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祝福されぬ者たち ―Ungifted Heretics―  作者: 七鏡
思い通りにならないなんて諦めたくはないから
35/88

(時間旅行者)

イヴリス大陸北部、パラメスの街。

大陸での魔族反乱に巻き込まれてはいないこの街では、未だ人々は安全を信じていた。

過酷な環境がこのパラメスを守っている。

魔物の徘徊する雪原を超えて攻めるだけの準備や補給路を魔族と言えど持ってはいない。

そう言った状況もあり、パラメスの商人は喜んで武器や傭兵をバーティマやそのほかの国々に売りさばき、己の利益に邁進した。


そんなパラメスの街の外れ、外周近くで、空間がゆがむ。

歪曲した空間は、言いようもない色を描き、そして消える。

代わりに空間の孔より現れた一人の人物がそこに立っていた。

青年は、異様、としか言いようがなかった。

髪の色は虹色の輝きを放ち、絶えずその光彩を変える。

鮮やかな色から、深く暗い色まで変わっていく。

瞳は金色に光っており、まるで太陽を思わせる。常人ではその瞳を見ただけで失明するため、絶えずその人物は黒いバイザーをつけていた。

服装は薄汚れた黒いコートを無造作に来ている。その下には、白色の騎士服を着ている。

腰には古びた剣を差している。

どこかの王族か、と思うほどの美形で、釣り目がちの顔は冷徹な印象さえ受ける。もっとも、目元は見えないし、顔もバイザーで隠れているためか、はっきりとはわからないが。


「・・・・・・・・・・・」


剣士は沈黙してあたりを見る。

そして、街を歩き出す。

薄汚れた外周には、人は近寄らない。

人気のないそこで剣士はやっと人を見つけると、その人物に駆け寄る。


「おい」


「ひぃ、なんだ!?」


声をかけられた人物は、バイザーをつけ、威圧感を放つ人物に驚く。

怯える浮浪者に、剣士は調子を変えずに聞く。


「今は何年だ」


「えぇ?」


「今は、何年だ、と聞いている」


「今は、・・・・・・・・・・・・だ」


浮浪者は剣士に年と月日を教える。

それを聞くと、剣士はわずかに眉を動かした、ように見えた。

舌打ちをし、浮浪者に背を向ける剣士。去り際に剣士は浮浪者に金貨を一枚投げて渡した。


「礼だ。邪魔したな」


そう言い去っていく剣士に、浮浪者は感激のあまり、地に頭を摺り寄せた。金貨一枚あれば、一か月は暮らせる。

浮浪者は久々の宿に喜ぶ。

その嬌声を背に聞きながら、剣士は口をゆがませている。

怒りか、悔しさか。剣士の全身から、言いえぬ感情が漏れ出る。




街で聞き込みをする剣士。バイザーでその瞳は見えないが、その顔は先ほどよりも歪んでいた。

全身からさっきのようなものを放つ剣士に警戒しながらも、人々は剣士のような人物に話して聞かせた。

バーティマ革命、魔族国侵攻、帝国とアクスウォード・セアノ間の戦争、魔族反乱。


「遅かったか」


剣士は一言そう呟き、拳を握りしめる。


(ここまで来たというのに、まさかな)


剣士は天を仰ぎ見る。予想はしていた。しかし、諦めるわけには、いかない。

剣士はふう、とため息をつくと、パラメスの中心地にあるある人物の屋敷を目指しだす。



アラン・ミード。商業国家パラメスの実力者の一人であり、バーティマ革命に乗じて利益をもたらした貢献者。

彼の力はパラメスでより強いものとなっていた。

アラン・ミードはこの状況をもたらしてくれたバーティマに感謝していた。

その後は、アクスウォードや帝国も、パラメスの品物を求めるようになった。すべてはあの一件以来だ。


「戦争様様だな」


ニヤリと笑うアラン。

彼にとって戦争など所詮は金儲けの材料。火の粉さえ降りかからなければ、それでいい。

所詮、この世は金がすべてだ。それ以外、何も信じることのできるものはない。

自分と金。それだけがアラン・ミードの信用するもの。

よって、その金で結びついた傭兵アンセルムスが裏切ることや利用していることなど、微塵も考えていない。

アンセルムスが単なる金の亡者と勘違いしているアランには、アンセルムスの野望などわかってはいなかった。

そんなミード氏の屋敷は厳重な警備で守られており、ミード氏はここにいれば安全だ、と信じて疑わなかった。

そんなミード氏は自室の扉をノックする音を聞き、ふと我に返る。

金のことを考え、にやけていた口元を引き締める。


「誰だ」


「わたくしでございます、アラン様」


「おお、ダンテスか」


アランは声を聴き、長年屋敷に仕える執事だと思い、入れと命じる。

おそらく、また同業者の文句か何かを運んできたのか、と思い執事を見たアランは驚いた。

そこにいたのは、見知った執事ではなく、漆黒のバイザーをつけ、黒コートに身を包んだ剣士と思しき人物であった。。

鮮やかで、一時とて同じ色をしていない髪。

それがせわしないな、とミード氏は思う。が、すぐにこの不審者を追い出そうと大声を上げようとする。

だが、声は出なかった。


「!!?」


喋ろうとしても、音は出ない。口は動いているのに、声が出ない。

空気は振動せず、空しく口だけがパクパク動く。

魔術ではない、スキルか!?

