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第55話 忙しい想い

 リビングに空君と二人きりになった。

 どうしよう。空君もさっきから黙っている。


「あのさ」

 ドキン!

「な、何?!」

 あ、なんか声が大きくなっちゃった。


「凪はまだ、ここにいる?」

「え?」

「そろそろ部屋に戻る?」

「あ…。えっと。そ、空君は?」


「俺は、まだ、ここで凪と一緒にいたい…かな」

 ドキ。

「じゃ、じゃあ、私、まだここにいる」

 そう言うと、空君はちらっと私を見てはにかんで俯いた。


 可愛い。

 なんだって、今日の空君はこんなに可愛いんだろうか。


「凪の部屋、行ってもいいんだけど」

「え?」

「でも、なんだか行きづらくなった」

「…」

 なんで?


「前は平気だったのにな」

 そうだよ。平気で私の部屋に来て、私のベッドで寝ていたりしたよ?熱出したとき。


 空君は頭をぼりって掻いて、

「意識しすぎだね。ごめん」

とちょこっと頭を下げた。そして次に顔を上げると、顔が赤かった。


 意識、しすぎ?なんの?

 えっと。


 あ、パパが、夜這いに行ったりするなよなんて言ったから?

 それで、部屋にこれなくなっちゃった?


 空君と私の間は、微妙に間がある。もっと近づきたいけど、行っていいものかどうか。

 空君が何か意識しすぎちゃってるみたいだし、やっぱり、近づくのはダメだよね。

 でも…。


 さっきからなんだか照れくさそうにしている空君が、可愛い。

 キュン。

 髪がすっかり乾いてホシャホシャってしているのが可愛い。

 キュン!


 空君から醸し出されている空気が、もう全部全部可愛い。

 キュキュキュン!


「そ、空君」

「え?」

 私の身体は勝手に動いていて、空君のすぐ横に座り込み、抱きついていた。


「え?な、なに?凪」

 ムギュって抱きしめて、空君が硬直しているのに気がついて、離れようとした瞬間、

「空!何を凪にひっついているんだよ。さっき、手なんて出さないって言ったばかりだろ!」

というパパの声が後ろから聞こえてきた。


 うわ!パパに見られた。慌てて空君を抱きしめていた両手を思い切り離すと、

「あ!なんだよっ!凪のほうが抱きついていたんじゃんかよっ!」

とパパに気づかれてしまった。


 私は慌てて空君からすぐに遠ざかった。空君はまだ、真っ赤になったまま硬直していた。

「凪。お前なあ…。空がかたまってるじゃん」

「……ごめんなさい」


「なんだか、子供の頃の凪見てるみたいだったなあ。よく空に抱きついてた」

 ひょえ~~~~。

 まさか、パパに見られちゃうだなんて!!


