第79話 星空デート
翌週、ひまわりお姉ちゃん一家と、杏樹お姉ちゃん一家が、まりんぶるーにやってきた。一気にまりんぶるーは賑やかになった。
「お姉ちゃん、妊娠したんだって?」
ひまわりお姉ちゃんがママにそう言って、杏所お姉ちゃんも一緒になって喜んでいる。杏樹お姉ちゃんはもう、立ち直れたのかな。
みんなが来たその日の夜は、ほんのちょっとまりんぶるーを閉めるのを早めて、まりんぶるーでパーティをした。なんのパーティなんだか、わからないが、皆が集まるとなぜか、パーティになる。昔から榎本家はパーティ好きらしい。
その会に、今まであまり出席することのなかった空君が来たから、ひまわりお姉ちゃんも、旦那さんもびっくりしていた。
「空君、久しぶり。わあ。大きくなったね!」
ひまわりお姉ちゃんは空君の隣に立って、背比べをしている。
「どうも。お久しぶりっす」
あ、空君、照れてる。言い方がぶっきらぼうだ。
まりんぶるーのアルバイトはまだ続けている。でも、あの夕日デート以来、また空君は、バイトが終わるとさっさと家に帰っちゃうっていう日々を送っていた。
だからこんな時は、親戚で良かったなって思ってしまう。みんなが、わいわい集まる中に空君もいる。ただそれだけなのに嬉しい。
そして、ディナーを食べ、大人たちはお酒を飲み(ママは妊娠中だから飲まないけど)、私や碧、空君は、そんな酔っ払いから逃げだして、またリビングに入り込んだ。
おじいちゃんは、お店でパパたちと一緒にお酒を飲んでいる。ひまわりお姉ちゃんと杏樹お姉ちゃんは、子供たちの寝る時間だからと、夜ご飯を食べ終えるとすぐに2階に行ってしまった。
そして、リビングには、お酒を飲まないおばあちゃんが一人でぽつんといた。
私たち3人がリビングに入って行くと、おばあちゃんはとっても喜んで、
「ここに座って、クッキーでも食べる?デザートでも何か、持ってこようか?」
とにこにこしながら、聞いてきた。
「もう無理。すげえ食ったから」
碧はお腹を抑えながらそう言った。
「俺も無理だ~~」
空君もそう言いながら、ソファに座り込んだ。私もその横に座り、
「私も」
と、呟いた。
でへ。隣りに何気に座っちゃった。碧は、いつもおばあちゃんの隣辺りに、ゴロンと横になっちゃうし、ソファは私と空君の二人で座ることになるんだよね。
こんなに空君と近づけたのは、夕日デート以来だなあ。
「大人たち、酒飲みまくるのかな」
「明日はみんなで、水族館に行くんでしょ?パパも仕事あるし、そんなに遅くまでは飲まないと思うんだけど」
「で、明後日は、海だっけ?いいね。みんなは遊び呆けることができて」
碧、最近やたらと愚痴っぽい。
「碧もたまには、息抜きしたら?」
空君がそう言うと、
「そうだな。海は日に焼けて、遊んでいたのがすぐにばれるから、明日あたり、水族館一緒に行こうかな。って、無理だよ。昼間は塾だ」
と碧は答えた。
「大変だなあ」
空君はぽつりと言ってから、
「やっぱり、ランク上の高校目指してるんじゃないの?」
と、碧に聞いた。
「…やれるだけ、やってみようかなとは思ってる。無理だったら、きっぱり諦めるけど」
え?じゃあ、彼女と同じ高校を目指しているわけ?すごい!
「10月の模試で、行けそうなら、彼女と同じ高校受けるよ」
「へえ。すげえな。愛の力だな」
空君がそう言うと、碧は照れるかと思ったのに、意外にもクールな顔つきで、
「そういうわけじゃないけど」
と、ぼそっと言った。
「じゃ、どういうわけ?」
「もしかすると、男の意地みたいな?」
「何、それ」
私はつい、口を挟んでしまった。
「他の野郎にね、彼女より頭悪いの?とか、レベル低いなんてダセ~~って言われたから、カチンと来てさ。一緒の高校行ってやろうじゃん。落ちたらきっぱり別れてやる。って、言い返しちゃったんだよね」
「バカだなあ、碧」
また、私はついそんなことを言ってしまった。
でも、男の意地って、変だよ。彼女のために一生懸命になるっていうならわかるけど。
「へえ。だけど、結局は、別れたくなくて頑張ってるんだろ?」
空君がそう言うと、碧は、
「まあね」
と、頭をぼりぼり掻きながらそう言った。
なんだよ。結局は愛の力じゃん。っていうのは、怒り出すかもしれないから黙っていた。
空君も、私と同じ高校に入りたくて、頑張ったって言ってたなあ。あれ、嬉しかったなあ。
ほわん。
夢心地になって、空君に寄りかかった。
空君は、何も言わず、そのままでいてくれた。
「いいわねえ。青春だわねえ」
今まで黙っていたおばあちゃんが、微笑みながらそう言った。
「本人たちはけっこう、きついんだよ?ばあちゃん。来年は、凪が受験だ。凪が苦しむんだ。ざまあみろ」
ムッ!何それ。
