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祝福されぬ者たち ―Ungifted Heretics―  作者: 七鏡
思い通りにならないなんて諦めたくはないから
17/88

魔族国侵攻 少女と魔神

魔女セラーナと彼女のパートナーは、ラカークン大陸中部地帯の大森林にいた。

魔族国へと至る森であるが、実はそこには古代文明期の遺跡がいくつか存在し、それの調査依頼というものも存在する。

遺跡の調査は、ギルドや騎士団と言った冒険者や傭兵を擁する組織に依頼が出される。

今回、見習い魔女セラーナも、自身の所属する魔術師ギルドの派遣でこの遺跡を探していたのだが。


「一向に見つからないですね」


オレンジ色の、片側だけを結った髪を、紫色の三角帽から出した少女は、同色のローブの裾で自身の額を拭う。魔術師は基本、デスクワーク派であり、あまり前線で戦ったり、と言う風な体力ごとには向いていない。

古代魔術に興味関心のあるセラーナだったが、彼女はこの依頼が現地集合とは思いもしなかったのだ。


「まったく、君は肝心なところが抜けているな」


セラーナの後ろで涼しい顔をする青年。

砂の色の髪で、琥珀色の瞳をした、美丈夫は軽鎧に身を包み、腰には式典などで身に着ける儀式剣がぶら下がっている。

名をセウス。古代トローアの王にして、伝説に歌われる円卓騎士団の長。

今ではゾドーク66魔神序列三十位『沈黙』のセウスとして有名な魔神の一人だ。


彼女らの出会いはおよそ二年前になる。

彼女の母親の呪術を解くために、セラーナが魔神を解き放った。

その際、対等の関係を結んだ魔神セウスは、セラーナの母の呪いを解いた。

しかし、その後どうするか、と言う話になり、セラーナは自分のパートナーになってくれないか、と言った。

魔女としては駆け出しのセラーナは当時十五歳。母親を師にして色々と学んでおり、一般的に見ても優秀ではあったが、経験は圧倒的に不足していた。

それに、彼女の探究する古代魔術の知識、と言う点でも、魔神セウスは非常に頼りになる存在だ、とセラーナはわかった。

セラーナのその熱意と懇願にセウスは負けた。

とはいえ、とくに今の世界での目的も何もないセウスにとっては、それでも良いか、と思えた。

純真な少女の顔を見ていると、かつて自分の国で見た人々の笑顔を思い出せた。

それだけで、いいかもしれない。

そう思い、以後彼はセラーナのパートナーとしてともに苦節を共にしていた。


現在、十七歳になったセラーナは、実力も相まって、ラカークン大陸の魔術師ギルドに所属し、それなりに貢献していた。

ギルドの仕事と言っても、魔物退治か、遺跡調査や魔術書解読などで、それほどの危険に会うことはまずない。


「セウス、どうにかなりませんか?」


「私の知る時代とは、森の形も生態系も変わっているしな、わからんな」


セウスはそう言い、周囲を見る。


「しかし、ここの空気は少し、違うな」


「それはそうですよ、ここの木は魔出木と言うんですよ」


そう言い、セラーナは近くにあった一本の木を触る。セラーナの触った個所が、ほのかに緑色に輝く。


「魔出木?」


「ユラグド、とも呼ばれますが」


ユグラドは魔力を放出する木だ。

普通の木とは違い、ユグラドは自発的に魔力を発する。なぜ発するのか、定かではないが、もともとはスキルを持ったただの木だった、という説がある。

時にユグラドの出した魔力は幻のような風景を作り出し、人間を魅了する。魔力に大勢のないものにとっては、麻薬のようなもの、とセラーナが読んだ本には書いてあった。


「この木のおかげで、人間もそうそうはここには入れない。そのため、魔族国も存在できるんですよ」


「魔族、か」


セウスは何気なく、ポツリとつぶやく。


「いまだに、魔族という枠組みが消えはしないのか」


「はい。あなたのトローアが滅亡後、何度かの戦争があったんです。魔族に関する」


そう言い、セラーナは少し、悲しげに目をそらす。


「多くの犠牲もありましたが、国、としての存在を認めさせました。五つの大陸に五つの国が生まれました」


しかし、現状残っている国は、この森林地帯にある魔族国のみ、とセラーナは言う。


「哀しいな。種族こそ違えど、同じ心を持つものであろうに」


「そう簡単にはいきませんよ、いつの時代も」


