第13話 仲のいい親戚?
「凪…」
誰?あったかい。ああ、空君だ。な~たんって、可愛い笑顔で私を呼んでる。
「起きて…」
「うん」
起きるよ。あ、そうか。また空君と一緒に寝ちゃったんだ。
どこかなあ。空君の部屋?ううん。この感じは、おじいちゃんとおばあちゃんの家のリビング。そう、空君と丸くなって寝ていたリビングのソファ。
「空君?」
「うん」
ああ、そうか。私、小さい頃の夢をまた見ているんだね?
「空君~~~」
「な、な、凪?」
空君にムギュウッて抱きついた。あれ?でも、空君、なんだか大きくなってる?
これ、えっと、夢だよね?まだ、夢の中にいるんだよね。
「凪!空に抱きつくな!!」
あ、またパパが怒ってる。いつも空君にくっつくと、パパが怒る。なんだか懐かしい夢を見ているんだな、私。
「凪!いい加減に目を覚ませ!!!」
ベリッ!
パパに空君から引っペがされた。ああ、せっかく空君に抱きついている夢を見ていたのに。空君に…。あれ?
空君、真っ赤だ。
それに、横にいるパパも真っ赤。
「お酒臭い、パパ」
「凪、目、覚めた?帰るよ?」
「あ、ママ?」
「うん」
「……えっと、ここは?」
「おばあちゃんのリビング。空君と寝ちゃってたんだね?凪」
「え?」
えっと~~~。空君がまだ、真っ赤になって固まって私を見ているけど。
何が起きたんだ?えっと~~~。
「ふわ~~~~!よく寝た」
「碧も起きたか?帰るぞ」
「今何時?」
「もう11時になるよ」
「まじで~~?明日部活~~~。朝早く起きるのかったるい~~~」
碧がそう言いながら、パパとリビングを出て行った。
「凪ちゃん、大丈夫?なんなら、うちに泊まっていってもいいわよ?洋間の客室、空いているんだし」
おばあちゃんがそう心配そうに聞いてくれた。
「大丈夫。もうちゃんと目が覚めたし、帰れるよ」
「そう?でも、杏樹が寂しがるかも」
「あ、そうか。杏樹お姉ちゃんと話がしたかったんだ。明日、早くから遊びに来てもいいかな」
「大丈夫よ」
「空は明日、朝早くからサーフィンだろ?」
「うん」
おじいちゃんにそう聞かれて、空君は頷いた。
「じゃ、早くに帰らないとな?」
「…父さんと母さんは?」
「もう帰ったよ」
ママが空君に教えてあげた。
「あ、じゃ、俺も帰るよ。じゃあね、じいちゃん、ばあちゃん」
「空君、写真集ありがとうね」
「あ、うん」
「……」
空君に続いて、私もリビングを出た。
「おばあちゃん、おじいちゃん、おやすみなさい」
ママもそう言って、リビングを後にした。
あ、いけない。挨拶忘れた。なんだか、まだ私、眠気が覚めていないのかも。
まりんぶるーから出ると、パパと碧が待っていた。
「桃子ちゃん、ちゃんと歩ける?ワインいっぱい飲んでいたけど」
「それは聖君でしょ?」
「俺はさっき、凪と空が抱きついているのを見て、一気に酔いが覚めた」
え。抱きついてる?わ、わ、私と空君が?!
まさか!まさか、夢だと思っていたけど、あれは現実?っていか、私、まさか、空君に抱きついた?
え~~~~~?!!!!
空君を見ると、また空君は赤くなって固まっている。
「なんで空と凪が、ソファで一緒に寝てたんだよ。空、お前さ~~」
パパが空君に絡んでいる。
「いいじゃん。昔みたいで。ばあちゃんとじいちゃんも、昔に戻ったみたいって言って、喜んでたよ」
「だ、だけどな~~~!」
碧の言うことにパパが、また何かを言おうとした。でも、
「そうよね~~。昔は仲良かったものね。また、その頃に戻ったのはいいことよね?」
とママがさえぎってしまった。
「……」
空君は黙っている。そして俯いてしまった。
「そうそう。いいんじゃねえの?親戚なんだから」
碧がそうぽつりと言うと、パパも、
「う~~~~~ん。まあ、うちの親戚ってみんな仲いいから、いいけどさ~~~」
と口を尖らせ、ちょっと拗ねた感じでそう言った。
仲のいい親戚?
