表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/25

第12話「群雄割拠」

キャンパス中央の掲示板に、一枚の紙が貼られた。


《来年度学費改定案 説明会開催》


ざわめきが、じわりと広がる。


三浦がスマートフォンを握りしめながら言う。


「やっぱマジだったな」


徳川は掲示板を見つめる。


値上げ幅は小さくない。

奨学金制度の見直しも併記されている。


(静かに、だが確実に重い)


大学側の理屈は明白だ。

設備投資、国際化、研究費。


正論は、刃物より鋭い。


問題は、その“決め方”にある。


「自治会、声明出してないよな?」


「まだだな」


三浦は苛立つ。


「こういうときこそ動くべきだろ」


徳川は答えない。


動くとは、声を荒げることではない。


まずは地形を知ること。


 


翌日。


キャンパスの片隅にある古いサークル棟。


三浦に連れられ、徳川はある集まりに顔を出す。


小さな教室に、十数名。


《学生有志の会》


黒板には手書きの文字。


雰囲気は、どこか荒削り。


中心にいるのは、法学部二年の女性、椎名。


眼差しが強い。


「学費値上げ、黙って受け入れるわけにはいきません」


拳が机を叩く。


「署名を集めて、抗議します」


拍手が起こる。


熱はある。


だが徳川は、椎名の言葉の隙間を見る。


(勢いは良い。だが……)


三浦が耳打ちする。


「この人、去年も図書館閉館時間で揉めたとき先頭に立ってた」


なるほど。


闘将型。


会が終わった後、椎名が近づいてくる。


「あなた、説明会で質問してた人よね?」


「徳川だ」


「協力してくれる?」


問いは直球。


徳川は、即答しない。


「目的は何だ」


「値上げの撤回」


「それが叶わぬ場合は」


椎名が眉をひそめる。


「撤回させるために動くの」


「交渉の余地は」


「大学は聞く気ないでしょ」


熱が先行している。


悪くない。だが、それだけでは城は落ちない。


 


一方。


自治会も動き始めた。


《大学側との意見交換会開催》


穏当なタイトル。


三浦が呟く。


「結局、丸め込まれるんじゃね?」


徳川は言う。


「丸め込まれるか、丸めるかは話術次第だ」


 


夜。


下宿の机に、二つの資料が並ぶ。


自治会の方針。

有志の会の声明案。


片や協調。

片や対決。


どちらも、極に寄れば危うい。


(戦国にもあった)


強硬策で国を荒らす者。

和睦ばかりで侮られる者。


均衡を取る者だけが、生き残る。


 


数日後。


学生有志の会は署名活動を開始した。


キャンパス中央で、椎名が声を張る。


「未来のために、声を!」


賛同する者。

素通りする者。

冷笑する者。


徳川は少し離れて観察する。


群衆は波だ。


高ぶりはするが、長くは続かない。


椎名が苛立ち始める。


「どうしてみんな他人事なの?」


その声に、徳川が近づく。


「怒りは火だ。だが、火だけでは料理はできぬ」


「何が言いたいの?」


「恐れを理解せよ」


「恐れ?」


「声を上げることで、不利益を被ると感じている者がいる」


椎名は言葉を失う。


確かに、大学と対立することに躊躇する学生は多い。


「ならどうすればいいの」


徳川は静かに言う。


「敵を作らず、味方を増やす」


 


その夜。


徳川は一つの提案を持って、自治会室を訪れる。


代表が応対する。


「また君か」


「学生有志の会と、合同で公開討論会を開いてはどうか」


代表が目を細める。


「対立を煽るつもりかい?」


「逆だ。対立を見える形にし、議論へ昇華させる」


沈黙。


代表は椅子に深く座る。


「君はどちら側だ」


徳川は答える。


「学生側だ」


それは真実だった。


 


数日後。


《公開討論会開催》


講堂に百名近い学生が集まる。


壇上に自治会代表と椎名。


その中央に、進行役として徳川が立つ。


三浦が小声で言う。


「なんでお前が真ん中なんだよ」


「立ち位置は、剣の位置と同じだ」


討論が始まる。


椎名は情熱で訴える。


代表は現実論で返す。


空気が熱を帯びる。


だが徳川は、適切なタイミングで問いを差し挟む。


「双方に問う。最終的に守りたいものは何か」


椎名は言う。


「学生の生活」


代表は言う。


「大学の持続性」


徳川は頷く。


「ならば対立ではない。同じ土俵にいる」


会場が静まる。


言葉は、刃にも橋にもなる。


討論は二時間に及んだ。


結論は出ない。


だが、空気は変わった。


帰り際、椎名が言う。


「あなた、敵じゃなかったのね」


「敵は、無関心だ」


 


数日後。


大学側が一部見直しを発表。


値上げ幅縮小。

奨学金枠拡充。


完全勝利ではない。


だが、声は届いた。


三浦が笑う。


「やるじゃん、徳川」


椎名も静かに頷く。


自治会代表も言う。


「……次は、正式に自治会に入らないか」


また、誘い。


群雄割拠の中で、彼の名は広がり始めている。


夜。


下宿で一人、徳川は考える。


力は、求めずとも寄ってくる。


だが、その扱いを誤れば、再び孤独になる。


窓の外、春の風が街を抜ける。


(群雄の世にあって、我は何者か)


頂を目指すのではない。


だが、避けてもいられぬ。


大学という国家は、まだ揺れている。


次に起こる波は、もっと大きい。


徳川は静かに呟いた。


「……天下は、広がったな」


城は増えた。


だが、心の芯は変わらない。


戦はまだ、始まったばかり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