「私、部屋に行くね。そうだ!宿題があった。…かもしれないし!」

 そう言って私は立ち上がり、階段を上りだした。すると後ろから、

「あ、お、俺ももう碧の部屋に行きます。聖さん、おやすみなさい」

と空君も立ち上がり、階段を上ってきた。


「ああ、凪、空、おやすみ!」

 パパはそう言ったあとにすぐ、階段の下までやってきて、

「凪!空を夜中に襲いに行くんじゃないぞ!」

とそう大声で言ってきた。


「お、襲うわけないじゃん、パパのアホ~~~!」

 私はそう怒鳴って、急いで自分の部屋に入った。

 バカバカ。空君におやすみとか、おやすみのキスとかしたかったのに。パパがあんなこと言うから、恥ずかしくて部屋に飛び込んじゃったじゃないか。


 あ~~~。もうちょっと、空君と一緒にいたかった。二人で一緒に…。


 ドスン。ベッドに横になった。隣の碧の部屋に空君がいる。

 いいなあ。碧。今日、空君と一緒に寝るんだ。碧のベッドの横に布団敷いて寝るのかな。


 空君とずっと一緒なんだ。いいなあ…。本気で羨ましい。

 はあ…。もう空君の可愛いオーラが恋しくなってきた。

 さっき、抱きしめた時、感じたあの可愛いオーラ。ほわほわあったかい可愛い優しい空気。


 でも、空君、思うがままに行動していいって言ってくれたのに、いざ、私がハグしたらかたまっちゃったなあ。


 しばらくベッドの上で、ぼ~~~っとしていると、

「ワハハハ!空の負けだ。空、よえ~~~!」

という碧の元気なでっかい声が隣から聞こえてきた。


「あ、またゲームしてるんだ。ポータブルゲームか何かで遊んでいるのかなあ」

 いいなあ。仲間に入りたいくらいだ。

 碧の声はでかいからよく聞こえて来るけど、空君はあまり大きな声を出さないから、まったく聞こえてこない。

 空君の声も聞きたいのに。


「はあ…」

 子供の頃なら、私も混じってた。平気で空君と碧と一緒に寝ていた。それも、空君の布団に潜り込んで、空君にひっついて…。

 でも、もうそういうのはできないんだなあ。ちょっと寂しいなあ。


 結局、勉強もほとんど手につかないまま、時間ばかりが過ぎ、2時を回っても眠れないままだった。

「水でも飲んでこよう」

 隣の部屋からは、1時を過ぎたあたりから声が聞こえなくなった。もう寝たのかもしれない。


 そっと階段を下りて、キッチンで水を飲んでいると、誰かが2階から下りてきた。

「凪?」

 空君だ。

「どうしたの?」


「あ、俺も喉渇いちゃって。水貰ってもいい?」

「うん。カレーが辛かったのかな」

「そういうわけじゃないけど。ちょっと、寝れなくって」

 空君は水の入ったコップをダイニングのテーブルに置くと、椅子に座った。


「凪も?眠れなかったの?」

「う、うん」

 私も椅子に腰掛けた。


「碧は?」

「寝た。ゲームやってる最中から半分寝てて、もうだめだ、眠いって言って、30分前くらいには寝たかなあ」

「碧、イビキかいててうるさくて眠れないとか?」

「いや。クースカ静かに寝てるよ」


「じゃあ、どうして眠れないの?」

「凪は?」

「私は…」

 だって、空君が気になって。とは言いにくいよ。


「なんか、隣に凪がいるんだなって思ったら、眠れなくなっちゃったんだよね」

 え?!

「空君も?」

「あ、凪も?」


 うわ。照れる。って、空君のほうが真っ赤だ。

 なんだってこうも、空君、可愛いんだろう。


 ああ、今、二人で照れ合ってるかなあ、もしかして。

「凪」

「え?」

 ドキン。


 空君が、顔を近づけて、私にキスをしてきた。

 うわ。うわわ。なんだか、照れる!

 