アランの目を受け、剣士は特に何も感じずに、アランの目前に迫る。

その時になって、アランの声は出た。


「何者だ、貴様!?警備兵!警備兵!」


叫ぶアラン。だが、屋敷にいるはずの屈強な傭兵は誰一人駆けつけてこない。


「無駄だ、皆眠っている」


「なにぃ?!」


この屋敷では、魔術に対する結界が張られている。そればかりか、傭兵たちにも一流の武器装備を与えている。魔術の無効化をする高価な呪符も、だ。


「どうやって、まさか、貴様、複数スキル所持者か・・・・・・・・・!!」


剣士の様子を見て、おののくアラン。

スキル、神の恩恵。たいていの人間は一つしか持たないが、たまに複数所持する者もいる。

それが、目の前の人物なのか、と思うアランに、首を振る剣士。


「違う、だが、そんなことは関係ない」


そう言い、剣士はアランの胸ぐらをつかみ、問う。


「単刀直入に聞く。アンセルムスはどこだ?」


「アンセルムス、だと?誰だ、それは」


とぼけるアランを、剣士はその胸ぐらを荒くゆする。

そして、胸ぐらをつかんでいない方の手がその鞘に伸びるのを見てアランは慌てる。


「ああ、奴か、奴のことは知らん!」


「奴は今、バーティマか?」


「知らん、たぶん、そうだ」


アランはそう言う。その顔に嘘はないようだ、と剣士は感じる。

おそらく、この男は知らないのだろう。アンセルムスが何をしているのかを。

世界の混乱を紡ぐ魔神アンセルムス。それに利用されているとは、露にも思っていないだろう。

剣士はアランの胸ぐらを突き放す。ふぅ、と安堵の息をつくアランに、剣士は腰の剣を抜く。


「な、何を・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


無言でその剣を抜いた剣士は、その刃をアランの顎の下に突き出す。


「わ、私を殺す気か・・・・・・・・・?!」


驚き、後ろに引くアラン。だが、後ろにあるのは壁。退路はない。


「ああ」


「何の恨みがあって・・・・・・・・・・」


「世界を、これ以上悪化させるわけにはいかない。死の商人を排除することで、少しは状況は変わる」


剣士はそう言い、黒いバイザー越しにアランを見る。冷徹な目。感情を排除したその目は、アランの命の価値など、微塵も見出してはいない。

アランは汗でその顔をみっともなくしていた。


「や、やめろ、金ならば望むだけ出す、だから・・・・・・・・」


「くどい」


剣士はその剣でアラン・ミードと言う名の金の亡者の首を斬り飛ばす。

この金の亡者は、こうやって自分の利益しか考えない。この愚か者のせいで、どれだけの人々が命を落とすか、考えただけで虫唾が走る。

アランの首は、弧を描き、部屋の隅に転がる。虚空を見つめた瞳は、徐々にその輝きを失っていく。


「・・・・・・・・・」


血を払い、丁寧にそれをふき取ると、剣士は剣を鞘に納める。

大事な剣だ、錆びついては困る。このようなものを斬ることさえ、本当ならばいやだ。


「こうしてはいられないな」


おそらく、パラメスにはアンセルムスの刺客もいるだろう。それが下手に剣士の存在でも見つけでもしたら、アンセルムスに知られる。

剣士は急ぎ、アランの私室の棚や机を覗き、必要と思われる書類をコートに入れると、屋敷を出る。

その際に、指を弾き、爆炎の魔術を仕込む。

そして、歩き出してしばらくしてから再び指を弾いた。

その瞬間、ミード氏の屋敷は爆音とともに業火に包まれた。

燃え盛る屋敷を振り返りもせずに、剣士は一人、ラーシェ大雪原へと歩いていく。




吹き付ける雪の中、剣士が思い出すのは母の姿、師の姿。

荒廃した世界。すべてが壊された世界は、混沌であった。

神も未来も、何もかもが壊された世界。

神の恩恵は失われ、神は死に、希望は絶望に変わった。

全ての英雄は死に絶え、残った人々も少ない。

度重なる戦乱はすべての大陸を巻き込み、日ともエルフもドワーフも魔族も関係なく、等しく襲った。

明日へ続くはずの時間は、あるひと時を境に、永遠に失われてしまった。

一人の男の手によって。


アンセルムス。

『世界より見放された異端の王』。

魔神ハーイアさえも殺した無能力者。

まさか、一人の男のその執念ともいえる計画により、世界が滅びるとは、誰もが考えていなかった。