そ、そうか、そういう解釈か。
「あ、じゃあ、俺、ここで」
「おう!空、また明日の夜、遊ぼうぜ」
碧がそう言うと、空君は「うん」と頷いてから、私の方を見た。
えっと。なんで私のほうを見たのかなあ。
「凪、写真集、明日の夜、見に来れば?」
「え?い、いいの?」
「うん」
「わかった。じゃ、碧と一緒に行くね」
嬉しい。嬉しすぎる!
「な~~~ぎ、もう帰るぞ」
喜んでいると、パパが私の肩を抱いて歩きだした。
「あ、あ、お、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
空君にどうにか挨拶できた。空君もはにかみながらそう言ってくれた。
「は~~~~あ」
あれ?なんでパパ、長いため息?
「また、凪を空に取られちゃうわけね」
「いいじゃない、聖君」
「え?」
「他のわけわかんない奴よりいいけどね、って前に言ってたよね?」
「言ったかな。俺…」
そんなことパパ言ってたの?
「凪って、赤ちゃんの頃から、パパより空だったんだよ?」
「へ?」
「パパは、絶対に凪は、パパと結婚ちゅる~~って言ってくれると思ってたのに、空君と結婚する~~って、言い出しちゃって…。あの時のショックは、忘れられないよ」
「わ、私、パパにそんなこと…」
「言ってた。忘れた?」
「……うん」
「なんだよ。忘れてたの?ああ、じゃ、言うんじゃなかったなあ」
「でも、空君にそう言ったのは覚えてる」
「え?空にも言った?」
「う、うん。おぼろげに覚えてるけど、でも、空君は忘れてるよね。私よりも一個下だし、まだ小さい頃のことだし」
「ああ、忘れてるかもなあ」
パパはそう言うと、またため息をついた。
「いつかは、お嫁に行っちゃうんだよな、凪は。パパ、耐えられるかなあ」
パパ?
「聖君、泣かないでね?」
ママがパパの顔を覗きにやってきた。
「泣いてないやい」
ああ、パパ、完全に拗ねてる。
「ほんと?」
ママがパパの頭をナデナデしている。
「桃子ちゅわ~~~~ん」
あ、パパ、私の肩から手を離して、ママに抱きついちゃった。
「桃子ちゃんは、ずっと俺のそばにいてね?」
「もちろんだよ」
「凪や碧がどっかに行っちゃっても、桃子ちゃんはいてね?」
「いるよ。ずうっとそばにいるよ?」
「桃子ちゅわわん」
ああ、勝手にやっててくれ…。
私は、さっさと前を歩いて行ってしまった碧を追いかけた。そして二人で、ママとパパのことは置いて、さっさと家に帰った。
それにしても…。
私、本当に、空君に抱きついちゃったの?
どひゃ~~~~~!!!
自分の部屋に帰ってから、ようやくとんでもないことをしたんだということを知り、枕に顔をうずめ、しばらくジタバタしていた。
ああ、空君、どう思っただろう。それで、真っ赤になって固まって私を見ていたんだ。
とんでもないことしてくるやつって、引いていたのかな。
でも、嫌われたわけじゃないよね?だって、写真集見に来る?って誘ってくれたもんね?
ああ、でも、やっぱり、とんでもないことをした~~~~!!!
