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第65話 イルカのいたずら

 イルカのセラピーが始まる前に、私と空君は更衣室に行き、水着に着替えた。それから海に行くと、空君のほうが先に海辺にいた。

「あ…」

 あ?


 なんか、空君、私を見て顔を赤くしたけど。

「そっか。ビキニにするって言ってたっけ」

「え?!う、うん」

 水着を見て、顔を赤くしたのか…。なんか、照れる。やっぱり、ビキニやめたらよかったかな。


「前に、碧が、凪の水着姿見てがっかりするようなこと言ってたよね」

「え?そうだっけ?」

 そう言えば、生意気なことを言っていた気がするなあ。


「あれ、嘘だよね」

「へ?!」

「って、思った。けど、実の弟じゃ、わかんないよね。凪のこと」

「へ?!」


 どういう意味だ?!

 空君は耳まで赤くして、それから、パパがやってきたのを見て、慌てて私から離れてしまった。


「お~~、空、凪」

「パパ!」

「ルイと泳いできたのか?凪」

 パパも水着だ。一緒に泳ぐのかな。って、待てよ。

 スタッフの女の人、なんか、目をハートにしてパパのこと見ていない?


「泳いできた。すごく楽しかったよ」

 そう言って私はわざとパパの腕にしがみつき、

「今日のイルカのセラピーも楽しみだな」

とそう言ってから、ちらっと女のスタッフさんのほうを見た。


 あ、目、そらした。もう~~~。パパの水着姿見て、顔を赤らめたり、目をハートにしたりしないで!パパにはママがいるんだからねっ!という気持ちも込めて、もうこっちを見ていなかったけど、キッと睨んでみた。


「なんだよ、凪は。パパに甘えちゃって」

 あ、パパ、なんか勘違いしてる。と、パパの勘違いに気が付いて、ふと我に返ってみると、空君が私とパパを見て、変な顔をしているのに気が付いた。


 うわ!パパにべったりの、ファザコンだって思われた?違うよ、これはっ!

 慌ててパパから離れ、心の中でそう叫んでみたけれど、もう空君は海のほうを見ていて、私の方は見てくれなかった。


「凪~~~~」

 つんつんとパパが私の背中をつついてきた。

「何?!」

 もう、パパのせいなんだからね。とちょっと怒りながら振り向くと、

「空の腕にはしがみつくなよ。そのビキニ姿でしがみつかれたら、空、鼻血出すからな」

と、とんでもないことを言って来た。


「は、鼻血?」

「そう」

「ま、まさか~~~。そんなこと空君が…」

「そういうお年頃だから、気を付けてあげなさい」


 うそ~~~!何それ~~~!!!


 とりあえず、ビキニでしがみついたり、ハグするのはやめよう。そうだよね。胸が直に空君の肌に触れちゃうようなもんだよね。それ、私もかなり恥ずかしいし。


 しばらくすると、その日、イルカと泳ぐ子たちが集まってきた。親御さんも一緒の子もいた。

 自閉症のお子さん、アトピーのお子さん、それから、私とあまり年の変わらない人もいた。パパの話だと、学校に行かず、引きこもりになった人や、鬱になった人も来ているんだそうだ。


 ああ、私も沖縄の海で癒されたもんなあ。自然とイルカに触れあって、少しでも気持ちがすっきりしたらいいよね…。


 パパは注意点などを海に入る前にみんなに説明している。とはいっても、自閉症の子たちには近づかないようにしている。あまり、人が介入するよりは、その子たちがイルカと自然に触れ合うようにしているらしい。


