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真昼の月の物語  作者: 深海いわし
第一部 晴雨の章
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第二話 竜は低気圧を運び、騎士は低血圧を嘆く File-9

 2-9 車の中の悩める面々


 フィラを踊る小豚亭の前で降ろし、ジュリアンとフィアは城へ向かった。話があるからと降ろしてもらえなかったティナは、不満そうに後部座席で丸くなっている。

「一つ、質問があるのですが」

 帰りの運転はジュリアンと交代したフィアが、ティナの背中を撫でながら呟いた。車は道幅の狭い市街地を避け、午後の光に照らされた郊外をゆっくりと走っている。

「なんですか?」

 ジュリアンが、ティナやフィラに対するときより幾分丁寧な口調で問い返した。

「どうして姉がここにいるんでしょうか? もうしかして姉も『そう』なんですか?」

 少しだけ緊張した調子の、フィアの問い。フィラのことだと察したティナが、興味深そうに顔を上げる。

「いや……フィラ・ラピズラリは魔力値が極端に低い以外はあなたと同じはずですから」

「だから心配なんです。私は……私も、そういう人間の一人だから……ただ、症状が軽いだけで……」

 考え深そうに発せられたジュリアンの答えを、フィアは悲しげに遮った。

「軽い記憶障害があるとは提出書類に書いてありましたが、執務に影響はないと」

 ジュリアンの声が低く重々しいものに変化する。

「はい……むしろ、執務に関する限りでは役に立つことの方が多いと思います。記憶が消えないんです、なかなか」

 フィアは苦笑を浮かべながらそう言い、一度言葉を切って眉根を寄せた。

「それでも……影響の出方が私と姉で同じとは限らないから……この町にいるとなると、やはりそうなのではないかと心配で」

 ジュリアンはハンドルを握って前方を見つめたまま、ふと考え込む。

「……そうですか。しかし、フィラ・ラピズラリは正式な手続きを経てここへ来たわけではないので……記憶障害は起こっていないはずです。あの記憶喪失がそうでなければ、ですが」

 ふいに、それまで二人の会話に耳を傾けているだけだったティナがシートの上に立ち上がった。

「あんた、フィラのことどう考えてるんだ? どこまで知ってるんだよ?」

 ティナは警戒心を隠そうともせずにジュリアンに詰め寄る。

「大して知っているわけじゃない。ここから出た後、身の振り方がどうなるかが少し予想できている程度だ」

 ジュリアンはバックミラーすら見やらずに、冷静な口調で答えた。

「この町を覆う結界は、彼女が来てから張られたものじゃない。もちろん、彼女を隠すためのものでもない」

 ティナは納得していないと全身で訴えるように毛を逆立てる。

「フィラが来る前から結界が張ってあったんなら、正式な手続きもせずにフィラがここに入れるはずない。矛盾してるじゃないか」

「そうだ。だが、彼女は入ってきた」

 ジュリアンは小さくため息をつき、ようやくバックミラー越しにティナを見た。

「フィラ・ラピズラリが無意識のうちに短距離瞬間移動するという話は聞いているか?」

「全然。見たことも聞いたこともないよ。別人と間違ってるんじゃない?」

 ジュリアンはミラーから視線を外し、軽く肩をすくめて運転に意識を戻す。

「何かの間違いだったら、すぐにここから出してやれるんだがな……」

 毒気を抜かれたようにシートに丸くなったティナの隣で、フィアも落ち着かなげに身じろぎした。

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