第54話 運命の赤い糸?
夕飯を食べ終わり、パパは、
「洗い物は俺がしちゃうから、凪はお風呂入っておいで」
と言ってくれた。
「あ、俺も手伝う」
碧もキッチンに行くと、空君も、
「俺も何か手伝います」
とキッチンに行った。
「え?じゃあ、二人に任せていい?3人もいらないよね」
パパはさっさと二人に洗い物を任せ、
「桃子ちゃんに会いに行こうっと」
と、2階に上がっていってしまった。
あ。ママに嬉しいことがあったって報告しに行きたかったのになあ。
そう思いながら、とぼとぼと2階に上がると、パパが2階で待っていて、
「凪、こっち」
と寝室に私も入れてしまった。
「桃子ちゃん、サラダ食べられた?」
「うん。夕飯は食べ終わったの?」
「今、碧と空が洗い物してくれてる。凪の作ったカレー、超美味しかったんだ。ね?」
パパが私のことをベッドに座らせ、パパも私の隣に座るとそう言った。
ママはベッドに座って、編み物をしているところだった。
「ママ、ずっと編み物していたの?」
「うん。つい編み始めると、続けちゃうんだよね」
「あんまり無理しちゃダメだよ、桃子ちゃん」
パパが優しくそう言った。
「うん」
ママが嬉しそうに頷いた。
「パパはママのこと、大事にしてる…よね」
ぼそっとそう言うと、
「あれれ~~?凪だって、思い切り空に大事に思われちゃってるくせに~~。そんなこと言っちゃって!」
とパパが私の腕をつっつきながら言ってきた。
「桃子ちゃん、聞いて。空ってばさあ、凪のことすごく大事に思っていますなんて、言っちゃったんだよ。なんか、空、すげえ可愛かった」
きゃ~~。パパが言っちゃった。
「え?そうなの?よかったじゃん、凪~~」
ママが顔を赤くして抱きしめてきた。
「う、うん」
私も顔が熱くなった。
「でもさ、俺、思ったな」
「え?」
パパも私のことを抱きしめながら、ぼそっと話しだした。
ああ、今、ママとパパに抱きしめられ、サンドイッチ状態だ。私…。
「凪が空のこと、大事に思っているから、空も大事に思ってくれてるんじゃないかなってさ」
「え?」
「うん。きっとそうだよね。私もそう思うよ」
ママも頷きながらそう言った。
「凪、空のこと大事でしょ?」
「うん」
「俺も桃子ちゃんも、凪がすげ~、大事~~~」
ギュってパパが抱きしめてきた。ママまでが…。
「く、苦しいよ~~」
そう言うと、パパが、あははって笑って私から離れた。
「お風呂入ってくるね」
「うん。パパはしばらくママといる」
私がベッドからどくと、パパはママの方に体をずらし、
「桃子ちゅわん!今日、編み物1日してたの?」
とママに話しかけていた。
ああ、ママとパパのいちゃつく時間なんだ。
私はさっさと寝室を出て、着替えを取りに行った。そして1階に行くと、空君と碧が楽しそうに笑いながら、まだキッチンにいた。
どうやら、洗い物をしながら、いろいろと話しているみたいだ。
ほんと、兄弟みたいに仲いいよな。
そんなふたりを横目で見ながら、私はお風呂に入りに行った。
湯船で、ぼけ~~っとした。空君の言った言葉を思い出し、顔を赤くさせたりもした。
「は~~~」
今日は、空君、ずっとうちにいるんだよね。ママじゃないけど、同じ屋根の下にいるだけでも、ドキドキしちゃうな。
そしてのぼせそうになり、慌てて私はお風呂から出た。髪を洗面所で乾かしたが、なんだか空君のそばにいたくなり、半乾きのままリビングに行った。
空君は碧と、テレビゲームをしているところだった。
「あ、やっと出てきた。凪は本当に風呂が長いよな」
碧がそう言って私を見た。すると空君も私を見て、目が合うとパッと視線を外された。
あれ?なんで?もしや、この格好が変だったとか?