「顔、真っ赤だよ?凪」

「え?ほ、ほんと?」

「なんか、面白いね、凪って」

「どうして?」


「だってさ、いきなり抱きついてきたりするくせに、キスすると真っ赤になっちゃうから」

「そ、それを言うなら空君だって。抱きつくと硬直して真っ赤になるくせに、こうやって平気でキスしてくる」

「だって、凪からなかなかキスしてくれないから」

「え?!」


「抱きつくのはしてくれるようになったのにさ…」

 うわ~~~。顔、熱い。

「だ、だって、それは…」

「うん?」


「い、いいのかな」

「え?」

「本当に私からキスして、空君は引いたりしないの?」

「なんで引いちゃうの?そんなわけないじゃん。して欲しいのに…」


 うっわ~~~~。

「わ、わ、わかった。えっと…。じゃ、じゃあ、えっとね」

「うん?」

「ゆ、勇気が出せた時に…でも」


「…勇気いるの?」

「いる」

「でも、子供の頃は簡単にしてきてたよ」

「子供だったんだもん」


「あ、じゃあ、今日抱きついてきたのも、勇気いったの?」

「ううん。あれは勝手に体が動いてて」

「ああ、なんだ。そうなんだ。じゃあ、キスも、勝手にしたくなったらするんじゃないの?」

「え?!」


 そそそ、そうかな。勝手に私、しちゃうのかな。でも、たまにだけど、キスしたいっていう衝動に駆られることはあるかも。

「したくなったら、してもいいの?」

「いいって言ってるのに。あ、でも、人前ではちょっと、俺、恥ずかしいかも」

「それは私だって!」


「うん」

 空君は顔を赤くして俯いた。それから水をゴクっと飲んだ。

「あのね、空君」

「ん?」


「私が、あんまり素直にいろいろと正直に話して、引いちゃうことないかなあ」

「俺が?ないよ」

「ほ、ほんと?」

「うん。で、なあに?」


 うわ。可愛い目でこっちを見てきた。

「あ、あのね。さっき、空君と2階に上がったでしょ?」

「うん」

「本当はパパにあんなことを言われなかったら、空君とおやすみのキスくらいしたかったんだ」


「……」

 え?うわ。空君、真っ赤になっちゃった。やっぱり、言わない方がよかったかな。

「なんだ。してくれたら良かったのに」

「う、うん…」 

 顔、真っ赤にするのに、そんなふうに言ってくれちゃうんだ…。


「じゃあ、そろそろ私、部屋に戻るね」

「あ、うん。俺、トイレ寄ってく」

「……」

 なんだあ。一緒に2階にいって、おやすみのキスしたかったなあ。


 あ、そうじゃなくて。今、おやすみのキスがしたかったら、私からしてもいいんだよね?

「空君」

「え?」

 椅子から立ち上がった空君の横に行き、私から思い切ってキスをしてみた。


「え?」

「あ、おやすみなさい」

「あ…」

 うわ。また、空君、かたまった。なんで?自分からキスしてきていいって言ってるくせに。


「じゃ、じゃあ、ほんとに、おやすみなさい」

「うん」

 私はくるっと階段の方を向き、2階に上がった。空君はトイレの方に行ったようだ。


 部屋に入ってから、急にドキドキしてきた。

「私から、しちゃった。キス」

 は~~~~。溜息とともに、座り込んだ。顔が熱い。


 空君、ちょっとびっくりしてた。私、急すぎたのかな。

 でも、びっくりしてたけど、顔真っ赤にして可愛かった。


「ああ!もうっ!」

 なんであんなに可愛いんだっ!!


 そりゃね、空君は子供のころとっても可愛かったよ?

 でも、中学3年あたりから、どんどん大人っぽくなって、背も伸びて、声変わりもして、私のこと無視までして…。

 どんどん、私から離れていって、もう子供の頃の空君とは違っちゃったって、ずっとそう思ってた。思っていたのに。


 今日の、いや、最近の空君は、子供の頃に戻っちゃったかのように、やたら可愛いじゃないか!

 なんでだ。どうしてだ?

 もしかすると、空君、可愛かったのに、ずっと話もしなかったから、わからなかっただけ?


 勝手に、もう子供の頃とは違うんだって思い込んだだけ?

 空君はやっぱり、空君で、可愛くてあったかい。


 でも、でもでもやっぱり、

「ドキドキしちゃうよ~~」

 ベッドにうつっぷせた。まだ、心臓がドキドキしている。


 バタン。隣の部屋のドアが閉まる音がした。あ、空君、碧の部屋に入ったんだ。

 もう、隣の部屋にいるんだ。


 キュンってしたり、ドキドキしたり、可愛くなったり、抱きしめたくなったり。

 キスしたくなったり、でも、近づくと恥ずかしかったり。だけど離れたら離れたで、寂しくなったり。

 恋って、なんて忙しいんだろうか。


 片想いとは違う…。両想いっていうのも、いろんな思いを味わっちゃうんだね。

 そんなことを思いつつ、私はそのあとも、なかなか寝付くことができなかった。


 


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