 イルカたちは、何かを察する能力みたいなのがあって、自閉症の子たちには静かに接するんだそうだ。おどかしたりもしないらしい。


 子供たちが海へと入って行った。パパやスタッフさんは、しばらく黙って様子をうかがっている。

 私も他の子たちと一緒に空君と海に入った。


 するとイルカたちが泳いでやってきた。

 あ、あれれれれ。

 なんか、みんな私の周りに来ちゃったんだけど。


 私が泳ぎだすと、イルカも一緒に泳ぐ。嬉しそうに泳いでいるイルカは、自閉症の子たちがいるところにいくと、おとなしくなった。


 何か、柔らかい優しいオーラを出しているみたいだ。

 私もそっとそっちに近づいた。イルカはまだ、静かに泳いだり、静かに子供たちに近づいて行っている。


 そして、イルカたちが輪になって集まってきて、子供たちがイルカと触れ合いだして、私もその輪の中にいた。

 すご~~~い。優しい空間だ!ものすごく癒されちゃう。


 しばらく、その輪の中で私はイルカと泳いだり、子供たちと泳いだりしていた。

 高校生くらいの子も、イルカと泳げて嬉しそうにしている。


「すごいね、凪の光」

「え?」

 いつの間にか隣に来ていた空君がそうぽつりと呟いた。


「イルカも一緒にいた子たちも、包み込んでたよ」

「私の光?」

「イルカも出してるんだね。さっき見えた」

「光を?」


「光っていうか、オーラかな。いつもは見えないんだけど、今日は見えた。なんでかな?優しい淡い感じの色だった」

「うん。それ、感じてた。イルカたちといると、いつもより癒されたし、優しかった」

「イルカってさ、健常者と自閉症の子たちの違いを感じ取れる力があるんだって」


「そうなの?」

「それで、いつもより優しく接してたんじゃないかな」

「すごいね」

「凪もすごいよ。凪の周りにいた子たち、表情が優しかった」


「…そう?」

「凪、こういう仕事向いているかもね」

「………」

 空君に言われて、私も気が付いた。イルカと子供と一緒にいると、私のほうが癒されたし、元気になれた。


 こういう仕事、してみたいなって、私もそう思う。


 子供たちから離れ、私は空君と一緒にイルカと泳いだ。子供といる時よりイルカは、はしゃいでいるように見えた。それにたまに、背中をつっついてきたりして、じゃれついているようにも見えた。

 もしかすると、まだ子供のイルカかな。


 つん!つん!

「あ、また、背中つついてきた。遊んでって言ってるのかなあ」

「あ!凪!」

 空君が大きな声をあげ、それから顔を赤らめた。


「え?」

 ハラリ…。

 なんか、取れた。海の中に何かが落ちたけど。


 これ、何?見覚えがある柄と色…。

 ガバッ!

「きゃ?!」

 空君がいきなり、私を抱きしめた。


「凪!今のうちに水着とって」

「え?!」

 う、うわ~~~~!!!落ちたのって、私のビキニ。じゃ、今、私、もろ胸があわらになってるの?


 それで、空君が私を抱きしめて、胸を隠してくれたんだ。

 私は一瞬、真っ白になったけど、ようやく今起きていることを理解した。でも、遅かったみたいだ。ビキニがどんどん流されていってる。


「私の水着~!」

 そう言って手を伸ばした。周りにた子供たちは驚いていた。そして、ちょっと離れたところに男のスタッフさんがいて、

「今、取ってきます!」

と大きな声でそう言うと、ビキニに向かって泳ぎだした。


「うわ~~~。いいです」

 そんな、若い男の人に取ってもらうのも恥ずかしいよ。

 でも、動けない。今動いたら、胸をみんなに見られちゃう。


 っていうか、私、ずうっと空君に抱きついてるけど、これ、もろに空君に私の胸当たってない?

「凪、そのまま、しゃがむよ?いい?」

「うん」

 私は空君と海の中にしゃがみこんだ。とりあえず、胸は海水の中におさまり、他の人に見えなくなった。


「俺が水着取ってくるから」

「待って。ここに一人で取り残されるの、不安だよ、空君!」

「でも…。あ!」


 ものすごい勢いで、私の水着に向かって泳ぐ姿があった。あ!パパだ!