いつもはヨレヨレのTシャツと短パンで寝ていたりするんだけど、さすがに空君がいるから、ちゃんとしたパジャマを着たんだけどな。去年の夏、高校の林間学校で着るために買ったパジャマ。
私は碧の隣に座り、ボケっとしながらテレビゲームを見た。
「げ!また負けた」
碧が残念そうにそう言うと、
「一回、休憩する?」
と空君が言った。
「俺、アイス食おうっと。空も食べる?」
「うん」
「凪は?」
「私はいい。夜食べたら太っちゃうもん」
碧に聞かれ断ると、
「え?でも、凪、そんなに太ってないのに」
と空君に言われてしまった。
「空。凪はね、洋服で隠れているところがやばいんだよ」
「え?」
「お腹とかのぜい肉、やばいんだよね?」
碧がにやつきながらそう言って、キッチンに行った。
あいつ。ばらしてくれて!っていうか、私のお腹がやばいのを、なんで知っているんだ。
「…着痩せ?」
空君がぼそっと私の方を見て聞いてきた。
「え?う、うん」
なんだか目を合わせづらくなり、私は下を向いて頷いた。
「海で水着になった時に見てみろよ。凪、くびれってもんがないもんな?」
「あ、碧!そういうこと言わないでよ」
アイスを二つ持ってきた碧に向かってそう言うと、碧は私の言ったことは無視して、アイスを空君に渡した。
「あ、そうか。俺、凪と一緒に海とか、全然行ってないから知らなかったんだ」
「きっとガッカリするよ。凪、小学生の頃と変わらない体型してて」
「うるさい!碧!」
「へえ、そうなんだ」
空君も、なんでそこで感心するわけ?もう!
さすがに小学生の頃よりは、成長してるもん。確かに、寸胴って言われたらそうかもしれないけど、一応胸があるんだからね。これでも、最近Bカップじゃきつくって、Cにしようかと思っているところで。
なんて、空君に言えるわけもないんだけど。
「凪ってさあ、花がないよな」
「何それ」
「なんかこう、華やかさに欠けるじゃん。たとえば、小浜先輩とか、いるだけで華やかな感じがあるけど、凪って、あれ?いたの?っていう存在感の薄さがあるじゃん?」
ムカ。なんだか、鉄によく言われてることと同じことを碧に言われた。
「でも、それが凪のいいところだと思うけど」
空君?ホント?
「いいところなわけ?そこが」
碧がまた憎たらしいことを言う。
「うん。一緒にいて楽っていうか、心地いいっていうか」
「ああ、それはある。邪魔にならないっていうかさ、圧迫感が全くないからな。気を使わないで済むよな、凪は」
それ、褒めてないよね。
そう言えば、前に空君もそんなようなことを言っていたっけ。だから、鉄にも存在感が薄いだの、波風なくてつまらないだの言われるのかなあ。
「でも、凪、時々すごい光を放ってるけどね」
「光?なんだ、それ」
碧がびっくりしている。
「凪って、光を出すんだよ。あったかい光」
「あははは。なんだよ。蛍か?凪は」
「そういう光じゃない。もっと…、あったかいんだけど、眩しい」
「そんなの空見えるの?幽霊だけじゃなくて?あ、もしかして人のオーラの色とか見えたりするの?」
碧が聞くと空君は首を振り、
「凪の光だけは見える」
と答えた。
「へ~~。他の人からは出てないの?それ」
「うん。見えないな」
「…凪って何もん?」
「さあ?」
空君が首をかしげた。その横で碧も、私を首をかしげながら見た。
「幽霊見えちゃう黒谷さんにも、凪の光が見えるのかと思ったら見えないらしかったしなあ」
空君はまだ、首をかしげている。
「空にだけ特別に見えちゃうわけだ。なんか、運命みたいなの感じちゃうね」
「運命?」
「そう。空と凪」
「…俺と凪?」
空君は一回碧を見てから、また私を見ると顔を赤くした。
うわ。私の顔まで熱い。碧、もう!適当なこと言わないでよ。
「そういうのは、俺、よくわかんないけど」
空君はポツリと頭を掻きながらそう言って、テレビ画面を見ると、
「碧、もしかすると、すごく適当なこと言ってるよね」
とものすごく冷静に言った。
「え?あ。あはは!わかっちゃった?なんか、好きそうじゃん。女って運命の赤い糸とか」
碧。やっぱり適当なこと言っただけなんだ。う~~!それなのに恥ずかしがって、私ってバカみたいじゃないか。
「凪のこと、からかうのよせよな、碧」
「え?う、うん」
碧は空君にそう言われ、バツの悪そうな顔で私を見ると、
「わりい」
とちょっとだけ頭を下げた。
ふんだ。謝られたって、なんだか悔しい。
「そういうの、碧の彼女も本気で喜ぶかも知れないから、絶対に冗談でも言わないほうがいいよ」
「…うん」
あ、碧の顔、急に真面目な顔になった。
「でも、赤い糸は冗談としてもさ、父さんが言うことあるじゃん。俺と桃子ちゃんは出会うべくして出会ったんだってさ」
「あ、そう言えば、それ、よく言ってるね」
「聖さんが?」
「うん。全部必然で起きているって。あ、爽太パパもよく言うよね?碧」
