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第26話「揺らぐ足場」

九月。


夏の熱が抜けきらぬ街に、どこか乾いた風が混じる。


AI事業は安定軌道に乗った。


社内評価も上向き。


徳川の名前も、会議で自然に出るようになった。


「徳川の案で」

「徳川に聞こう」


信頼は、静かに積もる。


だが積もったものは、崩れることもある。


 


ある朝。


ニュースサイトに見出しが躍った。


「教育AIに偏りの懸念」


他社サービスだ。


だが内容は鋭い。


データの偏在。

家庭環境による誤差。

無意識の差別。


徳川は記事を読み込む。


他人事ではない。


 


昼前、緊急役員会議。


北村の顔は険しい。


「我々は問題ないのか」


石橋が資料を示す。


現状の精度、改善履歴、透明性レポート。


だが完全とは言えない。


 


徳川が口を開く。


「第三者監査を入れたい」


室内が静まる。


「自ら検証を受けるべきです」


北村が即座に返す。


「費用も時間もかかる」


「信頼を買う費用です」


 


議論は白熱する。


外部監査はリスクでもある。


指摘が出れば、ブランドに傷。


だが避ければ、疑念が残る。


 


最終的に決まった。


外部専門家によるレビュー実施。


期限は一か月。


 


徳川は監査チームとの窓口を任される。


資料を洗い出す。


データの偏り分析。

学習モデルの説明資料。

改善履歴。


 


夜遅く、オフィス。


蛍光灯の白が疲労を浮かび上がらせる。


若手の一人が言う。


「もし問題出たらどうします」


徳川は手を止める。


「直す」


「批判されますよ」


「それでも直す」


 


監査開始。


専門家の質問は鋭い。


「この変数はなぜ必要か」

「この閾値は誰が決めたか」


曖昧は許されない。


 


数日後、一次報告。


重大欠陥はなし。


だが改善提案が三点。


・特定地域データの不足

・説明文の分かりづらさ

・長期影響の追跡不足


徳川は深く息を吐く。


致命傷ではない。


だが課題は明確。


 


社内共有。


北村は静かに言う。


「やる価値はあったな」


石橋も頷く。


「自ら晒す勇気だ」


 


だが外部公表を巡って再び議論。


「内部改善で十分では」


営業部から声。


徳川は首を振る。


「公表します」


「なぜそこまで」


「隠さぬ姿勢が信用を生む」


 


最終的に、改善計画と共に公表。


ニュースサイトに小さく掲載。


「自主監査実施、改善策提示」


批判よりも評価が多い。


「誠実な対応」


 


だが、その裏で一つの案件が失注。


「様子を見たい」と顧客。


営業部に重い空気。


 


佐伯が言う。


「正直、痛い」


「承知しています」


徳川は頭を下げる。


「だが長期ではプラスになります」


 


数週間後、別の自治体から問い合わせ。


「監査姿勢を評価」


失った一つの代わりに、二つ。


すぐではない。


だが確実。


 


九月末。


社内定例会。


サポート部、中村が言う。


「最近、問い合わせ内容が建設的です」


恐れではなく、提案。


空気が変わった。


 


その夜、徳川は一人屋上に立つ。


風が少し冷たい。


足場は揺らいだ。


だが崩れなかった。


 


戦国の城は、石垣が命。


現代の城は、信頼が石。


削れば弱い。


積めば強い。


 


スマートフォンが震える。


母からのメッセージ。


「無理してない?」


短い文。


徳川は返信する。


「大丈夫」


 


自分は何を目指しているのか。


天下とは何か。


売上の頂か。

市場の制圧か。


違う。


揺らぎに耐える仕組み。


それが本当の強さ。


 


若手が近づく。


「徳川さん、今回の件、勉強になりました」


「何が」


「怖くても向き合うこと」


徳川は頷く。


「逃げない。それだけだ」


 


夜空に星は少ない。


だが確かに光る。


揺らぐ足場の上で、立ち続ける。


それが今の戦。


 


天下は遠い。


だが輪郭は見える。


支配ではない。


持続。


誠実。


そして、揺れても倒れぬ基盤。


 


徳川はビルを見下ろす。


灯りが一つ、また一つ消える。


城は眠る。


だが石は積まれた。


今日もまた、静かに。

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