 そして、パパは私の水着を手にすると、こっちに向かって泳いで来てくれた。


「はい、凪」

「パパ~~~!」

 泣きつきそうになった。でも、立ち上がると胸がまたあらわになるし、そのまま大人しく水着を受け取った。

「後ろ向いてつけたら?俺が壁作っておいてやるから」

 そう空君が言ってくれた。


 パパも空君の横に立ち、私がみんなに見られないようにしてくれた。その隙に水着をつけた。

「大丈夫か?凪」

「うん」


「お前、もうビキニでイルカと泳いだら駄目だぞ。たまに悪戯してくるイルカもいるんだからな」

「うん、パパ」

「空、凪のこと助けてくれてサンキューな」

 パパはそう言うと、浜辺のほうにすうっと泳いで行ってしまった。


「ごめん、空君。ありがとう」

「う、うん」

 空君も、す~~っと泳いで行き、私もその後ろからついて行った。


 海からあがると、さっきの若い男のスタッフさんがやってきた。

「さっきはごめんね?水着取ってあげられなくて。でも、さすが聖さん。泳ぎが達者だよね」

「……あ、す、すみませんでした」

 私は恥ずかしくて顔をあげられず、下を向いたままそう言った。


 この人、けっこうあの時近くにいた。まさか、胸、見られてないよね?とっさに空君が私を抱きしめて、隠してくれたけど、見られてないよね?!


「この彼は君のナイト?」

「え?」

 なんだ?突然。

「素早い対応だったなって思ってさ」

 そう言うとその人は、空君の肩をぽんぽんと叩き、その場を去って行った。


 か~~~~~っ!空君がいきなり真っ赤になった。そして私を見た。

「あ、あの人に見られてないよね?」

 私は思わず空君にそう聞いた。


「え?う、うん。凪の背中を向けてる方にいたから、大丈夫だったと思う」

「そっか」

 ほっとした。


 でも、空君はまだ真っ赤だ。

「ごめん」

 そして突然謝ってきた。


「え?」

「ごめん、凪。俺…み、み…」

 そこまで言うと、空君の視線は私の胸のほうにいき、そして…。


「空君?!だ、大丈夫?」

「え?」

「鼻血、出てる」

「え?!」


 空君が慌てて上を向いた。

「空!上は向くな」

 どこからかパパがやってきて、空君にそう言うと、

「ほら。上を向いてたら喉のほうまで血が流れるぞ。鼻のこの辺を指で押さえろ」

と空君の鼻の上の方をつまんだ。


 女性のスタッフさんが、ポケットティッシュを持っていて、パパに渡した。パパはテキパキと空君の鼻にティッシュを詰め、

「ちょっと、日陰で休め」

と空君に言って、空君の肩を抱いて歩き出した。


「すみませんでした。俺」

「しゃべるとつらいだろ?黙ってろよ、空」

「でも、俺」

「いいから、黙ってろ」


 パパにそう言われても、空君はまだパパに、

「すみません。俺、情けない」

と、そんなことを言っている。


 私も空君が心配になり、後ろからついていこうとすると、

「凪は来ちゃ駄目。今、お前刺激強すぎるから。さっさと更衣室に行って、着替えてからおいで」

と、パパに言われてしまった。


 え?


「………」

 そうか。もしかすると、鼻血の原因は、私…。


 あ~~~~~。今度は私が空君に悪いことをしたって申し訳なさでいっぱいになった。


 更衣室で着替えをしながら、ふと思い返してみた。

 空君、私の水着が取れたこと、いち早く気が付いたんだよね。ってことは、しっかりと胸見たんだよね。


 それに、私のこと抱きしめて、他の人に見えないようにしてくれたけど、私もしっかりと空君に抱きついたから、胸がもろに空君にくっついちゃってたんだよね?空君の素肌、私もしっかりと感じていたし。


 そ、そ、そうか。他のスタッフさんに見られなかったかが気になって、空君のことはあまり気にしていなかったけど、とんでもないことをしていたんだ。私。

 私。

 私…。


 空君にもろ、胸、見られたんだ!!!


 今さらだけど、恥ずかしい。ビキニを取って、胸を見てみた。こ、この胸、見られちゃったのか!


 なんか、空君に会うのがいきなり恥ずかしくなってきた。


 でも、こんなたいした胸じゃない胸を見て、空君は鼻血出しちゃったの?やっぱり、暑さとかが原因じゃないの?

 なんて、思ったりもしたけど、私を見て鼻血出してたし…。


 空君、前は私の着替えを見ても、キョトンとしていたのにな。って、あの時の空君はまだ、小学生だったっけ。

 だけど、空君も、大人になったんだ。パパも「そういうお年頃」ってそういえば、言ってた。


 恥ずかしい。それと同時にいろんな思いが交差してきて、複雑な心境だ。

 これから、私と空君、どうなっちゃうのかなあ。




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