「爽太パパはまじで、くるみママと運命的な出会いをしたんだって、ふたりの馴れ初めを話してくれた時に言ってたよ。本気で言ってた」
「……へえ。それ、初耳」
碧の言った言葉に、空君は興味を持ったのか、碧の方を見た。
「まあ、自殺しようとしていたくるみママを、偶然にも通りかかった爽太パパが助けちゃったんだから、運命的だったといえばそうだよね。なんつうの?ドラマチックっていうかさ」
碧はそう言ってから、宙を見た。
「あるのかなあ。そういうのって。俺もよくわかんないけど、やっぱ、出会うべくして出会うってあるのかもな。そういうのって、出会った時ピンと来たりするのかな」
「しないかもよ?だってパパはママじゃなくって、菜摘お姉ちゃんを好きになったんでしょ?最初は」
「…だよな。でも、そのあとで、俺の居場所は桃子ちゃんの隣なんだって気づいたとかなんとか言ってたけどなあ」
「うん」
そんな話を私と碧がしていると、空君は黙ってただただ、私たちの会話を聞いていた。
「そんで、夢だった沖縄行きもやめたって言ってたけど」
「夢?聖さんの?」
「パパ、沖縄の大学に行って、沖縄の海を潜ったりしたかったんだって。でも、ママと付き合っていくうちに、離れるのが辛くなって、やめちゃったみたい」
「夢より、桃子さんを選んだんだ」
「空だったらどうする?好きな人と夢、どっちを選ぶ?」
「俺?」
空君はしばらく黙り込んだ。そして、
「碧だったら?」
と聞き返した。
「俺~~?う~~~ん。俺、夢ないしなあ。離れたくないほど思っている子もいないし、わかんねえなあ」
「え?今の彼女は?」
空君がびっくりしたようにそう聞くと、碧はあっさりと、
「あ、そこまでまだ、思い入れがないっていうか」
と答えた。
「それなのに、付き合うのか?でも、好きな子なんだろ?」
あ、空君、ものすごく驚いている。
「え?好きな子だけど。まだ、そんな先のこととかわかんないし。高校だって別になる可能性もあるしさ。そうなったら、付き合っているかどうかも…」
「なんで?それ、本当に好きな子?」
「空。なんだよ。何が言いたいんだよ」
「……。そのくらいの思いでも、付き合えるのかって思ってさ」
「空はどんくらいの思いがあったら付き合うんだよ。将来の先の先まで一緒にいるような子が現れるまでは付き合わないとかか?」
「そんなに未来のことは、俺にもまだわかんないけど」
「じゃ、同じじゃんかよ」
「………。でも、どうなるかはわかんないとしても、ずっと一緒にいたい、そばにいたいっていう子じゃなかったら、付き合いたいとも思わないな」
「……それは空がそんな子と出会ったからだろ?そういうのって、なかなかないんだぜ。まあ、父さんも母さんと付き合っている頃から、結婚したいとまで思っていたようだけどさ」
「え?聖さんも?」
「そう。って、聖さんもっていうことは、空も?」
「…だから、そんな先のことは、俺、まだ高校1年だからわかんないよ」
「そりゃまあ、そうか」
「ただ…」
空君は黙り込んだ。でも、ちょっと照れくさそうに頭を掻くと、
「聖さんが、桃子さんの隣が居場所なんだっていうの、わかる気がするなって、そう思って」
と小さな声で俯きながら言った。
「……なあ、空」
「え?」
「それ、当の本人がここで聞いてるけど、恥ずかしくないの?」
「え?あ!」
空君が真っ赤になった。
「で、当の本人の凪は、全く人ごとだと思ってたみたいだけど、いいの?こんなやつで、本当に空、こんなぼけたやつの隣なんかにずっといたいわけ?」
「……うん」
え?!私?!!!!
う…。そう、そうだよね。空君と付き合っているのって私なんだから、私のことなんだ。
うきゃ~~~~~~~~~~~~。なんか、ずっと、ぼけ~~っと聞いてた。空君って、碧と違って、付き合う子を大切に思うんだなあとか、その子いいなあとか…。
でも、それって、私じゃん?!!!!
うわ~~~~~~~~~~~~~~!!!!!顔から火出た~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!
「あ、真っ赤。やっとこ、自分のことだって自覚したみたいだぜ、空。で、こんなボケてるやつで本当にいいわけ?」
「だから、いいって言ってるじゃん」
空君も赤くなってそう言ったきり、俯いてしまった。
「あの、俺、部屋行きます。ここ暑いし。俺、邪魔みたいだから」
「え?ちょっと、碧?!」
「ほんじゃ、お先におやすみ!空、俺の部屋に泊まらないで、凪の部屋でもいいんだぜ」
「碧?!」
「じゃあなあ。凪、頑張れよ」
え?え?な、何を?!
碧はさっさと2階へと行ってしまった。
リビングには、ゲームの音だけが響き、さっきから空君は真っ赤になって俯いたまま。
ど、どうしたらいいの~~~~?碧~~~~!!!