セラーナは呟くと、手に持った樫の杖によりかかる。


「ああ、疲れました。セウス、負ぶってください」


「・・・・・・・・・・」


セウスは黙ってセラーナの腰と足を持つと、いわゆるお姫様抱っこ、をする。

少し、セラーナの頬に赤みが増すが、セウスもセラーナも、特に何も言わない。

無言で進む二人だったが、突然セウスが笑いだす。


「変わらないな、君は。二年前からちっとも」


「悪かったですね・・・・・・あなたこそ、変わらないですよね」


そう言った彼女がセウスの砂色の髪を撫でると、セウスは悪戯っぽく笑う。


「ああ、変わっていない、と言うのは失礼だったな。二年前より、格段に美しくなっているよ」


「なっ」


絶句するセラーナを、セウスは笑う。そっぽを向くセラーナ。

ふと、セウスは何かに気づく。


「ついたようですよ、お嬢様」


「みたいですね」


セウスはセラーナを優しくおろすと、ユグラドの木に隠された、大きな石の遺跡を見る。


「しかし、これは初めて見たな。私の生きた時代の後のモノ、か?」


「わかりませんが、妙じゃないですか?」


セラーナが周囲を見て言う。セウスも同意するように頷く。


「静か、だな。気配を感じない」


セウスほどの男で感知できない、などと言うことはないはずだ。

魔物と戦った形跡は、ない。


「ふん。厭な予感がするな」


「それって、よく当たりますか?」


セラーナの問いに、セウスは頷く。


「結構な確率で当たるぞ」


そう言ったセウスは、腰から儀式剣を抜く。

鞘から出た儀式剣は、鞘から抜き去った瞬間、その形状を変える。

実用性よりも装飾などで華美であった儀式剣から、銀の光に満ちた長剣へと変わる。

セウス王の愛剣、セアリエル。魔法鉱石ミスリル銀で作られたドワーフ族の秘宝。

それを抜いた、ということは、いよいよ危険だ、とセラーナは感じた。


「気をつけろ、どうやら、相手はこちらを殺す気のようだ」


そう言った瞬間、遺跡の口から、何人もの鎧をまとった騎士が現れる。


「この鎧、セアノ王国の・・・・・・・・・?!」


セラーナが驚愕する中、剣を抜いた敵が彼女向けて迫る。

思わず目を閉じたセラーナの前に、セウスが飛び出す。


「やらせはしない」


そう言ったセウスは敵の剣を銀の剣で受け止めると、目にもとまらぬ速さでそれを振るい、敵の身体を薙ぎ払う。

セラーナもその時には、落ち着きを取り戻しセウスを援護するように、魔術を唱える。

とはいえ、のんきに詠唱していればいい的だ。

セラーナは詠唱を破棄して魔術を行使する。多少、無茶ではあるが、彼女ほどの腕の持ち主ならば、さほど問題はない。

空中に現れた氷柱が、敵の頭上に降り注ぐ。

盾や剣で防ごうとするも、大半は防ぎきれず、負傷する。

殺すことに慣れていないセラーナは、無意識にか、威力を弱めていた。

だが、そんな敵はセウスが止めを刺していく。

今の彼にとって、セラーナこそ守るべきもの。彼女に害をなすならば、容赦はしない。

英雄セウスの剣技の前に、騎士はなすすべもなく倒されていく。



倒れた騎士を見ながら、セウスは言った。


「セアノ、と言ったな。なぜ、ここにいる?」


「セアノはこの大森林と面していないし、ここに来るにはほかの国を通らなければいけない。なのに、ここにいる・・・・・・・・・・・・」


セラーナが顎に手をやり、考える。


「まさか」


セラーナは普段からは考えられない、真っ青な顔で騎士たちの死体を見る。


「セラーナ?」


「はやく、知らせないと」


「どういうことだ」


事情を知らぬセウスに、セラーナは説明をする。


「ここ最近、セアノやアクスウォードで不審な動きがある、って聞いていたんです。魔族に対する攻勢に出る、という」


「・・・・・・・・・!」


「もしかしたら、この遺跡は魔族国への通路、なのではないでしょうか」


「・・・・・・・・・・・・・」


運悪く、他国のギルドの調査対象となった遺跡。

魔族国侵攻に際し、ここを使用するつもりであったセアノには都合が悪い。

おそらく、ギルドのメンバーは彼らに。


「だが、知らせる、とは魔族国にか?もしかすれば、もう、攻められているやもしれんぞ?それに、よじんばそうでないとしても、人間である君の言うことを、信じてくれるかな」


