たちを知っている?

その戸惑いはエノラ、セラーナ、リクターも感じていた。特に、エノラは他の三人よりも強く。

そして、その目は虹色の髪の少女に向かっていた。

降り立った水色の髪の少女はハズメットの前まで進み出ると、静かに言った。


「大宗主国より参りました、リナリー・アルミオンです。ハズメット様」


大宗主国、と言う言葉に魔族たちの警戒が強まる。人間か、と敵意さえあらわにする。

しかし、少女は平然とそこに立ち、クィルらに笑みを浮かべる。


「大宗主国の方が、なぜここに?」


クィルが少女リナリーに問う。虹色の少女がバイザー越しに見ているのに気付きながらも、クィルはリナリーの言葉に気を配る。


「今、世界を覆う暗闇。それに気づいておられますか?」


「今、世界が混沌の中にあることは」


「そう。そして、それはあなた方のもとにも迫っているのです」


リナリーはそう言い、クィルらをじっと見た。


「今、あなた方はもめていますね。人間との共存か、抗戦か、と」


「・・・・・・・・・・・・」


まるで知っているかのように言った少女。


「大宗主様はそれを警戒成されているのですかな」


ハズメットが重い声で問うと、リナリーは頷く。


「今は、人も魔族も互いに争っている時ではありません」


「互いに、だと?」


その言葉を聞き、起こった魔族の青年がクィルらの後ろで怒鳴る。


「先に攻撃をしてきたのは、人間だ!人間が何を言うか!」


「そうだ」


同調し、若者を中心に叫び始める。それを見て、リナリーは悲しそうに目を伏せるが、次の瞬間には気丈に唇を結び、自身を見る魔族たちを見る。

その強い瞳に、魔族たちは抗議の声を思わず飲み込み、沈黙した。


「それこそ、この世界を壊そうとする者の思惑なのです」


「どういう・・・・・・・・・・・・・・」


クィルらは全く理解できていない様子であった。それも当然か、とリナリーは思う。自分とて、ミアベルと触れて思い出さなければ、到底信じられなかったであろうから。


「あなた方の今の状況も、そしてこれから起こるであろう状況も、すべて一人の男の手によるものなのです」


「それは、何者だ」


セウスがリナリーを見ていった。セウスも感じてはいた、巨大な悪意を。それが本当であろうとは、さすがの彼も考えてはいなかったが。

リナリーは少し言いよどみ、エノラを見る。そして、口を開く。


「その男の名前は、アンセルムス。かつてはアンサズ・ルクス・アクスウォードという名前だった人物です」


その名を聞き、黒髪の少女は呆然と呟く。


「にい、さんが・・・・・・・・・・・・・?」


呆然と呟かれた言葉に、クィルとミアベルがピクリ、と動いた。


「詳しく、聞かせてもらおう」


セウスはそう言い、ハズメットを見る。ハズメットが頷き、二人の客人を要塞内に招いた。




二人の少女の話を受け、ハズメットやクィル、セウスはただ悲痛な顔をする。

そして、内部にいるであろうアンセルムスの手の者の捜索をリクターに任せる。


「それと」


そう言い、リナリーが懐から一つの小瓶を取り出す。


「それは?」


「一種の興奮剤を和らげるものです。攻撃性と野性を焚きつける麻薬のようなものの匂いを、先ほど感じたので」


その言葉に、クィルらは目を細めた。


「気づかなかったな、まさか、それが?」


「ええ。敵の作戦の一つ、です」


怒りを焚きつける。そうすれば、冷静な判断はできなくなる。そうなったものを操るのは、敵にとって造作もないこと。

そうやって『前回』もそのまた『前回』も、同じように内部分裂に至ったのだ。


「それであなた方は我々にどうしてほしいのか、それをまだ聞いていませんでしたな」


ハズメットの言葉に、リナリーはミアベルと顔を合わせて頷き合う。

ミアベルが口を開いた。


「ともに手を携えて、この危機を乗り越えたい、と」


「・・・・・・・・・・・・・」


「北のイヴリス大陸の魔族。彼らを説得してほしい。私たちは、敵ではない」


ミアベルの言葉に、クィルは重い声で言った。


「しかし、我らは、魔族は人間に迫害されてきた。それをどうにかできると、あなたは思っているのか?あなたが思う以上に、魔族の持つ怨みは大きく、深いものだ」


今起きている戦争を止めることができるとは思えない、そんな言葉を呟くクィルを不思議な目で見るミアベル。

その瞳に、ザワリと心が揺れた。