だけど、なんとなく覚えている空君のぬくもり。昔と変わらずあったかくって可愛かったな。
突然、碧の言葉を思い出した。親戚だから、仲がいいとか、そういうの関係ないのにな。
私は親戚だろうがなかろうが、空君が好きなの。ただそれだけなのにな…。
そして私はきっと、空君のそばにいられたら、それでいいの…。それだけで…。
ベッドに仰向けになった。天井を見ながらぼんやりした。ただそばにいる。それだけで…とぼ~~っと思っていて、ハタと思い出した。
「そうだ!すっかり忘れてた。千鶴のこと」
あ~~~~~~。一気に気が重くなった。ズズ~~ンって。
どうしよう。やっぱり、私も空君が好きなんだって、はっきりと言ったほうがいいよね?でも、そんなことを言って、私の気持ちがもし空君にバレたら?
だ、だけど、やっぱり、千鶴の応援なんて出来ないし。
これを、杏樹お姉ちゃんに相談したかった。
「明日、相談してみよう」
そう私は心に決めたから安心したのか、いつの間にかそのまま寝てしまった。
起きた時には、布団がちゃんと掛かっていたから、ママかパパが布団を掛けてくれたのかもしれない。
「おはよう~~、凪」
1階に行くと、元気にパパがお弁当と朝ご飯を作っていた。
「おはよう。ママは?」
「寝てるよ」
「え?まだ寝てるの?」
「二日酔い。頭痛で寝てる」
「え?ママが二日酔い?!」
「ワイン飲みすぎたのかな?」
「パパは元気そうだね。パパの方が酔っていたのに」
「そうでもないよ?それにパパ、二日酔いってしたことないし」
そうでもない?酔っていたよ。だから、ママにあんなに甘えてた。
「う~~~ん。おはよう、凪」
あ、ママが起きてきた。
「おはよう、ママ、大丈夫なの?」
「…ちょっと頭が痛いけど、大丈夫」
本当?かなり痛そうな感じするけど。
「桃子ちゃん、寝てていいよ?俺の弁当なら作ったし、碧は弁当いらないって、もう出て行ったし」
「碧、朝ご飯食べた?」
「うん。それも俺が作ったから、大丈夫。桃子ちゃん、なんか飲む?オレンジジュースが二日酔いにはいいかな」
そう言ってパパは、オレンジジュースをコップに注いで、ママに渡した。
「ありがとう、聖君」
「ワイン飲みすぎた?」
「うん。白とか、赤とか、あとアイスワインとか」
「飲みすぎだよ、桃子ちゃん」
そう言ってパパが、ママのおでこに優しくキスをした。
「今日もまりんぶるー行くんでしょ?それまで寝ていたら?」
「うん。じゃあ、いってらっしゃいって見送れないけど…」
「いいよ。今、いってらっしゃいってしてくれたら」
あ、やばい。ハグとチュウをしちゃうかも!
私は慌てて洗面所に行った。あのふたりは子供がいようがいまいが、平気でいちゃつき出すからなあ。
ハグやキス、平気で見ていられたのは、小学生まで。中学に入ってからは、なんとなくこっちが恥ずかしくて見ていられなくなった。
だけど、羨ましいものは羨ましい。いつか私も空君と…って、妄想するようになったのはいつからだったかな。
顔を洗い、ママが2階に行ったのを見計らってからダイニングに戻った。パパが私の朝ご飯をテーブルに置いて、
「じゃあね、凪。パパ、そろそろ仕事に行ってくるね」
と言って、私の髪にキスをした。
「うん、いってらっしゃい」
「あれ?ハグはしてくれないの?」
え~~~。ママがしたからいいじゃん。と思いつつ、パパにハグをした。
「ギュ~~~~!」
パパがそう言って、私を抱きしめ、
「ああ、いつまで凪とハグしていられるんだろう。そのうちにハグする相手は空になるのか。ちぇ…」
と寂しそうに言って私から離れた。
空君とハグ?うわわ~~~。私の妄想、パパに知られてた?って、そんなわけないよね。
「じゃ、行ってくるね」
「うん。いってらっしゃい」