「・・・・・・・・・・・」


セラーナは沈黙する。

だが、強い光を持った目でセウスを見る。

言葉は必要ない。その目で、すべてがわかったから。


「君が望むならば、力を貸そう。私たちは、パートナーだからな」


それに、とセウスは言う。


「このような非道な行為を見逃せるほど、私は人間を辞めてはいないしな」





遺跡の中は、どうやら侵攻のために作り替えられているらしい。

遺跡特有のトラップや碑文は取り除かれてしまっているらしい。

惜しいとは思うが、今はそれどころではない。

セラーナは戦争を経験したことはないが、人の苦しむ姿を視たいわけではない。

平和であることが一番である。多くの人間も、魔族も皆そうだろう。

一部の者たちの、ちっぽけな思い込みや野望で世界が混沌に変わるならば、止めねばならない。

そんな思いがあった。

それは、セウスも同じである。

どんなに人間に絶望しようとも、彼は信じているのだ。

人間の善意を。

一度はその善意を疑い、捨てたが、彼は隣にいる少女のおかげで、再び信じることができる。


脚をもつれさせ、転びそうになるセラーナを抱きとめると、セウスは少女を抱えて、遺跡を疾走する。

魔術による脚力強化。まるで疾風のように、セウスは駆ける。


やがて、前方に光がさすと、セウスは一気に光へ向かう。






「あ、あぁ・・・・・・・・・・・・・」



その先の光景を見て、小さくセラーナが呻いた。


「遅かったか」


セウスは悔しげに歯ぎしりをした。整った顔は、悔しさに歪んでいる。


魔族国、と言われた魔族の楽園は、セアノ、アクスウォードをはじめとしたラカークン大陸の人間族の国に攻め込まれていた。

突如攻めてきた人間族に、魔族側も応戦はしているが、押され気味である。

魔神由来の種族と言えど、今では人間とさほど変わらない。

一対一ならば、武装した人間の方が強いに決まっているのだ。


「卑怯者どもめ、なんということを」


セウスが剣を抜き、闘おうとするのをセラーナがとめる。


「セウス」


「セラーナ、止めてくれるな」


「今は、人々を逃がす方が先です。ここにいる人は、民間人です」


そう言われ、セウスは周囲を見る。

魔族の子どもたちを抱えた母親の姿。それが彼の目に映る。

怯える弱者の目。

騎士であるセウス。その剣は、責めるためのものではなく、守るためのものだ。

そんなセウスの前で、その母親と子どもたちに向かう騎士がいた。

セウスはその騎士に向かって、抜き放った銀の刃で切り伏せる。


「守るべき剣を罪なき者に向けるなど、言語道断!」


そう言い、切り伏せるセウスを、呆然と魔族と人間が見る。


「貴様、人間であろう?なぜ、魔族に味方する」


人間族の騎士が、殺気を込めてセウスに言う。


「知れたこと。それは貴様らが間違っているからだ」


そう言うと、セウスは銀の光に輝く剣を天に高く掲げる。


「我が名はセウス!貴様らが真の騎士ならば、我を倒して見せよ!」


そう言うと、セウスは騎士たちに向かって斬り込んでいく。鮮やかな銀の閃光が、血の雨を降らせる。

騎士たちは、突如現れた化け物じみた存在に、混乱する。

その隙に、セラーナが女性と子供たちを非難させる。


「街からの脱出経路は?」