「本当に、そう思っていますか?」


「なに?」


「あなたが目指す理想。人と魔族が共に暮らす世界。それは不可能だと?」


何故、君がそれを知っている、と言う言葉を押さえ、クィルは少女を見た。


「俺の理想と、現実は関係ない」


「いいえ、思いがあれば、どうにかなるはずです」


大人のようでいて、少女は子どもが夢を語るように喋る。そのまっすぐな瞳が、クィルを貫く。

まるで、エノラのようだ、となぜか感じた。髪の色も、その瞳も、エノラの特徴はないはずなのに。

僅かに彼女と似ているとしたら、顔の輪郭だけ。

いや、なんだ、この違和感は。

なんで、俺は彼女を・・・・・・・・・・。


「クィル」


「エノラ」


そんなクィルの手を握り、エノラはクィルの顔を覗き見て、ほほ笑む。


「やっても見ないうちから諦めるなんて、らしくないよ」


「エノラ、だが」


「私やほかのみんなもいる。だから、君は君の理想を追い求めて。君は、一人じゃないから」


そう言ったエノラに、静かに頷くクィル。

そうだ、俺は誓ったんだ。誰もが種族の隔たりなく暮らすことのできる世界を築く、と。

ならば、戸惑う理由などはない。


「わかった」


クィルはそう言い、ミアベルとリナリーを見る。

ほ、と息をつくミアベルと、ほほ笑むリナリー。


「やはり、変わりませんね。クィルもエノラも」


その呟きに、え、という顔で見つめるクィルとエノラ。


「どういう意味だ?」


「いずれ思い出しますよ」


フフ、と笑うリナリー。


「さて、そうと決まれば急いだ方がいいでしょう。アンセルムスが手を回す前に、早急に戦乱を止めるのです」


今はまだ、彼は混乱しています、とリナリーは言う。

そんなリナリーにエノラが声をかける。


「本当に、兄さんなんですか」


その言葉は、いつものエノラとは違い、どこか現実逃避している様子であった。

エノラが見たアンサズという少年は、どこまでも努力し、しかし決して報われなかった。

それゆえに、皆から突き放され、孤独であった。

それでも、エノラには優しかった。

あの兄が、こんな戦乱を招いたとは信じたくはなかった。


「残念ですが」


そう言ったリナリーの言葉を遮り、どんと扉を開き、リクターが入ってくる。


「間者を見つけたぞ」


そう言ったリクターの手には首根っこを掴まれた黒ローブの魔族。

リクターによって拘束された魔族は放り出され、クィルらの座るテーブルの前に転がる。

ぐぶ、とくぐもった声を上げ、その魔族はクィルらをぎろりと見る。

醜悪な顔で、直視するには耐えない。顔のパーツは、ぐちゃぐちゃで焼けただれたようでもあり、四つの瞳が怪しく光っていた。


「ぐぶ、何も言わぬぞ」


「言う必要は、ない」


アンセルムスの間者にそう言うリクター。


「もはや、貴様の目的も何もかもわかっている」


ぐぶ、と黒ローブの魔族は声を上げ、沈黙する。現に、自分がこうして捕まった、と言うことは敵に計画を察知されていたからだ。彼は決して油断はしなかったし、アンセルムスの計画に従った。


「なぜ、奴に仕える?奴の目的を、お前は知っているのか」


ミアベルの言葉に、男はき、と睨む。


「先ほどの貴様らの目、私は憶えているぞ」


まるで汚物を見るような眼、蔑み憐れむ目。同じ生命とは思わないような眼をみけてきた。

ずっと、そう言う目で見られてきた。

同族にも、家族にも、誰からも。


「否定は、できまい」


その言葉に、皆が沈黙する。

そうだろう、と男は呟く。事実、自分でもそう思うのだから、他人もそうであるはずなのだ。

彼は、その外見で皆から避けれれてきた。顔を隠し、己を偽り生きてきた。

けれど。


「あの方だけは、違った!アンセルムス様だけは、私を私として見てくれた!」


冷たい黒曜の瞳。自分と同じ、哀しい瞳の男。

彼は、冷たい地面に這いつくばり死を待つ男を助けてくれた。憐れみでも、同情もない。


「だから、私は誓った。たとえ、この後、捨てられるとしても、私はこの方に尽くす、と」


その想いは、変わらない。

ローブの男はクツクツと嗤う。


「貴様らが何をしようとも、あの方を止めることは不可能だ」


そう言い、ローブの男はクィルを見る。


「理想を抱き、いつか理想に裏切られると知って、なぜ足掻く?いっそ、この世界ごと壊してしまえばいい。そうすれば、全てが平等になる。混沌の中で、我々は真の平等を勝ち取る」