パパはにっこりと爽やかに笑うと、玄関に向かっていった。
確かに。髪を整え、すっかり仕事に行く準備を整えたパパは、爽やかだよね。ママが朝から、目をハートにするのもわかる気がする。
千鶴が言うには、父親っていうのは、うざくって臭いらしい。
「パパ、最近臭いの。特にお酒飲んだ翌日、パパとママの寝室からも、おっさん臭がしてくるくらい、臭いんだよ~~」
うちのパパはお酒飲んだ翌日も、臭くない。それに朝からとっても元気だし。
「顔合わせると、勉強してるのかってうるさいの。たまに、学校どうだ?とか、彼氏はいるのか?とか、そういうことまで聞いてきて、まじうざい」
うちのパパは、勉強の話をしたことがない。友達の話とか、私は普通にしているし、男の子の話はパパが怒り出すからしないけど、うざいって思ったこと、一回もないなあ。
パパはパパっていうよりも、お兄ちゃんか、友達…っていう感じ。ううん。本当は恋人気分の時もあるんだけどね。でも、ママに悪いから、あんまりべったりはしない。
ただ、たま~~に、パパが休みで、ママが仕事の時、私が学校から早く帰ると、一緒に車でカフェに行ってお茶したり、ドライブしたり、買い物して洋服を買ってもらったりしている。
パパはセンスがいい。私に似合うものをちゃんとわかってくれている。それにパパと出かけると、みんなが羨ましがって見ているのがわかる。でも、たいてい親子には見られない。中学までは年の離れた兄弟とか、親戚とかに思われ、高校に入ってからは、一回、恋人に間違われた。
「わ、高校生の彼女なんですか?」
店員さんがびっくりしてた。慌ててパパなんですって言ったら、
「パパ?」
とまた目を丸くされた。お店の奥の方からは、ひそひそ声が聞こえ、どうやら「援助交際?」と言っているようだった。
「あ、娘です。親子なんです、こう見えても」
パパが慌てて苦笑いしながらそう言った。
「親子?!」
「そう。正真正銘の血の繋がった親子。見えないですか?」
店員さんは思い切り頷き、
「あ、やっぱり?あはは」
とパパは爽やかに笑った。でも、そのお店を出てから、
「凪とパパ、恋人に間違われちゃった。デへ」
とにやけていた。
そして、
「これはママには内緒ね?ママ、ヤキモチ妬いちゃうからね?」
って、可愛い顔してパパはそう言ってきた。
私は、モテモテのかっこいいパパも、こんな可愛いパパも、ママにいまだにデレデレのパパも好きだから、うざいとか思ったこと一回もないなあ。いつか、そう思う日ってくるのかなあ。
それとも、やっぱり相当なファザコン?
「ママ」
出かける準備を整え、ママの寝室に行って声をかけた。
「凪?」
「開けるよ」
ドアを開けると、ママはまだベッドの中だった。
「大丈夫?まだ頭痛する?」
「うん。でも、さっきより良くなった」
「私、杏樹お姉ちゃんに会いたいし、まりんぶるーに行ってるね。あと、お手伝いもしておくから、ママ、ちょっと遅くに来ても大丈夫だからね?」
「あ~~~~ん。聖君も凪も優しい~~~。ママ、泣きそう~~~~~」
そう言ってママは、布団に半分潜り込んだ。あ、まさか本当に泣いてる?
「じゃ、行ってくるね」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
ママは半分だけ布団から顔を出し、そう言ってくれた。ママ、可愛いよね。
いいなあ~~。パパとママ。本当に仲良しで。
家から自転車に乗り、まりんぶるーに向かった。今日は昨日より風が強いけど、天気が良くて汗ばむくらいだ。
あ、そういえば、空君はサーフィンしに行ってるかも。風が強いから、空君にとっては最高の天気だね。
ちょっとだけ、見に行っちゃおうかな。
私は方向転換して、いつも空君と櫂さんがサーフィンしている海辺に向かって自転車を走らせた。