「卒業したらどうするか、凪ちゃんは決まったの?」
おばあちゃんに優しくそう聞かれ、ムッと頭に来ていたのに、すうっと気持ちが落ち着いた。
「うん。決まったよ。私、イルカのセラピーとか、そういうのに携わりたいの。イルカの調教師とかにも憧れたんだけど、それよりも、この前子供たちの笑顔を見て、なんか、これだなって、ぴんと来たんだ」
「そう。じゃあ、パパと同じ道を進むのね」
「うん。それで、心理学とか、いろいろとそういうのを勉強して、本格的にセラピストの勉強もしたいなって思って。そういう方面の勉強がしたいの」
「へえ。そんなにしっかりと考えてたんだ。空、知ってた?」
碧はごろごろしながら、そう空君に聞いた。
「うん。この前イルカのセラピー見に行ったとき、凪、そんな話していたもんね?」
「空君は、海洋学に興味あるんだよね?パパの研究所に入れたらいいなって、言っていたもんね?」
「え?!父さんの?じゃ、もし、凪があの水族館で働くことになったら、同じ職場ってわけ?」
碧がびっくりしている。
「まあ!素敵!職場が同じっていいわよね。職場恋愛ね!!」
おばあちゃんが、頬を染めながらそう言った。
「父さんも、爽太パパも違うから、新鮮だね。職場恋愛って」
碧が、そんなことを冗談ぽく言って来た。
「おばあちゃんとおじいちゃんは、職場恋愛していたわよ」
おばあちゃんがそう言ったので、私たちは思い切りその話に食いついてしまった。
「そうだよ。2人のなれそめとか、詳しく聞いたことってないじゃん。教えて、ばあちゃん」
碧がおばあちゃんに聞いた。私は一回、ママと一緒に詳しく聞いたことがある。でも、おじいちゃんが脳腫瘍だってわかってからの話だったから、なれそめとか、職場恋愛の話は聞いたことがなかった。
「圭介に初めて会ったのは、見合い相手の代わりに圭介がデートをしに来てくれた時よ」
「代わり?」
「見合い相手は、お医者さんで、その時急患が入って、来れなくなっちゃったの。それで急きょ、親戚の圭介が映画を観に来てくれたってわけ」
「へ~~~~~」
「圭介は、12歳も年下だし。私も本気で好きになるわけないと思っていたし」
「なのに、惚れちゃったんだ!ばあちゃん!」
碧が茶化すようにそう言った。
「どっちが先に、告白したの?」
珍しく空君までが、話に食いついてそう質問した。
「私の方からよ。でも、圭介は酔っ払ってて、覚えていなかったけどね」
「じいちゃん、そんときから、酔っ払い?」
碧が大笑いをした。
「職場では、席が隣だった。好きだってことを悟られないよう、いつもドキドキしてたわねえ」
「え?なんで?」
「12も差があったし。まさか、こんなおばさんを好きになってくれるわけないって思っていたしね」
「へ~~~。じゃあ、ドキドキの毎日だね」
私がそう言うと、おばあちゃんは私のすぐ隣から顔を出して、おばあちゃんの話を聞いている空君を見て、
「あら。2人だって、ドキドキの毎日でしょ?」
と、聞いてきた。
え?
空君は真っ赤になって、私から少し離れた。
ああ!おばあちゃん。空君はシャイなんだから、そういうこと言わないで。それも、最近はそう言う言葉に弱くて、すぐに離れちゃうんだから。
おばあちゃんはそのあとも、会社での出来事や、2人で海にデートに行ったことなど、話してくれた。
空君はもう、ソファの背もたれにもたれて、私からちょっと離れたところに座り、静かに話を聞いているだけだった。
碧は、まだ、話に食いついていて、おばあちゃんに時々、冗談を言って笑っていた。
私は、空君みたいに背もたれにもたれた。その時、空君に近づいてみた。
肩と肩が触れ合うくらい近づいて、背もたれにもたれてみると、空君は、ちらっと私のことを見た。でも、そのまま俯いてしまった。
えっと。照れてる?もしかして。
でも、じっとしててくれてるから、いいんだよね?このまま、くっついてて。
何気に、手を足のほうにのばすと、空君の手と触れてしまった。そしてそのまま、どっちからともなく手を繋いでしまった。
ドキ。空君の手、あったかい。
なんだか、妙にドキドキしちゃうなあ。
「あ!なんでそこ、こんなところでいちゃついてんだよ」
碧が私たちが手を繋いでいるのを見て、いきなり大声でそう言って来た。
「ひでえ!俺なんて、彼女と塾でちらっと会うだけで、デートもしていないって言うのに」
「寂しいわね。塾でちらっと会うだけなの?」
おばあちゃんがそう聞くと、
「成績順にクラス分けされてて、彼女のほうが成績良くて、一つ上のクラスなんだ。だから、同じ塾行ってたって、行き帰りにちょっと話せる程度」
と、碧は寂しそうにそう答えた。
「まあ、寂しいわね」
また、おばあちゃんはそう言って、優しく碧のことを見た。
