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真夏の神隠し

作者: 弓庭柔悟
掲載日:2026/02/06

序章 不思議な大学


田舎の山頂にある山神大学は、静かで穏やかな環境の中にある小さな大学である。


最寄りの駅からは距離があり、バスを降りてからもしばらく坂道を登らなければならない。その不便さのせいか、在籍している学生数は毎年ほぼ一定で、大きく増えることはなかった。


私はこの大学が気に入っていた。


騒がしさとは無縁で、夜になると山の気配だけが濃くなる。都会の大学にはない、閉じた安心感があった。ただ一つ、気になる噂を除けば。


「真夏の夜に人が山に喰われる」


入学して間もない頃、上級生がそう言って笑いながら教えてくれたが、詳しいことは誰も話そうとしなかった。




第一章 失踪した先輩


一回生の時、夏合宿の直前に伊智浪先輩が突然姿を消した。


成績優秀で、サークルの部長の先輩は、友人関係にも問題はなかった。


尊敬できる穏やかな人だった。


警察が動き、大学の周辺や山中の捜索も行われたが、手がかりは見つからなかった。


「山に慣れていないと危ないからな」


そんな声もあったが、決定的な証拠はなかった。山の事故も疑われたが、痕跡はなかった。やがて捜索は縮小され、サークル内や学内で次第に話題にされなくなっていった。


そして掲示板から写真が消え、メンバー表から名前が消え、伊智浪先輩が消えていった。まるで、最初から存在しなかったかのように。





第二章 不気味なメッセージ


夏休み明け、学内の掲示板に奇妙な紙が貼られ始めた。


「真実を知りたければ、山の上の小道を歩け」


コピー用紙に黒いペンで書かれただけの、簡素な文。


最初は悪戯だと思われていたが、同じ文言が何度も、同じ場所に貼られた。


その場所が、失踪した先輩がよく使っていた掲示板だと気づいたのは、私だった。


サークル内で話題にしても、「誰のはなし?」


そう言われて、口をつぐんだ。




第三章 探索の決意


やがて私は、同じサークルの親友の拓浪とともに、山の上の小道を歩くことを決めた。


サークル終わりの深夜、拓浪を誘い、行くことにした。


夜の山道は静かで、懐中電灯の光が落ち葉を白く照らす。


なぜか私は最初からどこか懐かしさを感じていた。


そのためか知らないはずの道順を迷うことはなかった。


「前に来たことある?」


拓浪に聞かれ、私は首を振った。




第四章 山の上での発見


小道の先には、古びた神社があった。


鳥居は傾き、境内には人の気配がない。それでも、不思議と恐怖は感じなかった。


社殿の裏に回ると、森へ続く細道があった。その先の壊れた祠で、私たちは革の手帳を見つけた。


失踪した先輩のものだった。




第五章 真実の露見


手帳には、大学と山に関する断片的な記録が残されていた。


「中退者が夏に集中している」「夏休み後の行方不明者が後を絶たない」


「誰かが“いなくなる”ことで、均衡が保たれる」「入山行事が多い」「自殺の名所」


読み進めるうちに、私は強い既視感を覚えた。


この内容を、私はすでに知っている気がした。


最後のページに書かれていた一文を読んだ瞬間、友人たちが息をのんだ。


「今年も、もう数は合っている」


そのあとのページは破れていた。




終章 名簿


山を下りたあと、私たちはこの話を誰にもしなかった。


大学生活は、何事もなかったかのように続いていた。


ある日、部長になった私は手続きのため事務室で新年度の名簿を見た。


入学者数は、例年通りだった。


その横にある「在籍者一覧」に、ふと違和感を覚えた。


最近会わない拓浪の名前が見当たらない。


職員のほうを見ると、目を合わせずにこう言われた。


「拓浪さんは、去年の名簿からいませんよ」


――そうか。あの後拓浪は、もうとっくに数として処理されていたのだ。


今年の夏も誰かにお鉢は回っていくのだろう。自分は夏合宿に行けるだろうか。

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