「そんな世界、なんになる!」


「なにも。だが、少なくともこの世界よりは、ましだ」


ローブの男はそう言い、ぐわ、と口を開く。


「せいぜい足掻くがいい、希望があるからこそ、絶望は深くなる。いつかその顔が絶望に染まる日を、草葉の陰から見ていてやろう!」


そう言うと、男はその手に何かの瓶を掴み、それを口に運ぶ。

一思いに、飲み込んだ。

ああ、という声が上がる。


「アンセルムス様、どうか役目もろくに果たせぬ私をお許しください」


そして、男は口から泡を吹き、その場に伸びる。ピクリ、と痙攣し、やがてその体の震えが止まった。

死んだ男を見て、クィルは唇を噛み、その姿を見る。

これが、現実なのだ。

同族と言えども、深い溝がある。

自分たちの理想は、遠いものなのだ。

だが、だからこそ。

諦めるわけにはいかない。

拳を握りしめ、クィルはローブの男を見る。

俺は。

俺は作ってみせる。

お前のような者でも、暮らせる世界を。

絶対に。





夜風に当たるエノラ。

その背中を抱きしめるクィル。

二人は、ともに残酷な現実を突き付けられた。

エノラは兄の凶行を、クィルは厳しい現実を。

それでも。

エノラはクィルの手を強く握りしめた。

それでも、二人は止まらない。

いつか見た夢を、叶えるその時まで。


そんな二人の様子を見るミアベルとリナリー。


「アンセルムスが私にとって、伯父だったなんて」


ミアベルの声には少なからずショックがあった。

だが、なるほど、と思う部分があった。

反逆者アンセルムスの話をする時、母の顔が固く、哀しそうだったのは、そう言う事情があったからなのだ、と。

だからと言って、アンセルムスを許せるはずはない。

結局、アンセルムスのやっていることは現実逃避だ。

彼にも同情すべき点もあることは、ミアベルも認める。だが、だからと言って、世界を巻き込んでいいはずがないのだ。

なおさら、止めなくてはならない。

少女の心は揺るぐことはなく、より一層強まった。

その様子を見て、リナリーは言う。


「強いわね、ミアベル」


「リナリーこそ」


さっきはかっこよかったよ、と言うミアベルにリナリーは自嘲する。

何度も繰り返し、迷ったのだ。覚悟するには、遅すぎた。

それでも、今は前回とは違う世界がある。

少なくとも、魔族国での内部分裂はないし、イヴリスの魔族反乱の規模は抑えられている。バーティマ側でも何か動きがあったらしい。

好転している、と言っていいだろう。


「ミアベル、改めてありがとう」


リナリーの言葉に、虹色の少女は何も言わずに座っている。

腰に下げた剣聖剣を撫で、ミアベルはエノラとクィルを見る。

本当の戦いは、まだ始まってすらいないのかもしれない。

けれど、少女たちは夢を見る。


果てなき明日を求めて。



要塞は北に向かっていく。






「神」にとって、この状況は面白くなかった。

世界に滅びをもたらす為に、アレを使わせたというのに、アレの計画通りに事は進まない。それどころか、逆にアレは追い詰められ、死ぬ直前まで行った。

どこで、狂ったやら。

「神」はどうしたものか、と下界を見る。直接干渉するのは、興ざめだし、アレに世界を壊させるからこそ面白いのだ。

アンセルムス、囚われ続ける反逆者。忘れ去られた13番目。哀れなあの男に世界を滅ぼさせてこそ、面白い。

なのに、今アレのもとにある駒は帝王の玩具と、魔神ハザに、愚かな二人の愚者のみ。

少々、心もとない。

だからテコ入れをしてやろうか、と「神」は思った。

そして、「神」は虚無の空間よりそれを取り出した。

愚者たちが入っていたような水晶の柱、であった。

その中で眠るのは、一人の女性。

翼をもがれてなおも反逆の意思を捨てぬあの男への罰にもちょうどいい。

たまには、ハーイアが違うものの手にかかって死ぬのも、面白い。


「さあ、アンセルムス」


私を楽しませろ、

そして世界を壊せ。


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