「なのに、空と凪は、年がら年中くっついててさ。俺への当てつけ?嫌がらせ?」
「はあ?」
くっついてないよ。こんなの、久々だよ。
空君が手を離そうとした。でも、私は碧に言われたことが悔しくて、わざと手を離そうとしないで、ギュウっと空君の手を握りしめた。
「なんだよ。まだ、手、繋いでんの?」
碧がそれを見て、ふてくされた声でそう言った。
「離れないもんっ」
そう言うと、おばあちゃんはくすくすと笑い、隣で空君は顔を赤くした。
「ちきしょう。高校行ったら、いちゃついてやるっ!それも、凪の前で、べったべったに!」
「すれば?私もするもん。碧の前で、べったべったに!」
「誰と?」
「空君に決まってるじゃない!」
「そうなの?空、凪とべったべったにいちゃつくの?」
碧がそう聞くと、空君はもっと顔を赤くしてしまった。
「碧は?誰と?」
私は言い返した。すると、碧は、泣きそうな顔になり、
「くそ~~~!!!!」
と言って、その場で両手をじたばたさせて悔しがった。
あちゃ。今の彼女とって、堂々と言えないんだな、碧。けっこう、今、窮地なのかしら。
ジタバタしている碧は、そのうちに寝てしまった。私は空君と、
「もう帰るね、おばあちゃん」
とそう言って、寝ている碧をその場に残して、リビングを出た。
ママは大丈夫かな。酔っ払いのパパの相手。と、お店のほうを見てみると、
「あ!凪、帰るの?空に送ってもらうの?」
と、パパが元気に聞いてきた。超ご機嫌だ。やすお兄ちゃんも、かんちゃんさんも、パパ、仲良しだから、久々に会えて嬉しいんだろうな。
でも、そんなに酔っている感じじゃないな。
「ママは?私と一緒に帰る?」
パパの隣にいるママに聞くと、
「そんなやぼなことしないわよ。空君と二人で帰りなね、凪。聖君、そんなにお酒飲んでいないし、ちゃんと聖君と帰るから」
と、ママに言われてしまった。
「碧はリビングで寝てるから」
「わかった。帰る時、起こして連れて帰るね」
ママはにこやかにそう言って、軽く手を振った。パパは、
「空。送りオオカミになるなよ!」
と、そんなことを空君にでかい声で言った。
「なりません」
空君は小声でそう言い返し、顔を赤くして、私より先にお店を出て行った。
ああ。なんだって、みんな、ああいうこと言っちゃうわけ?空君、もっと私から、離れて行っちゃうじゃん。
と思っていると、なぜか、空君は私と手を繋ぎ歩き出した。
手、繋いでくれるんだ。嬉しい。
「星、結構出てるね」
空君は空を見つめた。
「うん」
「この前は、夕日デートだったけど、今日は星空デートだ」
え?
空君がすっごく可愛いことを言った!!!
「凪、ほんのちょっと、星空見てから帰ろう」
「いいの?」
「うん。なんで?」
「ううん。2人きりになるのを避けているかと思っていたから」
「ああ。避けてるわけじゃないけど…。部屋とかで二人はやばいって思うから、それは避けてるけど」
そうなんだ。
「それに、また、あんまりデートできていなかったし。あ、でも、また散歩デートになっちゃうね」
「ううん。嬉しい!空君と二人きりになれるのが、すっごく嬉しい!」
そう言って、腕に抱きついた。空君、また、胸が当たってるって言って、嫌がるかと思ったら、そのままにしてくれた。
もしかして、だんだんと空君、こういうのも慣れていってるのかな。
ギュギュ。もっと、空君の腕にしがみついた。べったりとくっついているのに、空君は空を見上げ、黙っている。
あれれ?星に興味がいっちゃってて、隣にいる私のこと忘れているのかな?まさか。
「凪…」
「え?」
「……胸が…」
「当たってた?」
「……そういうのって、凪は平気なの?」
「胸が空君の腕に当たっていること?」
「うん」
平気。って言ってもいいのかな。でも、平気。でも、なんで平気なのかな?これがもし、手で触られたとしたら、嫌がるけど。
嫌がるかな?
嫌がらないかも。
あれれ?
「凪?」
ずっと返事をしないでいたら、空君がちらっとこっちを見た。
「平気」
そう一言言うと、空君は、
「そうなんだ」
と呟いた。
「他の人にはしない。胸が腕に当たるくらい、ひっついたりなんか、考えられない」
私はなぜか、そう話を続けていた。なんだって、私、こんなこと言ってるのかな。もしかして、私がこういうことを平気でする女の子だと、思われないようにかな。
「俺だったら、平気?」
「うん」
「どこまで、平気?」
「へ?」
「……」
「……」
2人して、しばらく沈黙した。とっても変な空気がそこには流れた。
どこまでって、どういう意味の、どこまで?
「ごめん。変なこと聞いた。今の、忘れて」
空君は慌てたようにそう言うと、また空を見上げて、
「ほんと、今日、星が良く見えるよね」
と、誤魔化していた。