世界を滅ぼしたアンセルムスは、英雄クロヴェイルの決死の一撃で死んだ。英雄と彼に付き従った数多の兵士の命とともに。

そんな荒廃した世界で、剣士は生まれた。

滅びを待つだけの世界。時間の針の止まった世界。

それが、剣士の見る世界であった。

母や師の語る本来の世界の姿。

醜くも美しい世界。それを、どれほど夢に見、憧れたか。

願わくば、もう一度あの人と。

そう言い、病に倒れた母を見た時、剣士は決意した。

自分が、運命を変える、と。

滅びの運命など変えてみせる、と。


その剣士の決意を聞いた師は、一本の剣を剣士に渡した。


『これは・・・・・・・・・?』


『古代トローア時代から伝わる名剣です。私もこれを師より受け継いできました。これを、あなたに託しましょう。我々の希望とともに』


そう言い、師は笑う。

変わることのないその顔は、どこか寂しくもあり、弟子の成長を喜ぶようでもあった。


『師匠・・・・・・・・・・・・』


『おそらく、あなたの向かう世界では、私とも会うでしょう。ですが、その時の私は敵かもしれない。けれど、忘れないでください。あなたと過ごした私は、決して偽物ではない、と』


あなたの心の中に生きてさえいれば、私は満足です。必要ならば、その世界の私も斬れ、そう師は言った。

師の言葉は、残酷なものであった。だが、彼の覚悟した決意は、そういった犠牲を必要とするものだ。

理想だけでは世界は動かせない。いつか、誰かがそう言っていた。

たとえ、この手が血に塗れようとも、破滅だけは阻止しなければならない。


『わかりました、師匠』


そして、弟子は師を見る。

一度時を超えたら、もう同じ次元に戻ることはできない。

永遠の別れ。同じ時を過ごしてきた師とはお別れなのだ。

バイザーに隠された眼から落ちる涙を、ほほ笑んで拭う師。


『まったく、いい大人が泣くんじゃありません。・・・・・・・・・さぁ、生きなさい、――――』


そう言い、抱きしめそして、突き放す師。

その瞬間、剣士のスキルは強制発動する。

それは、師のスキルによるものであった。


『世界を、頼みましたよ』


『師匠――――――――』



さようなら、師匠、母さん。



そして、剣士は時を超えた。どれほどの時間を超えるのかはわからない。だが、おそらくバーティマ革命前後だろう、と若者は感じていた。





記憶を懐かしむ剣士。

襲いくる魔物を切り伏せていく。

眼前に立ちはだかるのは、危険種バンダースナッチ。

白銀の大地に立つ、青色の獣。

猿のような外見だが、その身体は人間など、はるかに超える。

地を揺らす雄たけび。だが、剣士はそれに臆することはない。

剣を振るう。ただ、それだけ。

放たれた剣戟は、バンダースナッチの腕を切り落とす。

骨を一太刀で断つ。

バンダースナッチは逆襲に燃え、剣士を襲うが、いとも簡単にバンダースナッチを殺す。

内臓を撒き散らし、その肢体を大地に沈める。

雪がその体を徐々に覆う。

息絶えたバンダースナッチを超え、剣士は進む。





数日の時を大雪原で過ごし、森林を抜け出た剣士が見たのは、戦乱であった。

人間対魔族の全面戦争。

剣士の記憶によれば、おそらくこれはハンノ=イヴリス連邦と魔族反乱軍の戦いのはずだった。


(・・・・・・・・・)


剣士にとって、どちらも敵ではない。

剣士にとっての敵は、この戦いの裏で手を引くアンセルムスのみ。

しかし、このまま戦いを放っておくことなど、できはしない。

剣士はその腰より剣を抜くと、その黒いコートを脱ぎ捨てる。

その手は目を覆うバイザーを取った。

そして、純白に光る騎士服で戦場へと向かう。


「・・・・・・・・・!なんだ、あれは・・・・・・・・・?」


一人の人間の兵士がまずそれに気づく。

そして、その後、魔族たちもそれに気づく。

戦場を歩く、光り輝く一人の人物。

太陽と見まごうばかりの閃光を放つ両の眼。

穢れなき、純白の騎士服と、煌めき流れる髪


そして、その手に光るのは一本の伝説の剣。



「双方、剣を収めよ、さもなくば、我が剣でもって成敗する」


そう言い、剣士は叫ぶ。


「我が名は―――――――――――」




さあ、止まっていた針を、動かそう。

未来あすを、取り戻すために。



彼女の戦いは始まった。

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