「わかりません。ですが、中央にシェルターが」


「では、そこまで逃げてください。私が、敵を引きつけますので」


そう言うと、セラーナは懐から数枚の札を取り出す。

自分の指をかみ切ると、血をにじませ、詠唱する。

セラーナの血を含んだ札が、セラーナの形をかたどる。

およそ、寸分たがわぬっセラーナたちは、本物が目で合図をすると、四方に散る。

魔術道具『複写符』。非常に高価な魔術道具であり、術者の魔力を込めることで、術者を形ドルことができ、またその魔力を使用して魔術も行使できる。

主に攪乱を目的としたものであるが、コストパフォーマンスが悪く、セラーナとしてもあまり使いたくない手ではあったが。


「どうして、人間のあなたが私たちを?」


そう問う魔族の女性に、セラーナは静かに笑う。


「なにも私たちみんなが、あなたたちのことを嫌っているわけではない、と言うだけです」


さあ、といい女性たちを促す。

その時、セラーナたちを見つけ、セアノかアクスウォードの兵士が奔ってくる。

セラーナは樫の杖の先を兵士たちに向けていった。


「殺すことは厭。でも、やらせはしない」


杖の先に集まった魔力は、まばゆい光を放ち、放たれる。

業火とかした魔力が、兵士たちを焼き払う。

違う方向から、兵士が姿を現し、セラーナの後ろに逃げた人々を追おうとするが、させはしない。


「はあぁぁ!」


少女の作り出した風が、進行の邪魔をし、兵士の身体を斬りつける。


「行かせはしない」


セラーナは力強くそう言うと、次なる魔術を展開した。





セウスは一通りの敵を一掃すると、セラーナと合流しようとした。

その時。

突如、頭上から降ってきた魔力の槍に、身をひるがえして避ける。

一瞬のうちに現れた殺気に気づかなければ、腕を持っていかれていたかもしれない。

冷や汗をかくセウスの前に、一人の人物が現れる。

だが、それは人間ではなかった。

だからと言って、魔族でもない。

セウスはその人物を見た時、すぐに分かった。

自分と同じ存在だと。


「何者だ」


「お初に御目にかかるな、序列三十位『沈黙』のセウス」


白い髪、褐色の肌。

異様にとがった耳は、エルフのそれに酷似している。

眼球は真っ黒に染まり、不気味な光を宿している。

人を不愉快にさせるような、薄ら笑いをした男はセウスを見て余裕を見せている。

只者ではない、とセウスは剣を構えて思った。

空気を通して、男の持つ得体の知れない力がセウスを刺激する。


「何者だ?人間でもなければ、亜人でもない。貴様は・・・・・・・・・・」


もしや、と言うセウスの言葉に、男はニヤリと笑う。


「たぶん、お前の考えている通りだ、セウス」


そう言うと、男の身体から黒い鋭利な魔力が解き放たれる。

今まで、感じたこともない、強力な敵意。それは、セウスを今にも殺そうと牙を剥けてくる。


「俺の名はハザ。序列八位、『狂笑』のハザ」


ハザ、と名乗った魔神は静かに、口元を歪めてセウスを見る。


「歓迎するぜ、セウス・・・・・・・・・・・・・死の饗宴の始まりだァ!」


セウスの周囲の空間が歪み、無数の漆黒の杭が現れ、四方からセウスを襲う。





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